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等音程で対蹠点を手掛かりに [プログレ]

 扨て、ドゥアモルの和声というのはCメジャー・トライアドがあった場合Abマイナー・トライアドで持ち合うことによって得られる六声の和音は、各構成音を半音で隣接するように持ち合うこととなり、そうした隣接はフーゴー・リーマンの対位的手法のひとつである六極応答でも同様であるというコトを述べていたのでありますが、これについては前回ばかりか過去にも述べていた事なのでありますが、今回重要な事は完全五度累積型の等音程和音を用いてそれを牽引材料にして調域外の音を取り込んでいこうという試みがあってのコトなのです。


 チャーチ・モードで生じるヘプタトニックは完全五度を6回累積させたモノだと述べました。但し、調域外の音を用いる音楽においてはそうした音とは別の方角からの音を採り入れておりまして、ドゥアモルの和声は極論ではありますが、オクターヴをシンメトリカルに分割し合う様にオーギュメンテッドな関係を見せ乍ら音を「取り合って」いるワケです。
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 ある音列から完全五度が隣接し合っている状況、例えば今回の例ならE音の下方と上方にそれぞれ完全五度音程の音としてA音とB音という状況を例に挙げるとしましょう。E音は今回12時の位置に振ってありますが、対蹠点となる6時の音は調域外ではあるものの隣接している音のため関係調に現れる近親的な調的関係にあるので、遭遇しやすい調域外の音であります。


 11時に位置するA音から5時の位置のD#音の時計回りの範囲がEメジャーという調域なのでありますが、Eメジャーという調性内においてA音とB音は非常に強い性格の二音ですが、主音とそれらの音を「図形的に」見た場合、対蹠点となる6時の音へ収斂しているかのような発想で図を見ていただければ幸いなんですが、これは何も偶然ではなく、ある一定の「五度累積」を伴う型を脈絡として用いた場合、その対蹠点へ発展させる術というのはかなりの頻度で用いられているものであります。更に言い換えるなら、今回の図でB、F#、C#という五度で持ち合っている中心のF#音の対蹠点であるC音へ発展を見付けて曲作りに導入する、という対蹠点への強い手掛かりというものは偶然に図形的に見えるだけではないのが興味深いというコトです。

 つまり、使いようによっては通常のヘプタトニックの情緒からは遠い7~10時方向にも脈絡を見付け出す、というコトを可能にするために、三声体の完全五度累積のタイプの等音程を材料にして対蹠点の音を呼び込もうというモノです。こうした調域外の音への積み重ねが軈ては多くの調域外の音をスムーズに使用するコトを意味するのであります。
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 前回のEメジャー7thの例を出し乍ら、なんとなくドゥアモルの体を朧げに表現していたそれは、例えばトニック・メジャーとしてE△7を用いているシーンでC音が出現してくるシーンを想起して欲しかったんですな。Eメジャー7thというコードは四声体ですので、その和音を構成する音だけを使っていればまだまだEメジャーという調性を網羅する音は使い切れておりません。調性を示唆するにとどまっている状況でありますが、通常はそうした世界観にメロディという横の動きが加わり、コード・トーンとは別の音がやってきたりして調性を更に強固な姿として投影させたりするのが楽曲の調性の姿を垣間見せるひとつの例だと思います。


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 そういうシーンで調性から外れた音がやってきた時の調性の逡巡するかのような音というのは、言葉で例えるなら「はにかみ」とか「うそぶき」やら「うつむき」とか、どこか直視していないような表現が似合うと思うんですね。そうした好例が実はジェントル・ジャイアント(=以下GG)のアルバム「The Power and The Glory」収録の「No God's A Man」という曲が興味深い例として挙げるコトができるので、先もGGのインタヴュー収録の「Design」とか語っていたので、コレを機会に興味深い楽曲を紹介したかったので、ついでにドゥアモルの和声やフーゴー・リーマンの六極応答などを引き合いに出し乍ら語っていたというワケです。


 GGの「No God's A Man」も奇しくもオフィシャル・サイトにてフィル・スミス氏が採譜しておられるのですが、なぜかそちらで確認できる楽譜の調号は嬰種調号3つのイ長調で書かれているのであります。私としてはシャープ4つで表現したいので今回の譜例はEメジャー基準で書いております。でもフィル・スミスのコレは確信犯的な、わざとらしい設定ミスだと思います(笑)。あくまでもフィル・スミス氏として成立させるための苦肉の策と言いますか、私にはそう感じます(笑)。


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 とりあえず譜例で見るとCDタイムも明記してあるので、おおよそ「その辺」のフレーズを語っているというコトがお判りになるかと思います。RMI系のエレピの音が仄かに譜例のように現れるのですが、私の周囲ではどんなに指摘してもこの音が聞こえないというアホも複数おりました(情けない)。パン定位は1時付近の奥まった辺りですね。その辺に譜例の音が出現しますがギターの音に惑わされないように試してみてください。


 すると、この「No God's A Man」が見せるEメジャー7th上での#11th音であるA#音方向の脈絡と共に、ベースがC音へ行くことの脈絡は、ドゥアモルの和声の体の一部を醸し乍ら対蹠点である音を巧みに活用するコトでA# - F - Cという五度の共鳴体を見せそうなモノを「F音」をスッ飛ばすかのように出現してくるワケです。Eメジャー7thが使っていなかった「F#とC#」の対蹠点を用いずに、逃げ水のように「二度和音」の一部を垣間見せる、これはつまりメジャー7th上で全く脈絡のなさそうな所から「二度コード」の発展を見付けているコトに等しく、二度コードは完全四度累積型のコードとして見ることも可能なので、こうした拡張的な見方によってジャズとは全く異なるアウトサイドな脈絡を見付けるコトが可能なのです。勿論、このアウトサイドな脈絡の見付け方はジャズにも応用できるモノです。

 過去にも、こうしたEメジャーでC音が使われる体は紹介したコトがありました。マンザネラの801の「Initial Speed」のエレピもそうですし、こういう音を志向するイーノって実はかなり高次な理論を把握しているのだと痛感するのでありますが、それをそう見せない良さがあるのか、はたまた偶然なのか(笑)。いずれにしても興味深いものです。こうした音の魅力はスティーリー・ダンのアルバム「Two Against Nature」収録の「Negative Girl」のAメロ頭にも表れますし、いわゆるバイトーナルな方角によるハイパーな音という音の効果というのは非常に興味深いモノがあります。


 そうしたハイパーな音の振る舞いを凝視していると、ドミナントの振る舞いが希薄であって欲しい、と思わせるコトが実に多いんですね(笑)。で、ウェイン・ショーターはドミナント7thでもナチュラル11thを忌憚なく使うというのは、背景にドミナントの振る舞いが希釈化された世界観を前提に楽曲を構築しているからであります。「Swee-Pea」なんてショーター御大を知るばかりでなく、高次な和声を見抜く絶好のお手本だと思います。いずれは「Swee-Pea」を引き合いに出し乍ら語ろうと思っていた所です。