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13thコードを想起したジャズ・アプローチ [楽理]

 今回は記事タイトルにある通り「13thコード」を取り上げる訳ですが、一般的13thコードというのは和声の歴史的側面から考えれば「属十三」の和音の出現が先に起る訳ですが、私は茲で機能和声を念頭に置いた和声観を語る訳ではなく、あくまでもジャズ・アプローチの為に必要な理解としての「13thコード」を今回取り上げるので、今回は属十三の和音ではなく「副十三」の和音を取り上げる事になります。


 副十三と言っても今回取り上げるのはその一つであるドリアン・トータルの方を取り上げる事になります。ドリアン・トータルという事は全音階的に3度音程を堆積させた7音に依る和音という事となり、以前にも述べた様にリディアン・トータルと共にドリアン・トータルの副十三の和音というのは包含する三全音が複音程として引き延ばされる事で、他の音世界の影響を受けやすい状況を作り出していると考える事が可能となるので、三全音に対して某かの「他の音」の因果関係の影響を受けやすいと判断する事が出来るそれを私は「闖入」と表現していた事は記憶に新しい事でありましょう。

 和声的な意味ではリディアン・トータルの方が扱いやすいでしょう。尤もこれはジャズ的アプローチの側面から見立てた事で、凡ゆる音楽に於てこれが適用されるとまでは言いません。然し乍ら、少なくとも全音階におんぶに抱っこの様な卑近な音楽観として狭隘な理解に留まっていない音楽方面であれば、こうしたアプローチは特にジャズ限定という訳でもないという事も併せてご理解願いたい所ではあります。

 扨て、リディアン・トータルが和声的に取扱いやすいとしたら、ドリアン・トータルは何を意味するのか!? それは「横の線」つまりフレージングに於て取り扱いがとても楽になるのです。それを説明する前にほんの少しだけ「属十三」を語っておく事にしましょう。


 属十三の和音というのは通常、11度音は本位音度として現れるのであります。ジャズ/ポピュラー界隈のコード表記体系だと、本位11度音は下行五度進行に於ける後続和音のアンティシペーション(先取音)に等しいので、これを増音程(=増11度)にオルタレーションさせてアヴォイドを避けるという様な考えを前提とする所があるので、そうした界隈での13thコードで仮に「G13」と書かれた時、内在する11th音は「♯11」と思っている人も多くあるでしょうが、単に「13」というサフィックスが附与された時というのは包含される11th音も本位11度であるのが正当なる理解であります。それが本位11度でない事を示すならば「G13 (♯11)」として遣るのが配慮された表記であると言えます。

 然し乍ら我々は仰々しく13thコードを使う事よりも、「不完全和音」たる13thコードを用いている事の方が多いのであります。「G13」だとしても実際には「F△7 (on G)」(=属十三の長三度、完全五度省略としての不完全和音)や、属十一の不完全和音としても見る事のできる「Dm7/G」(=属十一の長三度音省略としての不完全和音)として取扱っている事の方が多いという意味です。中には分数コードを己の肥やしとして使っていない人も居られるかもしれませんが、己が取扱っていない状況が世界の中心であるという風には決して考えずに、己に培われていない音楽観でも思弁的には理解に及ぶ様に判断して欲しいという事もあって私はこうして述べている訳です。


 こうした「属十三」の和音が結果的に分数コードとして取扱われている現状とは別に、副十三の和音であるドリアン・トータルを今回はこっぴどく取り上げる訳であります。扨て、なにゆえリディアン・トータルよりもフレージングとして巧みに使える様な妙味があるのか!? という事を取り上げる事にしましょう。


 幹音を基とした場合ドリアン・トータルは「Dm13」という風に表す事も出来るでしょう。音符としては7音が次の様に3度堆積として生じている訳であります。一般的にはDm上で生ずる13th音がドリアンの特性音として含んでいる訳ですが、全音階の総合としてでもある訳ですから、結果的に属和音を包含する状況だと、内在する三全音が直近のダイアトニック・ノートへ進行しようとする牽引力が生じかねないのでフレーズ的にはG7系統の和音にて偶々ベースがD音である様な時と大して変りないが故に、アヴォイドとして忌避していた方が無難、というのが通常の一般的な解釈です。

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 とはいえ私はドミナント7thコードの後続和音の進行が必ずしも下行五度進行ではない弱進行の例やらを例示して来た上で、副十三に包含される三全音が複音程に引き延ばされる体系(=リディアン・トータルとドリアン・トータル)を、アヴォイド・ノートの存在に尻込みせずに用いる事の出来る側面を語って来た上で今回もあらためて説明を続けているという部分は念頭に置いて欲しいと思います。


