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謎の音階 [楽理]

先の東日本大震災により被災されてしまった多くの方々にご冥福とお見舞い申し上げます。

当日私はとある病院で検査帰りだったのですが、地震直後は傍らのビルのガラスがグニャグニャ曲がっておりました。手持ちのデジカメで動画を撮影したんですがこういう状況を踏まえると不謹慎かな、と思いまして消してしまいました。駐車場へ行くとコンクリの輪留めが無残にも砕け散っておりまして、地震がいかに大きかったということがあらためて実感できたものです。

そう言いつつも書き溜めていたブログを一旦更新しようと思い今回の更新とさせていただきますのでご了承願いたいと思います。謎の音階


まあ、先日は少々奇異な音並びとなっている音階を例に挙げたワケですが、それについて少し語ってみるコトにしましょうか。


ヴェルディが作ったと言われている先の音階は「謎の音階」という風に呼ばれていて、ヴェルディ本人がそう呼んでいるワケで出自そのものがアヤシイのではなく、謎めいた雰囲気を醸す音階だという意味で用いられている「謎」なのでありましょう。


先の私が例に出したサンプルは、その音階を総合してしまう全音階的な試みで7声の和声を与えてみたワケですが、Cエニグマという音階の第2音であるDesを最低音として用いているのが先の左近治の例だというコトをあらためて申しておきます。また、その最低音から上にCとHを半音でぶつけているというのも左近治が好むヴォイシングであるというコトもこういう例からあらためてお判りになっていただけるかと思います。


まあ、これほど半音音程が連なる奇異な音階からダイアトニック・コードを形成しようとするのは結構難しいモノかもしれません。なにせ、安定的な長和音・短和音を得ようとしてもCエニグマ基準なら第3音をルートとするE△でしか安定的な和声は得られず、その他は和声的に安定したカタチではなかなか得られません。

度数を超越して便宜的に和声を形成すれば、長三和音の九度/七度でのハイブリッドのカタチ、すなわち便宜的に見れば「F#△/E△」「E△/F#△」という風に作るコトができますが、ここで「便宜的に」生じた「F#△」側のCis音は実際にはDes(=Db)という音なので、これが「便宜的」と注釈を付けているトコロなんですな。まあ、フツーの世界観で見ればE音を基準とした所でしか安定的な所は無いというコトなんですよ。

Eメジャーを鳴らしながらCエニグマを弾けば、特にH、C、Des辺りを使ってDesを六度として使うようなフレージングをすると、この音階が持っている特有の情緒は理解しやすくなるかもしれません。ただ、こういう使い方だけというワケではなく、一般的に情緒を得やすい「角度」がE音を基準とした部分からの響き、というコトなんですな。


私はDes音基準でそれを最低音で総合的な全音階の和声を形成したというワケです。一般的なポピュラーなコード・ネームで表現しようとしてもかなり無理があるコードである、というのは先の例からもお判りになったのではないかと思います(笑)。私のローカルなルールであらば、あの手のポピュラー形式で表現出来ない和声をコードネーム化する際はドミナント15thとしてのカタチ、つまり属二十三の和音を基準にそれからどの音をオミットしているのか!?という表現を用いております。ただ、いずれにしてもこういう場合はコードネームに拘るのではなく、譜面でキッチリと表現すれば済むだけのハナシではあるんですけどね(笑)。


01DdEnigma.jpg


で、Des音基準となるとCエニグマの第2音から形成されるモード・スケールと言えるワケで、この音階の特異な側面はDes音基準となるとフルに発揮されるように思います(笑)。

これだけ奇異な音並びであろうとも12音から7音を抜粋してヘプタトニック(=7音音階)を構成しているワケですが、7音で構成されているとはいえ各音の度数を見ると通常の音程幅としての単位で見ると面食らうほどジレンマを生じかねないモノとなりまして、音程幅を習得するにあたっての格好の題材ともなるくらいなんですね(笑)。試験に出題してもおかしくないと思います(笑)。

02Enigma_Interval.jpg


次の例では、Desを基準に各音の音程差を表したモノでして、上下それぞれに転回前後の音程差を載せてありますのでご確認くださいね。まあ重増四度とか重増五度とか出て来ますけどね(笑)。

ギターのフレット数で言えば7フレットなのになんで四度やねん!?とかジレンマに陥る方いらっしゃると思うんですよ(笑)。でもね、こーゆーの克服しないと、結局はトライトーンはどんなに転回しても三全音!なんて皮相的にしか理解していないものだから増四度も減五度も同じに考えてしまうアホを生産することになりかねないので、こーゆー所でつまずくことが無いようにしておくためにも、今回の奇異な音程というのは今一度理解しておいて損は無いと断言しちゃいます(笑)。

