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完全四度レイヤーから見えるもの [スティーリー・ダン]

扨て、前回はスティーリー・ダンの「Deacon Blues」のイントロのコード進行を題材に掲げながらも、脇道での注釈部分に力が入り過ぎて本題を語ることが出来ませんでしたので(笑)、あらためて仕切り直すことにします。

今一度、前回の冒頭の段落をいくつか抜粋してみますので、もう一度おさらいという事でご確認いただければな、と。


「Deacon Blues」のイントロ部分のコード進行で顕著なのは、偶数回に出現するコードでありまして、例としてイントロ部分の2回目に出現するコードを抜粋してみましょう。

イントロ部分、最初の4つのコードのベースは半音クリシェを「C→B→Bb→A」という風に下降して行きます。そこでの「B」の部分を抜粋すると、ここでのコードは表記は色んな解釈があるでしょうが、例えば「Bm7(+5)」とか「A7sus4/B」とか色んな表現があります。

私の持っている輸入楽譜だと「Bm7(+5)」という風に表記をしておりますが、5th音を使いつつ「短六」の音を導入している時など、たまに「●m7(b6)」などという表記を目にしたこともある人はいらっしゃると思います。


とまあ、こういう内容だったワケです(笑)。

ディーコン・ブルースの涙を誘う歌詞の素晴らしさというのを今ここで語るのは無粋とも思えるわけですが、絶望の淵に居ながら我に返り、それこそ果ては無縁仏にでもなりそうな世界に放たれているような自己に少しでも幸福感を与えようとするような世界観。本当に深いです。

そういう深みと、何かメッセージを遺したいというようなものは和声においても反映されていて、それが、前回冒頭で語った「E音の残像」と形容したワケであります。

また、直前のコードトーンのE音を導入することで1小節内2個のコードから構築される調的な親和性と、はみ出すことの可能性という双方の性質を楽しめる場面でもあるので今回語ることにしたワケですな。

じゃあ、とりあえずその偶数回に出てくる最初のコードの構成音というのは「残像」も含めた場合「B、A、D、E、G」という音で構成されることとなり、完全四度ずつ並び替えることが可能なワケですね。

それが画像で確認できる「Primary」というピンクの楕円で囲った五線表記の部分であります。

01Perfect4th_multi_layer.jpg


今回私が声高に語りたい部分はですね、この時点で「アウトサイド」な世界を見いだしてほしい、というコトなんですな。

完全四度音程を等しく上方に6回積み上げると、6回目で7音を構成することになるんですが、仮にC音から順次完全四度を積み上げると結果的にCフリジアンを形成することになります(C、Db、Eb、F、G、Ab、Bb)。


「Deacon Blues」のイントロ部、2つ目のコードというのはB音を基準にして順次完全四度を積み上げればいいのでありますが、とりあえず構成音として見出したのは5音なので(原曲のヴォイシングの実際は四声ですよ)、モード・スケールを「確定」するまでには至りませんが、複調的な「可能性」としては非常に興味深いシーンとなっているワケであります。

Perfect 4th 6 Layeredという風に見ればひとつの可能性としてはB音の下にF#音を追加するか、或いはG音の上にC音を追加するか、という可能性がまず挙げられます。

譜例では「1」と「2」の例となるワケですね。但し、まだ6レイヤーなのでモードスケールを確定するとまでは至っておりません。

01Perfect4th_multi_layer2.jpg


等しく完全四度を積み上げている7音の内の5音を確定している状況だと思っていただければいいわけですから、6レイヤーと同様に7レイヤーにおいても上方・下方同様に「可能性」として四度音程を追加していきます。

そうすると「3、4、5」という譜例のようになり、結果的に

●C#フリジアン
●Cアイオニアン
●Cリディアン

という3つのモードスケールの可能性を生んだことになるワケです。

02Mode_scales.jpg


「Cアイオニアン」(=Cメジャー)というのを生むのは、基からCメジャーから開始されるので、アウトサイドの可能性を見いだすまでもなくCメジャーの情感を維持できるという結果を導く照査となりますが、あくまでも「アウトサイドの可能性」を主眼に置いているので、これでは面白くない(笑)。

そこで、もう2通りの方に目を向けると

「C#フリジアン」「Cリディアン」という可能性を導くことができました。

「C#フリジアン」のトーナリティー「Aメジャー」という風に見ることができ、一方で「Cリディアン」は「Gメジャー」のトーナリティーとなるので、Cメジャー以外に2つの「可能性」とやらを導くことができました。


