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和声的に見るメロディック・マイナー・モード [楽理]

扨て、前回の続きでメロディック・マイナー・モードについて語るとしますが、今回は実践的にメロディック・マイナー・モードを活用するために、和声的にどのような例があるのかという所に的を絞っていこうと思います。

先にも述べたように、メロディック・マイナーを単純且つ強く示唆する和声の代表的なものにマイナー・メジャー7thというコードがあります。表記的には「mM7」とか「m△7」という表記です。

四声であるマイナー・メジャー7thというコードは、このようなコードに不慣れな人は長七度音程のそれがやたらと強固に根音への帰結感を頭に描いてしまうためか、四声をいくら同時に鳴らそうとも、その音だけが独立して響くようなイメージを抱いている人が多いと思います。

このような響きをイメージしてしまうのは、頭の中に描いているその人特有の「ステレオタイプ」な調的なイメージが阻害しているからなのであります。つまり、自分の頭の中で勝手にイメージしてしまっている調性の情緒的な雰囲気を根音に対して強く帰結感を求めてしまっているからで、「とっとと解決したい」とばかりに、本来鳴っている和声の響きを蔑ろにして「次への進行感」を急いでしまっているんですな。

こういう身勝手な「帰結感」を中和してくれるのが五声の和音でありまして、この場合だとマイナー・メジャー9thとなるワケですね。

以前からも、マイナー・メジャー7thよりもマイナー・メジャー9thの方が安定して響くと述べていたのはこういう理由からでもあります。初めての人にも扱いやすいのは(メロディック・マイナー・モードの調的な情緒を知るための)マイナー・メジャー9thの方だと左近治はあらためて暖簾に腕押しもとい念押ししておきます(笑)。


掘り下げていく前にひとつココで述べておきたいことがあります。

この手のコードというのは、よ〜く使われている「狭い世界」のチャーチ・モードの世界ではないために、耳が習熟していないタイプの人や不慣れな人だとすぐにこーゆーコードに「トニック感」を求めて和声に浸ろうとする悪癖を持つというのがそんな人たちの共通点なんですな(笑)。もっと判り易く言えば、その任意の和声にワン・コードで通用させるかのような無理矢理な使い方(笑)。そういう風にしか和声を捉えることの出来ない人たちは実はかなり多いです、悲しい現実ですが。

「不慣れ」な和声やモードである以上、通常のチャーチ・モードと同じ世界観を持ち込んではそう易々とモノにすることはできないと思いますので、その辺りの注意が必要ってこってす。

ひとたび湖を見れば鏡のように景色を映すほどの凪いだ湖面を見せることもあれば、白波を立てるほど波打つ時もある。その中間に、様々な水面の紋様を描く波があります。

音の紋様と形容したのは、ここでは和声のコト。協和音だろうが不協和音だろうが要はメリハリが大事なんですな。チャーチ・モードという世界においてもそんなメリハリはありますが、形骸的な分数コードやドミナントの時のオルタード・テンション辺りで毒ちりばめる程度が関の山(笑)。多様な世界が非チャーチ・モードの世界には隠されているという事を肝に銘じて会得してもらいたいモノだと思うばかりです。


扨て、話を戻しますが、メロディック・マイナー・モードを強く示唆してくれる他のコードはというと、オーギュメンテッド・メジャー7thやらハーフ・ディミニッシュがあります。

ウォルター・ベッカーの2ndアルバム「Circus Money」では、これらのコードが散々出てきて私自身もそれについて解説してきたので、これまで追ってこられている人はお判りのことでしょう。使いやすさから言えばオーギュメンテッド・メジャー7thの方が一般的に導入しやすい和声だと思います。

まあ今回はハーフ・ディミニッシュの方を声高に主張したいのでそれについて語っていきますが、ハーフ・ディミニッシュなんぞはチャーチ・モードでも普通に存在するものの、ここでのハーフ・ディミニッシュは四声で見れば同軸上の和声としては全く同一。しかし五声&六声とした時には大きく性格を変えます。

例えば五声としてハーフ・ディミニッシュを母体に持つ和声は「m9(-5)」という、ハーフ・ディミニッシュトadd 9th、或いはマイナー9thフラット5thという風に呼ぶ事の出来るコードになります。

チャーチ・モードの世界でのハーフ・ディミニッシュの9度の音というのは♭9thとなりアボイド・ノートでありますが、メロディック・マイナー・モードにおけるそれはアボイドになりません。ジャズの常套句であるコードでもあります。だからといってこれを用いることでジャズっぽくなるというワケではありません(笑)。ジャズとは言ってもドミナント・モーションに頼らない浮遊感のある進行として導入するという可能性の方がより開けております。

で、メロディック・マイナー・モードでのハーフ・ディミニッシュというのは9th音が長九度の音というのが特徴的な部分であって、3rd音である短三度と9th音との長七度音程が非常に調和してくれるワケですな。

また、六声として導入した場合の11th音は完全4度音程となる完全11度であります。すなわち5th音(=減五度)の間にこれまた長七度音程を作るという和声にもなります。

ディミニッシュ・トライアドを母体とするコードでは、減七の和音(=dim7)があります。減七度が長六度と異名同音のアレですね。

メロディック・マイナー・モード内で生じるハーフ・ディミニッシュの6度音(=13度)というのは必然的に短六度の音程になるので、減七の「純然たる」ディミニッシュの世界の音と混同しないように使い分けることが重要です。

これは、減七の音を「長六」の音として理解して使っている人もいるため、敢えてこういう注意点を述べたワケであります。

加えて、ディミニッシュ・トライアドを母体とするコードでは、ディミニッシュ・メジャー7th(=dim△7)というコードがあります。このコードの場合は概ねドミナント7th上でのオルタード・テンションを導入した事により生成された省略形だとも思っていただければイイんですが、ドミナント・モーションを避けるためにわざとそういう省略形として独立して使っていることも多いに考えられます。

が、オルタード・テンションから生成される世界と、メロディック・マイナー・モードの世界とはやはり違うもので、共通する音はあり近い関係として寄り添う事が可能でありますが、全く別物と考えていた方がよろしいと思います。

長七度音程を内声部においてどのように活用するのか!?ということがキモになってくるのでありますが、チャーチ・モードの世界の方で敢えて例絵をあげるとすると、リディアン・メジャー7th(メジャー7thシャープ11th)やら、マイナー9th(13)などが好例でありましょう。

また、メジャー7thの2ndベースとしての分数コード(またはオン・コード)を例に挙げると、例えば「C△7 (on D)」というコードの場合、マイナー9th(13)のコード感に近い感じを演出することができます。

例えばCm9(13)というコードがあった場合、重要な音は「3rd音と9th音」のペアと「7th音と13th音」という2組の長七の使い方を響きとして会得することによって、メロディック・マイナー・モードにおけるハーフ・ディミニッシュの世界感をより密接に感じ取ることができる早道だと思います。

実は、今回例に挙げたそのようなコードを使った某曲を今度リリースする予定ですので、その時にも詳しく語ろうと思います。例としての曲があるだけでも理解をさらに深めるであろうと信じて。