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微分音 [楽理]

扨て、今回は譜例として扱う題材としては初めてではなかろうか!?と思うんですが、微分音について語ってみようかと思います。ほんの数回前の記事にて何となく譜例を出してはおりましたが、きちんと微分音について語るのが初めて、という意味でございます。とはいえ前回のおさらいをほんの少しだけやってから語って行こうと思います。では少々おさらいを。


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前回のコード進行において7~8小節目で生じている「F△/C#m」の体。コレはドゥアモルの和声として知られている型ではありますが、短三和音が下声部に生じている、ソレが通常の世界における属和音の位置に生じてさせるのはホントは美しい姿ではないと思います(笑)。まあ属和音の位置とはいえキーがAメジャーを想起しているモノだとすれば平行短調の所に生じてさせているんですけどね(笑)。実は、カタチとしては美しくないんですが、平行調同士の属和音の機能的な部分をあらためて確認するために意図的に生じさせているコトなんでご理解いただきたいんですな。

それはどーゆーコトを意味するのか!?というと、例えば前回に触れている通りドゥアモルの和声のそれは上声部・下声部の構成音を抜粋すればオーギュメンテッド・スケールの音並びを生みます。両者の和声は二つの増三和音というカタチを取らずに長・短2つの和声が上下にハイブリッドなカタチとして存在する型なのでありますが、そこを利用して同じ構成音でありながら半音違いの増三和音の姿として変化させるコトも可能である、という風に述べていたのも前回の通り。


扨て、平行短調側の所に短三和音が生じている「F△/C#m」は本来属七の和音が生じると考えれば「C#7」を生じておかしくない所。しかし、C#マイナーとFメジャーが併存した状態だという風にそれを解体してみると、ある意味では属音上でマイナー3rd音を特徴的に用いながらFメジャーをも使っている。「C#7」基準で見るならば「#9th、M3rd、b13th」に加え、なぜだかM7thを用いる世界観なんだと思っていただければ判りやすいかと思います。通常の「C#7」の状態であれば長七の音はなかなか使わないモノですね。

さらにそんな世界から構成音を同一とする上声部が「Faug」で下声部が「Eaug」という型にすると、これまたEaugは平行短調ではなく長調側の属音の位置という、瞬時に平行調同士の位置を変換しているような動きとして出現しているようなモンでありまして(笑)、EaugとFaugという和声を「E7」という属七基準で確認してみると特徴的な音は「b9th、11th、b13th、13th」というコトとなりまして、ナチュラル11thを生じている所が一番特徴的なのでありますが、「b13thとナチュラル13th」の併存状態というのも特徴的だと思います。


こうした平行調の属音同士の方角に生じている音は、それらを忌憚なく変換可能な状態にしていて、且つどちらの属音基準で見てみても通常の和声的な世界では出現しない世界を生じているのが明らかですね。それを強調したかったからこそ前回はああいうカタチにしているのだということをあらためてご理解いただけると助かるワケであります(笑)。



扨て、こうして前回のおさらいはココまでとして、ようやく本題に入って行きます。


「微分音」。まあ正直な所一般的には明示的に使うコトは少ないかもしれませんが、明示的に使うコトはなくともビブラートやらアーティキュレーションという側面ではごく普通に使用している音ですね。


微分音の鏤め方って、この辺はまだまだ未整備な分野であると思いますので、それを用いた和声とかとなると途端に世界が拡大するとは思うんですが、でも正直な所、ガムラン・サウンドを彷彿とする独特の音の「揺れ」は必ず存在することになります。その「揺れ」とやらがあたかもガムラン!みたいな使い方ではなく、巧い具合に「均す」というか「隠す」というか(笑)、この辺は色々と研究の余地があるかと思います。



嘗てシンセサイザーの音色が「減算方式」であった、つまり出来合いの音に対してフィルタリングする方向でしか音を作ることしかできなかった時代において金属的な音を得るには「かけ算」としてモジュレーションをさせるか、他にはリング・モジュレーション(差分の固定振動数)くらいしか方法が無かったもんでしたが、音律を変えて微分音として混ぜることで、ごくフツーのシンセ・パッド音が金属音っぽい揺れとして感じるコトができたりしたモンでした。つまるところ何となくズラした音のそれが時には「なんちゃって」金属音っぽい音を得ることがあるんですな。

例えば、高次倍音成分が多い音に対してアンプリチュード方面にLFOをゆっくり掛けるだけでも鉄琴っぽい音に感じたりするコトありませんか!?ピッチ方面に音をズラしてもそういう感覚に陥る音のズレがあるっていうコトを言いたいんですね。


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私自身嘗て若い頃には、耳は今よりも習熟していなかった事は明らかでした(笑)。しかしながら理論書の類やらはかなり目を通していたのでしょうが、そういう文献から知識としては得ていたワケですが、自身の耳の習熟度の浅さと実践のそれが巧くシンクロしてくれずに理解が遠のいていたのが微分音という分野だったんですな。私自身における、当時の「追い付いていない例」を判りやすく挙げてみると、例えばジャコ・パストリアス作曲の「トレイシーの肖像」の中に11次倍音を用いた、とても「外れて」感じる音が存在するのは原曲をご存知の方なら「ああ、あの部分ね」と誰もが想起するコトでありましょう。


