SSブログ

ノート・イネガルや付点音符の数々 [楽理]

 複調やマルチ・オクターヴの話題に行く前に、一寸ここいらでリズム面の事もある程度詳らかに語っておく必要性があるので今回のブログ記事のタイトル「ノート・イネガル」という語句は、一般的には馴染みの薄い呼称かもしれません。とはいえ、リズム面の好奇心をくすぐるにはおそらく充分な物であるとも思えるので、こうして今回語る事に。


 ノート・イネガルというのはフランス語の呼称なのでありますが、それが意味するのは「不等」という意味なのでありまして、簡潔に言えば付点音符よりも緩やかなリズムの偏重、というリズムの事であります。

 例えば、4分音符が「等しい」2:2のリズムで分割されるとすればそれは8分音符が2つ連続するリズムへと分割される事になります。

 一方で、リズムがそのような「分割」されたとしても、付点音符のリズムというのは、先の四分音符を例にその原音符である四分音符が付点音符として分割される比率は「3:1」の構造になる訳ですね。付点の効用はそもそも原音符の半分の歴時(音価または時価とも)を附加させるという事なので、「3:1」のリズム構造はとてもスキップ感のあるリズムという風に形容される訳でもあります。


 そのスキップ感が誇張された付点音符よりも緩やかなリズム感が伴わせるルーズな感じを不等という風に捉えて奏する事がノート・イネガルの特徴であり、現今社会に於けるシャッフルというスウィング感も概ね3連符による依る物として括られるのであります。無論、現今社会の「シャッフル」というスウィング感はテンポが速いほどルーズな感を強め、テンポが遅くなればシャッフルがキッチリとした3連符のパルスの輪廓に沿う様になり、更にテンポが遅くなれば、3連符一つ一つの各音符のパルスの存在が一層強く表れ、3連符の2:1というビートを刻んでいたシャッフルが「1:1:1」という風に3音の輪廓を強めていくのも非常に遅くなった3連符は、その各音が更に「拍子」という風に認識されて行く様にもなり、茲に6/8拍子は2拍子系であり、ワルツの3拍子とは異なるというビートの歴史を改めて再確認する事が出来る訳です。

 抑も、3拍子のテンポを速めると、3拍子というグループが一つの括りとして聴こえるようになり、それを「1拍子」と聴いてしまう様になります。するとその「1拍子」は3連符としての1拍子であるかもしれませんし、また一方では6/8拍子の8分音符の3つ分のパルスとして認識し得る様になります。こうして6/8拍子は、その一括りを「2組」生ずるので2拍子系とするビートの出来(しゅつらい)の歴史の事であります。
 
 現今社会に於いてかなりクッキリとした3連符出自のシャッフル感覚というのは、すぐに廃れてしまったものの80年代末から90年代初頭にかけて流行した「ニュー・ジャック・スウィング」という1拍6連を基にしたビートが顕著でありましょう。音符で記される以外のルーズ感というのはある程度の共通理解と不文律があるモノですが、シャッフルという物は現在先述の様に理解されている訳であります。

 そんな訳で次の譜例2つを確認してもらう事にしましょう。これらは何れもノート・イネガルという不等のリズムを指すものです。
ni01.jpg

 ex.1はルレのリズムと呼ばれる5連符の「3:2」という比率を持つリズム、もう一方のex.2はポワンテと呼ばれる、所謂現今社会でのシャッフルと呼ばれるリズムを表わしているものです。
ni02.jpg

 ex.1のルレのリズムであらためて思い浮かべてもらいたい私のブログ記事に、細野晴臣のソロ・アルバム『泰安洋行』収録の林立夫のドラムによる「蝶々San」の5連符のビートが、まさにルレのリズムだったという事があらためて判るワケです。当時のブログではルレのリズムという呼称までは述べませんでしたが、ひとつの話題を一挙に語る必要もなく、チマチマと詳らかに順序立てて語る方が良かろうという私の思いでこの様に述べている訳であります。


 5連符というリズム感覚は現今社会に於てまだまだ一般的に知られた物ではありませんが、非常に可能性のあるビートの一つであることは間違いありません。現代音楽ではリズムの均斉、リズムの律動方面の平均律や、音の強弱のセリーや魔方陣の解釈もある一方で、5という素数が齎すリズム感覚は、6という細分化も相容れない物があり、単なる細分化ではない所にグルーヴという観点で考察しただけでも非常に価値のある体系であります。

 先のex.1の様に、5連符を付点音符を交えて連桁で括る表記などはあまり遭遇しない事かもしれませんが、連符の付点表記というのも5連符ばかりではなく、こうして使われる物なのであります。

 5連符のヴァリエーションとして見ると、単に5連符が「3:2」というビート構造になるだけではなく、次のex.3の様に「2:3」という構造になる物もあります。これは5連符のビートが「逆付点」という構造になったという事を示しております。
ni03.jpg


 因みに逆付点という名称も是亦聞き慣れない呼称かもしれませんが、実は楽理的な知識としてはかなり重要な知識の一つでもあります。

 抑も「付点」というのは原音符の歴時の半分の歴時を附加させるもので、原音符の音価よりも跳越した歴時となり、次の拍子を浸食しているというのが付点の最たる特徴です。つまり、原音符を「1」とするならば付点は「0.5」を附加させ、次の拍子の「0.5」分を侵食しているという事になり、2拍の歴時として構造を大きく捉えた場合、そのパルス構造は「3:1」という風に成立しているのであります。


