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「Inner Power」に見る四度累積コード 2 [楽理]

前回の続きとなります。


でまあ、ハナシを本題に戻して先ほどの減七の和声に内包している減三和音のルートと3rd音による「見立て」を列挙したモノを今一度確認すると少々興味深いカンケイが見えてきます(笑)。

基本形とやらをDbdimで生じるルートと3rd音で生じる短三度とすると、例えばDdimというのは半音違いの音程差ではあるものの、そこから生じる四度音程構造は長三度で「ハモっている」構造とも見ることができますね。同様にFdimと基本形の関係も長三度でハモった関係と見ることもできます。但し、四度音程を下方に累積という構造で見ると勿論FdimとDdimというのは基本形から「縁遠い」所にあるとは言えますが、「Ddim」というのは、ハ長調の属七の和音であるG7(b9)の5th音から見立てた減三和音であり、FdimというのはG7(b9)の7th音から見立てているそれとお判りいただけると思います。多旋法的且つ対位的アプローチを導入する際、このような音程関係が生じるのはとても可能性が膨らむと思います。


属七を母体とするハイブリッド・コードを用いる時というのは私の場合ドミナント7thの3rd音に「基準」を設けるコトが多いのでありますが、3rd音に隣接しているような5th音と7th音に端を発するディミニッシュと見立てというのは意外にも縁遠いことがお判りいただけると思います。但しこの場合というのはあくまで「和声的に」拡張的な音を求めるシーンにおいてのハナシでありまして、sus4コードが背景にありながら、sus4という非常に情緒の「希薄」な性格の中で、和声が持つ構成音それぞれの音程間をどのように「埋める」のか!?というアプローチであった場合、「7th sus4」というコードは短三度音程を生みますので、そこから色んなアプローチによって縁遠い音すらも用いる遠因としての根拠を求めることも可能でしょうし、逆に言えば自由度は高まると思います。とはいえ、自由度をバンドの各メンバーに与えてしまっては統率を取るだけでも大変でしょう(笑)。そこには一定の約束事や、ソロ・パートに一任するという「お約束」を与えないと相当難しいと思いますので注意が必要だとも思われます(笑)。


というコトで「Inner Power」において、のっけから始まるAb7sus4/Dbから見る4度累積コードの見立ての方法というモノに当てはめると、色んな形でインプロヴァイズできる可能性を秘めているワケですが、原曲の方は一糸乱れぬようなアンサンブルのリフの応酬をメインにしているような所があるので(その後半テンの各パートのソロにおいて各自の個性が見えてきますが)、四度コード上の遊び心というのはメイン・リフ上においては少々希薄であります(笑)。

まあ、この手のリフのせめぎ合いにおいても唄心溢れるインタープレイを聴かせてくれるのはチック・コリアが非常に得意とする所なんでしょうが(今回のこの曲もチック・コリアが有しているスパニッシュな感性とは別の感性を垣間みることができます)、あまりにインタープレイを多く鏤めると統率が利かなくなりかねないのもあって抑え気味にしているのでありましょう(笑)。


ツイン・ベースをコレほどそつなく溶け込ませている点は非常に好感が持てますし、なによりフィンガー・ランプ世代への挑戦状とも思えるこのようなプレイにはついつい耳を奪われるモンです(笑)。とはいえ、sus4を導入した楽曲作りにおいて可能性を秘めているにも関わらず、それがリフにとどまっている感は否めず、あらすじ読まないと読書がムリ!みたいな耳の習熟されていない者がひとたび聴くと、情感の掴みどころが判らないまま少々冗長とも思える曲の前に聴き疲れが先行してしまいかねないのではないかと危惧する左近治(笑)。概ねこの手の輩がダメ烙印付けちゃったりするモノですが、楽曲そのものにおいてはもっと発展させられる可能性があるので、こうした所から自分自身の題材として聴くのもよろしいのではないかと思います。あくまでも「題材レベル」に収まってしまうのが残念なトコロですけどね。実は結構理にかなった可能性を秘めたケーデンスを用いているという部分に気付いてもらいたいモンです(笑)。


