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サブドミナント上に現れる全音階の和音の総合 [楽理]

 とまあ、私のブログでは全音階の事を「総和音」と呼んでおりますが、判りやすくいえば音階の全部の音を和聲的に用いている和音の事であり、ドレミファソラシを全部引っ括めて七声の和音で鳴らせば、何らかのヘプタトニック社会の枠組みの全てを一挙に鳴らした和音である、という事であります。もっと言い換えるなら、そういう和音上でのカデンツは全て同時に鳴らされているという事も意味します。トニック、ドミナント、サブドミナントが熱平衡状態にあるかのように(笑)。


 古典的な枠組みではサブドミナント上でも七聲を稼ぐ事なく総和音としての体は許容されてはおりませんが、今日、短和音上でナチュラル13th音(=七度音を包含する上での本位13度音)やメジャー7th体系にナチュラル13th音を加えるのも、「複調性」を視野に入れた許容から生まれている体系だという風に理解する必要があります。「複調」を視野にというのは、追々説明していく事になるのですが、今此処で説明している短和音上で発生するナチュラル13th音は、トニック・マイナーの事ではありませんので、その辺りをご注意下さい。通常の短和音の体系でナチュラル13th音がアヴォイドではないのはメロディック・マイナー・モードのみですが、それとは異なる体系での短和音上でのナチュラル13th音の許容という側面を語るのであります。


 近年、こうした短和音上での本位13度音を「忌憚無く」解説した理論書の類は、デイブ・スチュワート著「曲作りのための音楽理論」(リットーミュージック)の「コードとコードボイシングIV」の章で語られておりますが、その発現の由来やらまではその著書で知るのは不可能です。しかし、以下に私が列挙して行く「大前提」の理解がある人ならばデイブ・スチュワートが細かく言及せずとも理解に及ぶ筈なので、その辺りをきちんと語っておこうかと思います。


 扨て、今回は後々引き合いに出したい楽曲があるため、その曲の調性と整合性を取るためにト長調=Gメジャーを元にして譜例を用意しますが、そこで早速ex.1の例を見てもらう事にしましょう。これはト長調での枠組みで得られるダイアトニック・コード群でして、本来なら四聲体で載せてもいいのですが、今回はポリ・コードを視野に入れたカタチで語る事もあるので、属七を除いてトライアドで語るのでその辺りもあらためてご理解いただければ幸いです。とまあ、今回のex.1の例での七度相当のディグリー表記はグレーとなっておりますがそれは今回重きを置いて語らない意図があっての事でこのように「省いて」おります(笑)。
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 と言うワケで、あらためてex.1の例にあるダイアトニック・コードを見るとお判りの様に、各和音構成音の横には「T・D・S」という記号が振られているのには理由があります。

 それらはトニック、ドミナント、サブドミナントを示すモノですが、例えばディグリー表記で見られるトニック・メジャーである「I」というのは機能こそトニックではあるものの和音構成音をそれぞれ調性内で見ると、ルートから高い方へ向かって「T、S、D」という機能に括られる音で構成される和音である、という事を示していて、「大きな機能」としては各和音のルートが調性内の機能を拏攫しているのであります。

 その和音構成音という物は、トニック・メジャーだからといって各構成音全てがトニックの機能ではない、という事はお判りかと思います(笑)。つまり、コード進行というトニック、サブドミナント、ドミナント、トニックという様な「進行感」というものは過去にも何度も述べておりますが、トニックという根音は次のサブドミナントの上音(=根音以外の構成音)に取り込まれて進行感を得ており、このように「上音への取り込み」という事を明確化する上でも各構成音の機能を明示しているのが今回の例なのです。


 こうして和音の各構成音を繙くとVII度上に現れる減三和音というのは各構成音が全てサブドミナントという所が實に不可思議でもあります。属七の和音というのは根音のドミナント以外、上声部に付随する隷属的な減三和音の各構成音は全てサブドミナント、とも言える訳です。ドミナントの根音がトニックの「上音へ取り込まれる」という事で解決感及び進行感を得ている、という事があらためてお判りになるかと思います。


