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前々回の補足 [楽理]

扨て、今回は前々回のブログ内容について少し補足しておこうかな、と思ったのでデモを用意することにしました。一応、前々回のリンクを辿っていただいてご確認していただこうかな、と。今回のデモというのは前々回にならって3パートの旋律を与えているワケですが、一応全部シンセにしてしまっている点はご容赦を(笑)。そこまで各パートの編成にこだわらなくとも重要な点は伝わるかなという意図があってのことであります。



手っ取り早くこのデモの各パートを解説しますが、ベースはC音ペダルに、Cメジャーを想起しうる上でCメジャーの長三度音から開始されるEフリジアンとCメジャーの完全五度音から始まるGミクソリディアンという、各パートそれぞれが単旋律を奏でるという所から開始されます。便宜的に8分音符のフレーズにしてみましたが、実際にはもっと音価を細かくしようが白玉にしようがそれは構いませんが(笑)、あまりに音価を細かくしても、その後の調的な移ろいがすぐに過ぎ去ってしまうのもどうかなと思いまして、今回はこの辺りの符割りにとどめました。

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デモの方は一応2小節を一組とするように成立しているワケでありますが、3~4小節目というのは、シンセの第2パート(当初Gミクソリディアンを奏でていたパート)が旋法を変え、「ソ ラ♭ シ♭ ド レ ミ♭ ファ ソ」という風に変化している点も前々回のブログと同様のコトであります。

ひとつのパートに本来の調性とは異なる旋法を与えるというこの例はあくまでもひとつの例に過ぎないため、この例通りばかりでもなく他にも色々なやり方がありますので誤解のないようご理解願いたいと思います。まあ良し悪しについても同様ですが(笑)。


まあ、良し悪しについてはさておき、このような多旋法な世界が並列状態になっているという世界はとりあえず成立させました。ココで「コードネーム」という立場から縦軸に和声を見ると、ひとつのコードにはまとめきれないほどハミ出す音が生じているのは至極当然であります(笑)。無論、こういう風に本来の調性とは異なる旋法をひとつ用いて生じた響きに対して、変化が生じるごとにコードネームを与えるというのも議論の余地は十分あるでしょう。しかしながらココで最も注目すべき点は、全体的な響きとしては曲の根幹を大きく阻害してしまうようなモノでもなく、良し悪しはともかく外れた音によって響きが拡大しているという点であります。

これを好意的に受け止め、本来の「Cメジャー」を想起しうる和声とハイブリッドさせた概念や、本来想起しうるコードネームからは逸脱するであろう音を特に不自由無く「使える」という風に解釈することも可能です。ただ、「使える」と言ってもこの局面で半音階の12音全てを用いることが出来るというコトでもないのはお判りですね(笑)。



その後5~6小節目では、その前のステップをさらに好意的に受け止めながら進めていくのですが、残ったもうひとつのパートはEフリジアン。つまり「ミ」から奏でているフレーズにミラー・モードを導入します。MOTUのPerformer的な操作なら「Invert Pitch」と言えばさらにDAWユーザーには伝わりやすいでしょうか(笑)。


で、ミラー・モードを導入し、さらにそのパートを下降フレーズに変化させます。


ここまで弄ると、ベースを除く2つのパートは本来のフレーズを維持しておらず全く別の世界を形容していることになります。


これらの変化させたフレーズと基のフレーズを残した上でアレンジする手法も勿論ありますが、私がここからさらに進める手法というのは、本来のフレーズはここで消失させて、単純なCメジャーの世界を拡大する方の手法で発展させていくという話題になりますのでご注意を(笑)。



そうして7~8小節目は、2つのパートが完全に変成してしまった世界に更にリハーモナイズを行い、その世界をより際立たせるためデジピで和声を補足しております(笑)。ここでのハーモナイズは色んな解釈がありますし、今回の例ばかりではありません。重要な点は、単純なCメジャーのキーを維持した響きから全く別の世界観へ拡大するという部分です。


そうして生じた和声にさらに変化させて全く別のコード・アレンジに発展させていくのがその後のデモの行方であります。


この時点ではもはやベースがC音ペダルを強固に維持させていく必要もなく、リハーモナイズによって生じた別解釈による和声のルートを選択してもイイとは思いますが、あくまでも発展のステップとやらを明確にしたかったので、ベースはC音ペダルを維持させたデモという風になっております。


