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変ロ短調+ハ長調 上声部ハ長調の根拠 [楽理]

 扨て、前回の続きであるウォルター・ベッカーが仕掛けた「Tomorrow's Girls」のギター・ソロでのクラスターの様に音をぶつけてくるアプローチに端を発して、それをバイトーナルという風に判断して、さらにそのバイトーナルの「もうひとつの調性」を見出すという流れを語っていたワケであります。


 調域外の音「D音とG音」は偶々それが四度/五度関係にあるものだから、パワーコードとしてのそれを調性内に収まるDb音とAb音という是亦四度/五度の音に対してクラスターの様にぶつけただけじゃないの!?という判断はあまりに早計です。ロックのパワーコードとやらをあまりに近視眼的に理解して愚弄しております(笑)。ベッカー御大、そんなアホな真似してただ単に徒にぶつけてるワケではないのですね。


 バイトーナルな世界においてどちらかの調域において増音程が現れていたり、更には下声部に短調が現れていたりする場合、私の解釈としては「更に収まる世界」の存在があると思っております。どういう事かというと、下声部にAマイナー、上声部にBメジャーという世界で作品を構築したとしましょう。これはこれでひとつの完成形であったとしても、下声部の短調はなにがしかの長調の姿へ収まる体系としての発展性を伴っているという事を意味しているのであります。だからといってバイトーナルや多調の世界での下声部は絶対に長調に収斂せよ!という事を言っているワケではありません(笑)。

 こうした「収まり」というのをメシアンは長調で収斂させる様に作品を構築しているのであります。必ずしも収まりの良い世界として長調で完結せよと言っているのでもありません。様式として収まりの良い、と解釈可能な様にメシアンはそういった作品作りを目指していたのでありましょう。


 扨て、私が想起する今回の「Tomorrow's Girls」のギター・ソロでのバイトーナル・アプローチでのもうひとつの調性「Cメジャー」の根拠なワケですが、先の記事と今回用意する譜例で示しているように、D音とG音を包含する音列であれば他の調性からの選択も可能ではあります。しかしCメジャーを選択するのはやはりそれが「収まり」が良いというのは、仮に下声部Bbマイナーが平行長調Dbへ移行した場合、互いの調域の関係はC/Dbとなりペレアスの和声のような関係として収まる世界があるという事がひとつの理由です。
Cmajor_on_Bbminor.jpg


 上声部に想起しているCメジャーを、同主調のCマイナー(この平行長調はEbメジャー)として変換して発展させると、互いの調域はBbマイナーとCマイナーという長二度で平行移動するような関係となりまして、Bbマイナー側から見るとスーパートニック(上主音)の音程関係に相当する所に移調された調を同居するような関係となりまして、これは奇しくも嘗て私がチック・コリアのアプローチでも散々触れた事のあるミクソリディアン+エオリアンというハイブリッドな音階での成立と同様の調域として投影させる事ができるのです。

 ※Cミクソリディアン(トーナルセンター=F)、Cエオリアン(トーナルセンター=Eb)という風に表した場合、それぞれのトーナルセンターは長二度音程にて成立するという事


 こういう世界に近しく接する事が出来るとでも言いますか、ひとたびコチラの世界に足を踏み入れるとこうした「磁力」の束縛があるワケで、調性音楽とは違う別の強大な牽引力があるため自ずとこうした世界観を共有するとでも覚えていただければ良いかな、と思います。ですので、私が今回上声部にハ長調という調域を想起しているのは、これまでにも語っている世界観との整合性ばかり優先しているワケでもなく、コチラの世界観でもこうした「誰もが通る道」とでも形容出来るような世界観というのはあり、そこに収まりやすい世界観として選択するだけで結果的に先人達の足跡を辿るワケです。ですので根拠もなく当てずっぽうに他の調域を探っているワケではないという事をあらためて強調しておきます。


 扨て、このように上声部にハ長調を想起した場合、Bbマイナーの世界から見たハ長調の音はどのように反映されるのかという事を列挙してみましょう。

C音=M2nd
D音=M3rd
E音=aug4th
F音=P5th
G音=M6th
A音=M7th
B音=m2nd


 ウォルター・ベッカーはD音とG音をぶつけてきているワケです。加えて私はハ長調の調域をなぜD音から開始させているのか!?という疑問を抱いている方がいらっしゃるとは思いますが、そもそもハ長調の調域であってもハ長調と直視しない理由があるのです。

 ウォルター・ベッカー自身がどういう世界観を描いているかは定かではありませんが、ベッカー本人がぶつけてくる「D音とG音」というのは「完全四度音程を等音程とする和音の一部」だという風に私は解釈しているのです。この等音程の解釈においては通常ならばシェーンベルクの和声法に理解を深めるか、ヒンデミットの和声学を理解しなければ難しい側面だと思いますので機会があれば是非とも読んでいただくか、過去の私の記事をお読みになっていただければ根拠がお判りになるかと思います。今こうして根拠を知ることで、過去の私の小難しい言い回しをあらためて理解できる事もあるかもしれません(笑)。

 すると、ベッカー自身が用いている「D音とG音」という物を、仮に四度構成の等音程の四声体の一部だと想起した場合次の様な可能性を示す事ができます。


E - A - D - G
A - D - G -C
D - G - C - F


 四声体はこうして収まるので、調性を確定するまでは至りませんがD音とG音を共有した四度構成等音程の四声体を活用すると自ずとどういう調性を選択することが「近しい」ものなのか、という事が理解できると思います。更に言うと、想起しているハ長調は「長調」としての安定度を牽引力に引っ張って来たモノであり、四声体を用いる根拠は本当は短調としての「下方への牽引力」を用いている概念なので、本当の事を言うと「Bbマイナー+Aマイナー」という世界観の方が理解しやすいのかもしれません。

 私のローカルな連中の間では「マイナーのペレアス」で通じてしまいますが、マイナーでどちらも「収まる」世界観をなるべくなら避けた方が広義においては大事だと思っているので敢えてAマイナーを平行長調に移した方が、長二度音程で出現するミクソリディアン+エオリアンというハイブリッドの体を理解しやすいと思ったので敢えて今回はこうして説明しているのであります。


 一般的に、こうした世界観というのは特殊な方だと思います。通常の世界観なら「単一の」世界観を有するだけで充分なワケですから当然と言えば当然です。亦、こうしたバイトーナルや多調性の世界観を理解するにあたって重要なことは、先の下声部から見た上声部の音程関係を列挙しましたが、特に今回ベッカーが用いているD音とG音において誰もが疑問符を付けたくなるのがBbマイナーの世界から見た「長三度音」であるD音だと思います。

 Bbマイナーから見れば、先ほど音程関係を列挙したように「便宜的には」投影されます。しかし肝心なのはD音を長三度ではなく「減四度」という、少なくともスケールディグリーとしては三度ではなく四度して見てもらうコトがバイトーナルやポリトーナリティーの世界では重要なことなのであらためて申しておこうかと思います。