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同位和音(3) [楽理]

 同位和音から得た同主調が有する「長和音」を共有和音として見做し、そこに上方倍音列に準ずる様に長属9+増11度のドミナント7thコードを充てて4つのメロディック・マイナーを得たのが前回です。


 通常、ハ長調/イ短調で生ずるイ短調での導音欲求によって生ずるG→G#への変化で生ずるE音を属音とする属和音は、長属九ではなく短属九です。つまり9度音が長9度ではなく短9度であるのが正常な姿です。そうすると先のメロディック・マイナーの嵌当は無理矢理な嵌当なのではないか!? と疑問を抱く方が居られるかと思います。

 そもそも元の調性に強くしがみつく様ならば嘯く必要もありませんし、平行調の長・短の性格だけを嗜んでいればよい訳です(笑)。ですから、同位和音を得るに当って原調が作って来た轍を利用しつつ、その上で嘯こうとしているのです。その嘯きは、通常我々が属調の音脈を利用する類のとは少々異なり、下方五度の音脈(変格的要素)を利用し乍ら、その変格的な世界に上方五度の趣きを利用しようとするものです。

 例えるならばハ長調域にてCミクソリディアンを嗜む時というのはヘ長調=Fという調性から生ずる音組織を利用している訳ですが、Fから五度上のハ長調の音組織をも採り入れるとするならばF音からみると独名b音とh音の何れをも選択肢として視野に入る事を意味します。Cミクソリディアンに加え、Cアイオニアンをも同居させる様な状況化を招いている様な物と形容すれば良いでしょう。

 ですから、ハ長調/イ短調でE音を共有するというのはその音脈としては最初だけ「ハ長調/イ短調」の音組織を見ておりますが、この時点では根音を共有するという音脈だけしか拾って来れればいいので、イ短調の属和音を拾って来るのではなく「属音」を拾って来れれば良いのです。最終的にE音を根音とする長和音を充てますが、これはイ短調の導音欲求を含む属和音ではなくイ長調の属和音として見ているからこその長属九の嵌当であるという事を理解してほしいのです。

 属和音から主和音へ解決する際のⅤ→Ⅰ進行というのは、それそのものは確かに「下方五度進行」ではありますが、だからといって調性格が5度下の調域に依存しているという訳ではない事はお判りでしょう。ハ長調の性格をヘ長調が有しているでしょうか!? 違うという事は明白です。

 例えばハ長調をCミクソリディアンとして嘯く時、中心音の取扱いが違うからこそその性格であり、Cミクソリディアンの音組織はヘ長調の物と同一ではあります。つまり、ハ長調の平行調であるイ短調の属和音をそのまま「直視」するのならば短属九を充てて然りですが、実際には属音のみを頼りにしてその同主調側を見る事で「同位和音」を得ている為、微妙に異なるという訳です。

 更に付け加えれば、ハ長調の平行短調の属音「E音」は確かに属音として見るとしても「ドリア調の属音」だとしたらどうでしょう? 「嘯き」という行為はこういう方面まで視野に入っていなくてはなりません。Aドリアンの属和音がEの時もあります。しかしこれは五度上方の調域、すなわちト長調の音組織を向く事になり、四度和音を生じさせた音脈と逆行し上方倍音列の卑近な音脈に準えてしまうので、既知の情感(それは三度や五度の因果関係に構築された物)に囚われ易い方の音脈でもあるというのも事実。

 ですから、折角四度和音を形成したのであれば、四度和音の基底音の方角、すなわち下方五度を探って行く(下方五度を転回すれば基準とする音の四度上行に現れる)という事を意味する訳です。この四度を見るという事は「不協和」という物に固執する事と、上音由来の牽引力に諂う事が無い様に振舞っているのでもあります。



 扨て、茲で漸く前回のおさらいとなります。先の同位和音から得られた4つの派生音《C#・G#・E♭・B♭》は、確かに今現在はこれらを異名同音的に変化させて「完全四度等音程」として注目しておりますが、この状態は下方四度であり、決して「下方五度」ではありません。そこで次の鍵盤図を確認してもらう事にしましょう。