ココでピンと閃いてくれた方は、過去の私のブログをご理解されていただいていると思うんですが、長二度離れた「GメジャーおよびAメジャー」という2つのトーナリティーを導いたというコトは、先に語った事のある「ミクソリディアン+エオリアン」というハイブリッド・モードの概念を用いることも可能なワケですな。

ここまで「拡大解釈」をするとですね、Gメジャー+Aメジャーから得られる「ミクソリディアン+
エオリアン」というのは、「Dミクソリディアン+エオリアン」という結果を導くことが可能となりました。


これまで左近治が「ミクソリディアン+エオリアン」というハイブリッドなモード解釈をする際、あるマイナー・コード上の長二度下からのアプローチで実例を出してきましたが、今回のような拡大解釈をすると、マイナー・コードの短三度上のミクソリディアン+エオリアンという用途も視野に入れるということが可能ということを意味します。基本となるコードはこの場合「Bm7(+5)」だったワケですからね。

一方、増五度を短六度と捉えて転回させてメジャー・コード(=G△)の短三度下、つまりGメジャーからみた平行調の関係にある「Em」を仮想的なマイナー・コードと捉えて、ハイブリッド・モードの概念を導入してアプローチという考えも導入すれば、結果的に、私がこれまでマイナー・コードの全音下からの「ミクソリディアン+エオリアン」のアプローチ、つまるところDから開始することになるので、元のコードを転回しても合致するワケです。

「Deacon Blues」ではこのような説明をしていますが、他の曲でマイナー・コードが出現した場合、見出す「マイナー・コード」が必ずしもトニック・マイナーというトーナル・センターを導く必要はないので、基本となるマイナー・コードにドリアンを想定すれば、その4度下/5度上にトニック・マイナーを見立てたりとすることも可能ですので、この辺りの可能性とやらも以前に説明してきたのでお忘れなく。


まあ、簡単に言えば「こんなに遊び甲斐のあるコードなんだよ♪」と言いたいんですが、まだまだコレで終わったワケではありません。

完全四度レイヤーを導入して「C#フリジアン」を導いている所も実に可能性を秘めておりまして、C#フリジアンというのはC#を基本としてテトラコルドを上下逆、すなわちミラー・モードを形成すると、C#メジャーが得られます。

すると、Bbに行く前にCメジャーとC#メジャーという「うつろい」という可能性まで考えを拡大させることも可能であります。もちろん同様にCリディアンも導いたワケですからGメジャーの可能性をも秘めているという、実に多様な複調ワールドを構築させることが可能なシーンなワケです。

たった2拍の音価にこれだけの可能性を詰め込んでも遊びきれないかもしれませんが(笑)、ディーコン・ブルースのイントロの「うつろい加減」というのは楽譜にすればこそ簡単に表記できる場面かもしれませんが、曲そのものの「うつろい加減」というのは、こうして左近治が提示したアウトサイドの可能性のある音が含まれているワケではないのに、曲調は既に「うつろい」をビンビン感じますよね(笑)。

そういう風に聴かせようとするスティーリー・ダンのマジック、いやこれは平均律の世界を巧みに利用したモノなのだろうと思うワケですが、いずれにしても可能性溢れた感じに聴かせてくれるのは流石SDと思えるワケでして、同時にベッカー御大を深く研究していると、左近治のような「穿った見方」で和声を見る(聴く)のが日常になってしまうので、この曲のイントロはあらためてベッカー御大の音だと推察できるのでありまして、また、ベッカー御大が「Medical Science」的なアプローチを「Deacon Blues」でもやっていたとしたら、必ずしや今回左近治が提示しているアウトサイドな概念で得られる音に出くわすので、これがベッカー御大の作品を楽しむひとつの角度でもあるんですなあ(笑)。


さらに譜例では、後述の譜例のようにC音からの4度音と5度音がそれぞれクエスチョン・マークにしている例がありますが、これは、完全四度の積み重ねを6レイヤーで留めた場合の可能性を示したものです。

03ViewFrom6Layered.jpg


最初の4度音が「?」になっている方は、モードスケールとしての可能性は「FかF#」しかありません。とすると、この場合は先の例のようにCメジャーかCリディアンの可能性しかないということを意味します。

もうひとつの例では5度音が「?」になっているのでありますが、他の音を見れば何となくCリディアンを想起できそうな音列ですが、G音を当てはめれば確かにCリディアンで確定できますが、可能性としては他に「G#」もあるワケですね。