まあ余談ですが、重増とか重減とやらがさらに半音を重ねるとどないな名称になるねん!?と思われる方もいらっしゃるとは思うんですが、半音ひとつ増減するごとに「重」を更に追加していけばイイだけのコトです。重重減、重重増とか。さらには重重重減とか重重重増という風に。通常の音世界だとなかなか重減とか重増とか遭遇しないと思います。とはいえ多くの人は音階には7つの階名を与えるという選択をするものです。奇異な音並びはこうしたご都合主義による弊害とも言えるでしょう(笑)。あらためてこういう例を提示することによって「減七度」という音程がどういうモノなのかというコトも知っておいていただきたいのであります。音程幅で言えば長六度ど等しくとも度数は七度だから「減七度」と。


今回ある例で例えてみようと思うのでありますが、通常の音世界というシーンをカメラのオートフォーカスに置き換えるとしましょうか。ファインダーを覗くとオートフォーカス機能はどこかにピントを合わせようとします。そんなファインダーの視野内に、姿を捉えられてなるものか!とばかりにカモフラージュしちゃってる左近治が居るとしましょうか(笑)。

このカメラのオートフォーカス機能はとにかく通常の音世界やらチャーチ・モードに収まる音型を見付けるのが非常に得意です。左近治もどうにかピントを合わせられないように工夫を凝らしながらも、時にはチャーチ・モードに寄り添ってしまいかねないとても酷似する音型を使っているので、いつしか姿を捕捉されてもやむなし!みたいな窮地に立たされている状況だとしましょうか(笑)。

そのオートフォーカスに捉えられないためのアルゴリズムみたいなモノは存在するんですよ。音楽的に言うと、通常の音世界に引っ張られないようなフレージングというものがあるんです。公式化やアルゴリズム化できるというワケでもありませんが。その簡単な例のひとつが以前に例を挙げた、メロディック・マイナー・モードでの5度抜きですね。ある意味究極形としては、幾種類かのペンタトニックのカタチですか。例えばあるフレージングでC音とF音を使う必要があったら、その2つの音を満たすペンタトニックを幾種類か準備して繰り広げるようなモノです。

音楽の背景に調性が色濃い場合は幾種類か準備したペンタトニックの中から調的に過剰に逸脱してしまったペンタトニックを選択することは難しいでしょうし、逆にフレージングの妙味によってフレージングから調性を逸脱させてしまうコトも可能であるというコトを念頭に置くと、両者は言葉上では矛盾を生じているかもしれませんが、実際にはジレンマなどなくいずれにおいても対応可能なワケです。多くの人は調性に収まる型を選択しますけどね。

まあハナシがチョット逸れてしまいましたが、今回の「謎の音階」とやらの音並びというのは、まあこの音階の特徴的な音を使おうとすればフツーの音並びの音型にはなかなかならないと思うんですな。無論半音がやたらと続く辺りを強調してしまえば傍から聴けばただのクロマチック程度にしか聴こえないかもしれませんし、ある楽音上でたまたまクロマチックの連結のフレーズを弾いただけで「オレ、今エニグマ・スケール使っちゃった!」とか陶酔しちゃってるよーじゃ愚の骨頂なワケですな(笑)。これだけ特徴的な音並びであって且つ半音音程連続していようとも、情緒を見出せ!というコトが重要なんですな。

その情緒とやらを一挙に知らしめるには全音階的アプローチでよかんべぇ、とばかりに七声を与えたのがこないだの左近治の例ですわ(笑)。でもアレだってハチャメチャな響きではなく、不思議な情緒と陰鬱な余韻を感じさせる世界観を演出できていると思います。それをポピュラー界隈の流儀に倣ってコード表記しようとすると、便宜的な表記として注釈を与えない限り破綻してしまうワケですな(笑)。私のローカル的な方面においては、ああいうもはやポピュラー形式では表現しきれないコードは便宜的にハイブリッド・コード形式として表記したりドミナント15th形式でそこから何処其処の音のオミット形式、みたいなものにしたりとかですね色んな事やってます(笑)。周囲の連中に注視してもらうために音符だけでなく敢えてわざと変なコード付けてみたりとか、色々やってます(笑)。

