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付点16分音符と付点8分5連符を平然とやってのけるジェントル・ジャイアント [楽理]

 プログレ界の雄、超絶的な演奏力を具備したジェントル・ジャイアント(以下GG)の話題を語る事に。記事タイトルにもある通り、今回はアルバム『Free Hand』収録の同名曲「Free Hand」のブリッジ部に用いられる付点16分音符と付点8分5連を駆使したブレイクを詳密に語る所でありますが、実にタイムリーな話題として耳に飛び込んで来たので先ずはレコメンドをする事にいたしましょう。

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 来たる2021年7月にはスティーヴン・ウィルソン・リミックス版の『Free Hand』が発売されるとの事。再結成もなくブート盤駆逐の為に数多のライヴ音源をリリースして来たGGもいよいよ万策尽きたか!? などとは微塵も思わせる事なく精力的にリリースされており、先般もCD30枚組ボックスがリリースされた事は記憶に新しい所であります。

 ケリー・ミネアーの作曲能力はさること乍ら演奏能力が極めて高いバンドであった為に、聴き手の音楽的素養が高まる事で新たな発見が為されるという事も多いGGなので、月日が経過しても再認識させられる点が多いのでありましょう。故に音楽家からも憧憬の的となりプログレ界の手本となる訳ですね。

 演奏面に於てどれほど突出していた能力だったのか!? という事は、本記事を読み終えた時にはあらためてお判りいただけるかと思いますが、それほどまでに高い演奏力を具備していたという点に関しては、単に私がGGを肩入れしているという単純な理由なのではなく、本当に素晴らしい演奏能力を有しているが故の解説となるので、まあ後述するブレイクの部分には度肝を抜かれていただきたいと思います(笑)。

 今回、GGのブレイクを語る点に於て備えておきたい前提として、リズム構造の5 against 3というのは相性の良いメトリック(拍節)構造だよね、という事です。つまり、3というリズムに對して5を充てるという状況の事を意味するので、例えば1拍3連符の所に1拍5連符を充ててみたり、あるいは付点8分音符(=八分音符×3)に対して付点8分5連に砕いてみたりなど、3と5という双方のリズムの親和性は非常に高い所があるのが実際です。

 《付点8分5連という呼称など聞いた事ねぇよ!》

という方も居られるとは思うのであらためて語っておく事にしましょう。

 一般的な形で目にする連符の構造は「単純音符」を連符として細分化している物です。因みに「音符」とは、「単純音符」とは異なる分類として「付点音符」というカテゴリーがあるという前提をまずは知っていて欲しいと思います。付点が付されていないが故の「単純音符」と「付点音符」との違い、という事です。

 単純音符の連符に遭遇する事が殆どである為、母体としての付点音符を連符にするという状況を知らないというのがこうした疑問を抱える人の特徴です。

 プログレに明るい方ならU・Kの1stアルバム収録の「Presto Vivace」という曲の一連の結句部で付点8分5連が出て来ますが、拍節構造としては付点八分音符というのは通常16分音符×3つのパルスとなっておりますが、茲を '5 against 3' として「3」のパルスの所で「5」を充てた連符となるのです。こうした付点音符を母体とする時の連符鉤内の数値は「5:3」と表すの正統な表記法となります。

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 尚、「付点8分5連」という連音符を「3拍5連」と呼んでも構いません。但し後者の場合、基の歴時を明確にするには「16分3拍5連」とした方が正確な物となります。

 ですので、付点音符を基とした連符も存在するのですが、単純音符を基とする時の書き方とは少々異なる上に一般的には馴染みが薄いという状況が謬見かの様に思わせてしまうのであります。

 本来ならば音楽教育で連符を取扱う際に、単純音符および付点音符の双方を基にする連符が存在するという事をこっぴどく教えないからこそ単純音符の連符ばかりを是としてしまう様な謬見が生まれてしまうのです。

 連符鉤に三重付点を連符比に示しつつの三重付点二分音符19連符とかゾクゾクしちゃいますけれどもね(笑)。

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 扨て、付点音符の連符の存在をあらためて紹介した所でこの機会に取り上げておきたい楽曲があります。先ずはバターリング・トリオのアルバム『Threesome』収録の「Love in Music」という楽曲なのですが、GGの話題に移る前に今一度認識しておいて欲しいバンドでありますので遠回りは続きますが非常に魅力的で重要な事でもあるので語っておかない訳には行きません。

