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坂本龍一を徹底分析 ~Elastic Dummy編~ [YMO関連]

先ほど録画していたなでしこジャパンのアウェーでのメキシコ戦を見終えたばかりの左近治です。こんなにめでたい試合をリアルタイムで観なかったのは惜しいモノですが、トシ取るとですね、新聞配達屋さんが動き出しそうな時間帯まで起きているってェのは結構ツライものでして(笑)。釣りとなるとそんなコトないんですけどね(笑)。

まあ、昔は60時間くらい一睡もせずに、目をつぶったのはまばたき以外無い!という生活が日常茶飯事で夜な夜な遊び歩いた時期もあったワケですが(笑)、やはり快適な睡眠を得るにはですね、早起きが必要なんですよ。若い頃など夜の9時10時に寝るなんて考えられませんでしたが(笑)、それに慣れると夜グッスリ眠ることが出来るようになるんですね。最近じゃあ、睡眠時間が短くなったのもあり、夜11時頃寝ても翌朝5時には目ェ覚めるようになっちゃいましたけど(笑)。

さて、そんなハナシはさておき、左近治が制作を終えたばかりのYMO関連曲で坂本龍一作曲の「Elastic Dummy」があります。着メロ時代から着うたまで現在でもリリースしているワケですが、今回はこの曲のイントロ部分をハードなテクノアレンジにして作りました(笑)。この曲の和声構造は非常に好きでしてですね、どうしても作りたくなってしまうんですよ。今回は徹底的に楽理的な話題にしてみようかと(笑)。


長七度の重畳和声


Elastic Dummyのイントロ部のコード進行は下記の通りとなりますね。

CM7(-13) (onDb)→BbM7(+11) (onC)→DM7(-13) (onEb)→CM7(+11) (onD)


なにやら見慣れないメジャー7thの(♭13)。これはモード上仕方の無い表記ですね。コードチェンジは4回。偶数小節は8分食っていて(シンコペーション)、各小節に1つのコードという風になっていますが、1小節目と2小節目をひとつのグループと考えると、3小節目と4小節目は、最初のグループの全音上にパラレル・モーションとして動いたコード進行と捕えるコトができますね。

また、各コードでモード・チェンジが行われるため、コードが変わると調性もその都度変化しているワケなので、長七の音に耳の慣れていないいない人などが聴いてしまうと、曲の変化に付いていけずに曲の良さを理解できぬままとなってしまいかねません(笑)。しかしながらこの曲というのは、これほど複雑な和声にも関わらず、実に器楽的に響かせているのが実に巧みな演出だと痛感させられてしまうワケですね。

最初のコードであるCM7(-13) (onDb)。通常、ごく一般的な曲におけるCから見た2nd音をベースに置く(セカンド・ベースor2ndベース)は「D音」になると思いますが、この曲は、形成しているモードが普通じゃないので(笑)、「D♭音」を置いているワケです。

D♭音から長七度セパレートした、アッパー部のコードがさらにCメジャー7th、と。まあ、ジャズにおいては長七度によるハイブリッド・コードも珍しいワケでもありませんが、このハイブリッドな響きをトータルに演出しつつ器楽的にフレージングするというのは意外と難しいのではないかと思うワケですね。

特に、音大などの作曲テストなどで「七度を使って作曲しろ」なんて課題を出されたら、この曲は見事な模範的な作品だと思うワケですね。

馴染み深いチャーチモード(教会旋法)に合致しないので、コードネーム表記となると見慣れない小難しい表現となってしまいますが、モードという視点で捕えるとそんなに難しくありません。とりあえずは下記の画像をクリックして拡大表示させてみてくださいな、と。

elasticdummy.jpg

上から順にElastic Dummyのコード進行をモードで捕えた譜例になっているワケですが、注意してほしいのは、1小節目と3小節目の「Hungarian Minor」は実際には、このハンガリアン・マイナーの5番目の音から始まる音をアッパー部として用いていて、ベース音がこのモードの6番目の音、というコトなので、1番目のコードは「センター・トーナルがFハンガリアン・マイナーのモード」というコトであり、3番目のコードは「センター・トーナルがGハンガリアン・マイナーのモード」というコトになりますので、その辺だけご注意を。


ハンガリアン・マイナーという音階の魅力とは!?


自然短音階(ナチュラル・マイナー・スケール)の階名で言えば「ファ、シ」部分をシャープさせたのがハンガリアン・マイナー・スケール(別名:ジブシー・スケール)という音階です。ただ、階名はモードの構造を捕えていないので誤解を招きやすい表現でもあるんで私はあまり使いたくないんですけどね(笑)。

階名で言えば、ファがファ#に変化したことで、ファ、ソ、ラが半音が2回続きます。7音で構成される音階で、半音が2回続く音階というのはかなり珍しい音階です。

これほど特徴的な構造を持っているにも関わらず、この音階というのは極めて叙情性が強く表現される音階でもあり、和声的短音階よりもさらに叙情性の色濃い、短音階の経過的な変化形(臨時記号)の音で支配したような強固な強さが滲み出ます。

他にもシの部分もシャープになり半音上がるため、トニックと半音の隔たりとなるワケです。これだけ多くの半音の音程を備えているとですね、このモードで構成したダイアトニック・コードは、長七度音程を含むコードが数多く存在することを意味します。

さらに、この長七度の重畳的和声(メジャー7th音程によるハイブリッド・コード)は、便宜上CM7(-13) (onDb)と表記していますが、アッパー部がCM7、ローワー部がD♭メジャー・トライアドという、上声部と下声部とで別の和声構造を持つハイブリッド・コードとして見ることもできます(実態はコレ)。

