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断章取義でしょ、アナタ!? [プログレ]

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 前回ジェントル・ジャイアント(=以下GG)のアルバム「The Power and The Glory」収録の「No God's A Man」を取り上げたのは、それまでのGGのアルバムのレコメンしていたコトを思えば唐突だったかもしれませんが、それには実は理由があるのです。


 前回の例でも取り上げていたフレーズを今一度確認してもらうコトとしてみましょうか。このフレーズで注目すべきはEメジャー7thというコードにおいてベースがC音を奏でるようになるという所です。さらに、前回は言及しておりませんでしたが、そのC音に行く直前の「キッカケ」となるダブル・クロマチックのフレーズに注目しなくてはなりません。音楽理論というのはポピュラーな方は敷居が低いのでついつい掻い摘んでは使いこなせもしない知識のタネにしてしまっている人が多いとは思いますが、いずれにしても応用してナンボなワケですので、「応用」とやらをまずは提示しないといけませんな。
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 この曲のベースの「動機」はいずれ、E音からD#音 -> D音 -> C音という風に「少々変わった」音使いをするのであります。そりゃそうでしょう。単一の調性に収まる所のモード奏法を会得した人にしてみれば、最も想起しやすい筈のEメジャー・スケールから外れた音を使っているワケです。そのEメジャー・スケールという音列になぞらえるならば

 E -> D# - C#という風に下降してC#からC音という調域外の音へモード・チェンジという更なるステップへと結句するのが最も想起しやすいのでありますが、この音並びから外れた音なワケです。

 嘗て述べた事もありますが、例えばジャズにおいてベースというのは他のパートと比較してもジャズという特異なジャンルにおいて最も「対位的」なフレージングを求められるパートがベース、というコトの意味なんですが、つまるところジャズという音楽において、あるひとつのコードに対して共通意識のモードとそれに近似するモードやかなり歯形を変えたりしてインプロヴァイズするのが真骨頂なワケですが、ベースというのはこれらのアプローチに対して「串刺し」できるように、どれかのパートだけにぶら下がるだけではなく、あらゆるパートをひとまとめに串刺しできる音楽的な視点が必要でありまして、コード・トーンばかりなぞらえているとソロ・パートの邪魔をするし、そこまでコード・トーンに固執するならベースは要らないし、低音だけルートばかり鳴らしていても面白味も緊張感も無いし、ベースラインという「メロディ」を即興で作ってる感全く無い状態じゃあジャズのウォーキングとは言えないワケですな(笑)。

 そうした状況を「串刺し」できる語法を持つというのがジャズという世界での「対位的手法」のひとつと私は言っているワケですが、クラシックの対位的手法のそれと近視眼的に同一視されても困るワケです。それも古典的な調性の枠組みの調性もハミ出ない単一の調性内での先行句と追行句くらいの対位法とかと比較されちゃうと困っちゃうワケですね(笑)。その手の話題としか比較する術がない語法しか持たない輩は「あっち行ってくんな!」ってぇ感じですわ(笑)。ジャズのウォーキング・ベースというのはそうした「対位的な」語法を備えてこそ有意義なモノとなるワケで、フレージングも強化されていくんですな。

 そのフレージングの強化こそがGGの先の例に現れるワケです。うわべだけでもジャズ理論のさわりを知っている人ならばプログレ方面くらい紐解ける筈でしょうに(笑)。いやいや、そんな簡単に紐解かせないのがプログレの中にある高次な人達が遺して来た作品なんですな。ある程度理論知ってるんなら紐解ける筈なのに脈絡を探るコトができないという人は、従順になってその先を学ぶべきなのです。判る人はここから先読む必要ないワケです(笑)。


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 扨て、ここからは判らない人のために述べていきます。先のGGのレイ・シャルマンのベース・ラインは明らかにEメジャー・スケールを準えたモノとは異質のフレージングなワケですな。そこで手っ取り早く「ダブル・クロマティック」というアプローチとして片付けてしまうのではなく、ダブル・クロマティック風の音列を設えている音形を拾って来てみようと思います。そこで今回はエニグマティック・スケールを用意するワケですな。Eエニグマさんですね、ハイ(笑)。


 でまあEエニグマさんの譜例を用意しました。嬰種調号4つのタイプなので第6音はCisisという音でしてC##というプログラミング言語ではございません(笑)。で、先のレイ・シャルマンのフレーズをE音からEエニグマで下降したフレーズと過程するとHis(=B#=C音)をモード・スケール内として導くことが出来るワケですが、肝心なのはEエニグマ・スケールを無理矢理あてはめて「めでたしめでたし」なのではなくてですね、Eエニグマを使っても上声部で鳴っているEメジャー7thという音は得られないワケですな。ですからこの状態だとベースがどんなにEエニグマを想定していても、上では別のモードでのEメジャー7thが鳴っているコトに等しいワケです。「串刺し」するには双方共通する脈絡がほしいので、EエニグマだとAisとHisが出現しようとも上声部のEメジャー7thの5th音であるB音=H音がホントならEエニグマにさらに追加されるような「串刺し」できるような脈絡が欲しいのです。それをどうするか!?というコトを先ずは考えてみましょう。


