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短六度(=増五度)のマジック [スティーリー・ダン]

「Deacon Blues」のイントロ部分のコード進行で顕著なのは、偶数回に出現するコードでありまして、例としてイントロ部分の2回目に出現するコードを抜粋してみましょう。

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 イントロ部分、最初の4つのコードのベースは半音クリシェを「C→B→Bb→A」という風に下降して行きます。そこでの「B」の部分を抜粋すると、ここでのコードは表記は色んな解釈があるでしょうが、例えば「Bm7(+5)」とか「A7sus4/B」とか色んな表現があります。

 私の持っている輸入楽譜だと「Bm7(+5)」という風に表記をしておりますが、5th音を使いつつ「短六」の音を導入している時など、たまに「●m7(b6)」などという表記を目にしたこともある人はいらっしゃると思います。

 但し「A7sus4/B」という表記だと「E音」を含むことになるので「Bm7(+5)」が適切であるのですが、この「E音」というのは直前のCメジャー7thの3rd音が「遺していってくれた残像」と呼ぶべきガイドラインとなっているんですな。

 というのも、一番最初に登場する「C△7」と、この2つ目のコードは一応Cメジャーのトーナリティーを維持している動きで、最初のコードの「掛留」とも言える残像を含みつつ進行している妙味というものがあります(※掛留は実際には音伸ばしっぱなしですからその辺は混同しないで下さいね)。

 しかしながら、それら2つのコード進行の間でトーナリティーを維持してはいるものの、外側の世界を垣間見ることのできる調性の「うつろい」とやらの情景をも確認することのできる美しい世界観が存在していて、今回左近治は、普通に聞き流しそうなそんなシーンをストップモーションのように凝視するように外側の世界とやらを確認してみようという思いで語ることにします。

 マイナー・コードにおける短六の扱いというのは、実際には和声の性格が違いますので、コード表記そのものの簡便さにつられて理解をおざなりにしてはいけないので注意が必要なんですが、仮に「Cm7(b6)」なんて表記があったとしたら、それは実際には「Ab△9 (on C)」というコトを見抜かなくてはならないんですな。

 とまあ、少し横道に話題が逸れているものの、マイナー・コード上においての短六の扱いはご理解いただいているとは思うので、「増五度」表記となると少々解釈を拡大させても宜しいのではないか!?という場面が出てくるので、もう少しばかりこの話題を続けますね。

 マイナー・コードにおいて5th音が「増五度」の場合だと、先述の短六とは違って5th音が完全五度ではなく増五度となっているのが特徴となります。

 主音から短三度音程を持ち、且つ五度が増五度となるモードというのはかなり特殊なモードを導入することになります。

 例えばチェレプニン・モードを想起した場合、以前チェレプニン・モードとして導入した時のダイアトニック・コードというのは3種類の増三和音を例に出しましたが、増三和音を用いて説明したのは、それらの数が非常に少なくシンプルに理解できるのではないかという理由から用いたのですが、6種類のメジャー・トライアドをダイアトニック・コードして用いたり、マイナー・コードを用いたりすることも可能なワケです。

 また、以前にはチェレプニンの音階とはプライマリー・グループの他に、サブ・ドミナント・グループとドミナント・グループと、明確に3つ情緒を有している音階だということも説明したワケですが、重要なことは、3つの増三和音をダイアトニック・コードとして用いた時の各コードの構成音のルートと三度音、五度音の各音はそれぞれ1音ずつプライマリー属、サブ・ドミナント属、ドミナント属にキッチリと明確に棲み分けされているんですね。モードの世界はI類・II類というように2つのグループに分けて捉えますが、チェレプニンに3つの情感があるというのは以前の記事からもお判りになっていただけたかと思います。そこが特殊な部分ですね。

 同様に、チェレプニン・モードにおいて長和音でダイアトニック・コードを形成する時は、6つのメジャー・コードの各構成音のルート・三度音・五度音は等しくそれらに属した方がチェレプニン・モードとしての安定感を得られることにもなります。短和音をベースとするダイアトニック・コード形成も同様です。

 そうして、チェレプニン・モードにおいてマイナー・コードをベースとするダイアトニック・コードを形成すると五度音は自ずと「増五度」を形成してくれるんですな。

 わざわざチェレプニン・モードを形成せずに完全五度音をオミットして短六をあたかも増五度のように用いることも可能ではありますが、和声だけ鳴らされていれば充分かもしれませんが、旋律的に対処するとこの扱いは足枷となります。

 判りやすく言えば、オルタード・スケールを用いた時に、人によってはそのスケールをスーパー・ロクリアンと同様の扱いで用いているかもしれませんが、実際のオルタード・スケールというのはb9th音と#
9thをスケールに導入したものでありまして、同じ「九度音」に属する変化系の音であるため、和声的にb9、9、#9を同時に扱えないシーンと同様の「足枷」が生じてしまうということを意味しているのであります。

 モード・スケールを当てはめた場合に、実際にはモード・スケール上で完全五度と短六の音の2つがあったとしても、和声的には完全五度をオミットして短六側の音を和声的に導入することで結果的に「増五度」の音を示唆するということもあるというワケですが、混同しないように注意が必要ということです。

「他の」トライトーン!?