 では、なぜドリアン・トータルが「フレージング」的に重宝されるのか!? という理由を語る事にします。率直に言えば、Dm13という和音は基底に [Dm] を持ち、完全五度音を共有する様に [Am] を包含し、長九度音を共有する様に [Em] を包含している状態であるから、というのが答なのです。でも、これらのマイナー・トライアドが如何様にしてフレージングが豊かになるのかとピンと来る方は少ないと思います。では解説を続ける事にしましょう。

 それでは判り易くする為に、Dm13に15度音を附与する事にしましょう。そうすると次の様になります。こうして積み上がっている和音から、先のマイナー・トライアド [Dm] [Am] [Em] という物を見抜いてもらいたいのです。その上で、先の抜粋したマイナー・トライアドに対して夫々七度音を付す事にしてみましょう。そうすると自ずと [Dm7] [Am7] [Em7] という状況を先の15度和音から見抜いて貰いたい訳です。それが次の様になるのです。

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 つまりは、これら3つの四和音がDドリアン・トータルに内在していると考えて貰いたいのであります。フレージングの妙味は茲からが本番です。

 
 Dm13というコードが一つのコードである以上、 [Dm7] [Am7] [Em7] のコードに解体してみたとはいえ、Am7とDm7を連結してしまうと下行五度進行の進行感が生じてしまい、それだとワン・コード的世界観が無くなってしまいます。ならば、解体組織として考え得る [Dm7] [Am7] [Em7] というコードが弱進行である状況を用いて並べれば、それらのコード進行が3つ並んだとしても「Dm13」という風に俯瞰して見立てる事も出来るという事を私は述べたい訳であります。その弱進行化が最も成立しやすい状況というのはDm13上にて「Em7 -> Dm7 -> Am7」でありますが、ジャズ・アプローチとして最も入り易いのはDm13というコードを「Em7 -> Am7 -> Dm7」という風に苛烈な迄に四度進行を想起する方がアプローチとしては入り易いかと思います。ですので今回は後者の下方五度進行側のアプローチを例に挙げる事にしますが、ベターな方法は想起した仮想的なコード進行が弱進行化している方が多様にはなるという事は忘れずにご理解願いたいと思います。

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 それでは佳境に入りますが、次のサンプルの様に1小節1コードで「Dm7 -> Fm7」というコード進行を例にフレージングしてみようと思います。茲で注意して欲しいのが、各々のマイナー7thコードを仮想的にドリアン・トータルとして想起してもらいたいという事です。つまり「Dm13 -> Fm13」という風に想起して欲しいという事を意味します。その上で、各マイナー13thコード内では先の様に3つのマイナー7thを細分化して想起して欲しい訳です。そうなると!?

Dm13・・・Em7 -> Am7 -> Dm7
Fm13・・・Gm7 -> Cm7 -> Fm7

 という風に想起する事が可能となるのです。そこでフレージングの条件として、細分化して想起したマイナー7thは下行形のブロークン・コード(=分散和音形)として奏でる。Em7は上から [d - h - g - e] という風に分散和音として奏され、茲で一旦組織は使い果たしたとし、次のマイナー7thコードへ移る際には後続のマイナー7thのルートに対して三全音のターゲット音を与える様にしてアプローチする音を一つ入れて連結します。すると、後続のAm7の分散和音の前に「E♭」の音が入る事になり、同様に、Dm7の分散和音形に対して三全音のターゲット音となるアプローチが入るならば「A♭」の音が入る事になります。そうして作られた音は次の様にして構築する事が可能となります。

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 赤色で示した音が、細分化された分散フレーズ用のマイナー・コードに対して三全音のターゲット音となるアプローチ・ノートであります。この分散フレーズは近年で言えば濱瀬元彦著『チャーリー・パーカーの技法』に通ずる物がある事を見出す事は容易な事でありましょう。こうした見立ての中で『チャーリー・パーカーの技法』のアプローチと少々異なるのは、細分化させて見立てた別々の分散フレーズ用のコードに三全音のアプローチ・ノートを介在させている点。