 今回の話題に挙げている同位和音を用いて得られた派生音は基は幹音の音組織であるハ長調/イ短調から端を発しており、4度等音程のスタートとしてC#となっているのはイ短調の主和音Amからの同位和音であるA△の関連性から生じている音であります。一方、幹音組織から得られる同位和音は他の調域の脈も使っております。イ短調の属和音であるEmの同位和音「E△」です。つまり、C#はE△の平行短調の音脈でもありつつ、イ長調の第3音(上中音)の音脈でもあると見る事が出来る訳です。1番であるC#のサブの組合せとなるかのように薄くE音に1番を付しているのはそうした配慮なのです。

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 こうした関連性を際限なく見ると、E音よりも高い方に他の音の関連性を見付けて行く様に視野を拡大できるでしょうが、「四度等音程」の構造として見る事で上はC#・下はB♭という風に「閉じた」社会ですので、E音より上に更なる因果関係を拡大する事は不要になる訳です。

 つまり、C#音を発端とする四度等音程の「隠れたE音」に依って作られていると考える事ができるのです。勿論他の同位和音である「Cm、Gm」の可能性はどこに!? と疑問を抱く方がおられると思いますが、それらの派生音の社会は、全て先の「閉じた四度等音程」の内声部にあると考える事ができるのです。加えて、これは倍音に引き寄せられた進行感を伴わせる必要の無い音社会の振る舞いをする方が重要なので、この「閉じた等音程」の音脈の上限をEと見做し、下限をB♭と見做すと、両者は奇しくも三全音関係にある事になります。

 一旦その三全音を転回させると1番のリラティヴ(relative)(3度下)にB♭音が生ずる事になります。つまり、1番は本来A△から得た音脈のC#音なのですが、Tonnetzの様に、そのC#が主音の様にしてその平行関係にB♭音が存在するかの様に見立てる事も可能となって来るのです。

 つまり、完全四度等音程という4音による閉じたシステムを一組の組織として見た場合、1番は4番とも機能し合って平行関係をリレーし合う様な状況になっていると考える事が出来る訳です。

 そうすると2番が同様に持っている可能性としては赤色で示していない淡黄色5番に音脈を見付ける事が出来る筈で、目に見えぬ5番は自ずとF音になる訳です。
 
 5番目の音というのは新たな(2組目の)等音程のセットであり、その別の組の音脈が、源泉となるC音から見ると「下方五度」に当るという事です。

「四度音程の当初の発端はC#であるから、C#の下方五度としてF#を見るべきだ!」と述べる人がおられるかもしれませんが、それならばハナから同位和音を見ていた意味が無くなります。同位和音として見立てていたのは四度音程の発端として現れるのは確かにC#であろうとも、それが生まれるのは幹音組織を基準に見立てたからが故の事です。加えて、仮想的に想起する事になった淡黄色で示した1番は本来のC#音の「影」としても位置付けられますが、結果的にこの音の長七度下方、転回すれば半音上という音脈を使っている事にも相当するのであります。

 そうすると、同位和音のE音を軸とする所から因果関係があり、同位和音で得た全ての長和音の短三度下の音を発端に下に四度を積んで行っても同じ様に見る事ができるのです。

 幹音組織の中でハ長調の上中音となるE音はⅢ度であり、このⅢ度がドミナントとトニックの両方の代理となる(機能和声の多くはⅢをドミナントの代理として見る方が多い)ので、この両義性が、モーダルな社会に於て必要な世界観でもあるのです。

 附け加えるなら、上中音を想起した短三度下はハ長調での「Ⅱ度のⅤ」の第3音を等音程の脈として見る事も可能であるという事が言えるのです。そうした事も踏まえて数年前の四度累積の下方の牽引力というのをあらためて理解していただければと思います。

