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ジプシー音階のおさらいとハーモニック・マイナー完全四度下スケール(2) [楽理]

扨て、NHK BS-Hiでジェームス・テイラーのライヴにすっかり酔いしれていた左近治だったワケでありますが、まーた前置きが長くなってしまうのもアレなんで、とっとと前回の続きを語ることにします(笑)。
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とりあえず振り返っていただきたいのは、マイナー・コードにおける11th音が持つ調性の浮遊感といいますか、あっちの世界観みたいなものを演出できるのは、その音そのものがアッパー・ストラクチャーだということは当然だとして、短和音が短和音たる情緒をもたらすのは、和音を構成するルートとm3rdを転回させることによって得られる「長六度音程」がもたらすマジックが一役買っているとも思います。長六度というのは厳密には倍音列に現れてこないものでもあります。

まあそれを言えばメジャー・コードにおけるM3rdとP5th音だって短三度音程なのだから転回すれば長六度だろ、とおっしゃられてもやむなしなんですが、ルートと3度音程を転回させることによって得られるマジックというのはミラー・モードの世界にも通ずる重要な事象ではないかと左近治は信じてやみません。これの深い理由というのは倍音列と結合音(=結合差音)がもたらす影響だと思います。


例えばAm6(9)というコードがあったとします。

ココにベースにE音を持ってきて「Am6(9)/E」という分数コードを生じさせると、構成音としてはEm9に♭6音を付加させた音のような扱いになるワケなのでありますが、コード表記としての在り方としては海外では多く見かけますがb6th表記はあくまで便宜的なモノで回避しなくてはならないため分数コード表記となる、というのは数ヶ月前にもブログで述べましたね。


逆にこのような表記が生まれたことによって見方を変えれば、Aマイナー系のコードにアッパー・ストラクチャーとなる音を構築した時の5度ベースというのは、調性感を希薄にさせるマジックを有している、という考え方もできると思います。


11th音というのは完全四度と等しいので、5度の音が下にあってルートを挟んで11th音がある、みたいな状況は、以前のブログで変格旋法やモードたる情緒を演出するためのナチュラル・マイナーとフリジアンの関係が5度の関係にあったように、モーダルな演出を和声的に実践している例という所に行き着くコトが可能になっている世界だと表現することが可能でありましょう。


旋法的な観点で見ればAマイナーの世界でありながら他の別の基軸を持った調性を拝借するかのように楽曲を構築するということが言えるということでもあります。


例えば、Aハーモニック・マイナー完全五度下を使って延々とインギーのような演奏しているな時に(笑)、アタマん中はDmに行きたくて(=解決)ウズウズしちゃってるでしょうか!?

殆どはAを基軸としてAとしての情感で弾いていると思います。これが前回にも言ったようにモードの最たる世界の例です。


ところがですね、ハーモニック・マイナー・スケールを会得している人なら、旋律的にはまったく同じ音なのに、ハーモニック・マイナー完全四度下の情緒を使える人というのは極端に少なくなるのが現実なんですわ(笑)。


Cマイナー・キーにおいてトニック・マイナー上でCハーモニック・マイナー完全四度下使ったとしたら、Gハーモニック・マイナーの音並びと等しいワケですが、調性の基軸をGに持っていったらこの場合モーダルな演出をしなくてはならないのでアホになっちゃいますね(笑)。Cの情感保ちながら「チョット違う情緒」というレパートリーが増えたみたいに解釈していただければ使いやすいと思います。


で、2009年10月号のジャズ・ライフでは、久方ぶりに渡辺香津美の特集が飾られているワケですが、コルトレーンのチューンである「Impressions」において渡辺香津美本人が下記のような珍しいと思われるコード表記のコードを用いて「おやっ」と思われた方も多いかと思うんですな。

「Dm7(#11)」というコード表記ですな。


とりあえずトニック・マイナー上でこういう演出なため、今回左近治はCから各スケールを列挙しているため「Cm7(#11)」として語るコトとしましょうか。


まず結論から言うと、この手の珍しいコード表記というのは、左近治が過去に提示してきた特殊なモードやらを使っていると頻繁に遭遇します(笑)。また、同号のジャズ・ライフ誌の渡辺香津美の譜例での「All The Things You Are」(=ジェローム・カーン)においてはディミニッシュ・コード上で減七の音の半音下である♭13th音も使っているコードが出てきますが、これも先ほどと同様、頻繁に遭遇するコードなのであります(笑)。


というのも、今回敢えて「ハーモニック・マイナー完全四度下」というスケールをジプシー音階らと併記している理由というのは、その音列の近似性ゆえなのでありまして、ジャズライフ誌のネタ引っ張り出して私のブログに持ち込んで語っているワケではないのでその辺は誤解のないようにご理解いただきたいトコロであります。