 分散和音用の夫々のマイナー7thコードが「明確に」下方五度進行をしてもらいたいのであれば、それはマイナー7thではなく属七化すべきの事です。しかしそうした属七化としてのオルタレーションを視野に入れず、後続の分散フレーズに対して三全音を挿入するだけで良いのです。この三全音のアプローチは「中心軸システム」のそれも視野に入っているもので、「♯Ⅳ or ♭Ⅴ」を「Ⅰ」と同等に見做す為の想起です。つまり、Em7 -> Am7という分散フレーズの過程に於て「Am7」のルートを「Ⅰ」と見立てた時、その「♯Ⅳ or ♭Ⅴ」は等価であるという見立てです。これは基の和音が「Dm7」というワン・コードであるが故の事です。分散フレーズのそれは明確に下方五度進行があるのですが、それを匂わせる事が無いのは先行の三全音が後続の分散フレーズの中心軸システムの対蹠音=三全音を紡ぐからです。

 これらを踏まえると2小節目の「Fm7」でも同様のアプローチを採る事が可能なのですが、最初の1拍目は「場持たせ」なのですね。しかし、2拍目では「Gm7の分散」の7th音=f音に到達したいので、それに対して「五度・五度」で巧く紡ぐ様にして、E♭音から派生する順次進行と、E♭音から五度関係にあるB♭音を経由して、更に五度でf音に到達している訳でして、その後のアプローチは1小節目と同様なのであります。


 ドリアン・トータルの中に3つのマイナー7thコードを捉えるのではなくて、ルートと五度音に生ずるマイナー7thという2種のマイナー7thコードだけを三全音で紡ぐと、チック・コリアの、以前にも私が取り上げた「King Cockroach」のアプローチと同様の音を得る事になります。しかしあちらの場合は、パーシケッティの投影法にてミクソリディアンとエオリアンが混合している様にしてそれらの音組織を硬減和音が掠め取っている様な見立ての方がよりチック・コリアのアプローチらしさが見えて来るので、混同しない様にお願いします。










 加えて、今回想起したマイナー7thの分散というのはそこにはメジャーの分散組織も包含している事になります。例えば「Em7の分散」は「Gメジャーの分散」を包含しているという意味です。

 最近のジャズでは、例えばこの様に「包含されるメジャー」をオルタレーションさせる事が「よりモダン」になるのです。『チャーリー・パーカーの技法』ではこうした想起される四和音の分散の五度音をオルタレーションしたりするというチャーリー・パーカーのアプローチの実際を詳らかに分析している物ですが、それと似た様なオルタレーションを特に「五度音」に見出すとアプローチが採り易くなる事でしょう。ですからEm7に包含される「G△」の分散を「Gaug」にオルタレーションさせるとか。そういう意味ですね。「増」ではなく「減」にオルタレーションのアプローチを採ってもそれは何ら構わないのですが、内在するメジャーを「増」にオルタレーションさせる方がモダンです。とはいえ80年代のジャズからこの音は顕著に現れておりますけどね(笑)。

 
 リディアン・トータルを今回のドリアン・トータルの様に取扱えないのは、3つの同族の長和音を抽出できなくなるからなのですね。どうしても1つはドミナント7thコードになってしまう。ですからマイナー・コード上の方が多様にアプローチできる訳でして、私が予々「ドミナント7thコードは嫌いだ」とか言っていたのは、別にドミナント7thコードを取扱う事が嫌なのではなく、予見が楽なドミナント7thコードの響きに易々と乗っかりたくないだけの事でありまして、そうした事を踏まえるとマイナー・コードでのアプローチが最も多様としていたのはこうした側面もあるというのがひとつの理由です。

 又、マイナー7thの分散であるにせよ、そこにはメジャー・トライアドの分散も包含している訳ですから、そのメジャー・トライアドの姿を諸井三郎の変化三和音を今一度振り返って適用させてればオルタレーションという変化した音は、初歩的なコード体系を紋切り型で覚えてしまった事と比較して更に多様なオルタレーションを身に付ける事ができる訳です。無論、こうした事を体得するにも新たな体系を覚える事に変わりはありませんが。


 扨て、次は先のコード進行「Dm7 -> Fm7」の各小節の分散を弱進行として想起して 「Dm7」のコードを[Em7] [Dm7] [Am7] という分散を順に充てて、「Fm7」を同様に[Gm7] [Fm7] [Cm7] という順でのアプローチを同様に採って見る事にしましょう。それが次のサンプルとなります。
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 私の耳では、この2つ目のサンプルの方が外れ具合と原調との間のバランスが非常に良く整っている様に聴こえます。先の1つ目のサンプルだと衒いが足りない感じがあるのです。勿論これは個人の好みに依る物なので、どちらが良い・悪いでは無い事はご容赦を。