 嘗て、謎の音階を引き合いに出した時にドナルド・フェイゲンのソロ・アルバム「KAMAKIRIAD」収録の「Tomorrow's Girls」のイントロを例に出した事がありました。あのコードの体をもう一度思い出して欲しいんですね。つまりそれと同様に、今回のEメジャー7thに対してC音を得る背景から得られるバイトーナルな方向の脈絡を探る事が本題となるワケでして、ここから得られる「想定外」の脈絡というのはとても役立つことになると思われますので是非ともご理解いただきたいワケですな。
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 Eエニグマティック・スケールから得られる「Tomorrow's Girl」的なハイブリッド・コードは「Abaug or Caug /Bb△」というコードを導くコトができます。ここで得られた今回のハイブリッド・コードの体は「Tomorrow's Girls」の時は上声部の9thが下(つまり2nd)にあるように配置しましたが、今回の体は上声部の7thに配置する型として使用するので「Caug/Bbaug」=「B#aug/A#aug」という風にします。

 ハイブリッド・コードの総和音は六声なので、あと1音を満たせばEエニグマティックを補完する状態となります。ところが先ほどにも語った様に、Eエニグマの体を想定したままだと用いたいH音を使えないコトになります。そこで上声部をCaugをEaugと見なして、その増三和音をEメジャー・トライアドの長三和音の体に変化させるという体にし乍ら用いると、全体としては上声部がEメジャー・トライアドを用いた時点でEエニグマティック・スケールのモードからは逸脱しますが、他のモード・チェンジという違った形を見せるコトとなりまして、更なる発展を遂げることが可能となります。

 上声部が変化しようとも下声部は先ほどからペダル状態だと思えばコード進行的には

Caug/Bb△ -> E△/Bb△ という風に変化させたコトとなり、特に上声部がEメジャー・トライアドに変化した時の和声はペトルーシュカ和音に変化を遂げる発展の仕方だというコトが判ります。

 つまる所、Eエニグマティックの振る舞いをチラ見せする仕草というのはベースからすると、Eメジャー・スケールのそれとも、他の脈絡の薄そうな動機によってダブル・クロマティックとして「E - D# - D」が用いられている根拠としてEエニグマティックを想定しているそれは、上声部の世界であるEメジャー・スケールの側から別の牽引力によって「剥離」されていくような素振りであるワケです。しかもその「剥がれ方」というのが想定外の剥がれ方なワケですな。その剥がれ方がキレイですねん(笑)。その、チョット違った剥がれ方に根拠を見付けるためにEエニグマティックを用いた、というコトですわ。しかしそのままだと上声部で維持されているH音=B音がEエニグマティックを想起したままだと使えないので、バイトーナルなハイブリッドな和声としてシンプルな体として解体させて、上声部に想起し得る増三和音を長三和音に変化させることで、基の体を維持させつつ自分自身の「根拠」もさらに発展させるコトができる、という見立てなのであります。


 それらの一連の動きを明示的にコード化してしまうと別の曲の題材としても使えるでしょう(笑)。しかしこの状況をこうして和声を与えずに、周囲はEメジャー7thの体のまま、自分だけが(今回はベース)別の世界を想起している状況だとすると!?想定したハイブリッド・コードの上声部と下声部をいずれも忌憚なく用いることも可能となります。他が弾いてるワケないのだから自分はどうとでも想起可能です。無論、ハイブリッドな体を生じさせても、そこにはEメジャー7thというコードにさらにハイブリッドさせている体だというコトを肝に銘じて想定する必要はあります。ボキャブラリーが貧困だと道に迷う使い方になりかねないのも確かなのでハイパーな世界観に慣れ親しむ必要はあるかと思います(笑)。


 扨て、原曲の「No God's A Man」の方のベースのフレーズはその後亦クロマティック・フレーズを用いてA音に行くワケですが、GGオフィシャル・サイトの方でフィル・スミス氏が用意しているbmpファイルでは「D#7 (b5)」という風に表記されております。曲者ですな(笑)。これ、ペトルーシュカ和音の一部だと見ればイイんですね。二声体が対蹠関係にある状態だと思えばイイんです。つまり、「D#、F## =G」と「A、C#」という構造。つまり、A△/D#△の一部という風に。

 そうすると、先ほど私が意図的に想起した先ほどのEメジャー7thを維持したままでペトルーシュカ和音を導いた体が「E△/Bb△」だったワケですから、調域が半音違いとなっていて、こういう所に進行するための色彩というかメリハリが用意してあるワケですな。


 今回私はデモも用意しましたが、それは「和声的に」発展させております。つまり譜例の通りなんですが、「No God's A Man」では「D#7 (b5)」に行く所を「D#aug/F△」という風に変化させています。これは上声部は「B△/F△」という風に変化させるコトも可能です。つまり上声部があたかも「Baug -> B△」となっているように考えることもできます。

 バイトーナルな方角を見付けた場合非常に多くの発展的な可能性が詰まっていて、しかも明示的な四度進行ではなく今回の場合は「IV -> I」という進行に置き換えるコトも可能なワケですな。それをツーファイヴ化したい人はすれば良いですし、その先の語法は旧来のツーファイヴを使っても人それぞれでしょうし、曲の発展の仕方としては他にも色んな方法があると思います。重要な事は、クロマティックでもただ単純に半音を連結させているのではない脈絡を見付け出してナンボなのだ、というコトであります。それが「No God's A Man」に見られる重要なツボなワケでして他にも応用可能な一例なのであります。

 最後に気付いていただきたいのは、今回デモで用意しているハイブリッド和声はドミナント7th系の和音として表記させるコトも勿論可能ですが、そちらの体で使っていないという意図はもう既にお判りだと思いますので敢えては語りません(笑)。