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 この「Love in Music」では付点音符や重付点(※通俗的には「複付点」とも呼ばれますが、私は複付点という呼称は使いません)音符とは更に異なる、複合拍子型の歴時の連符の例を確認する事が出来ます。率直に言うと、楽曲の拍子構造は4/4という単純拍子であるにも拘らず、ビートを形成するドラムのメトリック(拍節)構造は完全に混合拍子型となる16分音符×5つ分のパルスを基に8連符を形成するというものです。

 4/4拍子に於て16分音符×5つ分の歴時は拍頭の跳越、或いはその5つのパルスが現れる箇所に依っては小節線も跨ぐ状況も生じるのですが、この5つのパルスを8等分するという連符ですから非常に厄介な物なのです。

 下記の様に16分音符×5のパルスの8連符を配すると、この譜例の場合1拍目から形成させているので小節線跨ぎは判りづらいかもしれませんが、少なくとも3拍目から付点八分を置いてから混合拍子基準の連符を形成させたり4拍目から形成させた場合は小節線を跨いだ連符が形成されるという事になります。

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 その8連符ですが、私の譜例動画では半分の歴時となる八分音符の連桁での4連符として表しております。

 正当な連符の表記としては基となる音価が単純音符の場合、母数となるパルス数よりも少ない数の連符となる事は避けられる物ですので「3拍2連」という表記は少なくとも倍に細分化させて「3拍4連」という風に基準を捉えるべきものです。

 然し乍ら基となる音符が付点音符の場合は母数のパルス数よりも少ない連符を示す事があります。例えば6/8拍子の様に複合拍子に於ける下拍(=先行する付点四分の歴時)は八分音符×3のパルスですので、この時の「2連符」として、つまり3拍2連という状況が生じる事があります。

 複合拍子が3を基にする分子で形成されるのは、単純音符ではなく付点音符を基とする拍子構造に括られるが故の分類となる訳です。その上で複合拍子および付点音符を基とする連符という状況を念頭に置いていればスムーズに理解できるかと思います。

 扨て、基準となる音価が単純音符であろうと付点音符であろうと連符は母数よりも細かい物だとする所(流儀)も勿論あります。

 唯、付点音符に於てそうした母数よりも数の少ない連符の慣例は幾らでもあり、場合に依っては母数を示さぬ連符〈付点四分2連なのに2連符として表記〉する例として読み手に強制する類の物や、連符という表記すら省略して小節内の音の数=パルス数から察しろという類の表記例などもあったりします。

 特に後者は、単純音符での4/4拍子を基にし乍ら小節内では八分音符の音が6つしか無いのであれば、それは実質2拍3連であるというショパンの「幻想即興曲」の様な例もある物です。




 ショパンの時代ではバロック期の記譜法の折衷も廃れずに用いられた時代であったので、小節内に平滑的に充填される音こそが連音符を同時に示していたと解釈される事もありましたし、況してや「幻想即興曲」に於ける大譜表のそれは左手と右手がそれぞれ異なる拍子構造の折衷として解釈すべきであろうかとも思います。

 それは、右手が4/4拍子としての単純拍子および左手が6/8拍子としての複合拍子として。つまりこれらの併存に依る大譜表という解釈での読み方という物です。

 今回私が示す譜例動画は「5拍4連」として示すものです。単純音符を基とする書き方であれば連符の数は母数よりも多い事が望ましいのですが、私はデヴィッド・コープ流に準えて基の歴時を「半付点」と捉えているのです。つまり半付点四分音符が基という事。

 半付点四分音符というのは、四分音符の歴時に加えて1/4の歴時を加えた付点音符という前提で捉えています。楽譜で表すと次の様に書かれる物です。

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 デヴィッド・コープの半付点のそれは彼の手前勝手な臆断などではなく、バロック期に数多く存在した「付点」という装飾の在り方を現代音楽に持ち込む「異化(ディシミレーション)」に依る物でありましょう。バロック期の記譜ではこうした装飾が確かに存在しておりました。

 とはいえ、半付点という記譜法を、音楽の大前提として敷衍させる必要はないでしょう。少なくとも小中高の音楽教育或いは音楽教育の資格に伴う試験にて半付点を正当化させるまでの必要性はないと個人的には思っております。

 が、しかし。私はそうした半付点の存在を看過する事はしないので、単純音符からではない付点音符からの母数よりも少ない音での連符として示している訳で、それは単純音符を基とする連符ではないという事の注意喚起の意味も併せ持っているのです。

