SSブログ

結局、メロディック・マイナーはどう使う? [スティーリー・ダン]

これまで、マイナー・メジャー7thやハーフ・ディミニッシュ9th(マイナー9th♭5th)らを例に出して語って参りましたが、それでも「文章主体だとよく解らねぇっ!」という方のために左近治、用意して参りました。とっておきのを。


とりあえず左近治流にメロディック・マイナーから語ります。ではメロディック・マイナー・モードのダイアトニック・コード群を見てくださいね♪

MelodicMinor_DiatonicChords.jpg


こうやって提示するとあらためて判り易いと思うんですが、7thコードが2つ出現するってぇのが特徴的ですね。これを一般的な曲においてメロディック・マイナー・モードを「拝借」するとすれば、ある曲においてドミナント7thが出現したら、上下に長二度の調に行ける可能性、或いは同時に長二度上下のいずれかの調性を示唆する響きにも活用できるということです。

さらに注目すべきは第6音と第7音の部分の2つのハーフ・ディミニッシュ。

Bm7(♭5)は、これはもうCメジャーにおいてもポピュラーなハーフ・ディミニッシュ(ただし、メロディック・マイナー・モードなのでロクリアン・スケールが当てはまるワケではない)。

Am7(♭5)も同じくハーフ・ディミニッシュ。両者の決定的な違いは、長九度つまり9thの音が「使える」ハーフ・ディミニッシュはAm7(♭5)の方だけです。コードだけ弾いてしまえば判らないものの、それをどう提示するかが「モード」たる世界でありまして、これらを使い分けることで、ハーフ・ディミニッシュが出現した場面で、9thを使うことで「こちらの世界」に一気に足を踏み入れることとなります(笑)。わざわざハーフ・ディミニッシュの所でそういう使い分けをするよりも、ポピュラー音楽においても出現頻度の高いドミナント7th上で使い分けると、ドミナント・モーションを演出することなく、そのまた長二度上の7thコードに進行させたりとか、そういう使い方もアリっていやあアリです(笑)。

メロディック・マイナーでの11thは増減の無いナチュラルな11thでありまして、第3音のE♭△7(+5)も♭13thの音ではないということが確認できますね。



続いて、ハーモニック・メジャー・モードのダイアトニック・コード群。

HarmonicMajor_DiatonicChords.jpg


こちらで着目すべき点は4つ。まず一つ目の着目する点は、第2音のDm7(♭5)は「9th音の使える」タイプのハーフ・ディミニッシュということです。

二つ目の点は、第4音のFm△7です。こちらの11th音は#11音となるタイプのマイナー・メジャー7thコードという点。つまり、11th音を半音上げればメロディック・マイナー・トーナリティーとは違うものということです。

三つ目は、第6音のA♭△7(+5)で、このコードでの9th音は強制的に「増九度」となるため(マイナー3rdの異名同音)、9th音まで視野を広げた場合、メジャーとマイナーが混在して一般的には使いにくいかもしれません。しかし、この増九度音を巧みに使うには、メジャー7th音との跳躍を巧く使ったフレージングにより違和感はそれほど大きなものにはなりません。

もっと重要な使い方は、この母体のコードをトライアドとして見立てて、A♭△と擬似的なA♭mという風にメジャーとマイナーの相互交換という風に捉えた使い方もできます。音階に短三度の跳躍を持つからこそこのような「矛盾」とも言えるようなメジャーとマイナーが混在する世界が存在するワケですが、このようにコードの構成音を欲張って重畳した和声を演出するよりも、シンプルに構成して、より多様な演出を繰り広げることが可能となります。このような使い方はハーモニック・マイナー・モードにおいても言えますし、同様に後述のハンガリアン・マイナー・モードにも言えることです。それら3種類のモードをも示唆しつつ、和声はシンプルに、モードにおいては多様な組み立てをするのが、ウォルター・ベッカーであり、国内では坂本龍一が顕著です。ほんの少しさわりを知った程度なら「メジャーとマイナーの行ったり来たり」的にしか映らないかもしれませんが、実はメジャーとマイナーによる多様な相互変換とは、こういう「裏」を秘めているんですね。坂本龍一の「Lorenz and Watson」というのは、それらのモードを示唆する世界となるワケです。

ハーモニック・メジャー・モードの特筆すべき4点目は、第7音のBdim7です。コード表記からも判る通り、dim7ってこたあ「減七」の和音、つまり各構成音は等しく短三度の音程なのです。

左近治は、dimという表記をする時はディミニッシュ・トライアド、dim7とした時は「減七の和音」と明確に区別しています。たまに、dimと表記しているだけでも減七だったり、あるいはdim7をディミニッシュ・トライアドに短七の音を加えると誤解してハーフ・ディミニッシュと混同する人がおりますが、短七がさらにダブルフラットで半音下がったから「減七」(=げんしち)なのであり、ディミニッシュ・トライアドは「減三」和音なのであります。和名と洋名を正しく認識していれば誤解は少なくなると思うので老婆心ながら横道逸れました(笑)。

で、ハナシを戻しまして、Bdim7の各構成音が短三度音程と等しいということは、どの構成音を基本音としてもそれはdim7となるのはご存知の通り。そうなると!?

