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Do You Remember The Name - ウォルター・ベッカー Circus Money Analysis [スティーリー・ダン]

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この曲に限らず、今作「Circus Money」は全体的にスカやダブまたはレゲエっぽいビートを取り入れているわけですが、ダヴっぽい音の特徴はドラムのアンビエンス感やギターのリフのそれが顕著でありますが、やたらとダブミックスのそれのようにエフェクト漬にはしていない所に一定のこだわりが感じられるのが今作だと思います。

特にこの曲のスネアのシズル感は打ち込みにおいても非常に参考になることが多く、AD(=Addictive Drums)など用いていたらスンナリとマッチしてしまうようなアンビエンスの利いた音に溢れております。

チューニングがさほど整っていないタイプのスネアでシズル感を活かすとなると、不要な部分音やらオイシイ周波数帯が重なってどっち付かずの音になりかねないのですが、やはりチューニングが整っているとイイ音が出るモンですな。私がAD好きなのはチューニングが非常に整っているからであります。

ベロシティ・レイヤーが少ないタイプのドラム音源だと、せっかくこまめにMIDI編集しても出てくる音など、もはやこういう符割だとリズム楽器にすら聴こえません(笑)。

とりあえず参考程度にそれとなくベタ打ちではあるもののMIDIイベントを見ていただきましょうか。あくまでも例としてのMIDIイベントで、ベードラとスネアのみの例となっています(笑)。
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ところで「trophy life〜」と歌うCDタイム1分手前辺りのスネアのロール。これは非常に参考になりますね。ここは最初が半拍64分で、次が半拍6連でしょう。64分の方でスティックのチップが若干消えてフランジ感が出るのはEQでも仕方ありません。逆にここを強調しようとEQをヘタにいじると高域がやたらと干渉した音にもなりかねないのでこの手の音を扱うには実は本当に難しいものです。

2コーラス目の女声のメロディは、これ、ピッチ補正してるんじゃないかなー!?と思わんばかりの音なんですよね。ただ、ここで「trophy life」の所は11th音からハモらせてくるのでアッパー・ストラクチャー感が増強されます(笑)。バックでは13thと7thで短二度強調しつつ、パッと聴きsus4またはp4っぽい音の中で実にシャレの利いた短二度をこうして弾いているのはなにもこの曲に始まったことではありません。

思えばマイケル・フランクスの「Vincent’s Ear」の冒頭の半音ぶつけも(アチラは9thとマイナー3rdの半音ぶつけ)ありましたが、ベッカーはそもそもこういう音好きですからね。その役割を今回ローズに託していることが多いのも、ある意味ではアンサンブル的に「安定した」音として彩りを増しているのも確かでしょう。

今作ほどチャド・ワッカーマンや屋敷豪太のドラムが似合うだろうなーと思うのは私だけでしょうか(笑)。

まあ、ボトルネックでエコー利かせる所の音なんて本当にDubそのものなんですが(笑)、私位の年代だとダブ系の音挙って聴く人って結構少ないので、この手の音だからといって旧来のSDファンは嫌悪してほしくないんですな。
Dubミュージックは、実像となる音のアンビエンスと、虚像となる音(=エフェクト)との混ざりによる卒倒感や酩酊感を味わうことがキモだと思うので、やたらめったら音楽面に耳傾けてしまって、そういうサイケな方面の世界観を蔑ろにしては困ります(笑)。時には純朴ではないラリった耳でも聴いてもらいたいと言いますか。実際にラリってしまう必要はないんですけどね(笑)。

でも、こういう曲に例えば現実世界に存在するSE的な音をちりばめると、ピンク・フロイドの世界にも似た世界を構築できると思うんですね。

楽理面ではそれほど多くを語れない毒の少ない曲をポツポツとちりばめているのは、アルバム通して聴いた時の酩酊感のバランスを計算してのものなのでしょう。

フェード・アウト直前のスプリング・エコーが飽和したようなSEはこれまたオツなもので、エフェクティヴな面で彩りを添えておりますな。そうして各楽器のアンサンブルのオイシイ部分をもっと聴きたくなるように欲求を高まらせ、次の曲以降、ギタリストは必聴モノのトラックが続く、というワケですな。