ハッキリ断言しますが、耳の習熟の浅い時はこの音はとても忌避したくなる音に聴こえますが、耳が習熟してくるとこの音に対してもっと別の予測し得るハーモニーが頭の中で鳴り響きます。実際私がそう感じているのですが、その想起し得るハーモニーは、当時勝手に修正して与えていた響きとは全く異なる、それこそ一般的なコードの流儀では表すコトの無い形容し難い和声として鳴り響いているのであります(笑)。どういう響きかというと、左近治がよ~く使うようなハイパーな和声を生じさせるに相応しい音が「トレイシーの肖像」のあの部分に生じても全くおかしくないというような響きだというコトを意味しております。

ジャコ本人はおそらく耳の習熟されていた方で想起していたのでしょうが、なるほど。耳が習熟されてきて半音のカベを突き抜けて微分音まで忌避しなくなる感覚というのはこういうモノなのかもしれない、と感じているのが今現在の左近治であります。いずれはそんなハイパーな和声でリハーモナイズさせたアレンジをもってしてケークリで発表しようかと思っておりますので、まあいつになるかは判りませんがその頃には再びアナウンスさせていただこうかと思っております。


でまあ、この微分音とやらをいざ他者とのコミュニケーションの材料とするとなるとなかなか骨が折れるモノでもあります。いかんせん記譜法としても完全に確立されているワケではなく、大多数のそれに乗っかったモン勝ち!みたいな風潮がありまして、それが牽引材料と成っているのがノーテーション・ソフトウェア側からモノだったりするんですが、四分音・六分音・八分音ですら完全に確立されていないのでなかなか統一されないモノで忸怩たる思いを抱いているのであります(笑)。

ただ、私の経験では八分音の使用頻度は少なく、四分音か六分音の使用頻度が多くなるため次の様な表記に倣うコトが多いのが現実です。まあホントならココに加えて25セント・ステップの表記も確立したいのが本音ですが、どうやって表すねん!?という所にまだまだ議論の余地がありますし、各国によっても様々だったりするんですな。そこに一石を投じようとノーテーション・ソフトウェア側から巧い事提示してくれている部分もあるにはあるんですが、「この表記、ホントはこうして欲しいよね!?」みたいな、ソコはチョット飲み込めねー!しかも標準フォントだろうが拡張フォントだろうがなかなか意にそぐわないモノもあって、あんまり深く物事考えないようにしてこの辺にとどめているという思いがあるんですね、実は(笑)。


六分音なんてそうそう使わないだろー!とか思う方もいらっしゃるかもしれませんが、なかなかどうして。実は六分音近辺の音というのは四分音やら八分音よりも実際には多く遭遇することがあると私は信じてやみません。


いくらその手の微分音に馴染みが無い人でも、ある一定の分野では例えば初音ミクは結構ブームを巻き起こしているのだと思いますが、デフォルトの初音ミクの「音律」は音域(声域)にもよりますが、概ね六分音ひとつ分位フラットしていたりします。ピッチ・コレクトをしている方なら如実に実感するかもしれませんが、概ね33セント位低い音域があると思います。きっちりジャスト・ピッチでは歌い上げてはいないのがボーカロイド系に施された「味わい」だと思います。


私の場合、これまで結構耳コピをする作業が多いので特に実感するコトなのでありますが、原曲と制作側の環境のピッチが16セント位違って来ると、もうどちらか無理矢理にでもピッチを修正しないと作業が気持ち悪くで音もまともに採れなくなってきたりします(笑)。

カセット・テープ全盛期の頃は、仲間内では皆同じメーカーのカセット・デッキを所有したり、それとは別にバリ・ピッチ可能なオープン・リール・デッキにダビングしてからA音のキャリブレーションを録音してからダビングしたり(練習用に)、或いはバリ・ピッチ可能なMTRを用意したりするのが普通の行為でした。こういう環境で異なるテープ・スピードでも極力ピッチが合うように工夫を凝らしていたのが当時の環境だったワケです。特にウォークマンなどほぼ半音に近いほど速かったりしたので、合わせるのに一苦労したモンでした(笑)。デッキ分解してトリマー探したり(笑)。


最近、特にDAW環境が広く行き渡るようになるとコンサート・ピッチ=440Hzが異常に多くなったモンですが、90年代前半くらいだとまだまだ少し高めのピッチの名残りとかの録音物って結構ありましてですね、耳コピしてみれば判りますが僅かにピッチの狂いを感じたりすることって耳コピしていると如実に実感するコトだと思います。


