SSブログ

「Inner Power」に見る四度累積コード [楽理]

先日発売されたばかりのアンソニー・ジャクソンとヨルゴス・ファカナスとのアルバム「Inter Spirit」収録の「Inner Power」という曲について今回は語ることに。今回のブログ記事タイトルからもお判りいただけるように、これまで同様「四度」の扱いが「キモ」なワケですよ。「キモっ!」じゃないですよ~(笑)。




innerpower01.jpg


扨て、原曲はのっけからツイン・ベースとデイヴ・ウェックル達との激しいトゥッティと16分音符のリフのせめぎ合いから始まり、古いジャーマン&イタリアン・プログレ的なジャズ・ロック・サウンドのようにも聴かせる特徴的な四度コード。2曲目収録の「Footprints」がショーター御大の作品というコトを除けば、他の曲はファカナスによるもの。この人の四度の解釈というか、sus4の使い方というのは、これまで左近治が語っている所の世界感に置き換えて考えることも可能なので、今回は題材にしてみようと取り上げることにしたわけであります。


早速ですが、曲冒頭の特徴的な四度コードは曲中の実際は「Ab7sus4/Db」であります。B音を仮に使うとすれば「B6/Db」という系のセカンド・ベースにもなるワケですが、ココは四度解釈にて捉えた方が良さそうです。

Ab7sus4というコードを四度累積で見た場合、冒頭に示した譜例の右側部分のように捉えることができるというワケであります。


つまるところ、短三度音程を生じている部分をドミナント7thのどの部分に照らし合わせたモノなのか!?というコトが前回までの語っていた所であるワケでありますが、本来想起しうるドミナント7thコードを長調側のそれと見たてた場合、代理コードである裏コードの主音と平行調(短調)の属音の位置をあてがう、という所が核心部分だったワケですね。


ドミナント7thの場合、b9th音を生じる九の和音も想起しうることができます。その場合、ルートを省略すればメジャー3rd音上に減七の和音(=ディミニッシュ7th)を配置していることに等しいため、こうして考えると長調の属音の音程的な位置と平行調の短調の属音の位置と、長調の属和音の代理コード(裏コード)の属音の位置という3つのそれぞれの音程関係が減三和音を成立させる音程関係にあるように、ドミナント7th上でオルタード・テンションのb9th音を生じている時も、同様にあてがう短三度の位置を拡張して想起することが可能なのではないか!?というコトが見えてくると思います。

ハ長調におけるいくつかの属音による「短三度の見立て」というのは、平行調の属音・長調の属音の代理(=裏)で見立てていたワケですが、Dbdimという減三和音を生じたDbと3rd音であるEで見立てていたワケですな。

減七の和音を生じさせた場合、その四声に内包する減三和音というのは4種類存在することになります。仮にAbdim7というコードがあったら、Abdim、Bdim、Ddim、Fdimというように。

仮にG7(b9)というコードでにおいて、それに内包する減七の和音で「短三度の見立て」とやらをやると、EとDbの音程関係とは別の所に短三度を見立てる方法が4つ増えるということも意味します。

それらの4つ増える「見立て」から完全四度対応させると次のようになります。


●Abdim(ルートと3rd音:Ab、B)・・・B、Gb、Db、Ab
●Bdim (ルートと3rd音:B、D)・・・D、A、E、B
●Ddim (ルートと3rd音:D、F)・・・F、C、G、D
●Fdim (ルートと3rd音:F、Ab)・・・Ab、Eb、Bb、F
●Dbdim (ルートと3rd音:Db、E)・・・E、B、Gb、Db ※基本的な見立てがコレ


そこで、Ddimから短三度を見立てる時の注意ですが、四度応答を用いて「別の音」を導くと、ドミナント・モーションを行う際に「禁忌」であるナチュラル11th音である解決先の音を導いてしまうのはお判りですね。しかしながら、この手のハイブリッド・コードの様式および多旋法的導入によるアプローチを採り入れようとするシーンというのは、もはや本来のドミナント7thとしての機能は希薄で、解決を行うためのドミナントという位置づけではなく、独立した機能を持った使い方(例えば分数コードのセカンド・ベースのようなもの)のような世界に寄り添うようなモノですから、こういったアプローチを採用する際、自分自身がナチュラル11thを求めてもイイのか悪いのか!?という判断をしていなければならないと思います。


そういう、本来「禁忌」である音を許容できるシーンとして変容させたにも関わらず、結果的に四度進行(ドミナント・モーション)を行ってしまっている人も多かったりするのが実際なので(もちろん普通に市場に出回っていたりします)、区別なく行っているのか否か、それを演奏するサイドの視点のみではなく、聴き手としてもきちんと区別できる耳を有することが必要だと思われます。正直な所、ドミナント7th上でナチュラル11thを用いつつ、結果的に和声をドミナント・モーションさせてしまっているそれというのは非常にチグハグ感が出てしまい、結果的に無秩序というよりも「無学」な感じが音として出てしまうので、その辺りは注意が必要です。だからといってウェイン・ショーターの音使いというのはドミナント7th上でナチュラル11th用いようがソコからナニしようが、もっと別のフェーズ描いておりますので、ショーター御大のそれを「無学な音」と一緒にされてしまってはイケませんよ(笑)。



でまあ、ハナシを本題に戻して先ほどの減七の和声に内包している減三和音のルートと3rd音による「見立て」を列挙したモノを今一度確認すると少々興味深いカンケイが見えてきます(続く)。