 斯様な理由から私は、単純音符ではない付点音符からの連符は母数よりも少なくとも是認しうる状況として私は敢えて「5拍4連」と書いているという訳です。何も考えずに母数よりも少ない連符を充てて「やっちまった」という状況を直(ひた)隠す為にアレコレ言い訳を並び立てている訳ではないのです。

 凡ゆる状況に配慮して「5拍4連」という、母数よりも小さい連符を是認しうる表記としては下記の譜例の様に表記した方が精度は増すであろうかと思います。

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 上記の譜例は楽譜編集ソフトFinaleでの連符の取扱いにて用意されている機能を用いたもので、母数よりもパルス数の少ない連符を自動的に判別してスウィング比として音価の併記が為される仕様に基づくものです。「4」という母数よりも少ないパルス数は、母数の16分音符の倍の音価での八分音符での「4」という事を示している訳ですので《これは実質8連符ですよー》という事が補足されているという事になります。

 いずれにせよ、母数よりもパルス数の少ない連符表記の例は存在するものでして、例えばブーレーズの 'Le Visage Nuptial' では「5 pour 6」という6拍5連を示す連音符が出て来たりするので参考にしていただければと思います。
 
 作者の意図で大きく左右されてしまう表現法のひとつのそれを音楽教育の面から対照させるには十把一絡げとして取扱う事が到底出来ないので例外は棄却されがちとなりますが、作り手の読み手との間に齟齬の無い様な指示があれば成立しうるものでもあるので例外ばかりを目敏く論ってしまう姿勢はどうかと個人的には思う所です。もっと柔軟に多くの例外を経験する方が音楽的素養は確実に育つからです。

 単純音符からの3連符でも次の様な連桁で書かれている音符に遭遇する方は居られるでしょうが、これらの音符を6連符として捉えて書く事は極めて少ないかと思われます。

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 6連符として書かれる可能性としては、上記の2つ目の連桁での拍頭が八分3連符としてではなく16分6連が1つ来た後に2つ目のパルスに16分6連の休符が来て、その後の4つのパルスを16分3連×4つが充填される様な場合。こういう状況ならば6連符の方が伝わりやすい事でありましょう。

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 という訳で「Love in Music」で私が用いている5拍4連という表記を用いている事に目くじらを立てずに目を通していただければ読みやすかろうと思いますので、譜例動画を併せて確認していただければ之幸いです。




 あらためてバターリング・トリオのリズムの捉え方の凄さを窺い知る事ができるかと思いますが、ドラムのキックに現れる拍節構造で顕著なのは5拍4連ばかりではなく1拍7連符の [2:2:3] というパルス構造も用いているという事がお判りになるかと思います。

 こうした両者の使い分けによって平滑な4/4拍子に強い揺さぶりがかかり、リズムの跛行感が際立つ様になります。またその跛行感がズレそうでズレない感じである事が判るので、単にヨタったリズムではないという事が判る訳ですが、こうした状況を聴き取る様になるにはある程度の音楽的素養は必要になって来ます。

 こうした跛行感は坂本龍一のアルバム『B-2 UNIT』収録の「differencia」の本編部分でも、実際には7/8拍子であるにも拘らず、7拍子を4倍細かい分解能=28拍子/32分音符というメトリック構造で28拍子を4で割っている様にして1小節を聴かせている為、跛行感が現れた4拍子の様に7/8拍子を聴かされているという事は以前にも取り扱った事があるので覚えている方も居られるでしょうが、この機会にあらためて譜例動画の方も紹介しておきます。







 バターリング・トリオで耐性が付きましたら、今度は私がテスト用にアップロードしていた譜例動画を確認していただく事にしましょう。6/8拍子をトコトン謾いた拍節構造なのですが、これはつまり、メトリック構造としての1組である「3」つのパルスを基とする複合拍子(=付点音符を規準)が2組ある事で成立する筈の6/8拍子の姿を一切見せず、3つのパルスの箇所を5で聴かせたりしているギミックなのです。

 こうしたギミックなので6/8拍子が本来有している [タタタ タタタ] という「2」拍子の構造が付点四分5連の2組が見せているだけなので、この5つのメトリック構造を耳にするだけではとてもじゃありませんが6/8拍子を想起する事は難しいでしょう。こうして本来の拍子構造の姿を見せないまま楽曲が成立しているという状況であるのです。




 ドラムセットのパートで見られる3拍5連は付点四分音符5連を示しているのであり、パーカッションのパートの方で見られる6連符や7連符は単純音符からの連符となっているのです。