 下方五度が半音上の音に脈絡がある、という様な音脈のカラクリと思ってもらっても良いでしょう。奇しくも完全四度音程を累乗させれば軈てはその集積を転回すれば長二度の凝聚から短二度の凝聚へと房を付けていきます。それを一気に拏攫した様なアプローチなのです。

 そのような音脈が上方倍音由来に依る機能和声的な進行などに補足されない為には、協和的ではなく寧ろ不協和で振る舞いつつ、四度音程等和音を利用し乍ら、下方五度への音脈を見付けていく様にすることで半音階を「一望」する様になる訳です。

 そういう事で下方五度の音脈を探ると述べている訳であり、完全四度等音程が「下方四度」であるそれとは全く違うのです。私が数年前に語っていた四度の牽引力と今回のそれとは全く同じ事です。その牽引力を通常取り扱っている和声や調性の中にどうやって組み込んで稀釈化させるのか!? という風にして音脈を使う事で暈滃の度は増すのであります。

 
 全く話しは変わりますが、「ハーモニック・マイナー完全五度下スケール」というものがありますね。Harmonic minor perfect fifth below という其れです。

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 Cハーモニック・マイナー完全五度下スケールなら、五度下なら「F音」の筈なのに、なんで「G音」から始めるのだろう!? と疑問を抱く人は意外にも多かったりします。そうです。このスケールは別名フリジアン・ドミナントとも謂れ、私の世代だとスコーピオンズの「カロンの渡し守」がまさにそうなのですが、ハーモニック・マイナーのドミナント感としてではなく、そのハーモニック・マイナーのⅤ度を主音に振舞わせて「嘯く」、モードの一つであり、その振る舞いがフリジアン・ドミナント、つまりフリジアンが主音A音へ「導音欲求」になる様にオルタレーションを起しているから(フリジアンの第3音が半音上がる)フリジアン・ドミナントとも言われて居る訳です。

 ですが、五度下の音はⅣである筈なのに何故Ⅴなのか!? という事は次の例を見れば判ります。


 つまり、元の名称の意味するものは、

「アナタが弾いていらっしゃる其のスケールは、完全五度下に“ハーモニック・マイナー・スケール”という名称の本体があるんですよ」

 という意味なのです。もっと言えばハーモニック・マイナーの完全五度下にあるⅣ度を主音にしたモードではなく、ハーモニック・マイナー・スケール本体が完全五度下にあるというモードを弾いておられるのですよ、という意味なのです。

 五度や四度の上・下というのは時として混同し易い物です。相対的な音程を示すのか、絶対的な位置を指し示すものなのか、そうした方面が日本語での嵌当は時に混乱を招きがちです。


 また、西洋音楽界隈でのセカンダリー・ドミナントというのは先述では「Ⅱ度のⅤ」と表記した様に、長調でのその表記ならば、2度下に本来の属音が有る事を示したドミナント7thコードという意味の表記になるのです。そうすると、長調の主和音が一時的にドミナント7thに変化した場合は、四度下に本来の属音があればⅣ度のⅤなのです。ドッペル・ドミナントつまるところドミナントのドミナントというのは言わずもがな5度下に本来のⅤがあるからⅤ度のⅤという意味になるのです。

 ジャズ/ポピュラー界隈の表記しかご存知ない方はこの機会に覚えられると、西洋音楽界が五度方向を強く意識している多様な世界の側面をあらためて理解しつつ、その体系を利用しつつ調性から逃れる時に趣きを変えさせる為に新たなアプローチを採るという訳です。

 導音欲求というのは概して倍音由来の素直な情感であり、五度圏の五度上方とは逆行する方面の情感での変格的な性格は上音に依拠した情感とは少々異なる訳です。それを調的な薫りに変貌させるのではなく調性感を稀薄にする方を選択するというアプローチでもあるという風に理解していただければと思います。その上で、四度和音などを語って行く事にしましょうか。