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モードとしてのコンビネーション・オブ・ディミニッシュ・スケール [楽理]

扨て、今回はコンビネーション・オブ・ディミニッシュ・スケール(以下コンディミ)をダイアトニック・モードとして扱う話題に。

ダイアトニックということは、その音列で常に支配された各音を根音とするコードを構築してダイアトニック・コードを構築するという意図であります。

下の譜例を見てもらえば、とりあえずCコンディミの音列が確認できます。

combi_diminish_scale.jpg


「スケールは8音なのにローマ数字で表されているスケール・ディグリーはなんでI〜VIIという7つで表現しているの?」

と疑問をお持ちになるかもしれませんが、スケール・ディグリーとはメジャー・スケールから生じるテトラコルドを基準としているためにこのような表記にならざるを得ないワケです。時折この辺りを間違えてしまう人を見かけますが、仮にナチュラル・マイナー・スケールをスケール・ディグリーで表すときのダイアトニック・コードの表記は

Im7、IIm7(-5)、IIIb△7、IVm7、Vm7、VIb△7、VIIb7

という風になるのはお判りですね!?

この部分でつまずく方は、今一度渡辺貞夫著の「ジャズ・スタディ」から学んでほしいと思います。


とりあえず今回語りたいことは、コンディミでもメロディック・マイナーに近しい用法がある、ということです。モード・チェンジを瞬時に行うことでコンディミ <--> メロディック・マイナーという互いにすぐに移行できてしまうほど近い響きを共有していたりするので、旋律的にも幅が広がると思います。


本来ならば、コンディミの各音を根音とするコードを当てはめようとした場合、そこには3rd音で短3度or長3度を選択していいのか判断に迷うこともあるでしょうし、このような数多くの可能性を逆手に取ってさらに難しい解釈でダイアトニック・コードを形成させることができますが、今回のコンディミを用いてダイアトニック・コードを形成するのは極めてシンプルな方法です。

そのシンプルな方法とは、たった4つのメジャー・トライアドでダイアトニック・コードを形成してしまうというモノ。本来コンディミとは2つのディミニッシュフレーズ(短三度の隔たりのフレーズ)を組み合わせたものですが、そうして生まれた音列で生じるのは4つのトライアドを生む、というシンプルな発想です。

濱瀬元彦著の「ブルーノートと調性」ではコンディミではなくディミニッシュトにおいて語っておりますが(p102)、それは僅かに1ページで触れられているだけなのでもう少し例を出しながら語って行こうかなと思います。


今回のコンディミの可能性は、エディ・ジョブソンで有名な「U.K.」の「Danger Money」を例に出せばより親しみが沸くでしょうか(笑)。

では、4つのダイアトニック・コードを見ていただくとしましょうか。

cod_diatonic.jpg


いきなり「デンジャー・マネー」的な視点で話を進めますが、例えば上記譜例のC△とEb△を同時にポリ・コードとして鳴らした場合、和声的には

C△ + Eb△ = 「C7(#9)」という和声を生み出します。同様に、

C△ + F#△ = 「C7(-9、+11)」という和声を生み出します。


U.K.の「デンジャー・マネー」を例に出したのは、あの曲のド頭の和声は「C#△/E△」。


つまり、ここでのC△ + A△にあてはまる用法なのであります。


C△ + A△ = 7th音をオミットしたC7(-9、13)という見方もできますが、ここでは構成音として現れない「Bb音」を導入すると、Bbメロディック・マイナーを示唆するかのような「BbmM9(+11、13)」というコードを導くこともできます。

ただし上記の「BbmM9(+11、13)」の5th音である「F音」は実際には含んでおりませんし、スケールとしてBbメロディック・マイナーを選択してしまえば、コンディミの「F#音」と「F音」が違うので、F音を選択してしまえばコンディミのモードではなくなりますね。

但し、和声的に「F音」がオミットされていれば代理和音としても用いることが可能ですし、なんと行ってもコンディミ <--> メロディック・マイナーというモード・チェンジを行って多様に演出させることも可能であります。


U.K.の「デンジャー・マネー」のド頭コードは実際には「C#7 (on E)」と弾いていると思います。しかし、上声部の5th音である「G#音」と7th音の「B音」が下声部のEとの協和性が高いのと、音がオルガンのため、ドローバーによる下声部の長3度(G#音)と完全5度(B音)がより一層つながりを強固にするので「C#△/E△」と表記したんですな。

つまるところ、「デンジャー・マネー」のあのコードはEコンディミの旋律で攻めたり、或いはメロディック・マイナーの第2音から始まるモードである「ドリアン♭2」として、Dドリアン♭2の旋律で攻めることが可能になります。

加えて、マイナー・メジャー7th系の響きを選択せずに、あのような響きを演出しているという所も「デンジャー・マネー」の特徴でありましょう。


更に拡張した考えだと、先述のポリ・コードとしての組み合わせでの「C△ + Eb△」。これをオルタード7thとして解釈するには余りに勿体無い(笑)。

Dbから見ればDbdim△7(D♭ディミニッシュ・メジャー7th)に13th音を足す音が見えてくるというワケです。

ここで敢えて「DbdimM7(13)」という表記を避けたのは、ディミニッシュを母体とすると減七度は長六度との異名同音で、わざわざ七度が「減七」になっているところで13th音という表記は有り得ないだろう(パラドックスに陥る)という思いでこのような表記を避けました。

但し、D♭ディミニッシュ・メジャー7thを想起せずにマイナー・メジャー7thに#11th音を足したDbmM7(+11、13)とするならAb音が必要となってきます。本来CコンディミはA音なので、このような解釈をするとコンディミの支配する世界ではなくなるものの、A♭音とA音を使い分けることでモード・チェンジを演出させることができます。

まあ、こういう風にいくつか例を出しましたが、ウォルター・ベッカー関連でメロディック・マイナーに関して今まで語っていたことを今一度おさらいをすれば、メロディック・マイナー・モードとコンディミのモードは非常に近しい関係にあるということを述べたかったワケであります。

また、今回コンディミのモードとして例を挙げて同じ8音音階で全音→半音→全音・・・という音列のディミニッシュトで例を挙げなかったのは、仮にCディミニッシュトをセンタートーナルとしてダイアトニック・コードを構築すると、4つのメジャー・トライアドが出現するのはCから全音上のDからそれぞれ短三度ずつ離れた所に発生するので混乱を生じやすいと思いこのようにしたというワケです。

また、ディミニッシュトの8音の音列は減三フレーズ(Cを基準とするとC、Eb、Gb、Bbb)のテンション(各構成音の全音上)を導入して生まれている音列で、コンディミの方は2種類の減三フレーズを組み合わせて導入された半音→全音→半音・・・という音列を生んでいる背景を併せて知っていただければな、と思います。

ただ、そういうタイプの似た幾何学的な音列も実は発生した背景は違うものの、モードとして導入する時にダイアトニック・コードをあてはめるとディミニッシュトを基準とするとどうも具合が悪くなるので判りやすくするためにコンディミを用いたというワケですので、その辺りを注意してご理解いただければと幸いです。