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テンポに埋没されないグルーヴ感 [楽理]

 前回のブログ記事で私の意図する所であった、トム・シューマンの「To B.E.」を例示しつつ曲中に用いられる連符を堪能していただきたかった理由には、大抵の人が体得しておられる連符が3連符とその整数倍に細分化する位の物に過ぎず他の多様な連符《特に素数の連符》を体得しておられる方となると意外にも少ないという点に一石を投じたい、という所にあります。然もそれが音を連ねて埋め尽くしてしまう類のタイム感しか体得していない人が多いものだから、殊に5連符とか遭遇すると──こんな事は誰でも出来ますが──5つのパルスを一挙に連ねて奏してみたり、ノート・イネガルのルレ(2:3の5連符)やら逆付点型のルレ(3:2の5連符)、果ては中抜き型の5連符や1:4 or 4:1型の5連符のリズムなどは理解の外として扱う事も少なくない事でありましょう。


 嘗て私のブログでも5連符はこっぴどく扱ったつもりです。その時の4:1 or 1:4型の5連符は敢えて載せなかった理由は、5連符から生ずる細かなリズム感の体得が更に重要となるからで、特に5つのパルスに隙間を生ずる感覚を養って行く4:1や1:4の5連符の型となるとリズムに言葉を充てる際などはそのシラブルが2文字になってしまう為「5」という数字から程遠い2つのシラブルが生ずるリズムをもレコメンドするのは唐突だろうと感じたからに他ありません。リズム的側面から判断した場合、5連符に対して5つのシラブルを充てて5つのパルスを明確に体得した次の段階で「こんばんは」「アンダンテ」「てんてつき」「しまねけん」などの語句の嵌当の方が明らかにスムーズに理解できるだろうという配慮もあっての事です。

 巷間能く云われている事で、5連符の練習に「イケブクロ」を充てるというのがありますが、リズム練習に「ラ行」の音を充てるのは絶対避けなければならないので止めておいた方がイイですね。何故なら、ラ行の音というのはミクロ的に見れば連音化している為に実際には装飾音符と実音の様に奏されてしまう訳ですね。すると「イケブクロ」の「ロ」のアタマが僅かにズレてしまう。バルトークの『ミクロコスモス 演奏と解釈』(春秋社刊)を上梓していらっしゃる山崎孝さんは「カキツバタ」と載せているのですが、やはりその言葉の確かな「クリック音」には、歯切れの良い上等なメトロノームに遭遇した様な感動すら覚えてしまう物で、先人のこうした含蓄の有る言葉には傾聴しなくてはなりませんね。それでも猶そうしたリズム練習での言葉の嵌当に於てラ行を慫慂するという人はおそらく、自身の立場を維持する為に後に続く人達に覆轍を踏ませる目的で強弁されているとしか思えませんね(嗤)。


 扨て横道に逸れてしまいましたが、ある拍節が素数で分割されていくという事は他のどのリズムの倍数にも合致しない特有のリズムが生ずる訳ですから、5連符が6連符や9連符よりも遥かに「粗い」リズムだからといって、まるで速さを追究するだけの様にしてまで軽んじる必要は無いのです。3連符を6連符や9連符と細分化する事で得られる細かなリズムの見渡しで得られる世界観と、5連符の持つそれは素数である為どれにも埋没する事の無い世界観は全く別物であります。然も5連符というのは3連符との親和性が非常に高いので、3でノッていた所を5でノッてみるという置換が非常にスムーズに行える物でもあります。とはいえ3連符には決して無いリズムが現れる訳です。

 素数倍させて細分化させるなら11連符や13連符なども視野に入るかもしれませんが、グルーヴの体得といった場合は7連符位が限界ではないかと思います。単純に音数の多さだけを競ってそれが天井知らずに音が増えて行ったというのならいざ知らず、グルーヴもかねたリズムの習得となると7連符や5連符を徹底的に習得するのが良い手段だと私の経験上ではその様に思います。


 7連符よりも低次の5連符の体得とやらに、1拍5連だけで満足してはいけないのです。2拍5連は勿論の事、付点8分音符という16分音符3つ分のパルスを5連符にしてみたりとか、こういう所を体得していかなくてはならないのです。

 以前にも私がUKの1stソロ・アルバムにも収録の「Presto Vivace」にて付点8分5連を載せた時がありますが、アレも付点8分を5分割している5連符だからこそ表記が「5:3」と連符鈎に記していた訳ですね。

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 1拍3連符の2つのパルスを更に3つに連符にした連符内連符とかは例えば、1拍3連符の2つのパルスを3:2の5連符でリズムをずんぐりと「訛り」を付けてみたりとか、そうした魅力がある訳です。


 次の譜例に見られる「2〜4番」を夫々解説すると、「2番」は連符内連符でして、基の3連符の2つ分のバルスを5つで割っている訳です。それが単純な5連符ではなく「3:2」型の5連符を基の2でノる、という物です。
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 「3番」は付点八分3拍4連符です。つまり16分音符3つ分のパルス(=付点八分音符)に対してもう1つの16分音符が付いて1拍という体を保っている物です。