 つまり、複合拍子である6/8拍子内で「単純拍子」を見ようとするのはヘミオラを採っているという訳です。

 複合拍子と単純拍子での拍節構造を相互に読み換える事がヘミオラやセスクイテルツィアなのですから、複合拍子を基準とした譜例であろうとも単純拍子で書かれたパートの連符を併存している事をも意味しているのです。

 念の為、2←→3がヘミオラで3←→4がセスクイテルツィアですので誤解なき様ご理解のほどを。


 扨て次にスウィング比に関して述べますが、ジャズ/ポピュラー音楽の楽譜で多く見受けられる3連符を基としたスウィング注記などは3連符の2:1がスウィングの代表格として捉えられている物です。

 他方フランスでは、バロック期から既にノート・イネガルの中に5連符の3:2のスウィング比がルレのリズムとして存在していた物で、3と5との間の親和性の高さという物はあらためて窺い知る事ができるという訳です。

 斯様なリズム置換という親和性の高さから、付点八分音符の音価を持つ部分に「5」のパルスを充てて想起するという試みも能く見受ける物です。

 3と5の間の自然数が「4」であるという所から、付点8分音符の音価に「4」を充てて演奏表現のバリエーションを増やす人もいます。ラテン系のリズム解釈として使い分ける人は多い事でしょう。とりわけ3と5の親和性は高いという事だけは言っておきましょう。

 併せて、6/8拍子での8分音符×3つのパルスの所を4連符(または2連符)で採るという、3と5の間にある「4」との親和性とやらも念頭に置いて読み進めていただければ幸いです。ジャズではビル・エヴァンスも能く用いたりします。

 5連符を基にするスウィングも実際には存在するのですが、なぜかそうしたスウィング感の獲得の前に単純な5つのパルスが充填されただけの1拍5連符に於て5つのパルスを総じて鳴らすのは工夫が足りないリズムの捉え方とされる物でもありまして、少なとも下記に例示する様なリズムの捉え方が必要かと思われます。

 下記の1番は5連符のスウィング比3:2構造のもので、ノート・イネガルのルレのリズムでもあります。細野晴臣のアルバム『泰安洋行』収録「蝶々San」での林立夫のプレイがまさにこのリズムであり、甘めのスウィング感として聴く事のできる物です。




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 下記2番は5連符の2:3のスウィング比となる逆付点の型であり、後述するGGの「Free Hand」のブレイクは過程でこのスウィング比が用いられておりますので是非とも注意していただきたいリズム構造です。

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 下記3番は5連符の5つあるパルスの内、2つ目のパルスだけが発音されるリズムであります。古いCMで恐縮ですが、「ふじっこーのおまーーめさん♪」というCM曲での「ふじっこ」の「じ」の部分は5連符の2つ目のパルスが能く現れていた例でした。後年は「ふ」がアウフタクトに採られる物もあった様でしたが。




 まあ、CM曲の制作現場でのそれが単純な16分音符を意識していたとしても、実際の歌の部分は突っ込んで歌われていた事を許容した演出であったのだろうと思います。それが5連符として表現された物であろうと推察します。

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 下記4番のパルス構造は、5連符の2・5番目のパルスが発音する様になっており、非常に人間味のあるアフロ・ラテン系のベース・フレーズなどで遭遇する事があります。但し、こうした演奏の実際が譜例となって遭遇する時には悲しい哉、16分音符の2・4番目のパルス構造として丸め込まれて表される事も多く、グルーヴの実際と楽譜の表記のズレが「許容すべき表記の揺れ」かの様に解釈される事も多いタイプのものです。

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 下記5番のパルス構造は「そこんトコ」「知らんがな」かの様に言葉を当て嵌めれば納得していただける類のリズムであり、5連符の中抜きの構造となります。際立つのが1・2番目或いは4・5番目のパルスですから、5連符の中でも非常に掴みやすい類のリズム構造であろうかと思います。3連符からの当て嵌めで最も充てやすく融通の利くリズムになろうかと思います。

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 下記6番のパルス構造は5連符の4:1というスウィング比になっており、3:2のルレと比較してもかなり深くて重い引き摺る様なグルーヴ感が出るスウィング比でもあります。

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 余談ではありますが藤井風の「何なんw」のドラムのキックのスウィング比は上記のスウィング比よりも更に深く、1拍7連の6:1のスウィング比を採り入れております。

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 斯様な7連符6:1のスウィング比は韓国アイドル・グループLovelyzが唄う「Rapunzel」では採り入れられていたり、他にもコーニャ・ドスのアルバム『VII』収録の「Gone」で5連符と7連符を巧みに駆使したグルーヴを採り入れていたりしていた事を過去のブログ記事でも語った事がありました。