「王」という字のような記号を使って、属二十三の和音を下から四声ごとに分けて「王」という字を3つ縦に並べてみたりとかですね。色んな事やってます(笑)。G15(王、三、土)だとするとこの場合「王」は下側四声、「三」が内声の四声、「土」は上声側の四声を表しておりまして、「王」という字で表すことの出来る記号の書き順は、横線を下から上に最後に縦線という「四画」という順序で表しているので、属二十三の和音の内の17thと21stをオミットしたカタチとなります(笑)。でも、こういう表記をするよりも、結果的に上声部と下声部でのハイブリッド形式にした方が判りやすいんですけどね。


そんなハナシは扨置き、今回は非常に特異な音並びとなる音階を敢えて例として取り上げてみたワケですが、音階としての情緒をあまりよく理解できない方にも敢えて「こんな響きにも出来るぜ!」みたいに左近治の例に出した全音階的和声とか聴いてもらおうとした意図というのは、そんな特異な所から引っ張って来た和声であっても耳には意外に馴染む(筈だから)ように極力配慮したモノなのであります。

結果的にその全音階的和声がポピュラー界隈でのコード表記形式に則ったカタチで表現こそ出来ませんが、響きとしては思いの外普通に受け入れられるくらい、独特の陰鬱な印象を持った感じに聴こえるのではないかと信じてやみません。いずれにしてもコード表記に収まらないからといって、このような響きを脳からも排除してしまって未経験状態にしてしまうのは和声的な語彙を得るための知識の蓄積のカタチとしては余り望ましいものではないと思います。


左近治の提示したCエニグマ・スケールの第2音を根音にした全音階的和声の良し悪しは別として、「全音階的」な響きというのはチャーチ・モードの世界においてはそうそう使われる事はありません。チョット前にも語ったようにチャーチ・モードの世界において「全音階」を和声的に表現しようとするとサブ・ドミナントのシーンでしかないワケです。

先の左近治の全音階的和声はチャーチ・モードの世界とは全く趣きが異なるものでして、こうしてあらためて比較してみることで一般的な音楽的な世界観と、ハイパーな世界観との差異感がより明確になってくるかと思うんですが、その辺りの根拠とやらをザックリと語ってみることにしましょうか。

例えば一般的な音楽的な世界観はチャーチ・モードに収まる体系でありますが、この世界観の特徴的なのはトニック、サブドミナント、ドミナントという3つの調性を決定付ける重要なコントラストの配分や性格が滲み出るための要素があらゆる意味においてバランスが整っている世界観なワケです。トニック感、サブドミナント感、ドミナント感という感覚を有するのはそもそも自然倍音列があるためで、倍音列から生じる音列と実際の和声から生じる音の調和具合がそうした調的な世界観を決定付けるモノとなっているのであります。

ところが耳がある程度習熟されると、トニック感・サブドミナント感・ドミナント感という調的なコントラストが持つ牽引力にわざわざ頼ることなく自身の耳で「高次な音」を引き連れて来ることができるようになります。そうすると、そこから導いて来る音というのは奇しくも高次倍音列に則った音を忌憚なく引っ張って来るようになるワケです。無論、そこには平均律から外れた倍音も生じるワケですが、この音は耳が未習熟な時は最も安定して響くであろう平均律とマッチする音に修正しようと脳がムリヤリ働くのでありますが(笑)、耳(脳)が楽音に対して高次に習熟するとその修正感覚というのは次第に消失して、いつしか受け止めることができるように心地良さを伴って来るものです。

私はベース弾きですので、その昔多大な影響を受けたジャコ・パストリアスの「トレイシーの肖像」において、曲中には正直な所忌み嫌うかのような微分音を生じるハーモニクスが登場する所があるのは本曲をご存知の方ならお判りでしょう。しかし、「あの音」ですら耳の習熟度が高まると心地良く聴こえてしまうモノなんです。年月を経てくるほどにその違いは歴然として自覚出来るのではないかと思います(同様に年月を経ながら耳が習熟されている必要がありますが)。

特に半音音程の連なりを長七度と短二度を巧みに使い分けながら広い音域に拡大しながら響かせようとしたり、または平均律で言う100セント幅よりも狭い微分音の音程の集合体であっても、それを広く「転回」させて響かせようとする動きが耳や脳の中に生まれて来る感覚が強まって来るモノです。こういう風に耳が育った人が複数集まるようになると音楽の話題をひとつ出すにしても演奏し合ったりしても非常に面白くなってくるモノでありまして、こういう状況を作るようになると音楽はもっと楽しく聴くことができるのではないかな、と思うワケです。