 
 扨て本題に入りまして、今回はサブドミナント上に現れる「総和音」を取り扱う中で、色んなコードの在り方というのを語って行きたいのであります。
 長調のVII度の減三和音もサブドミナントの機能ではあるのですが、これは今回扱わないという事を先にも述べた通りですが、その理由は追々お判りになるかと思いますので、長調域での他のサブドミナント機能の和音を見る事になるのですが必然的にそれらはIV度とII度上に現れる和音という事になります。


 私の過去のブログ記事でも述べている様に、調的なシステムに於いて総和音が許容されるのはサブドミナントではあるものの、もっと詳しく捕捉すれば長調で言うなればIV度上で生ずる3度累積型の13度の和音(=七聲体)というのが総和音を許されるタイプであり、II度上で現れるサブドミナント機能の和音は13度(=本位13度=ナチュラル13th)はアヴォイドなのでありますが、實際にはマイナー・コード上での本位13度音は今日使われるケースがあるのです。
 それは前述のデイブ・スチュワートの例でもある様に、アヴォイドな筈なのになぜ許容されるのか!?という所を繙いて行く事が多くの方の疑問でもあると思えるワケですが、サブドミナントでは総和音として許容されるものの、スーパー・トニック(=上主音=II度)に於けるVI度はアヴォイド扱いというのが一般的且つ初歩的な理解という事は今一度念を押しておきます。


 扨て、機能中和型の和音でよく目にする機会があるとは思うのですが、私がよく言う2ndベース=二度ベースというのは、上声部から見た2度(9度)音をベースにしているという和音で、IV on Vという形式なら非常によく目にするかもしれません。今回の様にト長調を元に例を挙げればC(on D)とすれば非常に判りやすいかもしれません。


 或いはCM7(on D)などとするともっと判りやすいかもしれません。それと同様に今度はAm7(on D)もC6(on D)も、この手の違い、實は何ヶ月か前にも私のブログで述べたのは記憶に新しく、それらは和音構成音としては同じかもしれませんが取り扱いが違うという事の述べていたモノであります。今回亦繰り返しに鳴りますが、Am7(on D)もC6(on D)も取り扱いは異なりまして、歴史的に繙くと後者のC6(on D)の方が先にあるという事も述べたモノです。


 抑も数百年前も昔の事になるワケですが、下属音を根音とする和音からみた長六度の音は上主音=II度の音の取り扱いの受け止めから時代は端を発するワケですが、この六度の音をサブドミナントとして取り扱いを認めることで「IV6」という体が生じ、IV6という和聲を生じ乍らアンティシペーションとして属音が放たれた時の空間に根差したのが「IV6 on V」の始まりでもあります。セカンダリー・ドミナントとして変化する事なくそれがII7 -> V7ではなくIIm7 -> V7という進行と同様に扱われる様になるのは和聲体系が固まってからの事で、更に機能中和となると20世紀辺りになるのでありましょう。

 いずれにしても「機能中和」という所がポイントなのですが、この「機能中和」というタイプのコードを今一度ト長調で確認する事にしましょう。


 そこでex.2が登場するワケですが、CM7(on D)という形式の和音です。時代を遡るとC6(on D)という体が先にあるというのが前述した通りなワケですが、ex.2でのこうした機能が少々暈けたと言えるコード=CM7(on D)は、「IVM7 on V」という風に言い換える事が可能です。

