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マイナー・コード上におけるアウトサイド・アプローチ [楽理]

とりあえず今回はタイトル通り実例を交えてみることにしますが、その前に・・・。

マイナー・コードでのアウトサイドなアプローチというのは、メジャー・コード上よりも可能性を秘めていると思います。厳密に言えばそういうアウトサイドなアプローチも、ワン・コード上でII-Vのようにケーデンスを与えるというアプローチとして解釈できるシーンもありますが、簡単に言えば、和声的な響きとして安定度の高いメジャー・コード上でアウト感を演出するよりもマイナー・コード上でのアウト感の方がよりスムーズだからと思っていただければよろしいかと思います。ムリヤリ感があまり強くないかな、と。

和声の音価が長いシーン(例えば白玉とか)やらでは、出来合いの「次のコード」までにツーファイヴを導入してヒハーモナイズさせたりすることによってコード進行を多様にして演出するのはジャズの常套手段です。また、ひとつのコードから幾通りもの解釈から生まれる新たなコード進行ということでのアレンジもごく普通に行われることが多いのがジャズの世界であります。

メジャー・コード上、特にそれがチャーチ・モードでの「リディアン」が当てはまるような所だとアウトサイド感は演出しやすいのでありまして多様な進行を仮想的に想起させることでアウトサイドを演出しやすい場面ではあるものの、トニック・メジャーにおいてアウトサイドを演出するための「フラつき」というアプローチはかなり難しいものでありましょう。

それは背景となる和声がそもそも安定した響きであるため、アンサンブル全体像から見ればひとり「浮いている」というか、律する所から大きく疎外されたところに立っているように映るかもしれません(笑)。もちろんこれはこれでアリでもあるんですが。

長三和音をいくら転回しても短和音が得られないように、短三和音もいくら転回しても長三和音に変容することはありません。当然の事ながら。

長短の音程差が違うだけでも全体の和声としての響きは全く異なり、短和音の持つ「光を求める」ような響きというのはアウトサイドを演出する上で非常に役立つ基盤だと私は感じているのでありますな。

マイナー・コードの持っている「光を求める」ような響きのそれに対して、積極的に「不安」をもたらす音を導入することで、唯でさえ「陰」という中でうごめくようなアプローチを用いてもそれはアボイド・ノートを羅列するのではなくて、ある一定の決まりに則ってアウトする、という音を導入するという意味であります。

マイナー・コード上でなくともひとつのコードからツーファイヴを想起したりして、アウトサイドなアプローチでソロに彩りを添えることなど特にジャズの世界では常套手段であります。但し、それがメジャー・コード上であった場合は、リディアンを当てはめることのできる所ではアウトしやすいものですが、トニック・メジャーとなるとかなり強固なアウト感が強く、場合によっては強烈な不協和をもたらして、自身の和声感として身に付ける前に拒絶してしまうかもしれません(笑)。拒絶感をもたらすほどのアプローチもありますけどね(笑)。

そういうアウト感を先に覚えるよりも、もっと理解しやすいアウト感から先に覚えた方がよかろうという狙いでもあるのです。

ワン・コード上でのひとりツーファイヴなど別段マイナー・コード上でも構いませんが、折角の「想起した」仮想的な進行ならば、モード・スケールに沿ったコード進行ではいつまで経ってもアウトサイドな演出などできません(笑)。AmキーにおいてAmコード上でひとり「Bm7(b5) --> E7」を想起したところで、E7の3rd音と本来のAmのコード上でどう対応できるか見物でありますが(笑)、概ねトニック・マイナーでAm7奏でているような時など、そのような音に対応できるわけでもなく、モード・スケールの羅列に等しいだけのアプローチであります(笑)。

仮想的にツーファイヴをマイナー・コード上で当てはめるのであれば、想起するコードはそれぞれ本来基軸となっているコードの「真逆」の関係を持つコードを導入したりする方がよろしいかもしれません。

例えばAmキーにおけるトニック・マイナーで「Am7」というコードがあった場合、それぞれの構成音の隔たりは「短三度・長三度・短三度」となりますが、想起するツーファイヴ、例えばBをルートとするコードに対して「長三度・短三度・長三度」というような和声を与えてみたりするとか(B△7)、または減七和音あてはめたり、或いは基軸となる元のコードのミラー・モードを想定したりなど色々方法はあります。手っ取り早く4度コードをあてはめてみたりとか。

