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坂本龍一ファンにもオススメの「Baja Bajo」 [スティーリー・ダン]

ジョン・パティトゥッチの1stソロ・アルバム収録の「Baja Bajo」。

これに限らず「Crestline」も本当に好きな曲で、もはやベーシストのアルバムとしては勿体ないほど、私はリファレンスにしているアルバムなんですが、のっけのヴィニー・カリウタが叩く付点16分音符を交えた壮絶フィルとか、楽理的にも注目すべき点の多いのがこの曲でありまして、これまで坂本龍一の作品をリリースして、それらの曲に左近治がこだわる理由として、楽理面での共通項を判ってもらればな、と思いまして、2月29日のあなくろ本舗においてはこの曲がリリース予定となっているんですな。但し、このアルバムや楽曲は今入手は難しいかもしれません(笑)。

Patitucci_1st.jpg
ま、曲を知っている人で、楽理面で興味を示してくれればそれもイイかな、と思ってブログ書き進めてしまいます(笑)。今回の記事はマイナー・メジャーの使い方にも共通するので、過去のブログでこちらコチラを併読していただければより伝わるかな、と思います。


扨手、ド頭 Cm△9(11) ※ここの解釈としてはB7alt (on C)という馴染み易いかもしれません。B7(-9、+9、+11、-13)但し、B7を母体とした表記だと実際にはB7の♭9と#9の同時使用であるため左近治は近年のオルタード・テンションのドミナント7thコードでオルタード・テンションをベースに持ってくるタイプのコードが現れると、この場合「B7alt /-9」という表記をすることがあります。バンド内でですけどね。更には「Tonal in C Melodic Minor」という風に併記してあると多くの人がトーナリティーを判別し易くなるかもしれません。

コード表記にある程度自由度を高めてインプロヴァイズ任せという手法もあるでしょうが、トゥッティで入って来て且つ、ソロ部ではないことを考えると、構成音を提示した上で制限した方が功を奏するでありましょうし、場合によっては簡素化したコードで表記しつつ、音符をきちんと書く、と(笑)。バンドの実際では色んなシチュエーションが考えられますが、こんな感じでやるとスンナリとリハーサルが進んでいくのではないかと思います。

ただ、この曲は楽譜が存在しないために実際にはどういう表記をチック・コリアまたはジョン・パティトゥッチが行っているかは判りません(笑)。その後のクリシェを考えればBを母体とする方が自然かもしれませんが、この和声は「Cm△9(11)」なんですね。


多くの人が「お茶の間DAW」を実現可能な現在、誰もが手にできる楽譜を元にセコセコ作っても面白味に欠けるでしょう(笑)。楽譜手元に出来上がった曲の音色がおぼつかなければ作らなかった方が良かった!になりかねない。音楽制作を楽しむだけならそれもアリですが、少なくとも売り物ですからその辺は細心の注意を払った上で選曲はもとより制作を心がけなければならないと思うワケですよ。仮に全く売れないとしても、売り物として出すからには何かしらの差異感が必要って事ですな。

だからこそマジ曲作る時は、

「楽譜やオフィシャルなMIDIファイルなど存在しない」
「音源すら入手困難(CD、レコード、配信)」

こういう所にこだわりたいんですなあ(笑)。



先日リリースした坂本龍一の「A Tribute to NJP」の一番最後のコードと一緒ですね(笑)。坂本龍一は一番最後で、チック・コリアはド頭に持ってくる、と。というか、マイナー・メジャー7thの効果的な使い方を私がピックアップして提示しているので、全く異なる趣きになるということが伝われば面白いな、と(笑)。

特に、坂本龍一ファンの方にオススメなのが、この曲は、高橋幸宏(ユキヒロ)のソロ・アルバム「Saravah!」収録の「Elastic Dummy」に通じるものがありまして、「Elastic Dummy」の和声分析は以前にもやったのでそちらの方を確認していただくとして、まあつまるところ「Baja Bajo」も同じ解釈(モード)を使いながらも、さらにはマイナー・メジャー7th系の和声を強く感じるモノとなっているんで取り上げたのであります。