※IV6という和音とIVM7という和音がほぼ同等に扱われ、六度としての体はIIm7へ変化し、IV度の体はIVM7としての使用が強化されるという意味です。
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 嘗て私が松田聖子の「瞳はダイアモンド」を例に出した時、私はCM7の二度ベース、つまりCM7(on D)という風に語っておりまして、当時のブログ記事でもその様に述べているように、原曲にはA音が明示的に弾かれている為表記に「悩む」モノでありますが、私は原曲でのA音はどれだけ明示しようともCM7に由来する13th音扱いとして捉えていて、その当時は今回の様なやり取りを併記したくなかったので端折っていたのでありまして今回あらためて語る事になったワケです(笑)。



 ex.3を見ていただくと、この譜例のまんま1オクターヴ低いヴォイシングでキーボードを弾けば松田聖子の「瞳はダイアモンド」の原曲通りのヴォイシングとなるります。
 譜例に「?」としているのは、私はこうした表記はしませんよ、という気持ちの表れで付けているモノでして、實際に原曲や作者の意図は確認しておりませんし楽譜も見ていないのでコード表記そのものがどうであるかは判りませんが、少なくとも「Am9(on D)」だけにはしないというのが私の気持ちの表れなのでありまして、A音を明示化する表記で堅持するのならば「CM7(13) (on D)」が私の意思表示という譯なのであります。
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 オン・オード(onコード)の表記というのは上声部に括弧付きテンションがある場合、括弧が重なってしまうのでなかなか表記されません。そんな所の「見てくれ」に拘って、本来在るべきコード・ネームの体を曲解してはならないと思いますし、仮にAm9(on D)という表記に對して曲解などしておらずに明記していたとしても、少なくとも「IIm9(on V)」の表記は矛盾を孕むので避けた方がいいですよ、というスタンスなのが今回私が語る事なのです。「IIm7(on V)」という上声部がIIm7なら問題は無いのです。伍聲体のIIマイナー9th on Vのカタチはマズイと言っているのです。


 扨てex.4を見てもらいましょう。本来ならベース音+伍聲体での六声の和音はこの通り「CM7(13) (on D)」とするべきなのですが、その右方に記している様に、便宜的にonコードとして表記してはいようとも、その六聲の和音の構成音は「Am9(11)」と変わりないのです。言うなればAm9(11)での最高音D音が最低音として「倒置」されただけの違いであると言えるのです。
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 ex.5では「Am9(11)」という六聲体を二組のトライアドとして見立てたモノです。和聲の体としてはトニック・メジャーを上声部にして下にIIマイナー・トライアドが在るという事なので、「全音階的」に見るとVII度の音が無い状況で生じた六聲体と言えます。つまり、VII度の音を追加すれば総和音の状況なのですが、総和音どうこうではなく、サブドミナント機能を持つVII度の音が割愛されている六聲体の体であると言えるのです。

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 前にも「機能中和」で述べた事がありますが、例えば「IV△/V△」という六聲体はVが下声部にあるワケですが、これは「変格化」する解釈が多いモノと述べました。つまり「IV△/V△」という体はあたかも「♭VII△/I△」という風に「変格化」するという風に言っているのですね。轉調ではないのです。それは「I」そのものが「嘯く」からであります。ト長調に於いて「IV△/V△」は「C△/D△」となりますが、下声部Dは「あたかもDメジャー・キー」を想起しつつのDミクソリディアンとして嘯く様な体系、という意味合いで「変格」と述べているのです。


 同様に「V△/IV△」では下声部IV度が「変格化」しており、あたかも「I△」なのですが「Iリディアン」という風に言えば判りやすいでしょうかね。変格化、という意味合いはこういう所にあるのですが、IV度とV度から生ずるポリ・コードというのは、「アヴォイド・ノートを生ずる」事が最大の特徴であり、アヴォイド・ノートを好意的に使ったからこその「機能中和」なのですね。


 ところが、スーパー・トニック上(=II度上)で生ずる11度の和音である、先の例だとAm9(11)という和音には、ポリ・コード体系にせずともアヴォイドが発生していない六聲体なので、下声部にマイナー・トライアド(サブドミナント)と上声部にメジャー・トライアド(トニック)と態々見立てるまでもなく、IIm9 (11)という体は「サブドミナント」なのである、という理解がまず重要な事なのであります。


