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EQでイク!? [サウンド解析]



奥深いEQセッティング。サンレコの先月号でも特集やってましたっけ。ただ、EQというのもそれ自体のツマミ類がフラットであっても、自身が音のクセを持っているというタイプも結構あるもので、そういうキャラクターがもてはやされるシーンにおいては最早EQ的な考えだけでは済まされないという側面もあります。

LogicPro8のEQパラメータで付加されたベルカーブの対称/非対称のパラメータ。これは結構活用できるのでありますが、バンド毎に独立した設定というのはできないので多段挿しするしか現在では手はないのでありますが、そもそもブースト&カット量とQ幅は反比例的にカーブを保つような設計になっているというのがEQの基本的な設計と思ってもらって差し支えないでしょう。

EQを富士山に例えれば、Q幅というのは裾野までの幅ということになりますな(笑)。LogicPro8の対称/非対称パラメータは、富士山の地下に同等の「谷」を作り出す際、山と同じカーブではない対称的ではないカーブで谷を作る、ってぇコトなワケですな。

EQのベルカーブというのは面白いもので、ブースト&カット量に応じてQ幅が変化するような、概ねベル内の面積を極力一定に保つようなものがあったり、或いは裾野の領域がブースト&カット量に応じて拡大するようなものとか、色々あるワケですね。

SSLやニーヴ、GMLのEQがもてはやされるのも、単純なベルカーブではない独特のクセを持っているからこそ受け入れられているのも理由のひとつではないかと思います。

まあEQの特性にも色々あるわけでございますが、話を戻して先月号のサンレコのEQ特集。例えばギターとベースを混ぜた時のピークの均し方について。

視覚的にEQポイントを探りつつ、不要なピーク均しの重要性を声高に唱えるのはイイんですが、そこまでして原点に戻ったかのようにEQについて述べるのであれば、視覚的に確認できるピークとやらをピーキングの特性なのか或いはRMS/VUなどで視覚的に確認すべきなのか、ということまでは言及していないところが残念な点でしょうな。

もちろん音作りに関してピーキングorRMSで確認するかは要所要所で異なりますが、例えばピーキングメーターで市販のCDなどを確認した場合、一部にはスネアの音がピーキングに現れないようなアンサンブルもあるワケですね。ピーキングには出ないのにRMS / VUなどでは現れたりするメーターの動きやらその逆も然り。ギターやベースというのは中低域にエネルギーが密集しているためQ幅の狭いピーキングで均そうとしても音のキャラクターを変えるだけにしかならない。つまるところ、サンレコのあの記事においてはRMS / VUで均した方が功を奏すると思えますが、他のアンサンブルが入った場合その限りではありません。普通ならキックも入ってきますしね。100〜460Hz辺りはキックのキモの周波数は少なくとも3つあります。たったこれだけの狭い帯域と思えるでしょうが、100Hzを基準にすれば2オクターブ以上の帯域なワケでして。

視覚的にピークを確認するにはその応答特性も重要であるし、整えるアンサンブルの占めている帯域にもよりますが、たった2つのアンサンブルで低域のピークを均すのであれば、RMSで確認しながら広めのQ幅でやってあげた方が無難ではないかと思いますが、こういう部分には言及していないのが残念。そもそもあの説明では視覚的にこだわりすぎる向きすらあって、色んな特性のあるモニタ環境の前段で視覚的に確認しようとする基準作りを全くの素人から構築させるのは少々難しいと思うんですな。ある程度の経験を備えた上での基準を構築した人ならいくらでも視覚的なイメージが湧くものでありますが、誌面を割く必要のないほどの解説で済むような注意点であるにもかかわらず、こういう点がおざなりになるのが最近の雑誌には多く見受けられるんですなあ。サンレコに限らず。

但し、答えがひとつしかないのではなく色々なケースが考えられるため、記事をどのような方向性に導きたいのかが結局曖昧になり、万能調味料的な解を導いているだけではダメだと思うんですな。

例えば、マハビシュヌ・オーケストラの「Miles Beyond」。今私が手掛けている最中で手前味噌ではありますが(笑)、ビリー・コブハムのキックはセンターではなく11時30分くらいの所にあるワケですよ。ベースはしっかりセンターで。

だからといって、両者の低域ソースの音像が完全に分離したようなものではなくて、アナログ時代ですらセンターのかち合いを嫌った上でこのような定位を施したと思える音像なんですな。若干片chに低域ソースを振ったことで、逆のch側の倍音成分を少々手を加えることでよりステレオ感を演出することにも繋がる、と。

このようにして低域ソース楽器を敢えて定位をずらすことによって左右のchのレベルのバラつきをどのように整えるのか!?というとこれまたサンレコのような手法だけでは通用しなくなってしまうのでありまして、そもそも低域ソースの定位には触れずに、さらにはレベルメーターの応答レスポンス特性にも言及せずに視覚的な部分だけでのEQエディットの解説は少々危険だと思うんですなぁ。よいこのみんなにはぜひともマハヴィシュヌ・オーケストラのような、数少ないマルチトラック時代のレコーディングの定位作りからミックスを学ぶべきだと私は思うんですな。

耳だけでは判別しづらい定位を弄って上げるだけでも、現在のデジタル社会ではそれだけでも「かち合い」を緩和させることができるってぇモンですよ。さらにはDAWのプロジェクトを44.1kHzで制作していれば低域にはより「不必要な」エネルギーを残存させて、デジタル的な飽和状態がやってくる、と。20トラック以上のソースでもセンターに集中させれば素人でも不必要な飽和感を実感することができるってぇモンですよ(笑)。

EQだけではなく定位をずらして馴染ませる方法とか色々あるんですが、生のモノソースを数多くレコーディングするならいざ知らず、大抵のソフト音源をハナからステレオで処理しているからこそ、そのステレオ感とやらに甘んじて定位を思い切り振ることができないミックスの臆病者が素人の人達は多い実情を把握していれば、EQだけではない妙味もちりばめた上で解説することが専門誌として重要なのではないかと思うのでありますな。

まあ、どんなに文章で説明しようとも結局は音で実感しないと判らないことでもあるので、結局のところ、習うより慣れろ!の世界だとあらためて思うワケでありました(笑)。