SSブログ

The Section 2ndアルバム収録「A Kind of Albatross」(クレイグ・ダーギー作)について [楽理]

 今回は、セクションの2ndアルバム収録のクレイグ・ダーギー作「A Kind of Albatross」について語る事に。私が今回制作したYouTubeにアップしている譜例動画はアンサンブルを変えたり尺を縮めたりしておりますが、大枠のハーモニーについては変えておりません。私の勝手な臆断に依ってコード付けしている訳ではないのでその辺りを念頭に置いていただけると助かります。
section2nd-f.jpg




 本曲オリジナルはクレイグ・ダーギーのアコースティック・ピアノがメインで短めの尺の曲なのですが、ハーモニーが実に豊かで、しかも物珍しい響きを導入しているので私としてはついつい食い付いてしまう訳です。ギターは私が聴く限りではアンサンブルに現われず、ピアノをメインにした演奏にベースが補助的にプレイし、コンガが鳴っているという構成です。

 そこで、そうしたレアなハーモニーをギターの在るリズムが明確なバンド・アンサンブルとしてアレンジしてみたのが私の譜例動画でのデモという訳であります。尺を縮めているとは雖も、決して割愛してはならぬ様なハーモニーなどきちんと配慮しておりますのでご安心を。然し乍ら本曲オリジナルはピアノが主体という事も相俟って、バンド・アンサンブルを期待する(何せ「セクション」の面子ですから)人からすると、クレイグ・ダーギー主体となると耳を遠ざけてしまう傾向にある為か、セクションを知る数少ない人達の間にあっても本曲は注目されにくい曲である事は確かです。


 処が私というのはアンサンブル形態は二の次で和声観を聴くタイプですので、セクションという信奉すべきバンドを眼前にして聴くと、アンサンブル無関係にハーモニーを拝戴する訳でございます。そういう従順さが功を奏しているのか、私は本曲の特異な響きをも注力する事ができ、ついついレコメンドしたくなってしまう訳であります。況してやその「特異な響き」という物も、21世紀の10年代もそろそろ終盤を迎え20年代に突入しようという音楽シーンに於て、ジャズ/ポピュラー音楽体系とやらも、ジャズ心すら抱いていない者が界隈の方法論を会得しているだけでそれっぽい音を出せるかの様にまで陳腐化してしまった時に、突如ブレイクスルーとなるジェイコブ・コリアーという青年が登場した訳でありまして、そうした陳腐化した状況をたった一人でぶち壊し、それらの体系の埒外としていた方向性を如何なく採り込んで高次な音楽を繰り広げている状況を鑑みれば、ダーギーのアプローチも実にモダンな例でありまして、特異な方面に興味を示す人にはうってつけの例示となるのではないかと信じて已まないのであります。ですので今回レコメンドする事に。


 
 1〜2小節目のコードは「Gm11」しかし茲で注視して欲しいのは、のっけからリード・ギターのパートで三分音を意味するのですが、本位音度である「E音」より67セント高く採った音からF音に対してチョーキングして呉れれば良いのです。E音より67セント高いという事は、「E♯」よりも33セント低い音である為、こうした微分音記号を充てたという訳です。ベース・パートの1小節目での複前打音は微分音を用いていないので注意が必要です。尚、ベースの3拍目弱勢ではLow-Dが出現しておりますが、これもまた、私がアレンジしたバンド・アンサンブルなのでこの様な音を選択している訳です。

 というのも、リーランド・スクラーならば弾いている音域にも依りますが、Gm11というコードに於て根音から5th音を奏する時に高い方の5度ではなく、低い方の5度を選ぶのではなかろうかと思う訳です。とはいえスクラー御大は通常は4弦ベースを弾いているのでしてGm11であってもLow-Dの出現は無かろう、と推測する方も居られる筈です。

 私自身のデモ、原曲でのスクラー御大のベース・プレイをそのまま準えていればよかろうにと思うのですが、ハーモニーを下支えするバンド・アンサンブルに仕上げたかったので、ベースのややハイ・ポジションから入るスクラーのプレイをそのまま今回のデモには反映させずに和声感に準則する様に仕上げたのであります。

