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Green Sleeves ジャズ・アレンジ解説 [サウンド解析]

さて、今回は11月7日にKクリにおいてリリースされた「Green Sleeves」ジャズ・アレンジについて解説してみようとおもいます。

今回は、チェレプニン・スケールがキモとなるので、念のためおさらいの意味でもチェレプニン・スケールの音列を今一度確認してもらうために画像をご覧ください。

TcherepninScale.jpg



和声面で今回取り上げたい事は、半音音程が連続する音列を和声的に導入する美学とでも言いましょうか(笑)。

半音音程がとりあえず2つ連続した場合というのは、例えばCから半音音程上行とした場合、C -> Db -> Dとなるということですね。

このような半音音程が連続した音列をモードスケールとした場合の和声、という事を意味します。

いくら調性面においてそのように定義付けしたとしても、やたらめったら半音を長二度間に収めてしまったり(笑)、短九度作っちゃったりすると奇麗に響いてくれません(笑)。

スケールの知識だけは立派なのにアドリブやらせると、ただのクロマチックなぞったようなロクでもない音弾きだす輩と同じような愚かな行為を避けつつ、奇麗に響かせようと努めるのがこの辺りの難しさでありましょうか。

リリースした「Green Sleeves」の曲終盤の一部を抜粋して譜面にしておりますが、メロディ・パートはベースのためヘ音記号にしております。表記上は1オクターブ高いので実際には実音は1オクターブ低いということは予め述べておきます。

扨て、譜例の一番上のベースパート(次の段はピアノです、念のため)2小節目のE音からD音へのグリッサンドの部分に注目してもらいましょうか。

GreenSleeves_Sakonosam.jpg

メロディがD音へ向かっているにも関わらず、和声はA6/B --> B△/C#という、一般的に見ればとんでもないコード・プログレッションで対応しているかとお思いになることでありましょう。

特に、B△/C#の部分だと、メロディ・ノートの「D音」と、ピアノの奏でるB△/C#に含まれる「C#音とD#音」というこれらの音がぶつかるようになるワケですね。


私のアタマん中ではどういう処理をしているのかと言いますとですね、「B△/C#」の所でA#チェレプニン・モードを描いているんですな。

で、この小節内のベースパートの残りのE音-->F#音というメロディは、次の小節へのアンティシペイションとして使っております。

因に次の小節はこれまた変なコード、「Bm△7/C△」というコードを与えております(笑)。ロウワー部のC音と、アッパー部のルート音(B音)と長七のA#音と、これまた半音音程連続しております(笑)。

んで、解釈としては「Bm△7/C△」のコードでは「D#チェレプニン・モード」を描いております。

ここのコードで「B音」を聞き逃すタイプの人だと「C9(#11)」の音だと思ってしまうヒトが居るんですね。それはそれでその当てはめ方はアリなんですが、毒ッ気が少ないし(笑)、ジャズ的アプローチとしてもありきたり。

奇をてらってB音をさらに使うのではなく、私は「Bm△7/C△」の音の方が好きなのでこうしているだけであります(笑)。


まあ、リリースしたアレンジの方を聴いていただければ自然に聞こえてくれるはずなんですけどね。このように楽理面で文章にして解説してしまうと、一般的な和声とはほど遠い解説になってしまうので余りにも変な和声を連想されてしまうかもしれませんが(笑)、実際に聴いていただければごく普通に耳に馴染んでくれると思います。

おそらく、このように解説しない限りは、なんてコトなく普通のジャズとして聞き流してしまうであろう音だと思います。音取ってみて初めて「変な音使ってるなー」みたいにお気付きになってくれるのが一番嬉しいのでありますが(笑)。


左近治が「Bm△7/C△」でインプロヴァイズするとしたら「A音」も使っちゃいます(笑)。D#チェレプニンのスケール外の音ですね。D#チェレプニンを冒頭に使いつつ、D#チェレプニンの5th音である「G#音」を半音上げて使ったりします。

そうするとA、A#、B、Cという半音音程が3つも連なるコトになるんですが、ロウワー部でCメジャー・トライアド、アッパー部にBm△7に増13度と言えばいいのか増六の音足した音をコードで鳴らしてみてください(笑)。A音をトップノートとして。

ヴォイシングによっては奇麗に響かなくとも、譜例の「Bm△7/C△」部分の「G音」をダブル・シャープして弾いてみても構いません(おそらくコレが一番耳に馴染むヴォイシングだと思います)。そうすると特に変な響きには聴こえないと思います。


ちなみに、この「Bm△7/C△」のアッパー部の「G音」はロウワー部の拝借です。


誰もが知っているような曲のメロディに対して、少々毒ッ気をまぶす、と。


半音音程1つだけでも耳が成熟していないためにメジャー7thが汚い!と豪語するヒトも実際にはおりますが(笑)、おそらくその程度の耳だと音楽やっていく上ではかなり足枷となるため、私の今回の解説もそのような人向けには語っておりません。少なくとも七度の美しさや増四度の美しさをマスターした方が最低限のラインとなります(笑)。

念のため付け加えておくと、「Bm△7/C△」において左手七度ではなくオクターブなのは、アッパー部を汚さないための配慮です(笑)。人によってはコレでも十分「汚れてる」とのご指摘を受けるかもしれませんが(笑)、私には汚れて聴こえません(笑)。

仮にコレがソロ・ピアノという前提であれば、ピアノの左手のヴォイシングはオクターヴではなく「10度」。つまりドとオクターヴ上のミで弾いてもよいでしょう。手が小さくなければ10度なら開くでしょうし、響きそのものを実感されたい方はそうやって弾いて確かめてみてもよろしいと思います。


連続した半音音程を旋律的に弾いただけでも叙情性を醸し出すのは難しく、さらにそれを和声的に操るのは色々工夫せにゃならんのでありますが、その辺りの妙味を知っていただければなと思います。

何も、使い慣れない音列が現れたからといって及び腰になる必要はなくとも、楽理面ではきちんと把握している必要はあるものの、こういう音を蔑ろにしないでくれよ、と思うことしきりなんですな。

私の場合は和声的に欲張り型であるため、ウォルター・ベッカー御大のように極めて巧みにシンプルに機能させる彼岸にはなかなか達せないモノでありますが、その辺りはお許しを(笑)。

半音つなげりゃイイんだ!みたいな解釈は決してしないでくださいね(笑)。

私の場合、こういう音をとりあえず体得できたのはウォルター・ベッカーとヒンデミットのお陰であります。というのも、今回のチェレプニン・モード導入で最大のヒントとなったのは他でもない、ウォルター・ベッカーの1stソロ・アルバム収録の「Medical Science」のお陰なのであります。これについては後日あらためて詳細に語る予定でありますが(笑)。

何はともあれ、興味を抱かれた方はとりあえずお聴きになっていただけば幸いでございます。