じゃあ、Cマイナー・キーのトニック・マイナー上で「Cm7(#11)」ってどうなのよ!?という疑問が沸く方がいらっしゃると思います。

おそらくは馴染みが無い方がほとんどで、「ハーフ・ディミニッシュにナチュラル5th音足した」構成音と等しいワケですが、ハーフ・ディミニッシュのそれとは全然違うワケであります。


とりあえず、手っ取り早くこの手の情緒を会得してみたい人ならば、Cマイナー・キーでのトニック・マイナー上でCハーモニック・マイナー完全四度下を使えば「Cm7(#11)」という情緒が得られるコトでありましょう。


通常、マイナー・キーにおいてはドリアンで対処することが多かったりするので、Cマイナー・キーならCドリアンを弾いている人というのは非常に多いと思います。


で、重要なのはCハーモニック・マイナー完全四度下のトーナル・センターはGにあるワケでして、Cドリアンのトーナル・センターがGということを考えれば、相互入れ替えはとてもスムーズな実例だということがお判りいただけるかと思います。


無論、トーナル・センターがGにあれど、トニック・マイナーとしての情感を保っているため、違った風合いを演出できるのは明白ですね。


また、マイナー7thにナチュラル11thではなく、#11th音を導入することで、ハーモニック・マイナー完全四度下は数々のジプシー音階にも似た世界にすり寄ることも可能となります。


さらに、マイナー7th(#11)というのを和声的に見た場合、もっと判りやすく形容するならば、「下がCmトライアドで上がEbm」の世界観を有したような音、と言えばもっと情緒が判りやすいかもしれません。鍵盤で左手五度(CとG)、右手がEbマイナー・トライアドを弾けば自ずとお判りになるでしょう。この場合の上声部と下声部の音程関係も重要なコトですので、この世界観はマストなものとして身に付けていただきたい情感ですな。


さらに9th音の扱いを変えることで数々の特殊なモードへ相互変換させることも可能ですが、ナチュラル9th音を導入した場合(=Cm9(#11))、和声的には次のような世界観を演出することができます。


「Bb(+5)/Cm」


という、上声部にはオーギュメント、下声部にはCマイナー・トライアドというポリ・コードを生む和声となります。おそらくはこうなるともはや上声部にはオーギュメンテッド・メジャー7thを欲してくると思われるので

「Bb△7(+5)/Cm」


というポリ・コードに拡張させることも可能となります。


過去に私が、今年の初め辺りだったか去年の末辺りだったか忘れちゃいましたが(笑)、私はよほどのことがない限り、ポリ・コードの扱いにおいて下声部にメジャー・トライアドではなくマイナー・トライアドを用いる時はよっぽどのコトがないと用いませんと述べたことがありましたが、それは今回のこのような理由がひとつとして挙げられます。また、過去のブログ当時では、今回のことを語るのは時期尚早と判断していたこともあって、今回あらためて述べているのでありますな。


さらに、和声的な世界観を拡張する例として、Cm7(#11)というコードが実は下がCマイナー、上がEbマイナーの世界とも形容できると述べたことで、上声部のEbマイナー・トライアドの3度下であるB音を追加させると、鍵盤で例えるなら左手五度(CとG)で上がB△7という和声を構築させることも可能となります。上と下のポリ・コードの音程関係が長七となるコードはこれまで結構使ってきましたが(笑)、この例の最たるモノが、坂本龍一作曲の「Elastic Dummy」のイントロですね。相当前のブログで語っていましたが、ハーモニック・マイナー・モードの世界観をさらに高度にキワい活用例だと思っていただいてもよろしいかもしれません。


また余談ではありますが、減七の和音にb13th音を使うというのは、これまで私がとりあげてきたジプシー系の音階やら特殊なモードを扱うとこれまた遭遇するものであります。

なお、慣例的にdimと表記した時減七の和音という暗黙のルールもあるとは思いますが、私の場合、過去にも述べておりますが減三和音であるディミニッシュ・トライアドと減七の和音であるディミニッシュ7thを明確に区別しているため、私のブログ上では四和音である減七の和音を表記する時は「dim7」と表記しますので、あらためてご理解ください。

また、これまでマイナー・メジャー7thあるいはマイナー・メジャー9thコードにおいて#11th表記をしてきたのも、先のような特殊なモードを想起するからこそのことである、というのもご理解願えればな、と。


最後に、今回画像で列挙した音階とチェレプニン・スケールがどのような近似性(=共通する音)を持っているのか、ということはあらためてご理解いただきたいところです。いけずな私は敢えて今回の音階にチェレプニン・スケールを掲載しなかった理由には、このような手法を習得しようとする方への自発的な研究・追究を促そうとする狙いもあります(笑)。