 その上で、通常のバンド・アンサンブルでのプレイを勘案したと仮定した場合の私の推測では、スクラー御大がLow-Dを使えない状況でGm11で根音から高い方の5th音を選択せざるを得ない状況ならば、根音から8度上昇(1オクターヴ)してから5th音へフレージングすると思うのです。低い方の5度を採る時は根音からの音程は実質的には「完全四度」という狭い幅なのですから、スクラー御大ならそういうフレージングにするのではなかろうかという推察が働き、敢えてLow-Dを出現させたという私の意図がこうさせているのです。

 なぜスクラーのプレイにそうした細かな配慮をするのかというと、スクラーのプレイというのは特にⅣ度ベースという分数コードでのフレージングが実に巧みなのでありまして、これについては何れ他の曲で縷述する事にしますが、音域が高い時の分数コードの上声部の採り込み方と、音域が低いレンジでの分数コードの分母だけを奏しないフレージングの音選びが絶妙なのでありまして、私はスクラー御大から分数コードでのフレージングのそれを学んだのでありまして、そうした背景から細かく推察に及ぶ訳であります。
 

 3〜4小節目のコードは「E♭△9(♯11)/G」というⅢ度ベースという物。因みにローカルな呼び方ではありますが、♯11thを附与するメジャー7thやメジャー9th或いはメジャー・トライアドへの「add4+」という系統をリディアン・メジャー7thとかリディアン・メジャー9thとか呼ばれる事もあり、私のブログでも頻出こそしておりませんがそういう風に用いる界隈もあるので、この機会に併せて念頭に置いていただければ幸いです。

 また、4小節目でのリード・ギターのパートではチョーキング・ダウンに於て態々歴時と微分音を充てて、下行速度を明示しているのですが、アタマ抜き5連符の速度感に対して六分音程度の微分音という感じで奏して欲しいという気持ちがこの様に現われております。1単位六分音は33セントの音程となりますので「1/6全音(-33セント)→1/3全音(-67セント)→4単位五分音(-160セント)」という風に下がって欲しいのであります。

 5連符の3音目の微分音変種記号はタルティーニが用いたフラット記号で、この場合1単位三分音の時を示した物です。丁度SMuFLでプロポーションがしっかりとしたタルティーニ・フラットが用意されたので用いた訳です。勿論これまでにもタルティーニ・フラットが用意されたフォントは存在していたのですが、プロポーションが個人的には好ましくない少々デフォルメされた感が強かった物が多かったので、SMuFLでのBravura(ブラヴューラ)フォントには助けられる事が多いです。

 同様に5連符の4音目では重変記号(ダブルフラット)であるにも関わらずそれを4単位五分音とするのは、重変記号を見馴れてしまうと厄介な解釈でありますが、これはアロイス・ハーバの五分音表記に倣った物です。重変記号というのは12等分平均律では異名同音となるのでついつい本来の重嬰・重変の役割を忘れてしまいそうですが、不等分音律が罷り通っていた時代ではB♭♭音はA音とは決して同じ音ではありませんし、これらの中立音程の差異を「四分音」的に均して解釈されていた時代もありますし、三分音と採る事もあったりした訳で、ピアノの普及に依ってその後齎された等分平均律の時代よりも遥かに中立音程の地位は色濃く存在し、厳密に取扱われ、多様だった訳でもあります。

 そうした西洋音楽界隈での厳格な仕来りと比較すれば、単なるダウン・チョーキングのこうしたプレイは全然厳密さを欠いてしまっているかもしれませんが、歴時と中立音程のピッチ感を少しでも意識できれば、それがこうした楽譜の標榜する所に近付くのではないかと信じて已まないので敢えてこうして採用しているのであります。

 
 5〜6小節目のコードは「G♯dim△7」で、ディミニッシュ・トライアドに長七度が附与されているという物です。「dim△7」というコードは多くの場合は、根音の更に下方三度を類推してドミナント7th(♯9)コードの断片として見立てる物や、「dim△7」の長七度音がその実ドミナント7th(♭9)の断片として見立てるというケースがある物です。