BTW、原曲の「Inner Power」は、先述のコード「Ab7sus4/Db」から今度はAb一発系の2小節循環のリフに移行して、そのリフの各2小節目には「Eaug -> D#aug -> Daug」という連結が見られます。ココで生じるオーギュメンテッド・コード上で原曲では遊び心は皆無ですが、このオーギュメンテッド・コードは、エリザベス・シェパードの件でも触れたオーギュメンテッド・コードを内包するマイナー・メジャー7thを見立てることが可能です。例えば例えばEaugの所ではFmM7を見立てるというように。その後ファンキーなD一発系に移行しますが、この「脈絡」というのは結果的にAbとDという対極(=裏)の関係を連結させているワケですな。その後の例えばサックスのソロであるF一発系のソロにおいても二次対極の世界を向いている、というワケです。

C_Tcherepnin_onF.jpgサックス・ソロのそれがチェレプニンというワケではありませんが、チェレプニン音階のそれというのはsus4分散フレーズにも持ち込める有用なスケールなので今回補足的にとりあげることにします。サックス・ソロの部分はF一発系で攻めて構いませんが、例えば次のようにチェレプニンを当てはめるとフツーに溶け込ますことが可能です。


この譜例に見られるチェレプニン・スケールは、背景のF上においてCチェレプニンを当てはめているという関係になっております。各音にFからの音程を併記しているのはそのためです。こうしてみると、F一発系といういわゆる「F7的な」響きを持つ背景において「ハミ出てしまう」音というのは長七の関係にあるE音というコトになるのですが、正直な所ドミナント7thコード上において出現する長七の音というのは勇気はある程度必要かもしれませんがおかしい音ではなく「使える」音ではあります。無論、ドミナント7th上のナチュラル11thの扱い同様、それらを強固に使えば本来のドミナント7thの機能ではなく、拡張された音になるのは今一度ご理解いただきたいと思います。とはいえ、強固なまでにドミナント7thとしての型を選ぶか、拡張された世界を選ぶかは個人の自由でありますのでソコには何ら制限はありません(笑)。むしろ一般的な選択が前者であるだけで、後者としての用い方がポピュラーでないからこそ多くの人は習熟されない人になるワケでありまして、こちらの拡張された側の世界感を会得したい人は徹底して耳で覚えるべきだとも思います(笑)。但し、闇雲に使ってしまうと無秩序な音の選び方にもなりかねないのでその辺は注意が必要です。つまり、根拠となるようなガイド的な音を「キッカケ」として暗示させるようにしながら忍ばせないと、楽理も知らぬトーシロの無秩序な音に変容しかねないので注意が必要、というコトなのです(笑)。

チェレプニン・スケールってぇのはsus4の分散の集合体としてみると、増三和音関係としての音程差で3つのsus4が現れるんですね。CチェレプニンならCsus4、Esus4、Absus4という様に。

このsus4の分散を四度音程累積の一部として見立てれば、そこには可逆的に短三度音程を求めていくことができる、と言いたいワケであります。

四度音程累積構造というものからどのように短三度音程を導くか!?まあ言うなれば四度音程累積は可逆的に減三和音を求めることができますし、四度音程構造というのは何もsus4系のコードだけに限定されるものではなく、短三和音を母体とするマイナー11th系のコードにもそのように当てはめることが可能なワケです。

エリザベス・シェパードがマイナー・コード上においてコンディミを当てはめてみたり、マイナー11th系やドミナント7thから生じるオルタード・テンションとは別の牽引力から半音階を求める、というのがココの所声高に語っていた核心部分ですね(笑)。ドミナント・モーションが必要なシーンでムリしちゃうと、「ナニしでかしてんの!?」になっちゃいますから、その辺の使いどころをきちんと把握していなければならないのは大前提ですけどね(笑)。

次回は四度累積のアプローチというのを、著名なアーティストの楽曲を使って取り上げてみることにしましょうかね、と(笑)。