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3拍8連を今一度 [プログレ]

3拍8連を今一度


「拍」という概念は実に深いモノであります。人によっては「拍」そのものを遅く感じたり速く感じてしまう器楽的な個人差があります。とはいえ、ワルツ(=3拍子)のテンポをどんどん速めていくとですね、いつしか3つの拍を「一組」と感じてしまってですね、その「一組」を今度は1拍に聴いてしまうワケです。


つまる所、3/4拍子はもちろん三拍子、6/8拍子が二拍子と定義されるのはこういう拍の概念から起因していることでありまして、6/8拍子もテンポを速めていけば1拍3連の連なるシャッフル系のフレーズとして聴こえることでありましょう。


スウィング感(3連中抜き)がメインではなく、珠玉のごとく1拍3連の連なるような楽曲をわざわざ6/8拍子または12/8拍子スタイルにして記譜することも少なくありません。


ビル・エヴァンスという人は、シャッフルのワルツを好むというか代表格なのでありますが、ある程度基となる3拍子が速目であると、それが2拍9連に聴こえる時があります。

さらには、誰もが経験したことがあるであろう、シャッフルのフレーズをラウンドロビン(平滑化)する、よくあるのは1拍3連系シャッフルのフレーズを8分音符に平滑化させるようなコト、もしくはシャッフルの曲に4連符(=16分音符など)にして「平滑化」させたりすることもよ~くあることだと思います。

こういうのは先ほどにも挙げたビル・エヴァンスやらを筆頭に、ジャズ界のシャッフルのワルツは要所要所においてこのような「平滑化」をギミックのように用いたりするコトがあります。つまり、3拍子であったはずの基のテンポが少々速いので、通常の4拍子の世界での2拍3連として捕らえて、そこに音を「4つ埋める」とか。そういうギミックがシャッフルのワルツには多いワケであります。

3拍子を「4つ」に平滑化させ、それを倍に細分化すれば自ずと「8つ」になります。


基は3拍子だったワケですから、3拍に8つ音があることになりますね(平滑化)。


まあ、DAW世代の弊害とも言えるかもしれませんが、打ち込み方法にピアノ・ロールという手法が普及すると、人々は拍の「グリッド」に神経質になってしまうのか、3拍子を8つに分けると、実際のその音価は「16分音符×3つ分」なので「付点16分音符をわざわざ3拍8連と呼ぶ必要ねーだろ」と言うような人が居たりするんですな(笑)。


でもですね、よっぽどスローなテンポの曲を扱っていない限り、bpm90~150辺りの曲を演奏している器楽的能力がソコソコある人であっても、いざ演奏する時に厳格に付点16分音符を意識して弾いている人というのは、よっぽど腕利きの人や腕の立つドラマーとかではない限り、殆どの人はそうそう持ち合わせていない感覚というのが実情です(笑)。


つまり、付点16分音符というのは32分音符の「ウラ」をも強烈に感じ取っている人たちの間での解釈にとどめるべきで、先ほどの「平滑化」のハナシでもそうですが、シーンによっては16分音符表記ではなく4連符表記とか、3拍8連という表記にした方が伝わりやすいことの方が非常に多いのであります。現実的に。


シーケンサーのベタ組みでもあるまいに、そこまで厳格に付点16分音符や32分音符のウラをも意識している人が少ない中で、3拍8連という表記でリズムを曖昧にしてしまうのではないか?とやらに神経質になる必要はなく、そもそもその手のリズムの欲求がある時点で、人は言葉巧みに拍に乗せたりするリズムの経験から発祥しているモノなので、譜面やらシーケンサー的グリッド視点で厳格に捉える必要などそもそもないのでありますよ(笑)。


故に、32分音符を痛烈に感じ取っている人でなくとも3拍8連という視点で演奏した方がスンナリ体得できてしまう、というコトの方が実際には非常に多いのであります。


無論、かのビル・エヴァンスと演奏した人が32分音符を痛烈に感じていないのか!?という揚げ足は置いておくとしましてですね(笑)、曲の前後の楽譜表記やらを勘案すれば、わざわざ付点16分音符だらけにしてしまうよりも、3拍8連というシンプルな方が伝わることが往々にしてある、というコトだけで、自分のリズム感が得やすい方に解釈すればイイワケです。


シャッフルのワルツで繰り広げられるジャズの名演の多くは、その「3拍8連」においても、シーケンサー的な視点でキッカリとした付点16分音符を奏でるのではなく、基のシャッフル感を多少「ひきずる」感じで演出していることの方がこれまた多いのも事実であります。


扨て、ここから今回の本題なんですが(笑)、ビル・エヴァンスやらシャッフルのワルツやら題材にしておきながらも実は「ジェントル・ジャイアント」を語りたい左近治なのであります。まあ、前回のブログでも最後にアナウンスしていたワケでありますが、今回取り上げている「3拍8連」というのはGG(=ジェントル・ジャイアント)とは無関係ではなくてですね、寧ろ非常に重要な名曲を取り上げて「実例」やらを展開できた方が良さそうだな、という配慮から来るものでありますが、折角のGGの話題なら、リズム的側面だけではなく、ケリー・ミネアーを筆頭とする楽理的側面やらジャズにも絡めた話題にしていこう、という思いから、こういう風に前説がついつい長くなってしまっているのであります(笑)。