 これらを踏まえれば、少なくとも「G♯dim△7」というのは次の例の様にE7(♯9)の根音省略のケースであるか、若しくはE7(♯9)でのM3rd音=G♯音をA♭音、および♯9th音=F♯♯をG音とエンハーモニック転換(異名同音転換)させ、「G7(♭9)」の構成音として読み替え、G7(♭9)の7th音が省略されるケースという状況を考える事もできるという点を念頭に置いて欲しい部分であります。

Gsharp-DimM7-1.jpg


 ディミニッシュト・メジャー7thというのは他の和音の断片として見立てようとする事が本意なのではなく、類推される「2種類のオルタード・ドミナント7thコード」というのは夫々、異度由来の増属九と短属九を行き来出来るメリットを具備しているのであります。ある意味ではディミニッシュト・メジャー7thというのはオルタード・ドミナント7thコードという有り体を避けて、少なくとも2つの調域を橋渡しできる状態と見なせる物であり、それらの調域はセスクイトーン・ケーデンス(音程幅は1.5全音=300セント)の双方を橋渡ししている状況でもあると見立てる事が可能というメリットがある訳です。

 これらの想定しうる2種の増属九と短属九の基底和音はドミナント7thコードなのでエンハーモニック和音の一種として見立てる方もおられるでしょうが、増属九と短属九自体が全く異種の和音として私は捉えたいので、単なるエンハーモニック和音ではなく同義音程和音として私は括りたい所ではあります。これについて和音の呼び名はどうあるべきか!? という事まで慫慂しようとは思いませんし、両義的に受け止められる音楽的素地を養っている方が賢明であると私は考えます。

 ディミニッシュト・メジャー7thというコードは渡辺香津美のソロ・アルバム『Mobo Splash』収録の「十六夜」でもⅡ度ベースの例として聴く事も可能です(※次の譜例動画に於ける冒頭より2つ目のコード )。




 この響きに対して「某しか」のドミナント7thコードの本体を探るとすれば、先の例を頼りにして探れば良いのですが、Ⅱ度ベースとして暈滃している事を鑑みた場合、短属九を類推してその♭Ⅱ度ベースとして想定した方が「十六夜」に於ては類推する方が良さそうですが、何れにしてもドミナント7thの響きを暈滃している事は確かなので、ドミナント7thとしての本体を探る様な事は結果的には無意味に近いかもしれません。唯、属和音としての「軸」を仮想的に見出す事でアプローチを採り易くなるというメリットはあるかもしれませんが、「十六夜」の場合、増属九の側を仮定した場合、Ⅱ度ベースの為、そのベースに置く音が増属九の「本位十一度」のⅣ度ベースとなる訳ですね。こちらを想定した場合、ウェイン・ショーターっぽい世界観でもある訳です。

Fiafiaga008.jpg


 加えて、ディミニッシュト・メジャー7thコードの用例にて、最も「両義性」のあるアプローチを採っているのは、スティーヴ・スミスのヴァイタル・インフォメーションのFIAFIAGA(フィアフィアーガ)に参加するトム・コスター作の「The Perfect Date」という曲が好例となるでしょう。

Fiafiaga001.jpg





 次のYouTube動画の「The Perfect Date」は、嘗てKORGから01/Wというシンセサイザーが出た時、初期製品はSMF(スタンダードMIDIファイル)に対応しておらず、半年程でマイナー・チェンジをしてSMF対応のFDD(フロッピー・ディスク・ドライブ)を搭載した時、01/WのSMFデータとしてリリースされたソング・データに含まれていた物でした。このSMFデータは海外ではCDとしてもリリースされていた様ですが、幸いにも私は当時のSMFデータを有していたのでこうして耳にする事が出来るのであります。このMIDIデータで謂えば当該箇所(ディミニッシュト・メジャー7th)が最初に現われる箇所が再生できる様にしております(譜例動画0:10〜)。

 曲冒頭より5小節のイントロの後に、テーマAの頭からメロディーを採るシンセ・リードがC♭音を奏するので直ぐにお判りになるかと思いますが、これはFディミニッシュト・メジャー7th(Fdim△7)の構成音である減五度(=dim5th)をメロディーにしている物であります。