さらにはAmキーのトニック・マイナーと「裏」の関係にあるEbから、基軸となるAマイナーのミラー・モードを想起したりとか。この場合はEbを基準に鏡を置くようにして、テトラコルドを下方にEbフリジアンの音程関係を「鏡映し」するというアプローチ。そうすると「Eb - Db - C - Bb - Ab - G - F」 となり、元のAmとはDb音(=C#)がメジャー3rdとなってしまいますが、逆にこの音だけをアボイド・ノートとして他の音を元のAマイナーにハイブリッドさせたりするアプローチだってあります。

マイナー・コードの和声的な特徴を逆手に取って「裏の関係」(=増四度or減五度)を想起したり、ミラー・モードを導入するのは、元のコードそのものが「陰」という世界とも形容できるので、真逆・真裏の関係を積極的に導入してしまおうという考えです。


さらには、マイナー・コード上でツーファイヴではなく、今度は「IIb - Vb」想起することで、ツーファイヴよりもスムーズに採りいれることが可能ともなります。元々「Vb」は本来のコードと裏の関係にあるので、IIbを経由することなく相互変換も可能ですし、「I - IIb」の行ったり来たりも可能とも言えるでしょう。

仮にAmコード上で「IIb - Vb」を想起したとして、それぞれにメジャー・トライアドを割り当ててみることにしましょうか。

そうすると、「IIb」ではBb、D、Fという音を割り当てることになり、「Vb」ではEb、G、Bbという音を割り当てることが出来て、元のAマイナーから見てb9th、#11thが追加されることになります。元のAマイナーをドリアンとして想起していた場合は短六度と長六度を積極的に使うことにもなります。

扨て、このような「IIb - Vb」上で「アウトな音」が追加されたとはいえ、元がAm9であったとしても積極的にb9thを使っても構いません(笑)。センスによりますが(笑)。明示的に「IIb - Vb」に則ったフレージングなら唯の半音音程の羅列にはならないでしょうし、「IIb - Vb」を導入することなくその音に「慣れれば」情緒豊かに使うことができます。

なぜなら、ここで追加されたb9thと#11th音は、先にも振れたこともある「Gミクソリディアン+エオリアン」の2nd音から開始したモードを弾いていることになるからであります。こういう所からもミクソリディアン+エオリアンに導くことのできるアプローチがあるワケですが、このアプローチはチック・コリアはよく使います。

チャーチ・モードの変格旋法の場合、通常それらの4度(必ずしも完全四度ではない)下が「基軸」となるワケですが、基軸側の性格を殺して本来の旋法の性格を出すのが変格旋法という弾き方ですね。

ミクソリディアンとエオリアンを足すと、例えばGミクソリディアンを弾きつつ、Gエオリアンを弾くと。GミクソリディアンとFミクソリディアンという見方も可能ですね。するとこういう場合長二度下のモードを弾いていることになる、と。

メロディック・マイナー・モードからダイアトニック・コードを形成した場合、長二度間隔で属七の和音を構築するワケですが、ミクソリディアン+エオリアンがメロディック・マイナーの音を内包するのは以前にも語った通り。

チャーチ・モードの世界から2つの旋法をハイブリッドして違った情感を採用するアプローチでもあるワケですな。

短和音というのはまどろみのある世界なわけですから、協和的なまどろみのある世界においてはこちらから積極的にまどろみに紛れて遊んでしまおうというアプローチが今回少々力を入れて語った部分であります。アウトサイドな音をかなり積極的に導入したからといって、それは自由に何の音も使っていいということではありません。たまたま積極的に導入してしまった音が、本来の短和音の持つマイナー3rd音とメジャー3rdをぶつけてしまっては本末転倒ですし(笑)。

余談ですが、左近治はミクソリディアン+ドリアンというハイブリッド・スケールもよく用います。

今回のサンプルは非常に短いものですが、Bbm一発系として2小節、ギターがソロを弾いているというシーンを想定して弾いています。これがミクソリディアン+エオリアンの音です。1音だけ、「我に返る」時、Bbドリアンを想起している音を弾いていますが、それ以外は全てミクソリディアン+エオリアンのハイブリッド・スケールであります。まあ、チック・コリアのフレーズといっても差し支えないんですが(笑)。ひとつだけ言わせてもらえれば、ギターが棒引きなのは勘弁してくださいね、と(笑)。