SSブログ

いまさらイチロクニーゴー! [スティーリー・ダン]

標準的なダイアトニック・コード群で、例えばCメジャー(=ハ長調)での1→6→2→5とは、

C→Am→Dm→G7

というコード進行なのであります。いわゆる循環コードの代表的な例。

別に6→2→5→1と始まろうが2→5→1→6だろうが、循環コードというのは始まりが違うだけでも「曲」としてのトータルな印象は結構変わりますし、ジャズ的な発想にすれば全てを7thコードに置き換えたり、ポピュラー・ミュージックでもセカンダリー・ドミナントとして置き換えることもしばしばです。

トニックがケツに来る場合は、それをI7に途中で変化させたりすることもあり、サブドミに行って今度はサブドミナント・マイナーに行ったりとか、まあ色々展開させることができます。

今回サンプルに用いたのは2→5→1→6パターン。

各小節は

Dm9→G7→C△7→A7というコード進行にしております。2小節目の4拍目でG7alt、ココではG7(♭9、♭13)としています。ちなみにalt表記は必ずしも(♭9、♭13)ではないので、この辺りは色々とリリースされている楽理的な書物を参考にしてください。というか、この手の話題に付いてこれる人なら誰しも知っていることだと思いますが、ここではそれについては述べません(笑)。



今回、何を述べたいのかというと、以前にもブログで述べたメジャー7thでの遊び方や、メロディック・マイナー・トーナリティーの導入について少し実例を出してみようかと思いまして。

スティーリー・ダンの「Black Cow」も例に出したりして、そちらも以前のブログで追記している部分があるので参考にしていただければな、と。

とりあえずサンプル曲と譜例を用意したので、色々それをネタに探っていきまひょ、と。


2516.jpg





まず冒頭のDm9では、ここでは「B♭△7」を「想起」させて、B♭上でのAugmented 6th、つまり増六度の音を使って遊んでいます。ニ声部分のアッパーがいきなり増六から始まってそれらのクリシェで、下声部はDから次のコードのGまで一気にクロマチックで、アッパーは平行に移動させないクリシェを楽しんでいるワケであります。アウトサイド感はやや強いかもしれませんが、別にそれほど違和感はないと思います。

G7上ではココは敢えて詳しく述べる必要もないほど形骸化したとも言える音ですな(笑)。

扨て、C△7では重要視したいのが♭9th、♭13th、Augmented 6th(=短七度の異名同音)の3つの音。これを使わなければ今回わざわざ語る必要はなかったでありましょう(笑)。

ここではCリディアンを想起してF#音を導入していますが、符割があまり細かくない、大きなリズムで弾く場合は、リディアンよりも通常のCメジャーでF音をアボイドした音選びの方がイイかもしれません。「間違えたでしょ!?」という感を強くしかねないので。但し符割が細かい場合は、こういう風にリディアンで入ってもおかしくありません。

3小節目の2拍目でとうとう出てきましたね、♭9th音のD♭音が。このD♭音を「まちがえた感」として聴こえさせないよう、短三度上のメジャー3rdに引っ張って、一連の短三度フレーズを半音ずつ下降させています。

D♭→E
C→E♭
B→D

という風に。一時的にE♭音を使うのは、これらの短三度跳躍フレーズの経過的な音であります。

さて、次にD音から下のE音と短七度跳躍は左近治の手グセ的なフレーズなんですが(笑)、こっからG音に短三度伸びてからG→A♭→A→A#と、ただのクロマチックのように見えるかもしれませんが、C△7上においてA#音を強調しつつ、尚且つそこからまた短三度跳躍してD♭音に伸びる、という音がミソです。

実際に聴いて違和感を抱かれることはないと思います。で、この一連の短三度跳躍やらはバップ・フレーズにおいても結構重要な組み立てではあるんですが、ディミニッシュの解釈を用いているワケですが、コードの構成音間における長三度音程と短六度をどのようにして短三度に分割するかが、メジャーコードにおいてのカギとなります。

これについても色々技法はあるんですがココでは述べません。メジャー7th上での「アウトサイドな」♭9th、♭13th、Augmented 6thの導入によって、内包するメロディック・マイナー・トーナリティーやハンガリアン・マイナーによる複調性を学ぶ方が今回重要なので。

で、D♭まで伸びた後にクロマチック下降的ではあるものの、A#音まで降りたらAに行かずに♭13th音である音、譜例上ではG#音に行きます。これは次の音Aへの「導音」として、あと、A#音からの変化記号で#→♭という表記を避けて、全音音程の跳躍を記譜したいための表れです。

で、A7上では、半音上のB♭メロディック・マイナーで弾き通しています。

というかB♭メロディック・マイナー・トーナリティーと言えばいいでしょうか。

B♭メロディック・マイナーの第7音から始まるモード。それはつまりAスーパー・ロクリアン(A=オルタード)とも言います。

スーパー・ロクリアンというのは、例えばCスーパー・ロクリアンなら、調号が無く、C音からはじめた場合、ド(=C音)を除くレ、ミ、ファ、ソ、ラ、シ音全てに♭の記号が付く音階だから「Super Locrian」なのであります。