 その「3:1」という構造が逆になる、つまり「1:3」という構造になるものを通常「逆付点」と呼ぶのであります。ですから5連符での「2:3」の逆付点構造は、逆付点の中でも少々特殊な例でもあるとも言えます。そうした前提を踏まえて次のex.4を見ると、これがあらためて逆付点であるという事がお判りいただけるかと思います。
ni04-571ca.jpg






ni05.jpg

 加えて、16分音符と付点8分とに依る逆付点の形は「スコッチ・スナップ」とも呼ばれます。それがex.5の形です。

ToshinobuKUBOTA_BADDEST.JPG
 ベース弾きの観点からスコッチ・スナップを捉えると、私の場合はやはり、スラップ系のリフが非常に決まる音形だと信じてやまないのでありますが、特に、久保田利伸のアルバム『the Baddest』収録の中村キタローに依る「TIMEシャワーに射たれて」のメイン・リフは実に素晴しいスコッチ・スナップを利かせたスラップ・ベース・リフに数える事が出来るでありましょう。



 扨て、ノート・イネガルの5連のルレのリズムやらを語ったついでに今回は5連符のバリエーションなどもこの際取り上げておく事にしましょうか。ex.6などは5連符系のリズムでは体得しておきたい代表的な物を挙げてみましたが、音符を休符に置換してリズムを獲得する事も重要です。
ni06-7739a.jpg

 私がex.6の様な5連符を刻む時、例えばex.6-1は「モランボン」と脳裡に映じて奏しております(笑)。ex.6-2は「そんなんで」ex.6-3は「モンブラン」ex.6-4は「そこんとこ」ex.6-5は「転轍機(てんてつき)」ex.6-6は「ドラえもん」という風に脳裡に映じていた事もありました(笑)。体得してしまうと色んな言葉を充当したりする心の余裕が出来る物ですが、やはり当初覚えようとした時の言葉の充当は年月を経てもやりやすいモノであります。


 扨て、今回は折角「付点音符」についても語った訳なので、付点音符のバリエーションも掲載しておく事としましょうか。通常、知られている所の「付点音符」というのは、原音符に附与されている付点は1つの点のみである事が多いです。つまり、一方では付点が複数ある物も存在する訳です。付点が複数あるものを「複付点」と呼ぶのですがそれは”総称”であります。つまり、付点が2つばかりでなく3つのものも稀ですが存在するのです。一つの付点ではなく複数ある物を総じて「複付点」と呼ぶのは次の様な理由で混同しない為の配慮でもある事が伺えます。
ni07_08-2fa3e.jpg

 ex.7は二重付点二分音符です。つまり右方に歴時で図示されているように、付点が2つある時の音符の歴時を示していまして、同様にex.8は三重付点二分音符なので、付点が3つ附与されております。書物によってはex.7を「複付点二分音符」などとしたり「二重複付点二分音符」などと書かれたりする事もありますが、言葉の意味では能々考えると前者は複付点が三重の時どうすんねや!?というジレンマに陥りかねませんし、後者は複付点を更に二重にするんでっか!?とも誤解しかねません(笑)。加えて三重付点音符というのは遭遇する事こそ稀ですがロマン派の大家は結構重用していたりもしますし、タイとスラーが混在する様な時(是も又読譜の熟達度と慣れに依る處が多いですが)などでは複付点は譜読みがスッキリして視覚性に優しい所があったりします。

 更に現代譜などでは、ex.9の様に、附与する付点の歴時が半分、つまり原音符の歴時の1/4を附与するという「半付点」と呼ばれる記譜法もあったりします。
ni09.jpg

 つまりex.9の半付点が示す歴時は右方の歴時という風になりまして、仮に半付点二分音符の後に8分音符が1つ在ったとしたら、それらの歴時は「4:1」という風に示す事になり、スキップ感として見れば付点二分音符よりも前に音符が来るのに、対となる「端切れ」側の音符が更に細分化された音符が1つ附与される事で、背景に描くパルスは細かくなり、非常に鋭角的なスキップ感を生むのであります。とはいえ、半付点音符を使わずとも既知の記譜法で同様の表現は可能なのではありますが、4拍子や3拍子系のみの流儀とは異なる体系での視覚的な優位性に依る読譜のスムーズさと新奇性が齎す喚起は非常に強く作用するモノでもあります。


 そんな訳でリズム面について今回語ってみましたが、和声的な方面ばかりでなくこうした方面を決して蔑ろにしてはいけないと常々感じてはいた事でもあるので、Twitter凍結中の身としてはこうしてブログで繰り広げる事も良い機会であるのだろうとヒシヒシと実感している所でもあります(笑)。


<追記>  本ブログ記事初稿時にはスコッチ・スナップを用いたスラップ・ベース・リフを用いた楽曲について語るに際してジャマイカ・ボーイズの1stアルバムのマーカス・ミラーに依るアリアのBBサーキット搭載SBサウンドの『Wait』のプレイ云々という事を語っておりましたが、本曲は拍頭が16分休符の次に付点8分というフレーズだったのをすっかり忘れておりました。つまり、休符が拍頭に来る為スコッチ・スナップでは無い為、当初の久保田利伸の「タイムシャワーに射たれて」のみを挙げるように訂正しておきました。
JamaicaBoys1st.JPG