 サブドミナントという機能であるAm9(11)の最高音D音という単音をト長調内で見れば、D音は確かにドミナント機能の有る音ですが、ト長調のトニック・メジャーであるGメジャー・トライアドの第5音はドミナント機能で、これを転回してG△/Dとした所でこれはGメジャーの何物でもない、という事はお判りかと思います。
 ドミソ、という和音を下からソドミとやっただけで機能が変わるワケではないのと同様に、先のAm9(11)の最高音=D音を最低音に倒置しても、それはドミナント的機能にはならないので、「IIm7(on V)」や「IV/V」によくある様な形式に当て嵌めてはいけない体系なのです。

 ですので、IIm7(on V)の上声部に9th音を付加する表記ではなくIVM7に13th音を付加する由来での表記の方が最も正しい例であるのです。


 では、私はなぜ当時の記事でA音を全く考慮に入れないヴォイシングにしているのか!?というと、IVから見た13th音としての取り扱いへの注意と、安易にIIm9 (on V)と使わない双方の側面の配慮から提示していない音で、あの音は「サブドミ・メジャー7thの2ndベース」という色彩が色濃いだけの事なのでもあってそうして語っていたのであるのですが、後からその辺をやいのやいのと言われるのも癪なので、期を見てこのようにあらためて語っているというワケですよ。一度に語る必要も無いので、物には語る順番があるってぇモンなんです(笑)。


 とまあ、「瞳はダイアモンド」のコードというのは私が解説するならば「あの」ギター・カッティングのイントロ・ブリッジ部は「IVM7(13) (on V)」という形式が望ましく、体としてはIVから見た時長七と六度を「ガメる」事で、六度は七度音との共存ならば自動的に13th音という表記である、という事を述べているのであります。


 但し、表記形態をつべこべ言う前に私が最も声高に語りたいのは他にありまして(笑)、例えば先の六声の和音は「Am9(11)」の最高音を最低音に倒置して置き換えたと捉える事ができる様に、本位11度(=ナチュラル11th)音をベースにした「四度ベース」と言えるかもしれませんが、上声部がテンション(オクターヴ超の音程を持つという意味)を持つ際にテンション領域が同様にベースに置換されるのは私は好ましくない方法だと考えます。上声部が七度までに収まる体系ならばアリとは思いますが。


 というのも、最近のポピュラー体系では短和音上での本位13度(=ナチュラル13th)使用は利用されて来ておりますが、ここにはチョットだけ留意すべき知識が必要なのです。

 そもそも短和音で本位13度がアボイドなのは、そこまで和音を重畳すると結果的に総和音となりますがそれと同時に、想起し得る調性の調所属の属七の体を包含してしまっている為、例えば長調のII度上で和音を11度まで堆積させるのは問題ありませんが、13度まで視野に入れると「通常は」アヴォイドであり、総和音でもあり、属七の体をも包含しているので、元がサブドミナントの体なのに結局はドミナントの包含もあって、ましてや「総和音」となるとヘプタトニックの全ての音を使っているとなれば、サブドミナントはおろかドミナントもトニックも一緒に使っている状況でありまして、総和音というのはそうした機能を全て用いているとも言えるので注意が必要なのです。

 そこで、総和音が調的社会で許容されるシーンは通常ならば長調のIV度上で生ずる時なのですが、判りやすく喩えるならばトニックとドミナントは地球の両極みたいなモノで、サブドミナントが赤道みたいなモノと思っていただければよろしいでしょう。赤道から見つめる時に「総和音」が許容されると思っていただければ良いでしょう。


 とはいえ、以前にもリストの「枯れたる骨(不毛なオッサ)」(S.55)でのフリジアンの総合という例も出した様に、音階の総合というのはヘプタトニックばかりではありませんし、半音階の総合というのも存在します。



