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Finaleで微分音を取扱うという事 [DAW]

 1991年からFinaleを使い続ける私ですが、そんな私でもいまだにFinaleの独特なコマンド群に苦悩する事は少なくありません。

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 楽譜を編集するという凡ゆる状況を体系的に区別するというのが如何に難しいという事を表している訳でもありますが、今回はFinaleでの微分音の取扱いについての設定方法を取り上げるもので、私が既にYouTubeで微分音取扱いの説明動画をアップしている様に、取扱い内容は「派生音」の取扱いについて重点的に説明を割いております。




 なぜ派生音に注力するのかという点を説明しますが、音楽に於て音階を取扱う以上「幹音」という存在は常に付いて回るのであり、微分音を使おうともその変化記号は「派生音」の一部に過ぎない訳です。

 処が、この派生音の取扱いについてFinaleでは少々厄介な概念で以て編集を必要とするので、動画では少々回り諄い説明になっているとは思いますが、こうした点を迷いなく取扱える様になると楽譜編集作業は非常に捗る事となるでしょう。


 我々が音楽で通常用いている十二等分平均律(12EDO)というのは、最小の音程サイズとなる単位音程として《半音の数が12個ある》という訳ですが、半音の倍のサイズの音程である「全音」の数というのが6個ある「6全音」の状況という解釈に陥ってはならない重要な側面でもあります。

 なぜなら、12個の半音に区別する事は出来ても、実際には「幹音」という7つの全音階で構成される構造が標準的な姿である為、12等分平均律は決して6個の全音で構成されているのではなく《5つの全音と2つの全音階的半音》で構成されている事だけは決して忘れてはいけない事なのです。

 全音階的半音、というのも楽典の知識が不確かな者からすると途端に煙たがられかねない用語ですが、全音階的半音と半音階的半音の違いが判っていないと、トンデモな理解に及んでしまう物であり、この理解を忽せにしてしまう者は往々にして自身の呼びやすい(理解しやすい)音名や音程などを選択してしまう事になります。

 また、全音階的半音と半音階的半音の区別をきちんと付ける事が出来ないままにしてしまうと、迤々(ゆくゆく)はFinaleで31等分平均律を扱おうとする状況などで途端に迷妄に陥る事となりかねません。それほど全音階的半音と半音階的半音の区別というのは重要な物なのであります。


 扨て、Finaleで四分音(24EDO)を取扱おうとする際、楽曲全体の中でほんの数音程度の微分音が現れる程度ならば、各音に対し適宜微分音変化記号を振ってやる程度の作業で十分なので特段問題が無いのですが、楽曲そのものが四分音で統御されている様な体系だと、逐一四分音を充てるのは却って混乱を来すので、楽曲全体で四分音を取扱うという状況に設定する方が容易になります。

 但しその際Finaleでは、四分音を統括して編集させるならば「調号」から編集を施す必要が生じて来るのです。微分音という体系が何某かの調性としての関わりがなくとも、Finaleでは「調号」のメニューから入る必要になるのです。こういうコマンドがFinaleでは特殊と言いますか、郷に入っては郷に従えという、直感的にはイメージしにくい所に微分音編集コマンドがあるなとつくづく使いづらさを痛感してしまうのであります。

 例えば次の図版の様に、Finaleでの「調号」から「特殊…」を選択して《四分音設計》の為の作業に入る必要があるのですが、何某かの調性に関与する様な音楽ではなくとも「調号」のメニューから入って行かなくてはならないFinaleの基本設計という顰に倣って編集せざるを得ないと甘受すべきなのでしょう。

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 そうして次の図版が示す《特殊な調号》に入る訳ですが、このペイン内下部に5つのアイコンが用意されている様に、必要な編集は《キーマップ》と《属性》の2つを編集する必要があります。
 