 例えばドミナント7th上でドミナント・モーションを得る場合、それはトライトーンの和声的な落ち着きへの欲求がもたらす進行だということはお判りいただけるとは思うんですが、7thコードが出現したからといって必ずしも完全四度上または短二度下に解決するものでもない進行に出会ったことがあると思います。Cメジャー・キーにおけるG7とDb7がトニック・メジャー(=C△)や平行調に解決するというシーンではないという意味です。

 ドミナント7thというコードを少々「穿った」見方をして、「複調的」に捉える、という意味なのであります。

 こういう例外的な進行はトライトーンの見いだし方の違いによって生まれたもので、ドミナント7th上では基本となるトライトーンは「長三度音と短七度音」なワケですが、オルタード・テンションも視野に入れればトライトーンを生じる音など数多く存在します。例えば、

●・・・「5th音とb9th音」
●・・・「9th音とb13th音」
●・・・「#9th音と13th音」
●・・・「#11th音とルート音」


 ってぇこたぁ、これらのトライトーンを有するドミナント7thは他にも想起できるだろってことをも意味することになるワケですな。つまり、上記のように他に見いだせるトライトーンを、母体となる所とは別のドミナント7thを想起してみる、という視点です。

 Cメジャー・キーであった場合、何もG7とDb7だけではない可能性も内在しているというワケですが、「#9thと13th」という組み合わせから他にドミナント7thを作っちゃうとCメジャー・キーを例とすればG7上で想起できるその7thコードは「F#7とC7」となってしまって、これでは本来のドミナント・モーション時に現れる次のコードを次に行かないまま示唆しかねない「曲解」を生みます。

 しかしM3rdと#9tthの作る長七度(=短二度)は美しいですし、同様に7thと13thの作る長七度(=短二度)も非常に美しいのであります。

 但し、ドミナント7thとしてのオルタード・テンションを用いるシーンでは私自身の経験では「#9thと13tth」の和声的な同時使用は少ないのでありますが、おそらくその理由のひとつに、ドミナント7thに(母体の)複調的な考えを導入する際、先述のようなジレンマを生じかねないので、ドミナント7th上において「#9thと13th」を用いた音はどちらかというとドミナント7thのそれよりも分数コード的な響きに聴こえるのでありまして、複調的な側面でみるとそのようなジレンマが近い所にあるために、ドミナント7th本来の情緒とは違う和声感を抱いてしまうからなのかもしれません。

 無論、G7において複調的な側面で見たことで「C7とF#7」を想起できるからといって、元々C音を和声的に導入していたワケではありませんし(笑)、Gから見たM7th音であるF#音も和声的に導入しているワケではないのですから「#9thと13th」はNGってワケではないですよ(笑)。

 ドミナント7thのような響きなのに、積極的にM7thの音などを用いてる音を聴いた場合、それは機能的にドミナント7thのそれではないということまで理解していただければ誤解が生じないかな、と。

 メジャー7th上で7th音(=増六度)の音を耳にするのも同様、マイナー9thコード上でb9thの音を聴いたりするようなシーンなど、それらの矛盾は何もドミナント7thではありませんが、機能的に全く異質の世界で表現されているものと理解してください。

 だからといって、結局はチャーチ・モードの世界に収まる曲調でムリヤリいかなる音を羅列しても問題ないというコトではありませんからね(笑)。

 完全に、基本となる属和音としての機能を失わせてそれらの音を得たい場面でしたらコード表記そのものも変える必要性が出てくるでしょうが、とりあえずオルタード・テンションの同じ度数グループから派生している音は和声的に同時使用がない例、またはトライトーンを発生させても実際の機能を失わせてしまう例などこうして横道に逸れつつもお判りになっていただけたかと思うワケですが(笑)、つまるところ、オルタードとスーパー・ロクリアンを混同するような間違いは、こういう増五度を用いる場面でも同様に混同してほしくない、という気持ちから脇道に逸れて話題を振っている左近治なのであることをご理解いただければ、と思います(笑)。

 今回はかなり横道に逸れた部分が長いので、この辺でとどめておきましょうか(笑)。続きは後日。