 「4番」は、これも連符内連符ですが基が2拍5連です。その2拍5連の2つ分のパルスである「2・3つ目」の音を3連符にしている訳ですね。

 通常こうしたリズムの体得はテンポを遅くして体得して行く事が肝要ですが、何れも「ずんぐり」とした感じになり、リズムは「訛った」感じが演出されるのですが、他の部分のリズムがきっちり整っていない場合は外れ加減がより一層強くなるので、基がヨレたリズムだとどうしようもありません(笑)。ですから、基のリズムがキッチリ整ってから体得する事が大前提ではあります。

 こうしたリズムを体得する事で得られる最大限のメリットというのは、漠然とした独得のグルーヴとして捉えていただけの演奏の差異を深遠まで推し量る事が出来て、更にはアーティスト独自のグルーヴ感を見抜く事にも役立つ訳です。先述の連符の「2〜4番」辺りの事でもリズム専門の場でなければお目に掛かる事はそう無いと思います。しかし、こうしたリズムの要求というのは、その演奏に対してより独自性を持った精度を求められているからに他ならず、こうした所のリズムを体得した時には、非常に多様なリズムを使い分けられる様になるのは言うまでもありません。

 そのような演奏の精度の高さや表記法が多くのシーンで用いられないのは、採譜者の手で「大まかな」処理で編集されてしまうからで、アーティストや奏者がその同一性を高次なレベルで編集に正しさ求めない限り一般の読者が手にする事は無いからでありましょう。また、先の譜例に於ける「1番と2番」の差異というのは、非常に丁寧に扱わない限りは「2番」の符割は聴き手に依っては「1番」にすら聴こえてしまう事もしばしばです。余談ではありますが、先日野坂昭如氏が逝去された際、私はTwitter上にて、氏が出演した有名なサントリーのCMの唄(吟詠?)の符割を採譜してみて、あらためて単純な符割にて均されてしまうであろう表記を敢えて細かく精度を高めて採る事の重要性を確認した物でした。
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 音源が用意されているならまだしも音源も無く単純に譜例で1番と2番の差異とやらを、リズムの習熟に達していない者が区別出来る事など無理筋であります。然し一方では、未経験のリズムであろうとそうした物の存在を知らしめる事も重要なのでありますが、多くのシーンではそれすら省いてしまう事もあるという悲哀なる側面が招いて了っている事もあるかとは思います。



 因みに先述の「2番」で生じた連符内連符での3連符ベースの2拍5連のそれは、非常に重要なグルーヴのひとつでもあり後に詳しく述べる事に。

 5連符の類など以前に繰り広げておりますし、今回は新たに他の符割も追加しておく事にしますが、「5〜21番」の中で特に重要なのは「5・6・13・14・17番」だと個人的には感じます。他のリズムはその後にどうにかなる物です。とはいえ凡てを網羅するのが私のブログの役割ではありませんし、こういう側面ばかりを追究してもキリが無いので今回の本編を語ろうかと思います。

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 今回題材にする曲はTHE BOOMの「島唄」であります。私はこの曲をかれこれ10年以上前に市販用着信メロディーでリリースしていた物でしたが、アフロ・ラテン風アレンジが好評をいただいていた物です。その好評をいただいていた理由のひとつは、そのアレンジに用いていたベースのグルーヴにありまして、当該アレンジで用いたベースのフレージングの一部に用いていた連符やら速いテンポに埋没しないリズム感などをこの機会に述べておきたいと企図したので、それらを詳述する事にした訳です。勿論、前説として語っていた連符の件はコレを語りたいが故に語っていた訳です。



 早速YouTubeに動画をアップしたのでそれを参考にベースのフレーズを確認する事にしますが、このアフロ・ラテン・アレンジでは原曲の拍子構造はどうあれ「アラ・ブレーヴェ」で表記しております。つまり2/2拍子という事ですね。

 2/2拍子で書かれているという事は通常の音符で書かれている音符は倍テンポ化する事になります。例えば先行する節が4/4拍子で書かれていて、その後テンポがルバートして新たにテンポが戻った時には拍子が2/2拍子になったという曲ならば、後続の節が厳密に先行する4/4拍子に対してキッカリ倍にならなくても許容され得るシーンだとは思います。しかしそうしたテンポ変化無しに拍子記号が2/2に変わる場合は完全に倍となる様に奏する訳であります。

 アラ・ブレーヴェで書かれている為慣れない人には普段の倍の感じで譜面を追う事になるかもしれませんが、アラ・ブレーヴェであっても細かな符割やグルーヴを消失したり自身の器楽的能力に埋没させてしまってはいけないという点を最も注意しなくてはならないので、本曲がアラ・ブレーヴェであるという事は非常に重要な要素でもあるのです。