Bdim7
Ddim7
Fdim7
A♭dim7

となります。注目すべき点は、どの構成音を基本音としても、それらの基本音には他のダイアトニック・コードの基本音が別にあり、重複するわけです。

つまり、ハーモニック・メジャーをモードする第2、4、6音のコードは、減七和音への相互変換を可能としているわけですね。まるでクリシェを行うようにDm7(♭5)→Ddim7というコード進行も可能でありますし、逆も然り。FとA♭のところでも同じようなことが言えるワケです。

ポピュラー・ミュージックにおいてもこのようなコード進行は珍しくありません。つまり一時的な他調の調性感を「拝借」している行為を、多くの人はそれを「経過的」なものとしてして見過ごしているだけで、このような相互変換はハーモニック・メジャー・モードに限らず絶え間なく行われていると言っても過言ではないのです(※チャーチ・モードで収まる曲はこのような相互変換は乏しい)。短調の曲ではこのような「経過的」とも言える相互変換が多かったりします。それの「経過的」と感じる音の必然性を熟慮しないだけで。

ハーモニック・メジャー・モードの第7音と解釈してdim7を弾いた場合、他の3つのコードにあたかもリセットできてしまうような、そういう不思議なパラドックスが秘められているのであります。減三フレーズが古くから多用されていたのは、他の調性への「リセット」やクリシェや多くの可能性を秘めていて、且つ便利であったものだからこそ重用されてきているとも言えます。

ディミニッシュを巧く使うことで全く異なるコードへの相互変換を可能にする、流麗なフレーズを生み出すことが可能になるワケですね。ディミニッシュの「咀嚼」された巧みなフレーズを操るプレイヤーというのはこういう用法も活用しているとも言えます。無意識に使う人もいるとは思いますけどね。ハーモニック・メジャー・モードの最も特筆すべきなのが、ディミニッシュの用い方であります。マイナー・メジャー7thが現れてくれるモード、程度でしか使わないのは実に勿体無い、特にジャズのアプローチにおいては極めて重要なモードであると断言します。



次にハーモニック・マイナー・モードのダイアトニック・コード群を挙げますが、突飛なコードが少なく(笑)、見慣れた感すらあるでしょう。

HarmonicMinor_DiatonicChords.jpg



要点を挙げるなら、第2音のDm7(♭5)では9th音の「使えない」ハーフ・ディミニッシュです。トニックのCm△7もナチュラルな11音となります。E♭△7(+5)では#11音の使えない少々使いにくいメジャー7thです(笑)。

加えて、A♭△7では9th音が増九度となるのはハーモニック・メジャーと似ておりますね。マイナーとメジャーの相互変換はここでも可能です。さらには第7音のBdim7においてもハーモニック・メジャー・モードで取り上げた「特筆」部と同じですね。

ハーモニック・マイナーをワンクッション的に使って、先述で挙げたモードに移行するのも良いでしょう。しかしハーモニック・マイナーをもう少し発展させたいなら、ダイアトニック・コードではありませんが、属七の代理和音(=代理ドミナント=裏コード)の導入がスムーズになるモードでもあります。つまり、D♭7を使うと、調的に遠い調性へのドミナント・モーションを利用したり、メロディック・マイナー・モードに移行させたクッション的な使い方で用いれば、聴衆には突飛な感じが少なくなるとも言えるでしょう。

ハーモニック・マイナー・モードで多用されるのは、第5音からのモードで「ハーモニック・マイナー完全5度下」スケールとしても知られている音階がありますが、裏コードへのスムーズな移行を忘れてはなりません。この場合だと「D♭7」ということですな。D♭△7も使えるワケですが、多様な可能性は裏コードとしての「D♭7」に軍配が上がるでしょう。しかもスムーズに。

また、ハーモニック・マイナー完全5度下に似た用法が、スパニッシュ・モード。スパニッシュ・モードはフリジアンの変化形で、フリジアンの第1音をメジャー化して偽終始感を楽しむモードですね。

ハーモニック・マイナーやスパニッシュ・モードのクッション的な用法は彩りを増すでしょうし、聴衆にあまりにも突飛な感じを演出せずに耳がなじむように移行できる手法だと思います。特にハーモニック・マイナーの場合、音階の並びのそれが非常に強い叙情性を持つため、音階の音を羅列するだけでも弾き切れてしまうような「歌心」を備えています(笑)。そういう意味でもクッション的な役割として合間に用いるのもひとつの手段ではあるかと思います。


