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近年の5連符&7連符 [楽理]

 今回は趣向を変えて、タイトル通り近年ではかなり方法論としてポピュラーになりつつある5連符と7連符のリズム活用例について語ろうかと思います。以前にも細野晴臣のソロ・アルバム『泰安洋行』収録の「蝶々San」での林立夫に依るずんぐりとした5連符のリズムをはじめとし乍ら幾つかの記事にて取り上げた事もありましたが、今回は新たなる側面から照らし合わせて語る事に。


 5連符という5つのパルスを1拍に充填したリズムを取るのは容易な事であります。特にそれがピアノであれば片手の全ての指での平滑な連続運動で繰り返す事が可能なので非常に楽な事でありましょう。処が、1拍5連の2つ目のパルスのタイミングとか、1拍5連のケツという風に指示された時にそれを意識するのは難しく感ずる事でありましょう。

 他の例でも、5連符は3連符とも相性が好いので異なる楽器パートでポリメトリックとしてそれぞれが異なる拍節構造で弾いても非常に相性が良くまとまります。例えばハモンド・オルガンでブルージィーなプレイに於て左手で3連のスウィングを刻み乍ら右手で5連符を弾いたりなど、3連符を倍加する6連符の方がリズムを取りやすかろうと思われるでしょうが、5連符と3連符は実に相性が良い物です。

 また、5連符のケツのアクセントとなれば非常に深い「付点音符」の感じを得る事も出来るのでありまして、フランスでのバロック期から体系化されているノート・イネガルの「ルレ」のリズムは、5連符の2:3構造を標榜するリズムでもあるという事は過去にも語った通りです。

 他にも7連符の3:4構造のスウィング感というのはバックビートがシャッフルよりも平滑な状況での「訛り感」として演出しやすい物でもあり、譜面では八分音符の歴時として均されて書かれてしまってはいても、実際の演奏がそうした符割を標榜すると思われる演奏にお目にかかるのは決して少なくありません。

 特に近年では7連符の5:2構造のスウィングを多く耳にする様になりました。特に私がレコメンドしたいのがコーニャ・ドスの7thアルバム『Seven-VII』は必聴でありましょう。

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 当該アルバム収録「Gone」には私自身、脳幹ブチ抜かれる程の衝撃を受けた物でしたが、この曲のカウベルを聴いただけでも素晴らしいグルーヴを実現しております。

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 カウベルのピッチも実際には微分音で、Aセミクォーターナチュラル(=1単位八分音)で奏されているのは衝撃的です。これについては過去に私もTwitterで呟いていたのですが、セスクイフラット記号がハートマークを模している様にも見える為、愛情表現の暗喩として用いているのであろうとも思われます。私の初稿時の採譜ミスにより、フラット記号×1とセミセスクイフラット記号(セスクイフラット記号に下向→が附与された5単位八分音記号)を用いて、トリプルフラット記号に似た3ツ瘤型で9単位八分音で表そうとしたものの、それがいつの間にかセスクイフラットを充てたままで本文も訂正せぬまま「セスクイフラット」としてしまっており誤解を招いてしまいました。訂正後は過大音程を採らずに [a] より25セント低い1単位八分音として表す事にしました。
(※2020年9月26日訂正済)



 また、K-POPアイドル・ユニットであるLovelyzの楽曲に「Rapunzel」という曲がありますが、これも本テーマ部分のビートは7連符5:2割りのハード・スウィングでプレイされており、非常に素晴らしいビートを聴かせている例でありましょう。




 ジェイコブ・コリアーが2018年のムジークメッセにてヤマハのブースを訪れた際のYouTube動画での当該埋込箇所から始まるプレイは、次の私の過去のツイートを参考にしていただきたいのですが、これも明確な5連符でのQuintuplet-groove(クインテュプレット・グルーヴ)であるという訳です。








 ジェイコブ・コリアーの盟友であるジューン・リー氏に依る採譜での譜例動画で、あらためて彼等のエクリチュールの高さを確認できる物ですが、本曲「Here Comes the Sun」の5連符も圧巻です。




 7連符グルーヴ=セプテュプレット・グルーヴとして紹介しておきたいのが、こちらのJosh Merhar
氏に依る7/16拍子として還元し得る例。シンプルなリフでありつつも例示されるバリエーションが豊富なのでこれらをヒントに、4/4拍子のフェイク・ビートとしてスーパーインポーズさせても面白いでしょう。




 5連符と7連符の様な拍節感が唐突に聴衆の耳に届くというやり方ではなく、どの様な拍節感の近傍から親和性があるか!? という側面からのヒントになるのが、アラン・ゴウエンに依るギルガメッシュ1stアルバムでの「One End More」でのシンセ・リードの演奏が参考になる事でありましょう。

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 こうしたグルーヴはまだまだ新鮮であり、手垢の付きまくった卑近な演奏ではないので多くの可能性も秘めている物です。一旦体得してしまえば認識は容易になって来るので、これらの演奏から得られる物は非常に多いのではないかと私は信じて已みません。