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ドコモ『とりカエルのうた』に見る微分音の活用例 [楽理]

 ほぼ1ヶ月振りのブログ更新となってしまいましたが、1記事あたり1万〜2万文字が珍しくない私のブログを読んでもらうにはコレ位のペース配分が恰度良いのだろうか!? などと逡巡し乍らの投稿となった訳ですが、別に話題に乏しく行進が遅れている訳でもなく、過去記事を比較考察していただきながら熟読してもらおうとも思っている事なので、楽理的な話題はまだまだ続きますので御承知おきを(笑)。
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 扨てそんな中、最近ついつい耳と目を奪われてしまうCMに遭遇する事になったのがドコモのCMに中条あやみさんと"ポインコ兄弟"なるぬいぐるみのペアが現われるシリーズの中で『カエルの歌』の替え歌バージョンとなるCMでのカエルの被り物がエライ具合に可愛らしかったり、途中輪唱の追行句がなぜかリディアンに移旋してしまったりと、色々音楽的にツッコミどころ満載な感じを創り手が楽しんでいる感が伝わって来るのでそんな器楽的側面を私ならではの観点から述べていこうと企図し、今回はそのCM曲を摸倣したサンプル曲をYouTubeにアップし乍ら語って行こうと思います。



 器楽的側面で語るとなればついつい食い付き度くなるキーワードに、先述の「追行句」「リディア
ン」「移旋」があったと思いますが、まずはその辺りから語る事になります。

 ポインコ兄弟が二声で唄う、これを3度でハモり乍ら二声で唄う時、通常の音世界に於て各々が「ファ」と「ラ」を唄って上行するとしましょう。そうすると「ラ」を唄っていたパートは次に「シ」へ進みますが、他のパートが先行音で「ファ」を唄っていたため、前後でトリトヌス(=三全音)という対斜が生じてしまい、これは四声体書法の和声学では禁則であります。トリトヌス対斜を避ける為に臨時変化を生じさせるのが通例であるのですが、通常我々が取扱うヘプタトニック(=7音音階)は、ごく普通に「トリトヌス」を生じる音が「ファとシ」にあるものですが、『とりカエル』の歌では変ト長調に生ずる「ファとシ」=(変ハとヘ)でのトリトヌス対斜ではなく、態々先行句がG♭リディアンに移旋して本位音となった「ハと変ト」でトリトヌス対斜を態々作るのですから、これは態と逸脱させている感がアリアリな訳ですね。つまり、創り手としては「音痴」な感じを狙い乍ら奇を衒っている訳であります(笑)。


 すると追行句は5小節目で更なる「逸脱」を始めます。無論、音痴な感じが演出されている事に疑いの余地は全くありませんが(笑)、このズレ具合が実に絶妙で、四分音律と十二分音律に準則する微分音が使われているのですから、これはなかなか凝ったアレンジであります(笑)。声の主の方がこれほど整った微分音を唄うとしたら相当な音感を持っていらっしゃると思いますが、恐らくではありますがピッチを修正しているのではないかと思います。とはいえピッチ修正を変ト長調の音組織に準えるのではなく、敢えて四分音と十二分音に整えるという事を為し遂げているのですから、この辺りの細かな奇の衒いは創り手が相当楽しんでいるな、という事が能く判ります。

 猶、今回用いた微分音表記は通常一般的に確認できるWikipediaの微分音のそれとは違います。これは敢えて通常の微分音体系よりも更に注意を促す意味も込めて、ヴィシネグラツキー流の十二分音表記に則って表記している物です。私の手許のフォントではアロイス・ハーバ流(※伊福部昭著『管絃楽法』にて確認可)やエズラ・シムズ流にも対応できるのでありまして、それらの十二分音表記の流儀では比較的一般的に知られる四分音(=クォーター・トーン)表記に準則している物が多いのですが、ヴィシネグラツキー流のそれは更に視覚的に凝視が可能と謂いますか、流し読みを許さない感があるので私は敢えて今回こちらを選択した訳です。


 そういう訳で、私自身サンプルを作ってこうした器楽的な逸脱に目を惹き付けられる事に荷担するかの様に敢えて楽しんで作ってみた訳です。無論YouTubeのサンプル曲もCMに倣って同様に微小音程を再現しております(笑)。

 
 こうした点を単に面白がって了うだけではなく、5小節目の追行句のパートが唄う中立音程の跳躍加減は、きちんと傾聴しなくてはならない部分だと私は痛切に感じます。これがもし脳内で半音(=12等分平均律)に均されてしまって感じてしまうのは問題アリです。そういう意味でも、このCM曲が決してお笑いの種とならぬだけの器楽的な注意喚起を孕んでいる含蓄のある物でもあるのです。調律の狂ったピアノに無頓着で居られる様な人の場合はこうしたケースを均して聴いてしまう事が非常に多いかと思いますので注意され度し。

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