 また、この図版で注意すべきは、私が用意したこの図版では既にペイン上部右側の《次へ》を2回クリックしている物です。そうしないと、下部アイコンはグレーアウトしていて編集できないのがデフォルトですので、それを解除した事を示している物となります。

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 《キーマップ》のアイコンをクリックすると《キー・ステップ・マップ》という鍵盤排列を編集できる様になります。アイコンで表している時の名称が実際の編集画面とで名称が異なっているという点も非常に煩わしい設計なのですが(苦笑)、ペイン上部のスライダーを右に動かして《音階の総数》を「24」に増やす必要があります。

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 そのままだと《全音階の総数》が「19」まで随伴して増えますが、これは「全音階」としての総数を意味しているに過ぎず、これを基からある幹音の総数である「7」まで減らす必要があります。つまり、白色で表される鍵盤を減らす必要がある訳です。

 確かに、アロイス・ハーバは四分音(24EDO)での19音音階など形成していたりするので、場合によっては四分音体系での音組織として、音塊の総数が「19」やら「17」なども必要になったりする事もあるでしょうが、そうした体系に倣って四分音編集を視野に入れるよりも、通常の幹音7つから派生する様に設計した方が微分音の取扱いを楽にするという訳です。

 この白色の鍵盤が幹音を示している訳ですので、黒色の鍵盤は自ずと「派生音」を意味する事となるのです。

 こうしてFinaleで設計した幹音と派生音は、次の様な状態になっているという事を示すのであります。

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 このキーマップの概念は、あくまでも嬰種微分音変化記号を表しているだけに過ぎませんが、Finaleで先のキーマップを設計した事によって取扱う事のできる微分音変化記号が嬰種に限られてしまうという事ではありません。あくまでも《幹音とそれ以外(の派生音)》というルールをFinaleで設計するという風に解釈すれば判りやすいでしょう。

 いずれにしても手順を踏めば四分音の変種微分音記号も入力可能となるので、結果的に単位音程毎に矢印キーを使って次の様に増減させて表す事が可能となるのです。

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 今度は次に図示される《特殊な調号》ペインに戻って《属性》をクリックします。すると《調の属性》というペインが現れ、このペイン内の《変化記号リスト番号…》をクリックして、単位音程毎の変化記号をアサインする事となります。

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 そうして次に図示される《変化記号リスト》が現れるのですが、このペインを1回1回アサインしたい記号毎に設定するのではなく、このペインから一挙に全種類の四分音変化記号を単位音程毎にアサインする事ができます。

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 四分音変化記号は正統な表記として5単位四分音の増減が用意されているので、±5単位音程ずつ=計10種の変化記号をアサインする事が可能となります。

 まずは、1単位四分音上げとなる「セミシャープ」となる記号は、Finale Maestroのフォント・グリフ・スロットには「804番」で登録されています。同様にして1単位四分音下げとなる「セミフラット」は802番(※806番の狭い瘤は最近のトレンド)を順次登録していけば良いので、これをあと8回繰り返して各単位音程用の記号を入力する事で漸く完了という事になるのです。

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 そういう訳で、後は動画の方を詳しくご覧になっていただきたいと思うのですが、Finaleで31等分平均律(31EDO)での微分音記号表記を企図する場合、ここで全音階的半音という事の重要さがあらためて判る事となります。

 31EDOというのは史実的に「五分音」という風に体系化が為されております。《全音を5等分しているのであるから、それならばオクターヴを等分割すると30EDOになるのでは!?》と、安易な算数的解釈に陥ってしまうと矛盾しているかの様に思えてしまいます。

 確かに現在では等分平均律での別の体系で30EDOというのも存在しますが、これは非常にレアケースであり、しかも30EDOというものはオクターヴを等しく30等分にしている事に加え、偶数次によるオクターヴの等分割の音律である為「半オクターヴ」を生ずるので、十二等分平均律(12EDO)と比較すると半オクターヴが「6全音」という位置に現れた様に、半オクターヴを得る為の恣意的な操作によって生じた音律に過ぎません。