 重要な見立てというのは、長調のIV度上から七聲を見据えた世界というのは、単一の調性で見た「あたかも」総和音状態であり、その時点で複調性を孕んでいるという考えに及ぶともっと世界観が拡大するでしょう。長調のIV度上だと、元の組成される長和音からの音が13thまでの累積をスムーズに行うものとは別に、長調のII度上での短和音ベースで13度を視野に入れた時の累積というのは13thがアヴォイドであるので「通常は用いられない」ものの、ここで13th音を視野に入れた時こそが、「複調への示唆」なのであります。


 仮に長調のII度上という、ト長調を元にしてAm7(9、11、13)という状況を見たとしましょう。11th迄は「有り得る」体系です。仮に、下声部Aマイナー・トライアドに加えて、上声部にGM7という体系を考えた時、上声部のGM7という和音を「ピヴォット・コード」として、他調由来の共通の和音という風に見立てて音を導いているという見立てをした場合、こうした想定は複調を視野に入れているモノであるため、単一の調性での全音階が飽和している様な総和音とは少々異なって来るのであります。


 また重要な前提として、通常の調的社会の枠組みに於いては、短和音を基とする和音組成において本位13度を発生するのは長調でのII度上の和音だけあり、平行短調を見渡せる長調でのVI度上の13度は転回すれば短六であり、長調のIII度上での短和音も短六であり、長六同様の本位13度を発現可能なのはII度上の和音のみ、という事をも意味しています。もちろん通常、長調のII度上での本位13度はアヴォイドでありますが、こうした解釈が伴っているかいないかで、体系に収まる和音なのか収まっていない和音なのか!?という事があらためてお判りになるかと思います。

 ですので、もしも短和音上でナチュラル13th音が使われている表記を見掛けたら、それは複調由来で考えれば済む事なので、それはあってはならない!とばかりに魔女狩りをするかのように断罪する必要はないのです。


 但し、常に複調を視野に入れた体系という物を「言い訳」にして、どんなシーンでもコードに七声を与えてしまったとしたらそれは嘲笑されて然るべき愚かな行為だと思います(笑)。ドミナント7th上に於いて七声を用いる時でも、實際には他調を拝借するモノです。ナチュラル11thを用いない限りは(笑)。

 ドミナント7th上でナチュラル11thを使うという事は結果的に「IV△/V△」という六声のポリ・コードが視野に入り、これは和声機能的にアヴォイドを生じつつ併存している状況なので、ドミナントとサブドミナントが「等しく」中和している状況なのですが、マイナー9th(11)系の六聲の和音ではアヴォイドが生じていないため、機能中和という見立てができないのであります。ココは何度も念を押しておきますので誤解されぬよう理解されたし。



 今日ではトニック、ドミナント、サブドミナントの「各機能」を経由するのではなく、機能を中和する扱いで済ます事も多くあります。例えば、ベースだけツー・ファイヴなのに上声部はIIm7のペダルとかですね。例えるなら、IIm7 -> IIm7 (on V)の繰り返しとか。


 私がこの形態を一番最初に意識したのは、ジェフ・ベックのアルバム「Wired」収録の「Play With Me」のBメロ部でした。ナラダ・マイケル・ウォルデン作曲ですが、このアルバムは今更乍らよくよく思い返すと、「Led Boots」の「IV on V」という分数コードも強く意識させられた物でありまして、和聲的な知識やら器楽的な面でもまだまだケツの青かった私が悉く注視させられたのアルバムのひとつだったと痛感します。
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 また、この時代はパラレル・モーションが至る所でトレンドだった事もあって、そうした和聲的な響きにいつしか慣らされていたひとつであった事にも疑いの余地はありません。



 とまあ、和音体系を事細かく語って来たワケですが、とりあえず今回の結びとして今一度確認する事として重要な前提知識をもうひとつ。長和音というのは倍音(上方)を頼りに音の更なる重畳を求めますが、短和音というのは倍音由来で堆積されるモノではありません。私が過去に何度も語っている様に、短和音というのは5度音に對して音の重力がある様に、長和音が五度圏の順行だとすると、短和音の和音重畳の牽引力は五度圏の「逆行」に等しいという事が重要な点です。