そうすると、G#を選択する可能性を秘めているワケで、そうなるとCリディアン・オーギュメントという、メロディック・マイナー・モード(=Aメロディック・マイナー)を示唆することとなりまして、実はメロディック・マイナー・モードの世界にも寄り添う事の出来る可能性を秘めていることにもなるワケですな。

アルバム「Aja」との出会い

私が最初にSDのアルバム「Aja」を手にして一番最初に気に入った曲は「Deacon Blues」ではなくて「Black Cow」の方でした。勿論、ドラムをやっていた左近治は「Aja」におけるガッドのドラムにはゾッコンでしたけれども、曲そのものの好みとやらは「Black Cow」の方が好きでした。

で、私がメロディック・マイナーの情感に心奪われるようになったのは17歳の頃。今まで持っていたレコードやCD(CDプレーヤーを最初に手にしたのは1985年)で何気なくやり過ごして聴いてしまっていた曲から新たな情感を発見することができたりしていたワケでした。キッカケを与えてくれたのはジェフ・ベックの「Diamond Dust」とピンク・フロイドの「Us And Them」でありました。

それらの情感に目覚め年を重ね、いつしかアルバム「Aja」の中で最も好きな曲が「Deacon Blues」になっていて、当時はSDというバンドは一時解散してしまっておりましたが、ウォルター・ベッカーの「11の心象」に出会ったことで、「Deacon Blues」のイントロ部の「たった2拍」の部分にすらやり過ごすことの出来ない「穿った見方」を養ってくれることになったワケですね(笑)。

ウォルター・ベッカーらしい「穿った見方」を理解できるようになったことで、音価の短い和声的に響きに対しても非常に敏感に情感を見出すことができるようになったというのが私自身の感じてきた経験であります。

身に付けたそういう感覚が良いのか悪いのか扨置き(笑)、とりあえず私も「Deacon Blues」のイントロのコード進行において、敬愛するベッカー御大的な穿った見方で違ったアプローチを用いてみようと思いまして、ちょっとばかりフレーズを用意してみました。

04other_approach.jpg


コード表記のそれとは、実際の音符の臨時記号の音程関係が変わっていて異名同音が多く面食らうかもしれません(笑)。「B#」やら「E#」という表記も使っていますし(笑)。

でも、この表記は音符を追い掛けて読む方なら前後の音の関係もありますが、こちらの方が混同することなく躊躇せずに読譜が可能だと思うんで敢えてこうしたんですな。

単音だけかいつまんで音を確認すれば「見慣れない」表記かもしれませんが、こちらの方が断然読みやすいと思います。

余談ですが、私が追加したこのアプローチ部分の譜例のみ珍しくLogicProの譜面機能で起こした譜例です。他は全てFinaleで過去にも作ってきているのですが。

基となるコードから見ればアボイド・ノートを羅列させてしまっているように見えるかもしれませんが、そこにはきちんとした「言い訳」が用意されておりましてですね(笑)、とりあえず聴いていただければ「変な音」とやらがそれほど変に聴こえない筈だと信じてやみません(笑)。

故マイケル・ブレッカーも「逃げた」アプローチを、穿った見方の世界から毒を提供するとどうなるのか!?という狙いです(笑)。

曲の美しさを妨げずに導入するというコトが根幹にあるのは言うまでもありません。その結果がマイケル・ブレッカーのプレイだったのかもしれません。

如何にアウトサイドなアプローチを導入しようとも、複調的な要素で調性を確定してしまうようなアプローチよりも「うつろい」を演出するにはやはり原曲のようにグッとこらえていた方が酩酊感や「神秘体験」みたいなモノを誘発してくれるかもしれませんしね(笑)。

余談ですが、左近治がよ〜く用いるハイブリッド・コードで、表記的には分母側がドミナント7th、上声部である分子部分が下声部の3rd音をルートとしたsus4或いは7thsus4のコードなんですが、コレは従来もしつこい程語っているんで今更語る必要はないかと思うんですが、和声的な響きとしてどうなるのか?ということを確認してもらいつつ、今回の左近治のディーコン・ブルースでのアプローチに用いた「アウトサイド感」とやらは次のような響きを元に作られております。



拒絶感を抱くほど不協和ではないと思うんですが(笑)、Esus4/C7とA7sus4/F7と「便宜上」それぞれ明記することにしましょうか(笑)。まあ、参考までにお試しくださいな、と。

そーゆーのを使うと、こーゆーのにも用いるコトができます。



なんかフローラ・プリムっぽいシンセ・リードでよくありそうなマジ系クロスオーバーになっちゃってますけど(笑)。