たった3声でもこのように発展させることが可能ですし(リハーモナイズで和声を補足している時点で3声ではありませんが)、単純なCメジャーの曲をこうして発展させていくことが可能だ、というコトを述べたかったのであります。無論、「発展」とやらはこればかりの手法ではありませんが、必ずしもミラー・モードを導入することなど無くとも他の調性を持つ旋法を1パートでも導入することで全く別の彩りを構築させていくということも可能であります。


このような手法だと一般的にはクラシックの世界の方が日常茶飯事なシーンでありますが、対位的なアレンジを導入してもそこで旋法的にとどまることなく和声面において拡大していけば全く別の世界観へアレンジを発展させることが可能とも言えます。


特にポピュラー音楽方面では「一発モノ」と称される、ワン・コードによるセッションなどごく普通にもてはやされるシーンがあるワケで、そういうシーンにおいて他の調性の概念を導入したりすることで彩りを増すのは自明であります。


Cメジャー・キーにおいて、

「CのブルースやらCのミクソリディアンやらCのドリアンとかで一発モノ弾いちゃった♪」

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という、この手の人は私がよく言う「単一的なモードしかベクトル向いてない」タイプの人ですからね(笑)。今回の例で提示しているのとは全く別のコトですからね(笑)。シーンによっては「単一的」であってイイ場面も勿論あるワケですし、私の今回のデモというのは、調性というのは、基となるイメージは強固であれど、それらの呪縛はいとも簡単に解きほぐすコトも可能でありますし、そこから和を乱さぬ程度にどんどん拡大させていくことも可能だという事を述べたいワケですな。

さらに補足すると「和を乱さぬ」というのは、あくまでも自分が元の姿を忘れないというコトでもあるんですが、セカンド・ランゲージも操れないのに母国語まで忘れてしまったら、その人の喋ってるコトバは誰も理解できなくなっちゃいますよね!?そーゆーこってす(笑)。


まあ本題に戻るとしますが、結論としては、「ど」が付くほど単純なCメジャーの世界におけるフレーズをどう発展することが出来るのか!?という点において引き出しをさらに増やせればメリットにつながるのではないかな、と思うワケであります。作曲においても世界観は拡大するでしょうし。但しポップス系の世界にとどめようとするならば、この手のアレンジなどイントロやらブリッジ部に用いるくらいで、唄部分には用いづらいかもしれません(笑)。ただ、この手の話題に興味を示す方なら自身の足場がポップス・オンリーの感覚という人はとても稀だと思われますので、このように話を進めているのであります。


余談ですが、かれこれ20年ほど前に濱瀬元彦が「パフォーマー・パーフェクト・リファレンス」なる、コンピュータ・ソフトの解説本のさきがけともなるような本をJICC出版からリリースしていたものでありまして、その内容は現在の解説本などでもそうそう満たしきれていないような部分まで詳細に語られていたものでして、例えばMOTUのPerformerの解説であっても単にソフトの説明程度では終わらない詳細な解説があったワケですな。

その「パフォーマー・パーフェクト・リファンレンス」の中でも、Invert PitchやらRetrogradeという編集メニューについて「音楽的な側面」で語られているワケですが、作曲の技法のひとつとも言えるアイデアをシーケンサー・ソフトの機能として採用していることに高い評価をしていたのが濱瀬元彦だったワケでして、ただ単に便利な制作ツールとしてシーケンサーを用いるだけでなく、このようなアイデアを自身の音楽観の中で活かすことができるようにするのが理想的な姿なのではないかとあらためて思うワケですな。

現在ではPerformerはDigital Performer(=DP)に取って代わられておりますが、例えばトランスポーズの編集メニューにしても、自分で音階をカスタマイズしてハモらせたりすることも手っ取り早くできるワケですね。DPの方では、私がよく取り上げる音階である「ハンガリアン・マイナー・スケール」をただの「ハンガリアン」という風に名付けておりますが、以前にも語ったようにジプシー系音階というのはそれそのものがそれほど多く市民権を得ているのでもないので、名称自体が統一されていない向きがある、ということもあらためて確認できると思います(笑)。名称がどうであろうと、それを表している音そのものがどういう構造になっているのか!?という事を確認できればよいワケで、MOTUのDP基準だけで「この音階の名称は●●であるべきだ」などと思われても困っちゃう所があるんで、その辺りの矛盾やご批判とやらを左近治ブログにぶつけてもらっても困っちゃいますので、その辺りの整合性を保つのも結果的にはご自身で判断していただくこととなるので、ご容赦願いたいな、と(笑)。