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ルパン三世制作秘話 [ネタバレ]

本日リリースのルパン三世BGMについての制作裏話でも。放送話ごとに流れるタイプライターのSEに後に続くジングルで、もはやあまりにも有名なジングルであります。

これだけ曲の尺が短いにもかかわらず、耳コピには結構苦労したモノであります(笑)。何が最も苦労したかというと、タイプライターのSEが鳴り終わった直後のド頭のスネアとベードラの1発目。このジングルはココこそがキモと思い注力せざるを得なくなりました(笑)。

アニメ系のジングルを扱う比率はかなり低い左近治でありますが、手元に用意する制作用ネタ(原曲)が少ないのが扱う数の少ない理由(笑)。

最初のタイプライター部分は、原曲のタイプライター音からLogic ProのMatch EQにて周波数マッチング。それを全く別のタイプライターのSEにスペクトラムを適用。まあ、こういう風にスペクトラムをマッチングさせても全く同じ音になるワケではないのでありますが(笑)、マッチングさせることで「大局的な」EQカーブを確認できるということが重要で、まず作業はこうして始まりました。

余談ですが、タイプライターって言っても機種やら真砂の数ほどあるわけで、とてつもないアナクロなモノもあれば薄型でオリベッティを思わせるようなモノもありまして、機種ごとにタイプ音は全く異なります(笑)。特にルパンの「あの頃」の時代というのを考慮すれば、相当古いタイプのタイプライターが実際には必要になってしまうでしょう。左近治はその昔、brother製のタイプライターを使ったことがありましたが、「タイプライターで誤字脱字をしたらどうやって修正するんだ!?」とオツムの弱い左近治はその時点で首ひねったモンです(笑)。

まあ、なんてこたぁない。誤ってタイプされた刻印部にインクの付いていないものを重ねて刻印して紙を傷付けて消していたんですな(笑)。私、コレを知った時、いたく感動した覚えがあります(笑)。元々タイプライターは誤字脱字を極力少なくさせるために、わざわざタイプしづらい「QWERTY」という配列になったそうです。

とまあ、ハナシはさておき元の話題に戻るとして、次に現れるドラムの音がなにゆえキモなのかというと、ベードラの残響音に強調されている部分音とスネアの部分音がキモだったんですな。

ベードラとスネアそのものの部分音については割愛しますが、スネアは私が用意した最も近いキャラクターの音に、ある特定の帯域にG音の部分音を付加させています。これは「胴鳴り」部の部分音と判断して、その後奇数次倍音列に「ところどころ」当てはめてG音を強調しつつ奇数次倍音を付加させております。概ね13次倍音までを考慮して。もちろん、きっかり平均律に合致する音というワケでもありません(笑)。

ベードラの残響部は私の用意した最も似たキャラクターの音にC#音とE音の部分音を付加。もちろんこれらの部分音はすべて1オクターブ以内に収まっているというワケではなく、幅広いオクターブ関係になっておりますが、それらの音高を列挙するということは割愛させていただきます(笑)。

で、興味深いのはそれらの付加した部分音はC#ディミニッシュ・トライアドの関係になるという。

確かに自然倍音列には増四度の音(近似的な)やら高次倍音になれば出現しますが、まさかこれほど低次の範囲で減三和音の音が強調されていたとは想いにもよらなかったワケです。

ジングルの曲の調性を判断すれば確かにC#ディミニッシュはこの場合は関係調からはやや遠いものの、「ありえる」構造なんですね。だからこそ「キモ」だなあと痛感したワケであります。

原曲がここまでドラム類の部分音を活かしているということはこれはもはや偶然の産物とは考えづらく、ドラム類の部分音や残響部の部分音など、全てが「計算された」アンサンブルとなっていることがあらためて判ります。

いつだったか、暮れ近くにテレビ朝日の某深夜番組でカシオペアの向谷実氏が出演して、ルパン三世のテーマ曲のセカンダリー・ドミナントでのハーフ・ディミニッシュをポピュラーにした功績が大きいと仰っておりましたが、セカンダリー・ドミナントを使うシーンにおいて同じ構成音のハーフ・ディミニッシュを使うことでソフトにした感覚と形容すればいいでしょうか。これはショパンにも当てはまる部分があると思います。

ショパンのそれは、部分部分に用いる変格旋法による瞬間的な転調感がキモなんですが(※実際には移旋)、大局的には「半音階」のアプローチと片付けられますが、そのアプローチは概ね一瞬のセカンダリー・ドミナントの導入によるオルタード・テンションを用いたドミナント・モーションの動きを行っているんですね。

平均律が浸透したであろう、その頃には自由奔放な調性の重心を操りながら作曲していたんでしょうなあ。そうしてドビュッシーやらハチャトゥリアンなどと世に現れ、ジャズというのはそれらの楽曲の共通する部分で体系化されていったのでありましょう。というより、耳の鋭敏な人達はもはやクラシックやジャズなど関係なく「そういう音」に魅力を感じるようになっていくであろうことを予見した「時代の記録」なのかもしれません。

そのショパンのアプローチというのは、和声にてオルタード・テンションたっぷりの7thコードをジャジーに使っているワケではなく、その時代に勿論ジャズはありません(笑)。ハーフ・ディミニッシュの効果は、やたらとジャズ臭くせずに、ショパン的なアプローチになると思っていただければ、より理解しやすいでしょうし、フレーズそのものが受け入れられやすいかな、と。

それらが全て計算されているとあらためて痛感したのでありますね。大野雄二アレンジには。

たかだか数秒のジングルにもこのように鏤められているのが実にイイですね。

ドラムというのはどんなにミュートしようがゲートで削ぎ落とそうが、いいチューニングやアンサンブルのためにはトコトン配慮せねばならないものですな。

The late Tony William御大も本当に「奏でて」ましたっけ。