 それを考えると、先のex.3の例のAm9(on D)という和音は結果的にex.4で見られる最高音と最低音が倒置されただけの姿であるに過ぎず、短和音を基にした見立ての場合、倒置で音を入れ替えたとしても、D音のさらに下にヘプタトニックの中でもうひとつ使われていない音が出現する様に存在する事が正しい和音の表れであるはずで、Am9(on D)とした場合、A音とD音の間に、ヘプタトニックの枠組みでもうひとつ使われていない音の「隙間」を生じてしまうので、短和音由来の和音の重畳としての姿としては美しくない組成なのです。この組成の在り方は前述の様に、元はAm9(11)のカタチなので、この六声の体はA音よりも低い「外側」に、ヘプタトニックで使われていないF#音があるのが「自然な姿」なのです。

 これをベース音の違いとしてでもD音を持って来てしまって上声部をIIm由来としてしまうと組成そのものがおかしいので上声部はIV由来での表記が望ましいのだ、という事なんですね。言ってる事伝わるかなー(笑)!?



 でも、短和音の11th音をベースに持って来たアプローチ、左近治もやってたでしょ!?と思われる方も居るかもしれません。つい先日の「睥睨ジャズ」アレンジでのFmM9上でB♭音から入るアプローチの奴ですね。
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 アレは短和音が基となっているとはいえ、長七度を包含するマイナー・メジャー7th系のアプローチでありまして、そもそもトニック・マイナー・メジャー7th系での和音にアヴォイドは無い体系ですので、本位11度音を最低音に持って来ると、マイナー・メジャー7thの和音の5th音からのナチュラル11thは上方に短七度なので、5th音から下方に短七度を鏡像音程で導く牽引力がさらに弾みが付き、それはそれで本位13度発生の足掛かりともなるので、私はその牽引力をも使っているので、マイナー・メジャー7thコード上での11th音をベースに持って来るそれと、通常のマイナー・コードでの11thをベースに持って来て四度ベースとした考えと混同されてしまっては困りますので、その辺もきちんと理解していただければ、と思います。一應、一本の筋を通して語ってますんで(笑)。


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 余談ですが、マイナー・メジャー7th上でのナチュラル13音が使われている好例は、ジョン・パティトゥッチの1stソロ・アルバム「Baja Bajo」でのチックの演奏などが参考になるでしょう。マイナー・メジャー9th上での本位13度音ですね。マイナー7thコード上の13音よりも「自然に」響くのはアヴォイドではないからですね(笑)。CDタイム1:33~1:38部分でのCmM9でシンセ・ストリングス系の音でナチュラル13th音を入れて来ているので直ぐにお判りになるでしょう。








《追記》
 この様にマイナー・メジャー9thを引き合いに出しているのは唐突な事ではなく、松田聖子の「瞳はダイアモンド」のイントロ後のAパターンに於いて、「いつ過去形に~♪」の部分の『過』の部分では、背景にVImM7(=EmM7というクリシェの過程での平行単調側のマイナー・メジャー7th)を生じており、「過」が9th音を唄うので、和声的にマイナー・メジャー9thを生じているのでありまして、決して唐突な事ではないのであります。


 そもそも私が「瞳はダイアモンド」を引き合いに出すのはイントロの二度ベースの美しさばかりではなく、Aパターンに現われるマイナー・メジャー7thに対する九度音のメロディの与え方に一番心酔できるからでありまして、同様のクリシェ・パターンはサビでも登場するのにメロディ音の与え方は全く異なる為、サビでのクリシェは返って当てこすり的に聴こえてしまうという側面もあり、そうした同様の技法でも美しさというのは全く異なるものなのだという事もあらためて取り上げたい所だったワケです。こうした意図をお判りいただければ幸いです(笑)。