Fiafiaga004.jpg




Fiafiaga005.jpg


 実は「The Perfect Date」というのはSMFデータで流通する以前に、前掲のスティーヴ・スミスのプロジェクトであるヴァイタル・インフォメーションの「FIAFIAGA (Celebration)」のリリースが最初であり、その後、ヴァイタル・インフォメーションのライヴ盤『VitaLive!』にてライヴ・ヴァージョンが収録されているのでありますが、オリジナルおよびライヴ・ヴァージョン共に非常に秀でた作品ですので是非とも手に取っていただきたい曲であります。特にオリジナル盤は国内ではリリースされた事が無い筈なので再CD化を望んで已まない所です。

Fiafiaga006.jpg




 ディミニッシュト・メジャー7thコードを用いた拡張的なアプローチというのは、そのコードの「本体」とやらを探るべく、態とオルタード・ドミナント・コードとしての体を想起します。仮に増属九を想起した場合、そのコードの上方セスクイトーン・ケーデンスさせた(1.5全音上方≒みなし短三度)短属九も同時に想起する事となります。その短属九の♭9th音を♯9th音へと重増一度進行させて可動的変化を採るだけで、それは新たな「増属九」へと変容するので、同様に増属九のセスクイトーン上方に逃げ水の様に短属九を想起する事が可能となる訳です。ディミニッシュよりも遥かに多彩なクロマティシズムを実現できる事にもなる訳です。つまり、重増一度進行を辷り込ませるだけで、これほど多様なアプローチを採る事が可能だと言いたい訳です(後掲譜例参照)。

Gsharp-DimM7-2.jpg


 この機会に折角なので、スタジオ・オリジナル・ヴァージョンや「VitaLive!」でのパーソネルを参照できる様にアルバム・クレジットを例示する事にしましょう。フランク・ギャンバレ、レニー・カストロなど錚々たるメンバーであります。

Fiafiaga002-c6b32.jpg


Fiafiaga003.jpg



Fiafiaga007.jpg



 重増一度進行させる事で変化を受ける音は、基のディミニッシュト・メジャー7thコードの根音がみなし長二度の順次進行となる事であります(♭9→♯9)。こうした同度由来のオルタード・テンションが順次的な線を辿る事ができるのはジャズ界隈に於ける多大なるメリットであるのは言うまでもありません。同度由来だからと尻込みする必要はありません。本来ならオルタード・テンションの♯9thは♭10thとして取り扱われるべき物である物の、ジャズ界隈での多義的な「方便」としてそれが罷り通る様になっただけの事であります。これは同主調の音脈を常に併存させるべく念頭に置いた演奏が前提にある訳であり、モーダル・インターチェンジという視野が開けるのは自明でありましょう。

 加えて、仮に同度由来の変化音として♭9th→♯9thという重増一度進行として解釈してもそれは問題の無い事でもあるのです。それは、減四度が視野に入った時、♯9thが♭10thではなく♯9thである必要性があるという状況も必ず出てきます。減四度というのは物理的な音程幅を12等分平均律で見るならば長三度音程と変わらないのでありますが、三度と四度では線としての取り扱いはまるで違うのでありまして、いずれ近い内に、リップス/マイヤーの法則に於けるマイヤーの下屬音を「16:21」で見るという、音列を2つの相貌で見渡す事の重要性などを語る事があると思うので、重増一度進行に於ける♯9thというのは更に応用の利く解釈なのだと覚えておいていただければ之幸いです。

 更に付言すれば、ジャズ界隈での重増一度進行の多くは「♯9→♭9」という風に、ドミナント7thコード上で下行形として用いられる事が多い物でもあります。私が前回の記事にてドナルド・フェイゲンの「Maxine」を例示して、譜例動画中で態々音価の短い部分にもalt表記では逃げずに「D7(♯9、♭13)→D7(♭9、♭13)」と明示したのは、こうした重増一度進行を語るにあたっての重要な示唆であったが故の狙いなのであります。alt表記で看過する様な事だけは避けて語る必要があったので、このような配慮をした結果のコード表記なのであります。