のっけからマイナー・メジャー7thで飛び出しても、こちらはドミナントっぽさを感じるマイナー・メジャー系コードの使い方ですが、「Baja Bajo」のシンコペの嵐&白玉コードワークのテーマ部ではドミナント要素を希薄にしたマイナー・メジャー感を演出しているのであります。まあ、こういう使い分けがジャズの奥深さでもあるんですね。


では、シンコペ&白玉の部分を抜粋してみると、

Cm11→ Fm9→ G♭△9/A♭→・・・と続くと、次は

G7(♭9、#11、13)→・・・この部分は半音上のA♭マイナー・メジャー7thを内包させたようにも感じさせてくれる部分です。が、ドミナントを強く示唆しているので、名刺代わりにオルタード・テンションを使って後々の展開をジワジワと楽しませてくれるような心憎い使い方ですね。「聞き分けろよ!」という声が聴こえてきそうです(笑)。

F#△7→で、完全に「裏」に解決させて(ちなみにセンター・トーナルはC、キー的な感じで言うならCマイナーだと思えばやり易いでしょうか。実際にはCスパニッシュとCハンガリアン・マイナーとCドリアンのモード・チェンジを使い分けています。余談ですが、スパニッシュ・モードはフリジアンから派生したモードで、トニック・マイナー感を持ちながら解決はトニック・メジャーでの偽終止というよくあるアレ、の派生なワケです)おりますね。

E△9(#11、13)→ E♭m6 add9(※ココで注意なのはE♭メロディック・マイナー・トーナリティーです。m7th音は使わないコトが注意。なぜかというとパティトゥッチはM7th音であるD音を使っているので。。)通常ジャズの世界ではこういうシーンの場合、モードを併記するよりもアンサンブルにおいて物理的には鳴らしていなくてもコード表記上7th音を記入することがあります。しかしここで7th音を記載すると「M7th」を記載するので「E♭m△7 (9.13)」という表記になるので、これだと無闇に「M7th音」を他のパートも意識して弾きかねないという可能性があります。和声として制限したい場合は7th音をomitさせた方がイイ場合もあるので、この場合私は敢えて「E♭m6 add9」にしたというワケです。但し、「メロディック・マイナーにしてね♪」ということは併記した方がよくなるというワケです。

その後、→ B♭△7 onD→・・・と進んで、

Gm11→・・・このテーマ部では音価が長い部分で、判り易い部分ですね。その後、

B♭△7aug→・・・B♭△7(+5)ですな。ここでのモードはGメロディック・マイナーの第3音から始まるモードでありまして、似たコードで「B♭△7(♭13)
」というのがありますが、そちらと混同してはいけません。後者は5th音が変化するのではなく、ハンガリアン・マイナーのモードで出てくるモードでありますが、ここではメロディック・マイナー・トーナリティーでの使い方なので注意です。

余談ですが、いずれリリースする日野皓正の「Key Breeze」は、今回取り上げた「Baja Bajo」よりも巧みにマイナー・メジャーとオルタード・テンションの使い分け、さらには△7augと△7(-13)の使い分けが聴くことのできる素晴らしいコード・プログレッションを確認することが出来ます。こちらについてはいずれ詳しく語る事にしましょう。


E6/D→こちらはパティトゥッチがアッパー部であるE△の3rd音からクロマチックに下降してくる部分で、ベーシストの分数コードの遊び方のコツが垣間見ることのできるシーンですな。ロウワー部にトコトンこだわらずにいられるのは、チック・コリアが左手パートでロウワー部を補っているからこそですな。こういう演奏を全く無視して、ピアノや他のアンサンブルが補ってくれていないのに遊ぶとなると、それはまた別の話になってしまいます(笑)。


