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ドミナント7thを母体にアレコレ [楽理]

これまで左近治が常日頃用いる「ハイパーな」な和声のひとつに、ドミナント7thを母体にしながらもソコにはドミナント7thのルートから見たらb7thの音と長七の音が同居していたりするような音を使っちゃったりしているのは既にお気付きかとは思うのでありますが(笑)、そのような和声をなにゆえ成立させるためのいわゆる「言い訳」みたいなモノを今回は提示してみようかな、と思います(笑)。




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今回もまた譜例を用意しちゃいますが、とっても判りやすく「G7」というコードを示しております(fig.1)。

左近治が「よ~く使う」ハイパーな音というのは、この「G7」というコードに当てはめれば「F#」の音とかが入って来ちゃったりするワケですな(笑)。まあ別に笑い事ではなく茶化すワケでもなくてですね、私自身が好んで使っているだけではあるものの、別に左近治オリジナルなワケでもありません(笑)。

コードネームという「簡略化された」書式があるが故に、ドミナント7thというのはその機能の根幹を知らずとも無意識に使えてしまうような、そういう側面がコードネームというモノは持ってしまっていると思います。無論、左近治が使うような「ハイパーな」音に、そこには便宜的にドミナント7thというモノを用いてはいても、本来使われるトコロのドミナント7thとしての機能は極めて希薄であることには間違いないでしょう。

まあ、そんな特徴的な音というのはドミナント7th上においてはとりあえずは「七度」のトコロに現れるワケですから、七度の辺りを拡大解釈する上で譜例で示すには密集和音のカタチだとアレなんで、譜例のF音をオクターヴ上にスッ飛ばして、下にできるGトライアドと上に出来るF音との間の音程差を巧く使って図で説明してみようかな、と思います。

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そうすると、次のような譜例になるワケでありまして(fig.2)、D音とオクターヴ上に追いやったF音の間は実にオープンなワケでして、ココに少々手を加えようかな、と(笑)。

ちなみに「G7」というハ長調においての属七の和音と同様のトライトーンを持つ代理コードは別名「裏コード」とも呼ばれているワケでありまして、五度圏で見れば互いに「対極の関係」にあるという所は今更語る必要も無いとは思いますが、この「対極の関係」とやらを今回は「強固な結びつき」という風に捉えて用いることにもなるので、一応語っておこうかな、と。

で、G7から見た裏コードとは「Db7」であります。それぞれが包含している減三和音の両端の音程が「三全音」で、両者は共有しているワケですね。言ってみりゃあ減三和音の両端の音を共有しているという解釈なワケでして、減三和音の内声である音は、ある意味「好意的に」省かれて見られているようにも思いますね(笑)。Db7が内包している減三和音というのは「Fdim」。Fdimの3rd音は「Ab」となり、G7の方が内包している減三和音である「Bdim」の3rd音は「D」ですね。これらの音はG7とDb7の両者で共有しているワケではありません。

しかしながらG7側から見た時の、裏コード側のDb7が内包している「Ab音」というのは、G7が内包している減三和音を「減七」として拡大して九の和音を導入する遠因どころか近親性が高まってくるという音でもあるワケでありまして、同様にDb7側で「Db7 (b9)」を形成すれば「D音」を生むことにもなるワケでして、両者の対極の関係は一層強まってくるワケでありますな。共有する音がトライトーンの両端だけではなくなっており共有の度を高めるとも言えます。

扨て、先ほど例に上げた2つ目の譜例というのは(fig.2)F音をオクターヴ上に追いやってしまいましたが、裏コードの「Db7」から見れば、この「F音」というのは3rd音であることは明白です。今回は敢えて譜例には用いておりませんが、仮想的に「Db7」というヴォイシングを密集和音として、この2つ目の譜例において配置してやってください。

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で、肝心なのは次の譜例になってくるのでありますが(fig3)、なぜか「Db音」の所だけにピンク色の矢印が振られておりますが、コレが今回の重要な意図なのであります。

ピンク色が示しているDb音の下方に既に音を振っているのは、これは「Db7」の鏡像音程を用いて呼び起こした音です。つまりミラー・コードですね。

例えば、矢印の「Db音」をルートするドミナント7th「Db7」を譜例通りに「上方に」三度ずつ積み上げていくと、F音というのは長三度の音程差で現れてくるワケです。同様にDb7の5th音と7th音というモノ達を、等しい音程差で「Db7の下方に」連ねているワケであります。

Db7の3rd音は長三度音程ですから、Dbから長三度等しく下に発生させます。すると譜例ではBダブル・フラットで示しておりますが「A音」を発生させることになるのはお判りですね!?