ネット上ではスーパー・ロクリアンの音列が間違っていたり、スーパー・ロクリアンよりもオルタードとしての名称が市民権を得ていたりすることもありましょうが、重要なのは「メロディック・マイナーの第7音から始めるモード」と覚えておけば、スケールの名称にて左右されることなく使えることでありましょう。今ではネットを活用する時代だから、体系的にスケール名で間違った音列を覚えるよりも、モードで覚えた方がイイですよ、と私は言いたいんですね。数多くのスケール名を知っていても実際にそれらを使いこなせない人の方が圧倒的に多いのが実際ですからね(笑)。名前なんぞ覚えなくともマスターすべし!という方を強調したいんですな。試験に出るというならまた違うんでしょうけど(笑)。

分析しようによっては、このC△7上での下のE音からの一連のフレーズは、次のコードのA7のアンティシペーション(=先取り)という風に捉えられるかもしれません。A7の代理ドミナント(=裏コード)であるE♭7(♭9)を想起した音列とも言えなくもありません。ただ、その場合ならE♭音を使うことで強調したくもなるでしょうし、注釈を付けて「E♭7(♭9)」すると、どうしても音にはE♭を含んだ解釈をして弾いてしまう可能性が高いです。

アンティシペーション的に響くものの、ココは違うというコトでもあるんですね。

ちなみにコードの先取り(=アンティシペーション)はジャズでは顕著な用法で、ポピュラー音楽でもたまにあります。アンティシペーションの巧いベーシストは細野晴臣が代表的ですが、ジェームス・ジェマーソン流なベーシストはアンティシペーションが巧い人が多いです。これについては「La Rosa」の時にでも詳しく語りましょうかね、と。

サンプル曲中のテンポを落とした部分でのA7 で、しっかりとメロディック・マイナー・トーナリティーの「感じ」を焼き付けてほしいと思うんですな。この響きを熟知していくと、C△7上での遊びにつながると思います。少なくとも左近治がそうでした(笑)。

今回のサンプル曲では、それらの「キワい」音をクロマチックでなじませているのは、あまりにキワい表現だと耳当たりがよろしくない人もいるかと思いますし、このフレーズでも受け入れられない「ダイアトニック」な人は多いと思うんですよ(笑)。

ただ、従来から解説してきた坂本龍一の「Kiska」の音の使い方や、後にリリースされる「La Rosa」でもそういう音はキワくてカッコイイんですよ。ウォルター・ベッカーなど最たるモノです。

ジャズの世界ならそれほど珍しくなくなるものの、ジャズとポピュラー音楽においてそれらの音の冒険度というのは全く異なるモノだと思うんで、ある意味ポピュラー音楽界においてそれを積極的に導入している人にはジャズ界のそれよりもリスペクトできるんですな。

サンプル曲での若干ソフトにした音で、結局はクロマチックならなんでもイイじゃん、とか12音全て使えば済むことだろ、とかは思ってほしくないんですな(笑)。アウトサイドな音の使い方は楽理先にありきではなく、フラつき加減のカッコ良さを備えてナンボなんで、酒飲めば何でも許される無礼講よろしく、のように酒飲んで車乗ったり酔っ払って人殺したりチカンしても許されるワケではないのと同じ(笑)。

だからといって、「こんな音興味ねえ!」とタカくくるようでは、三原色だけで彩られた絵を見て喜んでいるのと同じ(笑)。中間色すらない三原色だけで表現されたパソコンのデスクトップがあったらどう思いますか?(笑)。テレビ中継の終わったテストパターンですら中間色あります(笑)。

絵画をひとたび見れば「なんでここに赤や黄色や緑の色を落とせるんだろう?」という妙味に気付かされたことがあると思うんですが、音楽とてそれと同じなんですな。

聴き手の耳が習熟されていないのに背伸びしてジャズ聴いても判らないモノは判らないんですね。クラシック音楽だってポピュラーなものはそれこそ聴きやすいかもしれませんが、クラシックだってジャズを超越しているような音楽だって沢山あります(笑)。聴きやすい音楽だけが市民権得ているだけのことで、それらの「同人」がどれだけ幅利かせようとも音楽的に本当に面白いかどうかはまた別問題なんですね。

チョット違う音に興味を持った人なら、キワい音のカッコイイ使い方を身に付けてナンボだと思います。アンディ・ウォーホールの四色分版のアートとかありましたけど、あれも結局は芸術を判っていない人のために用いたシニカルな表現のひとつだとも思うんですな。

三原色じゃあ、確かに脳幹ド直撃!アナタのレセプターはド反応!というくらい実直なモノであるかもしれませんし、シーンによってはそういうのもアリだとは思うんですよ(笑)。

でもですね、中間色を「おバカ」と形容するとしたら、三原色しか判らないのはもはや先天的で「重篤」なモノにも等しいかもしれないんですね。耳の習熟度に例えるとしたら。

実際の世の中では、三原色すら判らないで、白をも「黒!」という人が多いのが音楽の世界の実際なんですよ(笑)。だからヒドイものも普通に存在したり、ヒドイ聴き手もあるものなんですね。色で表現するなら、少なくともフルカラーが判ってエフェクトを楽しもうよ!みたいな、そういうのがキワい音の使い方なんだと思うんですなあ、左近治は。だからと言って、今回用いたサンプル曲のフレーズを作った左近治が褒められたフレーズ使っているワケでもないんですけどね(笑)。でも、6連符の一連のフレーズ内で5つ刻みのフレーズ織り交ぜたりして、チョットばかりジョージ・ベンソンのそれを意識しているのはお判りいただけたら幸いです(笑)。

私個人としては、今回サンプル曲に用いたベースの音に自己陶酔しております(笑)。