SSブログ

短三和音の振る舞い [楽理]

 これについて詳しく知りたい方はジャン゠フィリップ・ラモーに学ぶべきだと思うのでありますが、メジャー・トライアドの振る舞いと違ってマイナー・トライアドというのは、ピラミッドの様な錐体の頂点を下方に配置する様なモノで「据わり」が悪くなってしまうように、和音が構成される音程から鑑みると長三和音のそれと違い不安定だという事が知られています。


 完全五度の音程を下から長三度・短三度と分け隔てたのがメジャー・トライアドで、完全五度を下から短三度・長三度と隔てただけにしか過ぎないマイナー・トライアドとはいえ振る舞いは全然異なるのであります。

 和音を構成する長短の三度がひっくり返るだけで、そこから生じる旋法的な情緒やらも逆の発想を導いてしまうのだから興味深いです。以前にもフーゴー・リーマンの例を引き合いに出して語った事がありますが、ハ長調という調域内でマイナー・トライアドが生じるのはAm、Dm、Em(属七への変化は無し)という長調側から見るとこれらは副三和音と呼ばれるモノですが、Aマイナー・トライアドの完全五度音である「E音」から天橋立から景観を望むかのようにひっくり返して見ると、E音とC音は長三度、C音とA音は短三度という、メジャー・トライアドをひっくり返してみた「鏡像」として見立てる事が可能となります。

 その鏡像とやらをもっと繙くと、E音からオクターヴ下のE音迄の「下行音形」を、音程幅(全音と半音)を順に追って行くと「ミ・レ・ド・シ・ラ・ソ・ファ・ミ」という音形は「ミ 全 レ 全 ド 半 シ 全 ラ 全 ソ 全 ファ 半 ミ」という事になりまして、「全・全・半・全・全・全・半」という下行音形は奇しくも「ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ・ド」の上行音形の「全・全・半・全・全・全・半」と、構成規則は変わらず、上下で「鏡像」となるというのは前にも触れた通りです。

 こうした短調の枠組みで生ずる「下行形」に於ける下降導音というのもラモーは詳悉に語っているモノなのですが、フーゴー・リーマンやエッティンゲンが着目したのは、そうした音形の「鏡像」だったワケですね。

 奇しくも平行短調の主和音の五度音から鏡像形を見出すそれに、短和音をベースとする発展や短調をベースとする発展やらを見出し乍らあらゆる鏡像関係を利用して異なる調性を呼び込む対位法の発展を繙いている事だったワケですが、シンプルに考えても短和音というそれは、自身が短三和音として収まっている世界がどういう調性内に所属しているかどうかは別として、自身の更なる三度下の方向へ調性は無関係に三度を累積させていくような牽引力を備えているとも言えるのです。

 それは、長三和音をベースとし乍ら上方に倍音を頼りに三度を累積させる欲望と同じように短三和音では下方に働くと理解して差し支えないでしょう。仮にAマイナー・トライアドという姿があったとして下方に新たに三度を探るとするならば、イ短調の調域ならばF音が視野に入るのは当然ですが、「調性を無関係に」と前述したのは「F#音も視野に入る」という意味での、三度を下方に探るという意味だったのであります。

 つまり、短和音自身が「私の本当の根音バスはどこ?」という風に自問自答している様なイメージを抱いていただければ良いのでありますが、短和音というのは常に下方への牽引力を備えていると私のブログで述べているのはそういう意味なのです。

 完全五度を上方に幾多も累積させれば、これは倍音を手掛かりにしているのと変わりありません。ところが調性からの呪縛を無視して和音を集積していった場合、倍音への吸着力を手掛かりにしてしまうと、調性に捕捉され易い体を生んでしまうのであります。本当の意味で調性からの解脱を意識して和音を集積するならば、倍音を手掛かりにすることなく推し進めると、完全四度累積を下方に進める事で軈ては二度和音の集積という体を生むのですから、四度音程を下方に重畳させるベクトルのそれと短和音が下方へ三度を累積させるベクトルは同方向であり、両者の親和性は高くなるというのが私のハナシの進め方だったのであります。


 では、短和音とやらを複調・多調を視野に入れて集積させるとどうなるのか!?という方面もこの際見てみるコトとしましょうか。メシアンが、結果的に調的な安定の姿は長旋法や長和音に在る、という事が今回あらためてハッキリお判りになる事でありましょう。


 私が過去に述べた事ですが、ペレアス和音は「2つの長三和音が半音/長七度で併存する六声の和音」であり、その一方で私のローカルな方面で形容している「マイナーのペレアス」と呼んでいる時は「2つの短三和音が半音/長七度で併存する六声の和音」と述べた事がありました。今回はその私のローカルな方面で便宜的に語った呼び名である「マイナーのペレアス和音」を例に出してみようかと思います。