同様に、Db7の5th音、7th音の音程差と等しい音程を下に鏡像化させると、白玉以外の音を生じるコトになるワケですね。

こうしてムリヤリ構築した(笑)新たな和声、Ebから見れば「Ebm7 (b5)」というハーフ・ディミニッシュを表しているのはお判りでしょうか!?もっと拡大解釈して、F音もEbの側の仲間に入れてしまうと「Ebm9 (b5)」という、長九度音を有するハーフ・ディミニッシュを作り上げたコトになります。「Ebm9 (b5)」というコードは判りやすい出現例ではメロディック・マイナー・モードを示唆しやすい和声を生むコトになります。


トニックへの「解決」という強い力を備えているはずのドミナント7thのトライトーンが持つ調的なチカラというのは、こういう拡大解釈をすることによって実は倍音列とのまどろみよりも寧ろダイアトニック・システム(=全音階システム)への同化に近づいて行く姿を垣間見せるんですね。私たちの殆どはドミナントの持つ本来の姿の使い方ばかりを強固に感じるワケですが、一旦ドミナント7thの強固なチカラを紐解くと、全く別の姿を見せてくれるワケでありますな。

こういう姿を見せるのであれば、どうせなら本来の解決先の「C音」を入れてみると、これまた興味深い音程関係が生まれてくるのがお判りですね。勿論転回する必要が実践としてはあるでしょうが。

「解決先」の音であるC音を導入しても良いという根拠は、メロディック・マイナー・モードを示唆する世界を呼び起こしたことでバルトークの全音階システムを思い起こしていただければ自ずとお判りになるでしょう。倍音列と符合しやすい調的なチカラを手に入れた時初めて全音階システムのチカラが発揮されるという誘因がココに生じるワケであります。

つまり、本来解決先の音として現れるはずの「C音」というものを「先取り」したかのようなドミナント7thにおけるナチュラル11thの音というのは、こういう考え方を導入して本来のドミナント7thの機能を希釈化させた時に生じている世界感を形容しているモノなのだと理解する方が手っ取り早そうです。つまるところ、なにゆえウェイン・ショーターはオルタード・テンションを用いたドミナント7thを母体にコードにおいてもナチュラル11thを使ったりするのか!?とか、モード・ジャズの発展における4度音の使い方というのはどういうモノなのか!?というコトが、こういうコトを例に挙げただけでも朧げながら見えてくるかと思います。

G7において「Db7」を想起して、それを鏡像化させる。それはそもそもアリなのか!?と疑問を抱く方もいらっしゃるでしょうが、その手の疑問を生じる方はまだまだジャズ的な部分においても少々ステレオタイピックかな、と(笑)。この手のコトなど十分有り得ると思います。というのも、ドミナント7thが必然的に包含している減三和音(または減七)の持つ短三度音程を「四度累積」の発想で用いている以上、下方への牽引力というのはいずれにしても当てはまるという根拠が常に同居してくれているからであります。

更に言えば、G7において「Db7 (#9)」を想起して、Db7をM3rd音である音をオミットした上で鏡像化させることも十分有り得ることでして、そこで生じる鏡像和音は今度はEbm7です(※9th音が短九度となりEbフリジアンを想起するのでマイナー9thとはなりませんが、興味深いシーンになります)。余談ですが、シャープ9thを想起した上でそれを鏡像化すると、基のG7をトライアドに簡略化して、鏡像化した側もトライアドに簡略化すると「Ebm + G△」という、これまたオーギュメンテッド・スケールをなぞるバルトークの真骨頂の和音とやらをも見越す事となるワケですな。それにしても先人達はホントに凄い世界観を有していたんだな、と。

私の場合には以前にも語っておりますが、単純なドミナント7thが包含する減三和音が有する短三度音程はおろか、ドミナント7thのオルタード・テンションである#9th、#11thなどからもその「根拠」を得ようとして四度音程累積を想起して用いることもあります。オルタード・テンションまで視野に入れるのであれば#9th、#11thばかりではありませんが、その辺を使って呼び起こすと判りやすいかな、と(笑)。