 話題を戻しますが、和音進行そのものは根音の距離(音程)がセスクイトーン・ケーデンスとして表わしているのに、ディミニッシュト・メジャー7thの側は同一コードが全音音程でパラレル・モーションしている事にもなるので、非常にマジカルめいた短三度音程と長二度音程のパラレル・モーションが併存するかの様な状況を見る事になる訳です。重増一度進行を忍ばせただけ、でこうしたマジカルめいたアプローチが可能という訳です。

Gsharp-DimM7-2.jpg


 属和音本体ではセスクイトーン・ケーデンスであり、属和音の根音を省略して見ればディミニッシュト・メジャー7thの全音音程のパラレル・モーションにもなる、と。汎調性(=メタ・トーナリティー)としてのクロマティシズムとしてこれほどの材料はなかなか魅力的だと思われます。

 尚余談ではありますが、セスクイトーン・ケーデンス(進行)は、1.5全音進行みなし短三度進行であるので、六度進行(六度転調)のひとつにも括られる物になります。六度進行および六度転調というのは六度の上行&下行だけでなく、その音程の転回である三度の上行&下行も同様にある訳で、長・短六度と長・短三度の上行&下行の音程または調域への進行(転調)という体系のひとつという事も視野に入れる事ができる訳ですが、属和音の因果関係を醸し易いコード(=ディミニッシュト・メジャー7th)を用い乍ら多義的にアプローチを採るという事は、ブルースに於けるドミナント7thコードのドミナント・モーションを起こさぬブルース進行のそれに当て嵌めやすい状況を作り出すので、寧ろ積極的に活用し得る例でもあるのです。

 ジャズよりも原調の余薫を色濃く発揮するブルースの音楽観というのはジャズよりも使い易いでしょうし、寧ろこうした側面から音楽観を強化できるとするならば絶好の手段でもあります。処が大抵のブルースが卑近な薫りに甘受してしまいがちなのは、和音の使い方が卑近であると共に、和音に附随する線の採り方も卑近である為、原調の余薫が甚だしく残るだけの線にしかならず、クロマティシズムがなかなか出て来ないのであります。ブルースから無尽蔵にクロマティシズムが生じたのがジャズの世界であるのですから、こうしたステップにてジャズの世界ですらもなかなか用いる事のないアプローチを採るのですから、原調の薫りと共に豊かなフレージングを生み出す事になると私は信じて已みません。


 7小節目の5/4拍子に変わる部分はコード進行を細かく充てて表記しております。然し乍らコード表記から見えて来るそれは、明示的には和音の「機能」が移り変わる様には進行しておらず、Dm7(on G)ではイ短調域でのⅣ/♭Ⅶであり、後続のC7(on E)はⅢ度ベースで後続へのF音を期待するも、その実F音は後続のC7での本位十一度としてすり替わりC7(11)/Gとなっているので、機能和声社会から見れば機能的に踏み躙っている世界観であります。そして唐突なほどに「E(on G♯)」というⅢ度ベースが結果的にイ短調のⅤを仄めかして8小節目のAm9に帰着するという風になっているので、7小節目冒頭はイ短調を叛いて暈滃していた響きである物の、巧妙に仮定のコード進行は機能を暈滃師乍らいつの間にか調性ベッタリ感とも形容し得る世界観に行き着くという訳です。

 8〜9小節目でのAm9という調性の薫りが強い状況の後続の10小節目でのF△9というのも、短調のサブメディアント和音(♭Ⅵ)なので、調性感は強く維持されているという状況になります。この、現状の強い調性感を引き立てる為に、ディミニッシュト・メジャー7thの二義性を孕む世界観が用意されていたのかもしれません。