で、チェレプニンの話題を最後に持ってきた理由というのは、その近似性の他に、今回列挙した他の音階とのテトラコルドの扱いは全く別のトコロから生まれているので、モーダルな振る舞いとしての演出がチェレプニンの場合少々違うので、音は似ていても情感やら「マジック」のような基軸のうつろいは全く違うということを明確化したかったからであります。


例えば変格旋法における第4音の扱いや、ナチュラル・マイナーにおけるフリジアンとの音程関係や、トニック・マイナー上において属音にハーモニック・マイナーのトーナリティーがある、という音程関係というのは、言ってみれば主音から見た4度と5度の扱いのことを述べているというのはお判りだと思います。

仮にCチェレプニン・スケールがあった場合、他の音階と同様にチェレプニンのそれはF音もG音も包含しております。

しかしながら他の音階と共通する音を持ちながらもテトラコルドは全く違うため(オクターブを長三度ずつ3つに分割)、情緒の得方というのが異なるのであります。


チェレプニン音階というのは半音→全音→半音、半音→全音→半音、半音→全音→半音という、3つのグループで構成され、音並びこそシンメトリックであります。故に音並びは各グループが全く同じとなるのです。つまるところ、マージャンの「スジ」みたいなモノでして(笑)、

1・4・7
2・5・8
3・6・9


という風に、主音と第4音および第7音から開始しても全く同じ音並びで、それが同様に他のグループでも一緒だというコトであります。

但し、教会旋法の世界の方の変格旋法である第4音とチェレプニンの第4音は全く違います。

Cドリアンの第4音は「F」ですが、
Cチェレプニンの第4音は「E」となります。


以前にもチェレプニン・スケールで各グループの「性格」を載せていたことがありましたが、1・2・3音がプライマリ(=トニック)の場合、ドミナントグループが4・5・6、サブ・ドミナント・グループが7・8・9となるというアレですね。


つまるところ、「Cm7(#11)」の例で出した時、トニック・マイナー上で第5音であるGをトーナル・センターとしてGハーモニック・マイナーのモードとしてCハーモニック・マイナー完全四度下を見立てているというコトが、チェレプニン・スケールのそれだとドミナント・グループである4・5・6音にセンタートーナルを見立てるようなモノだとご理解ください。変格旋法である第4音のような扱いがチェレプニンでの7・8・9音のグループに相当する、という風に。


言っているコトがよく判らないと思う方には例えば次のような例が実際の演奏にてよく用いられるモノでして、トニック・マイナー上でCm7というコードがありました。そこでCメロディック・マイナーを弾いている。


こういう例は普通にあります。しかしよくよく考えると母体(バッキングなど)のマイナー7thとメロディック・マイナーの長七度とぶつかるんじゃないの?と疑問を抱く人が居るとは思いますが、旋律選びさえメロディック・マイナーの情緒を巧く扱える人なら全然問題なく「ぶつける」ことが可能です。

が、しかし、ここでマイナー7th上でメロディック・マイナーを使っているという解釈だけでは全然ケツが青い使い方なんですね(笑)。実際にはCチェレプニン音階の支配下で音を抜粋しているという例の方が相応しいと思いますし拡大解釈も可能となります。

もちろん、チェレプニンのことなど知らずにただ単にメロディック・マイナーを当てはめている人だって多数いらっしゃると思います(笑)。だけれどもそれだとなぜ短七と長七のぶつかり合う情緒を巧みに操ることが可能なのか?という説明にはなっておりません(笑)。


今度はCm7上でCメロディック・マイナーを弾くことで「特徴的な」長七度を演出したようにBチェレプニンを当てはめるとしましょうか。

チェレプニンの音並びと非常に酷似するジプシー系の音階は「ハンガリアン」です。ハンガリアンの第4音のモード=ハンガリアン・マイナーですのでBハンガリアンおよびEハンガリアン・マイナーをトーナル・センターとして想起することも可能です。

また、このトーナルセンターをチェレプニンのドミナント・グループの音程関係に沿って当てはめた場合、Eb or E or F#ハンガリアン=Ab or A or Bのハンガリアン・マイナーを弾くことと等しいとも言えます。

近似的な音を好意的に解釈してBチェレプニンが使えるということにした場合(あくまでも見立てとして)Ebチェレプニン、Gチェレプニンも音並びは同様なのは音並びそのものがシンメトリックな構造なので明白ですね。


もっと言うとこの場合、Cm7のルートの半音下のチェレプニンを見立てているのではなく、Bチェレプニンの「第2・5・8音」から開始したモードを当てはめているのでありますな。

Cm7(#11)の時にGにハーモニック・マイナーのセンター・トーナルを持ってきた情緒を生かしながらチェレプニンをドミナント・グループにあてはめると4・5・6音のいずれかにセンタートーナルを移すということを意味します。

