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異端な音 [楽理]

 ロンドン五輪開会式に沸く中で私は溜め込んでいた記事をアップしなくてはならず、少々世間様とはズレた内容をブログで展開するコトになってしまっているワケですが(笑)、今回は和声的に「異端な」方面を明示的に挙げてみたいと思いましてどうしてもそっち方面を語りたいものでしてご容赦願いたいと思わんばかりです。


 扨て、今回は記事タイトル通りの「異端な音」を用いた例を取り上げてみようかと思うんですが、今回の例は私が作ったモノでありますのでその辺りはご注意ください(笑)。異端な音とやらを見て欲しい&聴いて欲しいというコトではなく、ごく一般的なジャズ&ポピュラー・ミュージック界隈のコード表記の流儀では語ることのできない逸脱した音との実際という風に捉えていただきたいワケですね。
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 譜例では上から下に、メロディ・パート、エレピ、ベースという構成を想定していて、bpm=130位です。まあそういう面よりも今回は「掛留」=和声外音となる倚音が齎す世界観を不協和度を限りなく稀釈化させて、それまでのフレーズが牽引する情緒に乗っかって調性外の音を堅持する世界観がどういうものなのか!?というコトを提示してみようという試みそのものが重要な事なので、ご容赦いただきたいと思います。


 扨て早速譜例の方に移りますが、1小節目のメロディはG音です。背景がDm9ですので11th音をそのまま2小節まで「掛留」をさせています。厳密には「掛留」させる音が次の和音構成内外や音程差に依り呼称を厳密に与えるコトもありますが、今回はあくまでも「掛留」として扱います(多くの理論書でも厳密に扱わない時は「掛留音」として扱います)。


 まず最初に疑問に思えるのは、先のメロディの「G音」という掛留音が、次のコード「F#m△9」に及んでいるコトが重要なポイントであります。というのも「F#m△9」というコードの構成音は「F#、A、C#、E#、G#」でありまして、前の小節のG音が掛留しているコトで「F#、G、G#、A」という半音音程の凝縮が4拍子中1拍半も及ぶ世界観を形容する事を意味します。つまりここで生じた短九度の音(=G音)は短16度や短23度をも見越しているとも言える音でもあると言えるでしょう(笑)。

 その次の音であるメロディ・パートにおいて本位記号を付けたF音というのは、確かに背景の「F#m△9」から見れば長七の「E#」と異名同音で同じ音ではありますが、メロディ・パートはそもそも背景のコードとは異なる調性を意識しているからこそ、こうした本位記号を付加させた「F音」をわざわざ示しているワケです。

 加えて、メロディ・パートは別の調性を想起しているという事から、2小節目の4拍目の1拍3連符中に現れる「E音」も、背景の「F#m△9」というコードから鑑みれば短七亦は増六(E音、亦はD##音)との異名同音ですが、先と同様に背景のコード側の調性とは別の調性の脈絡によって組み立てられている旋律だという所がこうした所からも、ほんの一瞬の経過的な音に聴こえてしまうかもしれませんが、実はそうした配慮があって選ばれている旋律の音なのであります。


 こういう音に慣れていない人でもおそらく、変わった音とは思うかもしれませんが、大きな拒否感のような印象は抱かないのではないかと思います。そもそも今回こういう例を挙げている理由のひとつに、和声空間が拡大していった理由は、こうした「掛留」が積み重なることで生じた結果だからです。但し、ジャズやらポピュラー界隈で体系化されているコード表記においては、このような和声外の音というのは異端な音でしかなく、五線譜で異端な事実を受け止め乍ら「何故存在し得るのか!?」という根拠を追究することまでは及ばず、その先の理解を進めたくとも出来ない人が殆どなのが実際なのではないかと思います(笑)。


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 これに似た用法などまさにフローラ・プリムの「I'm Coming For Your Love」がそうでして、ベーシストのバイロン・ミラーが作曲に加わっている事から、私はバイロン・ミラーの多調方面を視野に居れた「串刺し」がこうした掛留による多様な和声空間を生んだ曲であり(ベースラインのそれとは亦別)、ARP2600と思しきシンセ・リードと背景の和声について嘗ても語った事がありますが、興味がある方はブログ内検索かけていただければ自ずと判りますが、比較的古い記事ですので、まだまだこうした方向を語るにあたっては初期の頃でもあるので、現在私が多調的空間を語っている言葉やらと違う言い方をしているかもしれませんが、ひとつの方向を語るだけでもブログだとこれくらいの年月は必要となってしまうというコトだけはあらためてご容赦願いたいな、と。こういう方面で疑問や質問のある方は随時ツイッターの方で受け付けておりますが必ず返答を保証するモノではありませんのでその辺りもご理解願いたいと思います。


 余談ですが、今回譜例に用いているフレーズを鍵盤ひとりで演出したい時は次の様なヴォイシングで入ると、特異な和声を如実に目の当たりにすることができるかと思います。
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出だしは左手10度音程は出てくるので手の小さい人は少し難しいかもしれませんが、シンコペで入る2小節目の特異な音は難しくはない思うので、響きをご自分で体得していただきたいと思います。