 という訳でGG本編を語る前振りとして色々な楽曲の例を取り上げ乍ら連符を語って来ましたが、重要な前提としてあらためて理解して欲しい点は当該連符が単純音符 or 付点音符のどちらを基にしている物なのか!? という峻別を楽譜の読み手はきちんと理解する必要があるという事です。

 茲でGGの「Free Hand」の楽曲中盤にあるブレイク部分の解説となりますが、この中盤部分は従前の4/4を6/4拍子に変えて楽曲に揺さぶりをかけるアレンジを施しております。

 パッと聴きでは6拍子のそれを3/4拍子の様に聴いてしまうかもしれませんが、過程で生じているベースやキーボードの拍節構造を勘案すると、それらがあらためて6拍子である事が判ります。

 確かに、ギターとベースのオクターヴ・ユニゾンでのフレーズは3拍子フレーズの2組で6拍子を成立させている様に聴こえるので、これを3/4拍子×2と採っても問題が無さそうに思えるかもしれませんが、従前の4/4拍子からこうして推移している状況は、4/4+2/4拍子という状況を「3」で跳越していると想起する方がその後のギミックでの拍節構造の処理を勘案してもベターであると思える訳です。

 無論、ギターおよびベース単体でフレーズを拔萃して見れば、それは3拍子フレーズに間違いはありませんが。拍子を決定づけるまでのメトリック構造ではない、という事です。

 6/4拍子は楽譜の上では音符が充填されやすい状況となるので、音符が犇めき合って読みづらくなるかもしれません。唯、小節線がなかなか現れない事で音符の連桁から類推される拍節構造に敏感になる為、4拍子と2拍子の拍子感や4拍子で1拍子毎に拍を追うかの様に各拍を踏みしめる様な拍節感が消失して、フレーズが持っている独自の拍節感にそぐう流れを得られる様になるかと思います。

 6/4拍子に対して仮想的に最小のパルス構造を充ててみる事にしましょう。最小とするパルスは32分音符です。

 32分音符は単純音符である四分音符1つに対して8つのパルスを持っています。それが6拍子あれば「8×6=48」という事で、6拍子の中に「48」個のパルスを想起してみましょう。

 48という数字は高度合成数のひとつなので、当然の様に約数の数を多く持つ数字となります。つまるところ、48個のパルスを4で割って見れば、ひとつの拍節構造あたり「12」を見る事ができる訳ですから、12個のパルスを1組とした拍節構造を作れば、従前の6拍子よりもテンポが遅くなった4拍子で12連符を聴くかの様にも聴かせる事が出来る訳です。

 同様に「8拍子」の様に聴かせる事も可能な訳です。この場合、従前の6拍子よりもテンポが速くなった上で6連符が際立つ様に聴こえるという訳です。こうした拍節構造のギミックは色々な音楽で見受けられる物です。

 更に一例を挙げますが、28個のパルスを用意した場合。これを「7」で割れば4拍子が見えて来て1拍子あたり7連符という構造として耳にする事が出来る一方で、これとは別の声部が28個のパルスを「4」で割って7拍子を見ている様に演奏すれば、互いの声部は錯綜しあったポリリズムを生じます。

 そうした28個のパルスを用意した小節とは別に、「複合拍子」での12+15/16拍子という混合拍子を想起する事にしてみましょう。複合拍子を基にした拍子ですので茲での16分音符のパルスは付点8分=16分音符×3の歴時が1拍と見做されます。つまり、12+15/16拍子は実質的にはシャッフルでの「4+5/4」拍子として聴く事が可能ともなります。

 12+15/16拍子というパルス構造を俯瞰すれば合計「27」個であり、28個のパルスの近傍となるもので、27個と28個のパルスを互いに交代させて拍子を形成させた上で16分音符の拍節構造の連なりを「4」「7」で明示し乍ら「シャッフル状に聴こえる12+15/16拍子」上で強行すれば、非常に錯綜し合ったリズム構造を耳にする事が出来る事でしょう。

 公倍数と高度合成数を見出す事に依って音楽の拍節構造や拍子に対して揺さぶりを与える事が可能になるという音楽的な見渡しを前提知識に持っていれば、捉えにくいリズムのギミックにも対応できる事でしょう。何もプログレを耳にするだけではなくトルコ音楽ではこうした状況は常に起きているのが普通の状況でありますし、そうした所をヒントにアクサクのリズムを採り入れ乍ら複雑怪奇な混合拍子を用いるフランク・ザッパなど好例のひとつでありましょう。