無論、裏コード側ではなく長調と短調という平行調が同居するようなシーン、例えば二声で上はCメジャー・スケールなのに下はAハーモニック・マイナーで多旋法的にしている時ような場合には、裏としてではなく二次対極(つまり短三度セパレート)を想起して鏡像化させることも考えられるワケですね。鏡像化というミラー・コードの手法がコレばかりではありませんが、ドミナント7thというコードそのものを「実像」として見るなら、想起している世界はあくまでも「虚像」にしか過ぎません。しかしながら、その虚像という遠因に根拠を求めて具現化することで本来ならば縁遠い音を呼び起こすという世界観というのは何も物珍しいコトではないのでありますな。

虚像に根拠を求めて「鏡像」とした音をも本来の実像とぶつけて好むのが私の和声感だと思ってもらっても差し支えありません(笑)。本来の実像を希釈化させているが故に、根拠を求める理由付けが曖昧な分析になっている例も一部には存在するかもしれません。

ドミナント・モーションなどさせずにドミナント7thがバシバシ使われて、一般的に知る所では呼び起こせないような音を実に魅力的に奏でている著名な人は多いワケですが、この音を分析しきれずに、情緒を得やすい所のジャズに収まってしまっているようなジャズ・ファンとやらが実に大多数なのが嘆かわしい(笑)。

ただ単にセカンド・ベース系の分数コード用いたくらいで「ナチュラル11th使ってんだ!」とか、こんなコトで自画自賛するようじゃまだまだオムツが取れていないようなモンですわ(笑)。オムツ取れて久しいんだけど数十年してまた付けちゃった!というのはまたこれは別のハナシなんですけどね。

オムツが取れぬままジャズ聴いて育っても、きちんと聴くべき音聴こえてないでしょ!?と嘆きたいワケなんですな、コレが。

まあしかし、基が強固な情感であるが故に、器楽的な心得があってもなかなかそれを身に付けることができない人が多いというのも事実です。まあしかし、あらためて思うワケでありますが、バルトークやヒンデミットは本当に凄いなと痛感させられます。

こういう風に考えると、便宜的にドミナント7th上で発生しているナチュラル11th音というのは、コードネームの表記のそれを最初に優先してしまうモノだから解決先の音の「先取り」かのようなジレンマを垣間見せるだけでありまして、ドミナント・モーションのそれとは異なる情感を備えて使っている(はず)というコトを再認識できるでありましょう。

例えば分数コードにおいて上声部の九度音を下声部に持ってくれば二度、となります。これを「セカンド・ベース」と呼びまして、野球の二塁ベースのコトじゃないんですよ(笑)。つまり、上声部にF△というメジャー・トライアドがあった場合、下声部は「G」となります。下声部は単音のGという意味ですね。

また、Gミクソリディアン・モードを強く示唆する世界観であるならばF△ (on G)というシンプルなカタチよりもF△/G△という、上声部&下声部それぞれがメジャー・トライアドになっている分数コードを構築することも珍しくありません。但し、実際には6声となるので少々「重い」のか、下声部の3rd音をオミットして上声部のF△に対して下でGとDの音を付加させます。下声部のD音を上声部の6thとして扱うことも可能なので「F6 (on G)」または「F6/G」というコードとして耳にする事がおそらくセカンド・ベースの型としてはこちらがかなりポピュラーだと思います。あまり「重さ」を与えないポップス関連ではセカンド・ベースをシンプルに上声部はメジャー・トライアドで下声部は単音という型も勿論ありますが、上と下との情緒の相互的な取り扱いが耳でも目でもよ~く判る例というセカンド・ベースの型というのが先ほどの型なんだというコトをあらためて認識していただくと幸いです。


とまあ、いつの間にかセカンド・ベースのハナシになっちゃっていますが、今回特に重要なのがドミナント7th上のナチュラル11thの扱いと振る舞い。こうして見るとウェイン・ショーター先生というのはどのような「見立て」を行っているのかが朧げながら掴めそうです(笑)。但し、ショーター御大の奥の深さはこんなモンじゃあありませんよ(笑)。


加えて、今回はショーター先生を分析する回ではありませんので、これまでのコトを念頭に置いていきながら今後の話題を理解していただけるとありがたいのであります。というワケで次回に続きます。