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十二分音(72EDO)を取扱う微分音変化記号 [楽理]

 因みに ‘EDO’ とは、Equal Division of Octave の略称であるので「72EDO」というのはオクターヴを72等分割した音律という事を意味します。’EDO’ とは ‘ET’ とも称される事があり、こちらは Equal Temperament という略称という事を意味する物です。

 一般的な半音階社会である十二等分平均律が「12EDO」という事を思えば、その6倍もの細かな分解能としての中立音程が等しく存在する状況が「72EDO」という物なのですが、それを「十二分音」とも称する理由は、全音を12等分割するという意味でもあるからなのです。

 先日、Twitterで微分音を扱っていると思しき楽曲を紹介されている方が居り、ツイートに埋め込まれた動画を聴いてみると冒頭からリュートと思しき実に娥しい72EDOを用いた旋律が現れ、脳幹をブチ抜かれる衝撃を受けたのでありましたが、そのフレーズの美しさのあまり思わず採譜をしてしまったという訳です。

 先のツイートでレコメンドされていたのはSARIさんという方が唄う「tojikome ta」という楽曲で、Apple Musicでも用意されているので興味のある方は是非耳にしていただきたいと思う所です。




 採譜した微分音部分のフレーズをハーバ・アクシデンタルを用いるとどの様に映える物なのか!? という事を確認してもらいたいのもあり、今回は非常に短い尺ではありますが当該部分の譜例デモを制作したという訳です。Logic Pro X上でリュートとSculptureを用いてベルのパーシャル組成を施しているというデモです。




 72EDOという体系整備というと微分音の先駆者であるアロイス・ハーバまで遡る事が出来ますが、表記という面で微分音変化記号の整備および共通理解は必要な物であるのは当然の事であり、その後ハーバを受け継ぎあらためて変化記号を用いたヴィシネグラツキーを筆頭に挙げる事ができるでしょう。

 その後、エズラ・シムズ、ルドルフ・ラッシュ等が続き各人各様の微分音変化記号を作る事になるのですが、シムズの記号の最たる特徴は複数の記号のコンビネーションの型を採っているというのが特徴でもあります。

 下記の譜例は、72EDO(十二分音)記譜スタイルの違いを表した物で、アロイス・ハーバ、ヴィシネグラツキー、エズラ・シムズの物を掲載した物です。

72EDOs.jpg


 ハーバが変種微分音変化記号を12種揃えなかったのは嬰種の微分音変化記号でも賄えるという判断で変種のそれを半音下の範囲まで狭めたのであり、ヴィシネグラツキーは嬰・変種ともに充当させているのが特徴です。シムズの場合は、嬰種優勢で全音上近傍となるに伴い全音上からの変種を充てた折衷としているのが特徴です。シムズのそれはどちらかというと、サジタル記号にも似る様な所があろうかと思います。

 ヴィシネグラツキーの72EDOでの微分音変化記号の大きな特徴は、72EDOが内含する四分音変化記号を、他の体系でも使用される四分音表記に配慮しているという点では非常に峻別が容易である所がメリットとなりますが、それら以外の記号は見慣れぬ独自のフォルムがあるので、他の変化記号が覚えづらいという側面もあります。

 ハーバの72EDOの表記では、一般的な四分音表記で知られる同型の記号が四分音相当ではない音に充てられたりするので、その辺りが若干苦労する点ではあります。然し乍ら他の変化記号が読みやすいのが特徴です。因みに、伊福部昭著『完本 管絃楽法』(音楽之友社)の55頁で紹介される72EDOの微分音変化記号はハーバ・アクシデンタルの物です。

 西洋音楽界があらためて微分音体系を整備する理由は、遡る事紀元前のアリストクセノスの時代から三分音、四分音、八分音に相当する微小音程が存在していたからでありまして、そこから1300年程進んでダレッツォのヘクサコルドの時代を経た後に楽器製作の為の工業技術が向上するに伴い音律の世界は数学者の手を借り乍ら発展していったのでありました。

 そうしてミーントーンが久しく優勢であったのですが、古典調律のそれらは三度または五度音程の何れかに重きを置く事で各音律の性格が見えて来る事になります。

 ミーントーンが優勢となる中世の時代でも36EDOや31EDOは提唱されていたのでありましたが、やはり微分音の世界観が強化されるのはアロイス・ハーバまで時代を進めなくてはならないだろうと思います。

 今回の譜例動画で用いている記譜フォントはEkmelosであります。ハーバ・アクシデンタルはバージョン2.18から追加されたのであり(※本記事初稿時のEkmelos最新バージョンは2.19)、それと同時にファーニホウの「Unity Capsule」で知られる五分音(31EDO)の変化記号も追加された事は記憶に新しい所です。




 現状では、それらの新しい変化記号はプライベート領域となるフォント・グリフに登録されており、SMuFLが正式に採用している物ではないので暫定的な追加となっている模様です。2021年初頭にもSMuFLはバージョン1.4へ更新されるという事はアナウンスされているので、Bravuraフォントの方でも正式にハーバ・アクシデンタルが追加されるか否かは静かに見守ろうかと思います。

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