 テンポの方はYouTubeを聴けば気にする必要はないかと思いますが、二分音符=96.5というテンポです。四分音符換算だと193という事になりますね。

 各小節には小節番号を振っておりますので結論から先に言ってしまいますが、最大限に注意を払っていただきたい小節は「2小節目」と「11小節目」です。弱起小節も小節番号としてカウントしている為この小節番号となりますので御注意を。

 では早速「2小節目」を語りますが、最初の1〜2拍に依ってこのベース・フレーズの土着的なずんぐりとしたグルーヴを表しているのは一度聴いていただければお判りになる事でしょう。1拍目は5連符の3:2の型。つまりイネガルの「ルレ」の型です。そして2拍目は付点16分休符をアタマにして付点16分音符が続いて、その後に2拍目ケツが16分休符という、ポピュラー系の楽譜の多くは茲でのケツの休符は付与せずにタイなどを用いて表記する事でしょうが、この2拍目で最も注意したいのは32分音符を「3+3+2」として感じた時の付点16分音符のタイム感が重要なのです。

 とはいえ、このテンポで32分音符ひとつ分のパルスを感ずるというのは至難の業です。このテンポで32分音符の裏をひとつ1つ取るなどヴィニー・カリウタ位しか出来ないでしょう(冗談)。そこまでパルスを意識するのではなく、以前にもジェントル・ジャイアントの「Free Hand」の曲中間部のブリッジにて「3拍8連」としてノる事で付点16分音符を体に染み付かせるという事を述べましたが、つまりは付点16分音符として一所懸命体に覚えさせようとするのではなく、3拍8連を始めるつもりで体得すると判り易いかと思うのです。1拍を置いて残り3拍を8つでノるという感覚。

 これらを踏まえるだけで、ずんぐりとした「訛った」リズムをあてずっぽうではなくきちんと体得する事が出来る訳です。重要な事は、速いテンポ(アラ・ブレーヴェであるからこそ速い)に自身の器楽的能力を埋没させない様にするという点。速いテンポに詳細さが埋没してしまうという事は演奏が追従していない証拠ですから、それを仮にスピードを落として聴いた時には、テンポに対して自身の演奏が引きずられているだけの酷い演奏として聴こえる様になってしまう訳です。テンポが速いから埋没しているだけの事で(笑)。

 因みに、アラ・ブレーヴェやら4/4拍子には何故「¢」や「C」という風な拍子記号があるのかという事の詳述は避けますが、実は他の拍子にも拍子記号が次の様に充てられている物なのです。全く普及はしておりませんが。以前Twitterで呟いていた物をこの機会に再掲しておきます。

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 扨て、11小節目は難易度が高いです。1拍目は5連符ですが「3:2」の先行3つのパルスは休符です。その直後の2拍目は付点八分5連符ですので、この連符鈎は付点八分音符に掛かった5連符なのです。それを「3:2」で奏して、2拍目ケツは16分休符なのです。この様なタイム感の体得は非常に難しいかもしれませんが、単なる1拍5連符の逆付点型となる「2:3」の型とも差異感がある様に体得しなくてはならない物です。

 次の譜例を見てもらえれば判り易いかと思いますが、4分音符=960のクロックを持つDAWアプリケーションだと思ってみていただくと、付点八分5連符のそれが判るかと思います。勿論その5連符の鈎内の比率「5:3」が示すのは《5連符は3つのパルスを割っている物》という事であります。

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 嘗て私がATARI 1040ST上でNortatorを弄っていた時(80年代末から90年代初頭)がありましたが、1040STのドングルが壊れたのをキッカケに私はⅡciを物色する事になったという苦い経験があるので、あらためて感慨深く思いを馳せる事が出来物思いに耽りそうでもあります(笑)。
 
 実は当時のNortator、その後のMac上でのNortatorでも暫くは分解能が4分音符=1440の時代があったんですね。これは少々特殊なデルタ・タイムでして、通常のシーケンサーだと当時のハードウェア・シーケンサーの多くは4分音符=96、Macの場合Performerが480だったのですが、デルタ・タイムで見れば「3」系統に相当する360の倍数なのです。これはラジアンとして多くの符割を1周期に充てて考える事が出来るので便利な物だったのですが、SMFの普及と互換性もあって恐らくデルタタイムを変更した物だと思われます。私は初期のCubaseを所有していなかったので判りませんが、確か初期のCubaseもこちらのデルタタイムを用いていたのではなかったかなー、と記憶しております。

 そうしたデルタ・タイムとの親和性もあって私は体得して来た(相性が良かった)のでもありますが、今でも480/960の分解能にはそうした感慨深い側面を感じ取ったりするので追懐してしまうのです。とはいえ、新たなデルタ・タイムの違いがその後のグルーヴ感に悪影響を及ぼしたり変化が見られたりするのでは無い物ですが、数字通り入力すれば、最初は自分自身が弾けずとも機械はそれをキッチリと弾いて呉れる訳ですから、それを規範にして体得する事こそが重要であるのです。そのリズム感を付けつつ、音の強弱というメリハリは自身のセンスによって脚色していくのも良いかと思います。