 GGというバンドもそうしたギミックは多用しており、特に拍子構造としてパルス数が多くなる楽曲では特にGGの高度なギミックは見られる物です。今回取り上げる「Free Hand」は固よりアルバム『ガラスの家』収録の「Experience」なども好例のひとつでありましょう。

 その「Experience」の拍子構造は複合拍子をメインとする「12+15/16拍子」ですので、1拍を付点8分で採る形式なので実質的に「4+5拍子」という混合拍子の型で耳にする事ができるのですが、16分音符のパルスに対して「3」という拍子構造に対してイントロ冒頭から入るキーボード(オリジナル・アルバムはオルガン)は「2」を基とする拍節構造で強行する為、なかなか「4+5拍子」の構造が見えて来ないというギミックで楽曲が構成されております。

 実質的には「3」で採るべき所を「4」で採るキーボードのフレーズなので、これはセスクイテルツィアという事になります。

 楽曲中盤では複合拍子として採らずに単純拍子の4/4拍子に戻しつつ、この4拍子上の16分音符にスウィング感を与えたメトリック・モジュレーションが施されています。

 4+5という拍子構造が掴める様になる頃は、長尺曲の終盤となる頃でありましょう(笑)。




 扨て、GGの「Free Hand」のブレイクでのギミックの凄さは単純拍子と複合拍子の読み替えに伴う拍節構造の変化で生じる所の新たなる連音符の形成、という事を結論に挙げる事が出来ます。

 先述の様に、単純拍子と複合拍子の読み替えはヘミオラに括る事ができます。更に細かく言えば3←→4との相互の読み替えなので、前述の様にセスクイテルツィアという呼び方の方がより適切となる訳です。

 ヘミオラという状況すらピンと来ない方が居られるのも悲しい事実ではありますが、単純拍子と複合拍子の読み替えで生ずるヘミオラという拍節構造の捉え方の違いは極めて重要なリズム概念ですので、最近では楽典にも補足される様になった物で、あらためてその重要性がお判りいただけるかと思います。

 ヘミオラのそれが能く判る例として私はドナルド・フェイゲンのソロ・アルバム『The Nightfly』収録の「Maxine」のイントロを挙げますが、ご存知の通り「Maxine」の本編は6/8拍子という「複合」拍子がメインとなる拍子構造です。つまり、八分音符×3つのパルスが「1拍」という概念で構成されている訳です。







 このパルス構造=八分音符×3つは単純音符の歴時で表す事が出来ず付点音符で表さざるを得ない為「複合拍子」という風に分類される拍子体系であるのです。

 然し乍ら「Maxine」のイントロ冒頭3小節のグレッグ・フィリンゲインズ奏するアコースティック・ピアノのフレーズはハチロクとしては聴こえず3拍子に聴こえる筈です。これこそがヘミオラなのです。

 3/4拍子と思わせておいて4小節目から6/8拍子に変えた。この状況は、単純拍子から複合拍子へ読み替えたという風に分析しなくてはならない物なのです。

 こうした単純拍子と複合拍子の読替えが「Free Hand」のブレイクでも起こる訳です。元は単純拍子での6拍子(=四分音符×6)なのですから、これを複合拍子に読み替えるという事は、何らかの拍節構造が付点音符を基とする物として読み替えられて辻褄を合わせるという事となります。

 ブレイクが開始されるのは6/4拍子に拍子を変えて歌われる下記の部分であり、

Now my hands are free from the ties, from the ties.
Now I look forward to the future, where it lies.
And with you, feeling low, looking black
Here, now my head is clear, why should I look back.

Here, now my head is clear, why should I look back.

この後に現れる6/4拍子のブリッジ過程にて現れます。

 譜例動画で拔萃した部分はオリジナルのCDタイム2:16〜辺りの所からの物で、6/4拍子フレーズが1小節呈示された後の2小節目は4/6拍子から16分音符×1つ分のパルスだけが不足した歴時となる5/4+3/16拍子が示される事になります。







 これはGGの奏するブレイクの拍節構造と拍子構造を勘案したが故の解釈でありまして、割愛した16分音符×1つ分のパルスは後の4/4拍子に復帰する直前のキーボードのアウフタクトのリフ直前で補完される様に施されております。