Gm△7(#11) →・・・(※F#△/G△)表記としてはカッコ内のポリコードでもイイとは思いますが、後に出てくるコードこそがカッコ内のポリコードをより強調していて、こちらの部分はメロディック・マイナー且つ4th(11th)音が半音上がっているマイナー・メジャー7thコードの響きがより強調されております。4th(11th)音が半音上がっていることからも判るように、これは「Gハンガリアン・マイナー・モード」を導入しないと得られません。つまり、先の「B♭△7aug」で語った「+5th音」とのメロディック・マイナー・トーナルとは使い方も違いますし、モード解釈も違うんですな。こういう風に左近治が決定付けているのは上声部の音運びと全体のハーモニーを捕らえた上での事です。

E7(♭9、13)→・・・ピアノのヴォイシングの実際は「E△/C#△」でありまして、UKの「Danger Money」のアッパー部とロウワー部がひっくり返ったポリコードとも解釈出来ます。ココでのパティトゥッチは低音部で「E音」へクリシェしながらオクターブ上昇した時に、逆にロウワー部である「C#△の3rd音であるF音」に行く所がミソ。ここで「F音」に行く事で、「E7(-9、13)→E△/C#△ (on F)」と、ポリコードのロウワー部のonコードというのもこれまた表記上仕方のない表現ですが、構成音は同一でありながらもこうして使い分けているということを意味します。つまり、同じ構成音でもこれだけ短い音価の間に代理コードを探ったりして「遊ぶ」、と。こういう遊びはなかなか出来るモノではありません。

そして、F#△/E△とつながるというワケですね。


これらの解説したコードの音価は比較的短いので、一般的な「1小節1コード」程度の進行にしか慣れていないと追い付くのもやっとでしょう(笑)。

楽理的な視点だと、どうしてもこういう風に小難しくなってしまいますが、原曲を知っている方なら難しさを感じさせないほど自然なケーデンスで、また普段は見慣れないようなコードネームでもスンナリ受容できてしまうくらい、実にハマっているコードワークだと思います。


「坂本龍一好きだけど、ジャズ聴かない」というような食わず嫌いしている人とか、分数コードやディミニッシュの解釈をもっと追究したい人や、マイナー・メジャーの感覚を強めたい、という人に聴いてもらえればな、と思う左近治であります。

別に左近治が坂本龍一基準で考えているのではなく、自分のショップで坂本龍一の作品をリリースして、それとの関連性や共通性をテーマにしていて、今回「Baja Bajo」に結びつけているだけですので誤解のないようご理解ください(笑)。


というのも、ジャズだって本当はクラシック界での19世紀末から20世紀初頭のディミニッシュの用法やらの楽理と共通する部分を体系化したものとも言えるのでありまして、「ジャズっぽい」アレンジを構築できるというのは即ち体系化しているからこそなんですね。


和声に酔えばジャズっぽくなるし、和声よりも旋律を重視すれば多くのジャズとは少し違うフェーズの曲解釈が可能になる、と。でも、ジャズがディキシーの時代にはクラシック界隈ではセリーや十二音技法が出来たりしていたワケですね。


ディミニッシュの解釈やメロディック・マイナーとの類似点で共通する音をトコトン追究してバド・パウエルが現れ、もっとシンプルに和声を響かせれば、セロニアス・モンクのようなタイプにもなる、と。バド・パウエルをF.ショパンだとすれば、モンクはバルトークでしょうか(笑)。ビル・エヴァンスは前者かなあ(笑)。双方イイ所取りがハービー・ハンコックとか(笑)。スティーリー・ダンならフェイゲンが前者で、ベッカーが後者、と。


今回はついつい長くなっちまいましたが(笑)、希代の名曲やら名演の楽曲については分析にも力が入ってしまうんですな。そうそう。カリウタ師匠の最初のオカズ、付点16分音符交えたフィルですが、これも本当に凄い演奏です。これについてはまた別の日にでも語りますか。