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ハイパーな和声の続き [楽理]

 扨て、先の回(前々回のブログ記事)では「D△/Csus4 (on F)」という、少々見慣れないタイプの和声について語っておりましたが、まあそれはエレクトラ・コードっぽい音ではあるものの実はそれとは全く違う性格を持つハイパーな和声として取り上げていたワケでありまして今回はその和声の取り扱いについて今一度語ってみようかと思います。


 和声的にハイパーな性格を得るために、その和声自身の立ち居振る舞いをある程度強固にして(一方、古典的な方面で機能する和声の性格と比較すると性格は希薄)構築しようという試みから始まるというのは前回にも述べました。

energico_hyper01.png
 今回例に挙げる譜例では、前回の譜例の和声と比較すると丁度長二度低くトランスポーズされており、「C△/Bbsus4 (on Eb)」というコトになりますが、その辺りをあらためて確認してもらうこととしましょう。

 上声部はCメジャー・トライアドです。下声部は下からEb - Bb - Fという構造になっております。下声部においては前回の例と比較して1オクターヴ下の領域に配置されておりますが、この和声が持つ「情緒」を譜例通りに弾いていただければ理解しやすいのではないかと思いまして敢えて今回はこのように表記しております。
 今回のこの下声部は五度累積の構造というコトも前回述べておりますが、この構造そのものが完全五度累積による「等音程」という構造だというコトを前回のブログ記事の時点で見抜かれている方は松平頼則著「近代和声学」やアルノルト・シェーンベルク著「和声法」をよく理解されている方だと思います。

 近代和声学の方向で語るならば例えばp.155~p.156辺りが適切だと思います。そこで氏も述べているように、こうした五度累積に見られる等音程は、決してこの完全五度累積の三声体はそれこそ三度累積型から生じる3rd音と7th音(長和音をベースとした五声体を想起した場合、今回の譜例だと3度音程を累積させた構造のG音とD音を省略したようにも捉えられる)を省略した体ではない、というコトをあらためて私自身も述べておきます。

energico2nd_4v.png
 今回の私が提示している下声部の等音程、コレ、実は二度和音による四声体の一部(=Bb7sus4のAb音を割愛)から発展させたものなので、五度累積の等音程の形として更に世界を拡大するためには、割愛したAb音の存在として知る必要はないのでありますが、音を省いたにしても気に留めておく必要があるので敢えて四声体からの割愛という風に順序立てて述べてることにします。そこで今一度譜例を確認すると、二度和音からAb音を省略したというのも譜例の2つ目の画像からお判りになると思いますが、赤色で示している下声部が「想起し得る」Ab音というコトとなります。

 そこで元のBb7sus4がルートとして強い重心を持つ音を基準に考えた時、割愛したAb音はBb音から長二度下に存在していた音だったワケですから、今度はBb音から長二度上に「活路」を見出して新たな「牽引力」を得ようとする所から始まるワケです。Bb音の長二度上はC音ですから、そこをルートとする長三和音を配置する、という試みだというワケです。


 元々Ab音が生じていた、というコトを前提にして和声の発展の可能性を見出した場合、先は下声部に想起しつつ省略したAb音を上声部に持って行くとどうなるのか!?という和声が3つ目の譜例に見られるような構造となります。上声部にAb△7(+5)というオーギュメンテッド・メジャー7thを生じた例という風になります。下声部はBbsus4を維持しておりますが、下声部にあまり音をガメるコトなくBb音のみの単音とした場合、よくある「Ab△7(+5)/Bb」という二度ベース(2ndベース)の体として使うコトも可能なワケでして、ある意味においては今日用いられているオーギュメンテッド・メジャー7thの2ndベースの体を更に発展させようと拡大解釈させた場合、下声部をsus4に置換するコトも可能なケースがあるかもしれないという風に解釈するコトも可能ではあると思います。
energicoAbM7aug_onBbsus4.png


 そうした「和声の発展」の意図とは!?と疑問を抱く方がいるかもしれません。音を省いたり元々想起していた音を追加してみたりと、一体何処に主眼を置いていいのかすら混乱を招きかねないかもしれませんが、私の誘導したい所はただひとつです。それは、古典的な調性が孕んでいるベクトルとは違うトコロ。つまり、古典的な調性が誘う曲想が道しるべとなってくれている道順を歩いていたとすると、その道中で見ることのできるダイアトニック・コードに「オーギュメンテッド・メジャー7th」の体を確認するコトはありません。


※コレを確認した時というのはいわゆる近代の短調の振る舞いとして「短調のIII度」としてその三度を根音とする和音の五度音が半音高く変化したまま維持されているケースであります。古典的な短調の振る舞いでのIII度の扱いはこういう扱いをせずに属和音が都合良く導音を必要とするために属七に変化するだけです。短調の三度とはその特徴的な音をドミナント以外でも使うコトにあります。


 つまるところ、オーギュメンテッド・メジャー7thの体を見出すというコトは古典的な振る舞いからの解脱でもあり、オーギュメンテッド・メジャー7thを内包するモード・スケールで最も近親的な音階が実はメロディック・マイナーなのだと言いたいワケです。

 メロディック・マイナーをこれほどまでに引き合いに出すのは理由があります。それは対位法の発展によって突き詰められた世界観に集約されることでありますが、チャーチ・モードに収まるヘプタトニックのテトラコルド(=音階の各音の配列規則)というのはあてずっぽうに決定されたモノではなく、きちんと巧い具合に全音5つと半音2つを使っていて、チャーチ・モードというヘプタトニック総ての音を五度累積の型に分類した時それらがキレイに完全五度を6回累積させた構造という、五度圏という領域の半分以上を占有する偏重的な集約具合こそが通常のヘプタトニックの情緒という性格に現れ、その規則的配列というシンメトリックな形こそが「音」としての立ち居振る舞いに重要な配列になるワケで、音はそうしたシンメトリックな歯並びについつい寄り添うモノなのでして、難しい話は今回扨て置きますが、次回以降語るコトでもあるのでご心配なく。
 
 古典的な調性の世界且つ調律も平均律ではない頃は転調も制限されていたワケでありますが、だんだん曲中において七変化とも呼べるような旋法の変化の欲求が高まるようになります。平均律導入と共に近親的な調性だけではなく一気に世界が拡大したのは、現在ツーファイヴを延々繰り返して調性が一回りするような「水を得た魚」のような状態とも形容できるでしょう。対位法の発展に伴う世界観の拡大というのは、例えば平行調とはなぜその音程関係なのか!?とか、同主調はただ単に主音を共有するだけではない脈絡はどこにあるのか!?とか、そういう色んな因果から生じて構築されているモノでありまして、メロディック・マイナーの上行・下行形も無関係に構築される世界観とはそういう過程から生じたワケです。ある意味、古典的な調性のしきたりを多くの人が払拭してきたら今度はメロディック・マイナー側の振る舞いがカッコ良く決まるようになってきた、ってのが19世紀の中頃位には生じていたというコトをご理解いただければな、と思うワケであります。
 
 それと併せて、短和音の下方への牽引力というコトをこれまで左近治は語っていたのでありますが、なんで短和音の5度音を基準にすんねん!?みたいなコトを今一度おさらいしながら対位的な方面から因果関係とやらを次回では語って行くコトとしましょうかね、と。