こうして見るだけでも、実は「自然短音階」として知られる「短調」も実は多用な「変化」を曲中で行っていて、これらのモードからの「拝借」と置き換えられるシーンが多くあります。他調の拝借という用法はこれらのモードが全てというワケではありませんけどね(笑)。



最後にハンガリアン・マイナー・モードに行ってみましょうか。別名「ジプシー」の音階。

Gypsy_DiatonicChords.jpg


なにせこの音階は半音が2個続くところがあるのに、強い叙情性はハーモニック・マイナーにも引けを取らないとても強烈な性格を持ちます(笑)。半音の出現箇所が多いため、ダイアトニック・コードに表すと、長七音程を持つコードが非常に多いのが判ります。


ハンガリアン・マイナー・モードを使う場合、7種類のコードは2つのグループに分類した方が使いやすいかもしれません。

第1グループ
Cm△7、E♭M7(+5)、GM7

第2グループ
その他のすべて


注目すべき点は、第4音のF#dim7sus2(笑)。便宜上、このような表記にしましたが、構成音に関して言えば、なんてことない「A♭7」と同じ音なんですよ(笑)。但し、普通の7thコードとはチト違います。F#音をルートとしてみれば♭9th音、A♭をルートとして見れば長七度つまりメジャー7thの音を使えることになります。

A♭7なのにメジャー7th?

これこそが、A♭△7での「増六度」(=短七の異名同音)を使える、という特徴ですね。


じゃあ、第6音のモード見てみましょうか。「A♭△7」となっておりますね。

つまり、A♭7とも使え、A♭△7とも使え、欲張れば増六度まで(笑)、という使い方が可能なのですね。

メジャー7thをそのままセブンスに置き換えて、セカンダリー・ドミナントという進行をすることなど非常に多くあります。

夏といえば昔は「TUBE」でしたが(笑)、「シーズン・イン・ザ・サン」のサビは誰でも知っていると思います。

「いつまでも このままで いたいのさ~♪」←♪の部分はトニック・メジャー7th→I7thという風に移行して、サブドミに行くという常套手段ですね。

こういうシーンにおいてもチョットこだわりのある音使いしちゃって導入することが可能となるワケですね。

しかも第7音のBm6なんて、A♭m7(♭5)と構成音同じです(笑)。

つまり、A♭△7使えるわ、A♭7使えるわ、A♭m7(♭5)使えるわ、A♭をルートにしただけで3つのコードの任意選択可能になっちゃいます。いやー、これは実に多様ですね。こんなに欲張ってアチラの世界に行ってよろしいんでしょうかと思わんばかりの自由度高過ぎです。

ちなみにCm△7の11th音は#11音となるというのはお判りですね。

んで、第2音のD7(♭5)という、A♭から見た表裏「ウラ」の関係にあるというのも、先のA♭の多様性をさらに深くしているというところが見過ごせない所です。

見方を変えればこのコード、A♭△/G♭(F#)という分数コードとも言えます。よくある7thベースの分数コードですね。D△/Cとかよく出てきます。そういうシチュエーションにおいてこのモードを使うという可能性もあります。それが全てではないですが、発展性の可能性という点では重要です。

ベースがF#という場合も含めれば、上声部がA♭の場合は先述の3つのコードと裏コード、さらにはA♭△/F#(G♭との異名同音)という、実にバリエーション豊かな自由度を持っていると言い換えることができるというワケですね。


こんなに自由度の高いモードがあるなんて♪

第5音のG△7は9th音が強制的に「短九」となります。つまり♭9th音を「使える」メジャー7thコードだということです。

メジャー7thコードにおいて「増九」となる強制的な変化は先に挙げましたね。つまり、こういう「特殊な音」をあれこれ掻い摘んでみると、増九を選んだら●●のモード、短九を選んだら!? 

はたまた増五度と♭13th音の違い(メジャー7thコード上において)を使い分けることで如何に多様性が増すか、ということはお判りの通り。

バップ・フレーズはおろかダブル・クロマチックも巧く操れない。しかしながら、これらの特殊と思えるようなモードをきちんと咀嚼することにより、アウトサイド感を恐れずにスケールの叙情性を利用した「アウト感」を演出しながら、きちんとマスターすることができます。

その上で、メロディック・マイナーの咀嚼を最後に「シメ」としてきちんと理解できるようになれば、アナタもきっとアチラの世界感が判るようになります(笑)。


まあ、今回は「キモ」となる部分を非常に多く列挙したので、一朝一夕ではマスターしきれないかもしれませんが、こういうステップを踏んでメロディック・マイナーの理解度やマイナー・メジャー7thの理解度を深めると手中に収めやすくなると思います。フレージングも多様になりますし、耳も自ずと鍛えられてくるでありましょう。