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ヒンデミットに倣う11th音の巧みな使い方 (2) [楽理]

前回の続きです。もしも、この音使いを同様にやってみてバンド内でイジメに遭われたりハブられるようなコトがあれば、後述の根拠を持ってしてポリシー貫いてくださいね、と(笑)。それらの根拠を持ってしても人間関係がうまくいかない場合は、演奏面や楽理面とは別の部分で問題を抱えていらっしゃるのではないかと思いますのでそればかりは助け舟出すコトはできませんのであしからず(笑)。

で、今回の譜例のベースでのフレージングはヒンデミットのクラリネット&ピアノソナタ第三楽章に倣ったモノでありますが勿論、そのまんま引用しているワケではありません(笑)。但し特徴的な音使いというのはヒンデミットのそれに倣ったモノでありますが、それらの特徴的な音使いに関しての楽理的側面において詳細に語ってみようかな、と。

基本的に今回の譜例のサンプルの背景のコードと「Em9」というのは先述のクラリネット&ピアノソナタ第三楽章と同じです。ヴォイシングは違うのでヒンデミット本人が描いている世界観とは異なる可能性がありますが、クラリネットのフレージングには特に着目する必要があると思います。

クラリネットのフレーズは背景にあるEm9から11th音に跳躍して下行フレーズを描いて行きます。ジャズ界隈やアッパー・ストラクチャーを演出する現在の音楽シーンにおいて11th音に跳躍するコト自体は何も珍しいモノではありませんが、その後の特徴的な音使いというのは今回用意したサンプルと同時に先にも述べているように、単一のモード視点では語りきれない音使いとなっているのは明白であります。

ヒンデミットの楽曲のみならず、マイナー・コードにおけるアウトサイドな音使いで重要な点というのは、そのマイナー・コードの5th音に注目する必要があります。半音階的アプローチを導入しつつ対位的な旋律を書いた経験がある人ならお判りになるかもしれませんが、基本的に「短和音」という不協和に極力近い協和度が最も低いその和声というのは、5th音から長三和音を鏡像化したもので、結果的にその「協和度」を視覚的(音響的)に「波」として見た場合、本来存在する根音とは異なる仮想的な音程関係に根拠を求めるコトになるワケですね。これが一般に下方倍音列と言われるモノでありますが、短和音という「成り立ち」は実際に存在するワケで、その情緒の根幹を探るために根拠を求めると仮想的な位置に根拠を見出さざるを得ないようなモノとご理解いただきたいんですな。コレを机上の空論と穿った見方もする人が多いのは事実ですが、自然倍音列との「軋轢」や短和音を母体とする重畳した和声のトニック感が希薄になるような事実を実際に耳にすると、下方倍音列というのは奇しくも机上の空論ではないことをあらためて実感できると私は信じてやまないワケです。ある意味では大多数が「トニック」と感じている響きをトニックとして感じずに「別の解釈」という所から音楽というのは発展しているモノでありまして、それが変格旋法でもあり近親的な調への転調、またはジャズという世界での和声の重畳による発展とモード・ジャズの形成というのも密接な関係にあるからだと私は思っているからです。つまるところ「別の解釈」こそが決め手とも言えるワケですな。


短和音をベースとした世界での調性の逃げ水なようなもの、だの「まどろみ」だのと形容してきた左近治はこれまた今に始まったコトではないのでありますが(笑)、基本的にはマイナー・コードの可能性というのを探る意味でこのように論じているワケでありまして、マイナー・コードの5th音を基準として鏡像音程を作り出すと、Eマイナーの5th音は「B音」ですが、鏡像化を想定するとココに次のような和声を仮想的に見出すコトができますのでまずはハ音記号で書かれている譜例を参考にしていただきましょうか。

ph02.jpg


譜例fig.2の最初の小節は、「Em9 (11)」というコードの5th音だけが赤い符頭で表されていて、その5th音から上方に重畳する3つの音を「鏡像化」すると、5th音よりも下方に等音程として鏡像化されるのはお判りですね!?それらの鏡像音程が次の小節で表されているワケであります。結果的にB音を含む鏡像化された合計四声をピックアップすると「C#m7」が仮想的に出現するコトとなります。

鏡像化する前の基の「Em9 (11)」の3rd、Rootを同様にC#m側に鏡像化させればそれは9th、11thとなるのはお判りでしょう。つまるところ鏡像化されたC#m7というのはフリジアンをモード・スケールとしない長九度音の「使える」マイナー7th系のコードを仮想的に見出すコトができるワケであります。これはいうなればEから見た二次対極(短三度セパレート)に位置するコトともなります。


しかしながらこの見立てで重要な点は「Em9 (11)」上で「C#m7」というコードをぶつけても構わないというコトを意味しているのではありません。C#m7の5th音はG#。つまりEm側から見れば長三度音となり、通常なら取り扱うコトのない音であるのは明白です。では、どのような場合に「使える」のか!?(つづく)