 そこで今一度、《全音階は5つの全音と2つの全音階的半音から成る》という事を思い返してみましょう。

5つの全音があり、各全音音程が5分音=25単位音程
2つの全音階的半音があり、各全音階的半音は3等分=6単位音程

となり、これらは合計31単位音程となり、こうして31EDOは形成されているという訳です。

 尚、31EDOというのは厳密に捉えると、変則中全音律に阿る形で分化されている物です。つまり、中全音律に非常に近しい構造となるのです。

 五分音に最初に着目したのはギリシア時代の古典にある微小音程に着目したマルケット・カーラであり、その後最初に五分音の変化記号を用いたのがファビオ・コロンナであります。

 英語版のWikipediaではニコラ・ヴィチェンティーノを真っ先に取り上げてレメ・ロッシの名を挙げておりますが、現在ではヴィチェンティーノの関与は懐疑的であり、レメ・ロッシの関与も時代としてはかなり後の事であるので注意をされたし。

 扨て、31EDOが「五分音」である事から全音音程は5分割されます。処がこの音律は、十二等分平均律の半音上にぴったりと単位音程が現れる事はなく跨いだ位置に単位音程が生ずる事となります。

 これを判りやすく五分音を等分平均律で見立てた場合、2単位五分音80セントに位置し、3単位五分音は120セントに位置するので、丁度良い所に現れてくれて好い筈の100セントの位置を跨いでしまうという訳です。

 実質的には31EDOの等分平均律としての単位音程は「38.7097セント」であるのですが、31平均律(この呼び方は等分および不等分も含む)の過去の著名な提唱者による五分音の多くは、各人各様による正則/変則中全音律に阿り乍ら幾つかの種類があるので一義的に体系化する事はできません。五分音に幾つかの種類があるのは、等分平均律以外に歪な不等分音律も含まれるからであります。

 31平均律の幾つかの体系を端的に纏めると次の様に、

7リミット(第7次倍音=自然七度)重視=ニコラ・ヴィチェンティーノ、ハリー・パーチ
5リミット(第5次倍音=単音程転回還元位置純正長三度)重視=ホイヘンス、ベン・ジョンストン
等分律重視=アーヴ・ウィルソン

という風に纏める事ができますので参考まで。私のブログ内検索でYMOの「Camouflage」や坂本龍一の「participation mystique」を検索していただければ更に詳しい解説を読む事ができます。

 扨て、五分音用の微分音変化記号フォントの多くは嬰種記号だけが用意されている物が多く、変種・嬰種共に用意されているのは ‘Kh font’ フォント位しか私の知る限りではありません。

 IRCAMのOpenMusic用のフォントである ‘omicron’ も総じて嬰種変化記号のみであり、SMuFL規格に準ずる ‘Ekmelos’ フォントで用意されているファーニホウの五分音記号(「Unity Capsule」のもの)も嬰種のみしか用意されておりません。

 また五分音(31EDO)では、音組織の基本音として表される本位音も実際には平均律のそれからは微妙にずれている事になるので、これが少々厄介な所でもありましょう。

 いずれにしても、31EDOをFinaleで取扱うのであるならば、キーマップを次の様に、「5全音+2全音階的半音」を守れば、1全音毎に4つの派生音と1全音階的半音には2つの派生音が用意される様に設定すれば良い訳で、’Kh font’ を使わない限りは嬰種のみの設定で済むという訳です。

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 こうしてYouTubeにアップしている解説動画と併せて読んでいただければ、Finaleでの設定は幾分楽になるかと思います。微分音の設定については、市販の『Finale User’s Bible』やら公式のWebマニュアルよりも判りやすいとは思うのですが、私の解説が冗長なのはご寛恕願いたい所です。一旦覚えてしまえば1分も掛からない作業で済むのですけれどもね。

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