 11小節目前半は先行小節のF△9を引き継いでおり、そしてE7に進行します。処がこのE7はドミナント・モーションとしては機能せずに後続和音となる12小節目で偽終止進行となります。結果的にはⅤ7→Ⅳ/♭Ⅶという状況で「Dm7(on G)」になる「筈」でありますが、この「Dm7/G」はイ短調でのⅣ/♭Ⅶではなく、共通音として振舞っていてスルリと転調しているのです。それを示唆するのがベース・パートが忍ばせるB♭音なのであります。これが忍ばされている以上結果的にはDmというキーに於ける「Ⅰm/Ⅳ」に転じたのでありまして、2つの調性への両義性がここであらためて顔を出す訳です。


 13小節目で拍子は3/4拍子と一時的に変化するも、コードは堅持されており、ベースも同様にB♭音を忍ばせているおります。

 14小節目冒頭では唐突に「E♭△9」に進行。そして下行セスクイトーン進行でC△9というパラレル・モーションを見せつつ、C△9を係留させつつ上声部では「F♯ミクソリディアン」という「モード on コード」という表記にせざるを得なかった15小節目というのは非常に奇異に映る事でしょう。

 C△9に対してF♯ミクソリディアンをスーパー・インポーズするという事は、ハ長調 or ヘ長調 or ト長調の調域に対してロ長調という調域がぶつかる事を意味します。処がC△9というコード上にて「Bアイオニアン」とやってしまうと、Bアイオニアンの本位十一度=E音が下声部の和音構成音に対してアヴォイドとなる様な矛盾を孕んでしまう事になりかねなません。F♯ミクソリディアンとやればミクソリディアンに対する下主音相当(=F♯ミクソリディアンのフィナリスから数えた短七度音=E音)を明示的にしてくれる為、都合が良い訳です。況してや上声部F♯ミクソリディアンとやればF♯音からの本位十一度=B音もアイオニアンでの本位十一度よりも使いやすい音脈となる事でしょう。そういう訳で、15小節目というのは完全なバイトーナル和音の響きを見せてくれているという訳なのです。


 16小節目では「C△7(on D)」というⅡ度ベースに進みます。上声部が遊びに遊んで、今度は下の方で暈かしに来る訳です。

 17小節目では6/4拍子にチェンジし、最初はAm7(on D)というⅣ度ベース。その次がこれまた奇異な「Bm7 (on C)」という和音が出て来ます。C音を長音階のⅣ度とした時のCリディアン・トータル「C△13(♯11)=C△7(9、♯11、13)」の響きと似る副十三の不完全和音として見立てる事も可能です。そうしてE♭△7に進行して、今回のデモでの終止和音「G♭△7(♯11)」一応シメとさせていただく訳ですが、原曲はもう少し長く続き、本来の終止和音もこれとは異なり非常に耽溺に浸る事のできる極上の響きですので、原曲をじっくりとお楽しみいただければと思います。


 尚、セクションの2ndアルバム『Forward Motion』は、国内で2回CDリリースされております。最初はVIVIDからVSCD2146(※Wounded Bird Records WOU-2714の国内用品番)で、金澤寿和氏に依るライナーが収められており、もう一つは2015年辺りでしたでしょうか。ワーナー・ミュージック・ジャパンよりフュージョン・ベスト・コレクション1000第3弾にてWPCR28122という物です。こちらの後者では一応は「日本初CD化」と謳ってはおりますが、VIVIDがメジャー・レーベルではない為このような扱いであるだけであり、実際は2度目のリリースとなります。

 加えて、後発のワーナー盤は24bitデジタル・リマスタリングを謳っているだけあり、音の良さは際立っておりまして、これはセクションの1stアルバムのリマスターでも同様なのですが、後発の24bitリマスタリングでは、嘗てCD化されていた音では隠れていた音や定位のクッキリとした音像に驚かされる物で、是非とも後発を手に入れて欲しいと思わんばかり。

 惜しむらくは、セクションの3rdアルバムは数年前にVIVIDから紙ジャケ再発がされてはいるものの、リマスタリングは施されていないので、初CD化の時と同様なので、是非とも新たに24bitリマスタリングを施した3rdアルバムを聴きたい所ではあります。そんな訳で、近い内にセクションの3rdアルバム収録の楽曲についても語る予定でありまして、その際はスクラー御大のプレイ面についても縷述する事になるのでお楽しみに。