つまり、ハイブリッド・コード的な表記をすればCM7/D♭△という風に表すことができるというワケですね。

分数コード表記において通常、分母の部分は単音を付加させればイイのですが(on表記も然り)、ハイブリッド構造すなわち下声部も和声を提示したい場合、下声部にコード表記ということを示すために、この場合「メジャー」を表す「△」を用いるワケです。因みに下声部の部分を「マイナー」を示すようなコトはほとんどお目にかかりません。概ね下声部はメジャー・トライアドで表すので、こういう表記になるというワケですね。


さて、偶数小節(2小節目と4小節目)の

BbM7(+11) (onC)
CM7(+11) (onD)

こちらは2ndベースで、先ほどのフラット2ndとは違う、比較的よく見かけるonコードです。こちらの下声部は単音でイイわけですね。シャープ11th音のメジャー7thコードというコトは、リディアンを提示しているというワケです。もちろん他にもリディアン・オーギュメントやら、他のモードの解釈でより複雑怪奇なモード解釈も出来ますが(笑)、そのような特徴的な音が無ければこういう解釈をしないと成立しないので注意が必要ですね。


ハイブリッド・コードの重要性


以前にもディミニッシュ関連で語ったコトがありますが、メジャー・トライアドを分子と分母で鳴らすようなハイブリッド・コードは、発展させると9音音階のモードを提示したり、あるいは通常オルタード・テンションとして経過的な変化をさせる音を調性の支配感として曲構造の根幹部をより強くするために用いたり、あるいは短音階の曲中での経過的な変化を経過的にではなく支配的に使うという積極的な利用することが可能になります。

特に、ハーモニーの拡大感、調性の多調性、複調製を生み出すことに繋がります。

例えば、ハ長調においてF△/C△とやってしまっても、これはF音が邪魔になるような響きになってしまいかねず、愚の骨頂です(笑)。

ハ長調における通常の音階では表れない音、すなわち経過音を曲を終始支配するような音として使うような場合、こういったハイブリッド構造の解釈などが実に役立つワケです。

ハイブリッド・コードで一番手っ取り早い用法としては、短調の曲の方が最も使いやすい初歩的な例があります。

自然短音階(ナチュラル・マイナー・スケール)という音階は

I II III♭ IV V VI♭ VII♭というテトラコルドの並びなワケですが、短調の終止感を少しオシャレに偽終止させる時などが効果的です。

例えば、短調の曲の終わりにトニック・マイナーすなわちImの局面において、そこで

VII♭△ / VI♭△というハイブリッド・コードを使って偽終止感を演出するコトが可能です。

例えば、ホ短調(Em)を例に挙げれば、アッパー部に7番目のメジャー・トライアド(すなわちDメジャー)、ローワー部に6番目のCメジャー・トライアドを使うというコトですね。すなわち

Key=Em
D△/C△

という風に曲の最後などで使うと結構幅が広がります(笑)。アレンジに困った時など手軽に使えます(笑)。


ハイブリッド・コードの解釈は、通常のやり取りではなかなか得られない音楽の進行感を演出することができる早道なのですが、コード表記にこだわるあまりに、曲全体がその都度支配している調性を部分的にしか捕えられなくなってしまいかねないという要素も含んでおります。すなわち、コード表記だけに頼ってしまうと(例えば上声部だけのコードとか)ダメだというコトですね。すなわち、「モード」を捕えろ、と。

そーゆーワケでElastic Dummyはモード解釈することで、モードチェンジが多いだけで、モード表記すれば簡単に表せるものの、その和声を表記した場合、実に複雑になってしまう(実際、和声構造も複雑でありますが)というワケですね。

複雑な楽曲をどうにか分かりやすく解釈したい、そういう場面でモードを捉えるというのは大事なことで、チャーチ・モード(教会旋法)だけでは合致しない曲でもそのように対応できる理解力が必要なワケですね。無論、複雑な和声構造をアタマで理解する前に、耳(脳)が受容できなければハナシにならんのですが(笑)。


坂本龍一のソロ・アルバム「BTTB」に収録される「Lorenz and Watson」も、長調と短調を一緒に弾いたように聴こえるかもしれませんが、あれとて和声的短音階すなわちハーモニック・マイナーのモードを使っているから、というコトは以前のブログでも述べたことがありましたが、実際には短調と長調を一緒に弾いたように聞かせているだけで、モード構造を読み取らなければ曲の根幹を理解していない(できない)というコトになるんで細心の注意を払って音楽を聴かねばならないんですね(笑)。

ただ、殆どの人は楽理的な部分をこのように理解しても、複雑な音階を用いたモードで音楽を構築させて、それを美しく「器楽的」に作曲したりアレンジしたりするというコトは並大抵では出来ません(笑)。

坂本龍一のこのような嗜好性は、ハービー・ハンコック、スティーリー・ダン、バド・パウエル、バルトークという方々のフェーズと似たモノがあると私は感じておりまして、およそ30年も前になろうという、高橋ユキヒロのソロ・アルバムに収録されている「Elastic Dummy」という作品の、イントロのたった4つのコードだけでもコレだけ語れてしまう作品のパワーにあらためて驚きを禁じ得ない左近治なのでありました(笑)。

普段、おバカな話題ばっかりってェのもなんなんで、たまにはこーゆーのもイイんじゃないかと思いましてですね、ハイ(笑)。