 特徴的なブレイクが現れる直前に16分音符×1つ分のパルスが割愛されてブレイクが始まるのは何もその様に表して楽譜上で拍節構造が判り易くなるという物ではなくて、6/4拍子から拔萃されて本来なら6/4拍子の6拍目として生ずる拍が四分音符の単純音符から付点八分の付点音符に変わる事で実質的最後の拍は単純拍子から複合拍子へ変更する事となった訳です。

 複合拍子にへと変化したという事は、小節での「拍」という基準は付点音符が規準となります。つまり、次の小節で明示される「12/8+1/16」拍子での「12/8」は「付点四分音符×4+16分音符」という規準で拍が示される事になるという訳です。

 楽典の基礎の基礎ではありますが、複合拍子で示される拍子記号の分子は単純拍子の時の拍子の表記とは微妙に異なり、単に「最小のパルス」を示す意味となります。

 6/8拍子という拍子記号が示している分子は、その拍子が「複合拍子」としての表記であるならば(※複合拍子として表記する必要がないのならば3/4拍子でも構わない訳ではあるが4/8+2/8という状況で拍子を示したいならば6/8拍子と表記しても連桁は4:2にすべきではある)、下拍=付点四分音符+上拍=付点四分音符という「2拍」として6/8拍子は機能するのであります。

 《拍子記号の分子は「6」を示しているのだから6拍子なんじゃないの!? なんで6/8拍子は(=それが複合拍子としての前提ならば)2拍子系に括られるの?》

という疑問を抱かれる方は少なくありません。斯様なリズムの楽典を学ぶ際の初学者にとても多い疑問点でもあります。

 何はともあれ6/8拍子は2拍子系であるというのが大前提なのであります。

 なぜなら我々人間が「3」というパルスを耳にした時、それがゆっくりなテンポの時はそれが明確に「3拍子」として聴こえるのですが、3拍子のテンポが速まると人間の心理状況は3つのパルス1組を「1拍子」と捉える所に起因するのが単純拍子と複合拍子の根本的な由来の違いであるからなのです。

 ですので12/8拍子も複合拍子としての「付点四分音符×4」という拍節構造が規準となるという訳です。

 扨て、GGは12/8拍子という複合拍子に於てもおいそれとは「3つの拍節」構造を素直に奏する事はしません。テンポはこの辺りだと四分音符=115〜116をキープして来ていたのでありますが、従前の6拍子とてギターとベースとのオクターヴ・ユニゾンのリフは実質的に3拍子フレーズなのでありまして、この3拍子フレーズを「3拍8連」として捉えられるかの様な前振りとして機能させつつ、後の複合拍子(=12/8+1/16拍子)に移るという事なのです。

 扨て「前振り」とは何か!? このキッカケがあるからこそ彼らにとっては演奏し易くなるのであろうと思いますので詳しく解説する事にしましょう。

 3拍8連という「概念」に出逢った方はどれくらいおられるでしょうか!? それはテンポがゆっくりな時よりもテンポが速めの時の方が私は演奏しやすいと私自身は感じております。

 茲での3拍8連というのは四分音符の3拍分の歴時が8連符となっている状況を示す物ですが、別の形で呼ぶならばそれは「付点四分8連」でもある訳です。「○拍△連」という呼び方は、その「拍」自体はどんな音符を基とする状況でも使われる物なのでその辺りは注意をしていてほしい点であります

 扨て、3拍8連という音符というのは態々8連符という連音符で示す必要なく「付点音符」で示す事が出来る物ではあります。但し、付点音符のそれぞれが付点16分音符という構造になる為、32分音符を視野に入れたパルス構造となる事で、基となる細かいパルスが楽譜を読みにくくさせてしまう場合があるのです。

 無論、楽譜表記というものは多様な世界ですので、多くの表記の流儀に馴れる事で器楽的習熟はグンと高まる物なので、自身の読みやすい楽譜ばかりを追ってしまうと演奏の幅が狭まり技術向上の足枷ともなりかねないのが世の常でもあります。

 唯、私の知る限りでは下記の様な付点16分音符を8つ充填させた楽譜よりも3拍8連として示した方がバンド・アンサンブルでは往々にして捉えられやすい物と自負しております。

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 これらの表記のどちらにも馴れてしまえば、どちらか一方の表記しか受け付けないという偏った考えには陥らなくなります。そういう意味でも得手不得手をなるべく持たない読譜力を身に付ける事が肝要であるのですが、私の経験則で言えば上記の3拍8連を示す音符は圧倒的に付点16分音符ではない方が伝わりやすく実演の方も問題が少なくなります。