とまあ微分音をひとたび語るにしても色んな側面があったりするものですが、私が微分音に対してある程度敏感になる音は六分音、その次の四分音でして、正直なところ八分音は器楽的にはあまり使用しません。全音を九分割した音と不完全五度は非常に似た音ではありますが、16セント以上25セント未満の辺りって結構難しい音でもあります。こういう音の微妙なズレの感覚というのも平均律の中にあればブレ具合もキッチリとしているのでしょうが、オクターヴすらまともに分割されていない音律とか1オクターヴが1200セント超で確認せざるを得ない音律などもありまして、こういう音律の中で聴かされる微分音はまた違う世界になるとは思います。

六分音のさらに半分の十二分音も私個人としては結構使う微分音ではあります。ただ、いずれにしても微分音の可能性というのは音響的な側面のメタリック(ヘヴィ・ロックやらそっちのメタルという意味ではありませんよ)な感じを演出できたりすることもあるので、これを内声に持って行くことでもっと可能性があるのではないかと信じてやみません。ホントはシンセ・パッドの音なのに金属的に聴こえさせるようにしたデモとかも作ってみましたので聴いてみてくださいね。全てがゴチャ混ぜになったような変なコードを使っているのはわざとですからね。フツーの世界ではこんなコード使っちゃダメですよ!(笑)


こういう微分音を扱うにあたって意外に厄介なのが楽譜にする時の記譜の問題です。Finaleではデフォルトでも微分音用の変化記号のキャラクターが幾つか用意されておりますが、実は微分音の記譜法というのは不完全でありまして記譜法はまちまちなのが実情だったりします。四分音は概ね同じようなルールのようですが、それよりも細かい微分音の世界はまだまだ統一されていないと思います。六分音と八分音の分類が曖昧だったりするワケですね。


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今回左近治が用意した微分音の譜例は一応、四分音・六分音・八分音を表記したものの、四分音以外は統一されていないような状況なのであくまでも便宜的な表記として捉えていただければ幸いです(笑)。鵜呑みにしてもらっては困ります(笑)。過去に私はダブルフラット記号の上下を逆さにした「p」と「q」が別々に記された楽譜を目にしたコトがあります。注釈を見ていないのでどういう微分音を扱っているのかは定かではありませんが、いずれにしても微分音の標記は難しい問題を抱えていたりするモノです。そういうオトナの事情があるにせよどうにか表記できてしまうFinaleの底力も凄いですけどね(笑)。


まあ、こうした微分音の表記を羅列しただけではピンと来ない方もいらっしゃるとは思うんです。ただ、微分音を巧く鏤めた音というのは正直な所、もはや「音色」を決定付けているのが高次倍音の成分なんだなというコトをあらためて実感していただく上で、今回あらためてサンプルを用意しました。


この音は、いわゆるアナログ・シンセを模した「減算」方式の音を組み合わせただけの音でありまして、活躍しているのはArturiaのProphet-V2です。ショート・ディケイのパッド系に使っているだけなんですけど、ただ単に鳴らしたらアナログ・サウンド系のパッド系の減衰を短く縮めた系の音です。しかし、譜例の通りにヴォイシングして鳴らすと、こーゆー風に金属的な音になって出て来るワケですわ(笑)。フシギですね(笑)。

こんなに変な音混ぜているにも関わらず、大抵は「F△7」というコードの響きとして聴いてしまうのではないかと思うんですな。そうすると「F△7」からグイグイとハミ出ている筈の音は最早音色を明るさ的なコントロールとしてしか作用していないんとちゃいます!?みたいな(笑)。そういう不思議なモノをあらためて実感していただくと助かるんですわ。


すなわち、左近治がよ~く引き合いに出す属二十三の和音によって視野に入れざるを得ない15次倍音とやら。とりあえずは16次倍音の範囲に収まっている倍音は最低条件として耳に注力していただきたい、という思いで生じさせているワケですが、「そんな所まで生じている微分的な音が作用してるはず無ぇだろ」みたいに思っている方も実際にはいらっしゃるとは思うんですよ(笑)。でも、こーゆー音をあらためて聴いていただくと高次倍音を決してぞんざいな扱いには出来ないというコトをあらためて実感し、しかも平均律から大きく外れている筈の音でもどれだけ深く作用している様があらためてお判りいただけるかと思うんですが、私は今回のコードを倍音列に則ってマッチングさせたヴォイシングとして成立させているワケではありません。がしかし、あらためて倍音やら高次の音の作用というのを実感してもらえたらな、という思いでこうしてサンプルを作ったワケであります。



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で、譜例に用いている微分音も細かく載せたコードは、先の微分音の表記例に則って記譜しているモノだというコトを確認していただければな、と。一部重嬰として表記しているのは、そこら辺の音を集中して使っているため異名同音にしないと表記しきれなくなるための配慮からであります。

「いやいや、いくらなんでもこーゆー風に音が鳴るワケないでしょ」と思っていらっしゃる方は是非ともダマされたと思って譜例通りに音を配置してもらいたいんですな。微分音を用いる部分はそれ相応のズレをピッチベンドでズラせば何てコト無く実現できますので、是非とも試していただきたいモンです。