 ツイッターでも呟いていた今回の譜例は、よく私がバイトーナル和音を題材に引き合いに出す物で、私のオリジナルのモノですが、今回はこの譜例の9小節目に用いている和音について語る事になります。
Untitled_sakonosamu_fixed.jpg

 9小節目1段目のパートはピアノを想起しておりますので、ト音記号とヘ音記号がグループ化されておりますが、左手は「Es dur=E♭△」右手は「H dur=B△」と記しておりますが、異名同音はこの際扨て置きますがこれら2つのメジャー・トライアドは二全音離れた長三和音という風に解釈が可能です。

 ところが9小節目最下段のベース・パートを見てみると、それらの音に対して「E音」を弾いているので「B△/E♭△/E」という構造を便宜的に表す事になります。


 ベース・パートのすぐ上のパートはハープを想起した部分で、Bオーギュメンテッド・メジャー7thの分散フレーズとして表れているというのも注目してほしいのですが、Bメジャー・トライアドの3度音であるDis=D#とE♭メジャー・トライアドの根音であるEs=E♭は異名同音である物の、互いに共有して接続し合っているので、結果的には「五声」に依る和音だという事になり、その五声に対してベースがE音を弾いているという事となります。


 そうした五声のバイトーナル和音(B△+E♭△)にE音を加えた音というのを因数分解する様に見ていくと、実は次の譜例の様な姿が見えて来ます。
02Pelleas_minors.jpg

 この譜例では合計3小節に分けて考えておりますが、一番左である3小節目というのを元々の姿だと考えてみましょう。これは2小節目で提示している様に、下声部にEマイナー・トライアド、上声部にD#マイナー・トライアドという、これらが言うなれば「マイナーのペレアス和音」の形からの下声部Eマイナー・トライアドの根音であるE音をさらに下に配置させた体から転じているモノです。

 
 つまり、上声部にD#m、下声部にEmという単純にふたつのマイナー・トライアドを併存させて収まってくれれば良いモノを、下声部にEマイナーを置く事によってベースもEを強調する事になるので、結果的に2小節目の体は3小節目と同様になるのでありますが、短和音同士の併存は、短和音が単体であっても下方に脈絡を求めようとする所に加えて化学反応するかの様にD#mとEmの夫々の構成音があらためて融合すると思ってください。その融合後が1小節目の体を生むのです。
 
 それが即ち、「E♭△+B△」という二全音離れて併存する長三和音に対してベース音がE音を得ている状況という風に「融合(化学反応)」している、と。


 注目すべき点は二全音離れた長三和音同士の併存ではなく、その併存する二全音の長三和音に対して上声部の完全四度先を暗喩する方向と、下声部から見た半音上の音に最低音をさらに得ている状況なのです。


 つい先日も語りましたがフェイゲンの新譜「Sunken Condos」の収録曲「Planet D'Rhonda」でも例に出しましたが、ふたつの長三和音が二全音離れて併存する状況のバイトーナル和音の発生などの事を今一度思い起こしていただければ助かります。例えば通常のペレアス和音というのは2つの長三和音が互いに半音/長七度離れて併存している状況でありますが、B△とA#△(=B♭△)という長三和音が併存している状況を考えたとしましょうか。

 B△とA#△というふたつの長三和音が、ペレアス和音を成立させているのでありますが、上声部はペダル(=オルゲルプンクト)として維持させたまま下声部を四度進行させると、A#(=B♭)はE♭へ進行する事となります。

 つまり、マイナーのペレアスという状況を作り出した時、そのまんま体を保って終止させようがどう料理しようが構わないのでありますが、和音同士の融合としてまだまだ化学反応を起こしてうごめく状況にあると考えていただくと判りやすいと思います。すなわち、EマイナーとD#マイナーという体を与えても先の様な状況への暗喩を含むので、和声の発展としてまだまだ可能性を残しているとも表現できると思います。


 で、ペレアス和音の上下が倒置和音として上下が入れ替わらない場合(下声部にB△、上声部にA#△という状況)、上声部の根音が上下への鏡像音程を作り出す基準として成立する所が注目すべき点で、下声部へ新たに3度を探ろうとした場合、その鏡像の結果として上方にもシンメトリカルな音程位置に鏡像音程を生むという状況を生むというのが興味深い点で、これは黛敏郎のNNNニュースのテーマの冒頭部分がこうした構築になっている事も以前に例に挙げましたし、近年ではマイケル・フランクスの「Summer in New York」や坂本龍一作曲の「Elastic Dummy」がそうだという事も述べましたので、あらためて注意深く分析していただけると幸いです。ブログ内検索をかけていただければ直ぐに引っ張って来れるのでよろしくお願いします。