 唯、問題が少ないからといって凡ゆる状況で3拍8連という表記に於て付点16分を避ける判断は好ましくありません。なぜなら付点16分音符で表記する側のメリットというのは、複合拍子での拍節構造が楽譜上で見えて来るからであります。

 単なる連音符だと、3拍を8つで割る複合拍子の拍節感を見えなくさせてしまうという訳です。

 3拍8連という状況に初めて遭遇する人が克服する為には少なくと3拍を4つに割った(※この時点で実質的には16分音符×3が4組あるという非常に簡単な拍節構造である事に気付かれるでしょう)上で4を8に細分化するという作業が最も手っ取り早い克服法であろうかと思います。その際、元の3拍がゆっくり過ぎてしまうと4への分割と捉えるのがやりづらくなる訳です。

 そういう意味でもGGのブレイクでの12/8拍子までのテンポというのはゆっくり過ぎない拍節構造の呈示としての「前振り」であるという事があらためて判ります。

 という訳で本題である「12/8+1/16拍子」の部分について語る事にしますが、付点16分音符が連桁で繋がっており、それら付点16分音符×8組が四分音符の3拍分となるので、それはつまり3拍8連に等しい物となっている事がお判りになろうかと思います。

 付点16分音符はそれら4組が1セットの連桁となっており、複合拍子の側から見ればその「1組」は付点四分音符=八分音符×3の歴時である事があらためて理解が出来るかと思います。つまる所「3」を「4」で割っている事と同様でもあるのです。

 然し乍ら、1組の連桁の弱勢となる付点16分音符の3・4音目となる箇所は、付点16分音符が2音現れるのではなく、5連符の逆付点型である [2:3] のスウィング比として揺さぶりがかけられている状況となっており、つまりこれは付点八分5連の [2:3] であるという事がお判りになろうかと思います。

 GGの演奏力の凄さは、こうした奇妙奇天烈なリズムを平然とやってのけていて、それが実際に音の違いとしても認識できる所にあります。

 楽譜が苦手な人の為に、四分音符=960ティックというシーケンサーで馴染み深い数値で、当該ブレイク部分のデュレーションの値がどうなっているのか!? という状況を次のリズム譜にて付記されているのであらためて確認していただこうと思います。付点8分5連の3:2というスウィング比のデュレーションが数値の上では僅かな違いではあっても、これほど違いとして知覚する事ができるという訳です。

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 器楽的習熟力の浅い場合だとこうしたリズムを読み解くのは難しいかもしれません。唯、GGのみならず巧みな演奏が楽譜でどのようになっているのか!? という事を知る事で技術向上を見込む事が出来るのです。それは読譜力に加え演奏能力の技術向上に直結する物なので極めて重要な理解だという事が言えるのです。

 尚、譜面上での付点16分音符に付されているアーティキュレーションはメゾスタッカートですので、「やや短め」に各音を奏するという事を意味する事になります。付点16分音符をテヌートで、という訳ではないのです。それが演奏からも判るからこそ斯様な表記にせざるを得ないという訳で、私の臆断で仰々しい譜面している訳ではありません。その辺りはご容赦願いたいと思います。

 加えてこれらの演奏が心憎いのは、付点八分5連をわざと叛いて16分音符+8分音符にへと「平滑」な処理を施している所が、直後の音形となる拍子変更の示唆に加えて微妙な乙張りを与えているという所です。下手な演奏ならばこの乙張りなど出ない訳ですから、こうした違いが如実に現れるのですからあらためてGGの演奏力の凄さは舌を巻くレベルである事が窺い知れるというものです。

 そうして、前小節から割愛されていた16分音符×1つ分のパルスが1/16拍子として添加され、小節を俯瞰した時には何の齟齬もなく単純音符としての四分音符の連なりとして辻褄が合っているという事に収束して4/4拍子へ変じるという訳ですから、これらのギミックには畏怖の念を抱いて已まない所であります。

 数多あるプログレ界でも、茲までリズムを追究していたバンドはそうそう無いでしょう。GGというバンドが年月を経た今猶再認識されて高い評価を得ているのが判ります。

 そういう事で、今回のブログ記事で語りたかった点を縷々述べて参りましたが、単純拍子・複合拍子および連音符のそれらが、基礎的な楽典では語られる事のない側面を詳悉に語ったつもりですので、参考にしていただければ之幸いです。まあ、いずれにしてもGGの凄さが伝われば先ずはそれで好いのかな、と。その後で凄さの部分を細かく追究してもらえればと思います。

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