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ヒンデミットに倣う11th音の巧みな使い方 [楽理]

扨て今回は、表題通りヒンデミットの音使いを学んでいこうというカタチで話題を進めて参ります。


表題にある「11th音」とは!?と疑問を持つ方もいらっしゃるでありましょうが、先ずはその辺りの注意点を語るコトにしましょうか。


今回取り上げる「11th音」とは、あるコード上の「ナチュラル11th音」のコトを意味します。メジャー・コードにおいては禁忌(=アヴォイド)でありまして、便宜的に使用されるコードのひとつで本来は分数コードの型であるトコロの表記にも見られるドミナント7th上のナチュラル11th音(本来これもドミナント7thのアヴォイド)とか色々ありますが、とりあえずナチュラル11th音を活用できるシーンというのはマイナー・コードを母体とするモノ或いはsus4コードやディミニッシュ由来のシーンというコトになるのは今更声高に語る必要もないとは思うのでありますが、11th音を扱うというのはとりあえずマイナー・コードが母体とする場合というのはごく自然に取り扱うコトができるというワケであります。故に、和声的にもマイナー11th系のコードというのは耳にする機会も多く、11th音という「特別な」響きであるが故にアッパー・ストラクチャーによる「あっちの世界」とでも形容できるような、いわゆるトニック感を暈すような時にも非常によく多用されるワケであります。浮遊感とでも言えばよろしいでしょうかね。

ある意味ではそういう終止感が希薄で浮遊感をもたらすというのは、マイナー・コードが本来備えている私がよく形容する「まどろみ」を実によく形容しているシーンとでも言えるものでありまして、ルートが本来演出する筈であるトニック感の逃げ水のような希薄な響き(実際にはルート無くしては語れないんですが)というのはこれまでも語って来ている通りでございます。


それでは、私が敬愛してやまないヒンデミット先生は、マイナー・コードにおいてどういう風な11th音の取り扱い或いはアッパー・ストラクチャーの感覚を抱いているのか!?という所から、今回はヒンデミットを語るコトにします。

というのも、ある程度ジャズ理論やモードに精通している方であれば通常、マイナー・コードにおいてどのようなモードを当てればイイのか!?というコトなど熟知されているコトでしょうが、それがあまりにも体系的になってしまっている昨今、もう少し別のアプローチがあるのではないかという左近治自身の穿った見方から今回はこうして題材にするのでありますが、率直なハナシ、マイナー・コードにおける非和声的なアプローチというのはある意味ではドミナント7thコードにおけるオルタード・テンションよりも可能性を秘めている世界だと私は痛感しております(笑)。

以前にも取り上げたコトのあるチック・コリアのマイナー・コード上での「I - IIb - Vb」という相互変換的なアプローチというのはモード的な解釈をすればミクソリディアン+エオリアンという、本来は九度(=二度)音程差で生じる音列を同列にハイブリッド化させた多旋法的アプローチがあったのでありますが、それよりもヒンデミットの音使いというのは更に興味深いモノですし、ある意味ではマイナー・コードを母体とするシーンにおいて非常に判りやすく、響き的にも違和感が少ない「協和的」なアプローチが潜んでいたりするモノです。この特徴的な音使いというのは、一般的なジャズ理論などで体系的にしか理解していない人にしてみれば遭遇するコトのない音使いであるコトには間違いなく(笑)、一応その辺を詳細に語ってみようかな、と思っているのでありますな。

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扨て、今回は4小節の譜例を用意しているのでありますが、今回はタブ譜まで用意しております(笑)。そうです。今回はエレクトリック・ベースのソロ・アプローチみたいなモノを用意して、それらのサンプルと譜例で語って行くコトにします(笑)。ベースのプレイ面において注釈をその都度付けておきますのでその辺りも重ねてご理解いただければな、と。

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今回ベースで奏でているフレーズこそがヒンデミットに倣うフレーズそのものであります。ヒンデミットの方を研究されたい方はクラリネット&ピアノソナタ第三楽章をお聴きになるコトをオススメします。とはいえYouTube辺りで聴くコトのできるクラリネットソナタなど、100点満点中いずれも40点に満たないような演奏ばかりで辟易してしまいますが(笑)、私が一番オススメするのはMDGからリリースされている「Complete Sonatas Vol.5」でありまして、ピアノはカレ・ランダルであります。


この演奏を聴いてしまったら数あるヒンデミットのソナタは霞んでしまう程とても良い表現性と演奏でして騙されたと思ってお聴きになってみて欲しいなとあらためてレコメンしちゃいます(笑)。ちなみにこの第三楽章は、以前にも述べたコトがありますが、自分が死んだ時に掛けてほしいと周囲に言っている曲でありまして(笑)、今現在でも、これまで私が出会って来た曲の中で一番好きな楽曲なのでありますな(笑)。

まあしかしながらYouTubeなどで聴くコトのできる(2つほどありますけどね)ヤツを掛けられた日にゃあ、怒り心頭で、折角死んでたのに激高して生き返ってしまうのではないかと思うくらい、MDGのコンプリート・ソナタVol.5と比較すると全然ダメダメなのです(笑)。iTunes Storeでも数多く聴くことができますが、一番良くても70点台ですな(笑)。カレ・ランダルのそれと比較すると。ピアノに関しては両手の薬指の表現力の高さを求められるので、大半の演奏者はその弱点を補おうとするためかその辺りが甘くなっちまうんですが、カレ・ランダルは全然異質なんですな。曲の理解度もかなり高いと思います。いずれにしてもどんな人であっても流通している演奏者のレベルであればかなり練武されているのでありましょうが、カレ・ランダルは異質の次元レベルと言えるでありましょう。


んなワケで解説の方をしていきたいと思うワケですが、譜例では「Em9」というコード一発で遊んでいるワケで、この「Em9」はトニックであります。で、フレージングとしては11thに跳躍してその後色々「外す」ワケですな(笑)。この異質な音運びはドリアンとナチュラル・マイナーが混在してたり、果ては長七や長三度音まで使ってしまうという、マイナー7th系のコードを母体としているのに実に異端であるコトには間違いないのでありますが(特に譜例の3小節一拍目ド頭のGis音など通常なら罵倒されてしまいかねません)、このように音使いをしても不自然さはそれほどありませんし、むしろマイナー・コードで長三度音をあからさまに使ってしまっているのに違和感をそれほど生じない所を語って行こうと思います(つづく)。