先日、コメントをいただいていたようにGGのキーボーディスト(たまにチェロやマリンバ)であるケリー・ミネアー率いる「Three Friends」が来日していたのは記憶に新しいワケでございますが、こともあろうに左近治は行くコトができなかったんですねー(笑)。おそらくケリー・ミネアーの生の姿を国内で見ることができるのはこれが最初で最後ではなかろうか、と思っていたワケですが、欲を言えばレイ・シャルマンが見たかったのが本音(笑)。


ま、そんな今となってはどうすることもできないワケでございまして本題に入りますが、今回取り上げるのはGGのスタジオ・アルバムとしては7thアルバムとなる「フリーハンド」収録の「Free Hand」を取り上げることに。


この曲の前奏は非常に美しいモノなんですが、それについては後ほど語ることと致しまして、まずこの曲の中盤にある6拍子のブリッジ部に、先の付点16分音符フレーズ、つまり3拍8連のギミックが聴くことのできる最たる楽曲でありましょう。


GGというバンドは16分音符3つを「あたかも」シャッフルのように聴かせたり、1拍6連の4つ分の音価を1拍に聴こえさせたり(これなら2拍3連と等価ですが、8分裏からそれをやってのけたりという「So Sincere」という曲があったり)、まあとにかくリズム的な面だけでも非常に多彩なギミックを何の苦も無くライヴでやっちゃったりするワケですが、楽理的側面の魅力というのは更に凄味を増すワケでありますな。


例えば、「Free Hand」の先ほどの前奏部分など、一番最初のピアノの独奏だけを聴けば「あたかもAマイナー」に聴こえるなモチーフから入るんですが、そのモチーフの長三度上に移調フレーズがギターで絡んでくるのであります。


GGのオフィシャル・サイトでは過去にこのMIDIデータがアップされていたこともありましたが、Aマイナーを代用するAドリアンのモード・スケールを保ってしまった「間違った」3度のハーモニーでファンのひとりがアップしてしまっていた例があったりしたモノでした。

Aマイナーっぽい旋律のピアノとC#マイナーっぽい旋律のギターにF#のベース・ペダル。本来ならF#マイナーのブルージーな演出っぽく聴こえるかもしれませんが、実際には、この解釈も違います。


ココは、Eエオリアンがピアノ、C#ドリアンがギター、ベース・ペダルにF#という解釈の方が実際でありましょう。

こういう異なる「旋法」(=モード)を乗っけるやり方としては、クラシカルな面がベースにありながらも、ギターとピアノの乗っかり方のそれはジャズ界のそれに実は多いものであります。こういった手法は先のミラー・モードの時にも述べましたね。

こういうアンサンブルでありながらブルージーなF#マイナー感を維持しながらも、実は「ディミニッシュ」感のある移ろいを垣間見せてくれます。モード・チェンジを行うワケですが、こういう世界に移行すると、Fメジャー・トライアドとAメジャー・トライアドとG#メジャー・トライアドが一緒に放たれたかのようなハイブリッドな和声感をも得ることができるんですな。ベースがC音やF音を奏でてからになるワケですが、イントロのギターとベースが入ってくる最初の4小節はF#をベース・ペダルにAメジャー・トライアドとG#メジャー・トライアドの(コードとして捉えた場合)響きのように鳴ってくれるワケであります。


過去にも左近治は長七度離れた六声のハイブリッド・コードを扱ったことがありますが、こういうGGの例にもあるように、珍しくはありません。しかしながらGGのそれは旋法的に対処しているので、F#をペダルベースに「G#△/A△」という具合にはなかなか耳に聴こえてくれないかもしれませんが、実体はこうだ、と思っていただければ幸いです。


たったひとつの、よくありがちなひとつのモードの世界観だけで聴こうとするとダメですよ、というコトを言いたいのであります(笑)。故にGGオフィシャルホームページに披露されていたGGファンの間違った解釈のMIDIデータなどが存在しちゃったりするんですな。


「間違ったデータはアップしない!」というコトではなく、ファンを大切にしたいからこそ、間違ってはいてもソコは「大人の対応」でアップさせているんでしょうな(笑)。とても涙ぐましいモノであります(笑)。


間違いを間違いと気付かないような人に対して間違いを指摘してすると、大半は自己の過ちよりも自己愛を優先するので、ヘタに指摘しようものなら敵視されかねないワケですな(笑)。可愛さ余って憎さ百倍、というか。色んな面で未熟な人というのはこう陥りやすいので、指摘する方も難しいモンでして、GGオフィシャルの方ではそこまで見越した上での対応だと私は感じております。


自身の未熟さは棚上げしてしまい、指摘したら恨まれかねないなんていう姿勢は、もう子供じゃないのですから、なかんずく楽理面に興味を示している者ならば、その辺は謙虚であるべきでしょうし、こんなスタンスは好ましくはない、と思います。私がネットで披露しているのは私の一部始終ではありませんし、その辺の普通の世界ともチョット違うだけ、というコトでありますので、ハナシ半分どころか虚空なモノ程度にご理解していただく程度で構わないのでありますので、その辺りはご容赦願いたいな、と(笑)。




最後に、今回用意したサンプルは、GGの「Free Hand」の3拍8連の部分とテンポがマッチするように、オリジナルの3拍8連フレーズを用意しました。キックとスネアのみですが、キックは4分音符で「6つ」打っていますが、スネアが付点16分フレーズですので、自ずと、キックとスネアが32分音符1コ分ズレる箇所があります。

こういうのをただのズレと認識することなく、きちんとリズムを感じ取っていただきながら原曲と照らし合わせいただきたいな、と思うばかりであります。