 扨て、基となるマイナー・コードをマイナー13thコードと捉えて、それから3種のマイナー・コードを得ている訳ですが、1つは基の短和音組織を利用しつつも、その他に2種の別の短和音を音脈に取り込むという所に注目してもらいたい訳です。それらを紡ぐ時に三全音を利用する訳ですが、更に言うと、全く別の経路として生じた2種のマイナー・コードを更に同様に13thコードを仮想的に見立てて細分化する事も可能ではあるのです。その際、下方五度進行で進むべきか弱進行にて進むべきかはプレイヤーの好みに依るので、その辺りは匙加減として考える方がよろしいかもしれません。


 また、基にあるマイナー・コードに「スーパー・インポーズ」させるという風にまで極めた場合、分散フレーズ用に想起したマイナー7thの分散が包含するメジャー・トライアドの分散に対してオルタレーションを施すのも一つの手段でありましょう。例えば次のサンプルでは「Dm7」上にて最初に生じさせた分散用のEm7に対して、Em7が包含する「G△」を「Gaug」とオルタレーションを想起します。加えてこの分散用Em7の5度をブルー五度にオルタレーションさせると結果的に「Edim△7」を得る事になり、非常に突飛なフレーズから開始される事になります。同様に、包含されるメジャー・トライアドの分散をオルタレーションさせているので、注釈を確認しながらフレーズを追っていただければと思います。

 3つ目のフレーズというのは、これを冒頭から奏するのはかなり唐突な印象を与える事でしょう。「Dm7 -> Fm7」という2コード・パターンの提示が前提にあるか、又は少なくともDm7の提示を色濃く感じるアンサンブルの後に、こうした突飛なフレーズが現れれば非常に彩りを増す事でしょう。何の提示も無く唐突に提示してしまうと音の逸脱感ばかりが非常に色濃く出てしまう為、この辺りは注意しなくてはならないでしょう。しかし私個人はこの3つ目のフレーズはジョー・サンプルっぽさが感じられると個人的には思います。

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 今回こうして取り上げるアプローチとして陥穽に嵌りやすいのは、分散和音に頼りすぎてしまう嫌いがあるという所。本来ならば順次進行やクロマティック・アプローチを巧みに導出し乍ら鏤めて行くのがより良い手段となりますが、単純にモードに準えた音組織に依るヘプタトニックの総合となる様な分散和音として現れる訳ではないので、そこは矢張りターゲット音としての三全音が非常に効果的なのは瞭然です。とはいえこればかりに頼っていてはいけません。

 然し乍ら、フィンガー・スタイルのベーシストというのは弦を爪弾く指の運動が、「高→低」という風になる為、こうした高→低の分散和音は非常に活用し易い物でもあります。ベーシストが分散和音を準え乍らフレージングするという所も亦乙な物であり、フレージングのアプローチのし易さで言えば、モードに準えるだけの手法でもなく、コード・トーンばかりを準えるだけの紋切り型のフレーズの脱却としてチョットとしたスパイスを与えるのに遊ぶインタープレイなどでは最適ではなかろうかと思います。

 勿論今回示した方法論が全てなのではなく、13thコードを想起してそこに分散和音用にマイナー・コードを抽出する際、それらのマイナー・コードを三全音置換してしまうのも一つの方法です。仮にDm7というコードを [Em7] [Dm7] [Am7] という風に抽出したら、その内の任意のマイナー7thコードを例えば [Em7] [G♯m7] [Am7] という風にしてしまう例とかですね。そうするとG♯m7の直前のターゲット音はD音を導くよりもターゲット音を省略しても構わないのであります。そうした応用も可能になるという訳です。一つの策に溺れる事なく、全音階の総合と三全音の活用だけでこれだけ音楽観は多様に拡大するのであります。

 また、Dm7というコードが1小節ではなく2小節に及ぶ様な場合は、分散フレーズ用のマイナー7thブロークンを律儀に [Em7] [Dm7] [Am7] を抽出するだけでなく、例えば「Am7」を更にドリアン・トータル・コード解体すると(※実際にはこうした用法は15度音程を俯瞰して用いた2オクターヴ解体である事に注意。2オクターヴを見渡した時は完全八度を態と飛び越してヘプタトニックを《ペンタコルド+テトラコルド》と解釈して飛び越した増八度を共有して2組のヘプタトニックを得る等、パーシケッティの『20世紀の和声法』を参照)、Am7の箇所に[Bm7] [Am7] [Em7] を想起する事も可能です。最後のEm7が初動のEm7と被るのを避けるのであればそれを三全音置換して [B♭m7] の分散を充てるのも一つの例でありましょう。そうして [B♭m7] が後続の和音「Fm7」に進行する際に、茲でFm7に対する三全音のターゲット音「B音」を奏してからFm7に入るというのも凝ったアプローチとなる事でありましょう。