判りやすく言えば、Cm7上でEメロディック・マイナー、Fメロディック・マイナー、Gbメロディック・マイナーにトーナルセンターを移して弾いているようなモノと「飛躍して」解釈することも可能です。

つまり、音の共通するBメロディック・マイナーやら、Eメロディック・マイナーとFメロディック・マイナーはかなり勇気が要りますが(笑)、このようなモードたる相互変換をすることでアヴェイラブル・ノートの解釈を全く異なる世界の情緒を持ち込む、という解釈を得ることができます。


通常、マイナー・コードをバックに長三度音を「ぶつける」というのは非常に勇気がいることですが(というより禁忌)、過去にも左近治が実践しているように、情緒の在り方さえマスターしてしまえば、非常に多様なコードとセンタートーナルの見立てが可能となるわけであります。つまり、なぜ迷い無くマイナー・コード上で長三度音を使えるのか?という理由のひとつでもあるから他なりません(理由はこれだけではありません)。

ただし、それらの音を羅列してしまうだけなら弾かない方がマシです(笑)。

つまるところ、ジプシー系の音階とメロディック・マイナー、チェレプニンとの近似性とセンタートーナルの見立てを身に付けて多様なモード・チェンジを可能としてアウトサイドな音を得ようとする狙いがココにあるワケであります。これでもよく判らない方は質問はいくらでも受け付けておりますのでご一報いただければな、と(笑)。


とまあ、このように前回と今回で手の内を少々さらけ出しましたが、ジャズ的な手法で見ればかなり視野が拡大できる手法だということがお解かりいただけたかと思います。無論、既にご存知であり実践されている方なら何の苦も無く導入されているとは思います。

また、重要なのはジャズ系の雑誌でミュージシャン本人が楽理的な部分を核心を付いてまで補足はしていないものの、雑誌として掲載されている文章を包含する理解力を読み手は備えなければ真の理解は難しいのでありますな。例えそれがたかが「雑誌」だとしても、です。

例えば、2009年9月号ジャズライフでのジュリアン・レイジが提示した、オクターヴを長三度音程で三分割して、分割した各音の半音上に音を付加するなど、このままではオーギュメンテッド・スケールですが、チェレプニンにまで発展させて根拠を見抜かなくてはなりません。無論、本人もジャズライフもそこまで述べておりませんし、同様に今回の渡辺香津美の「特徴的な」和声をクローズアップさせているものの、根拠までは述べてくれているものではありません。


こういうコトはジャズライフ側やアーティストサイドに責任を押し付けてしまうようでは本末転倒です(笑)。「なんでキッチリ教えてくれねーんだよ!」みたいなね(笑)。

それらを読み取れるように、日々、自身が音楽を追究して会得しなければならないものであり、ネット上やら、たかだか初心者に毛が生えた程度のありきたりな理論ブック(理論書とまでは言いません)を読んで学んでいる程度ではおそらくいつまで経っても先に進むことはできないでしょう。


また、今回提示したような世界観で最も身近に触れ合うことができるであろうアーティストというのはブレッカー・ブラザーズがお手本となるでありましょう。

彼らの特徴的な音というのはまさにこういう世界観を包含しているもので、特徴的なスケールを暗記して羅列した程度では彼らのような情緒は決して得ることはできません。

彼らのような情緒を得る近道というのは、センター・トーナルの移動とその基軸をキッチリ捉えることのできる鋭敏な感覚があってこそなワケであります。

彼らはトランペットとサックスを吹いているワケで、ポリフォニックな音は扱えませんが、自然倍音列と密接な関係(プレイ面で)において、自身の追及と共にモーダルな世界における重要なトーナル・センターの見据え方、というのが鋭敏になっているものだと思われます。ある意味、倍音列からは生じないような親近性に程遠い音程関係をどのように導入すればさらなるモーダルな世界を発展することができるのか、という追究が実に如実に表れて体現されているのが彼らだとも思うワケですな。


ところが最近のジャズ界は「基軸の見据え方」というのも、杓子定規におさまっただけの「ジャズ屋」が多いのも事実でありまして、基軸の見据えを感覚的も備えておらずスケール音の羅列でしかないのが多いので情緒とやらが全く希薄なんですな(笑)。

基軸の見据えが鋭敏な人の音、というのは異端でもあり、奇異に映るかもしれませんが、そういう音に覚醒されている人の感覚こそが「証明書」なんだと思うんですな。ですので、こういうネタをネットで披露しようとモ使いこなせる人は極めて少ないと思われるので、敢えて語っているワケですな。無論、私はジャズメンではないワケですが、その辺のジャズ屋とは違う基軸の見据え程度は備えているつもりですよ(笑)。まだまだケツが青いですけどね左近治は。イイ年こいて(笑)。