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ローズに酔う [クロスオーバー]

 今週のリリース曲には幾つか「マジ曲」がありまして、ローズに注力しております。

 ローズに注力するとは言ってもスティーリー・ダンの「Cousin Dupree」の歌詞に見られるような「アレでナニな」ローズではなく(あちらはroseですね)、エレピのRhodesです。

 まあ、お医者さんごっこやOREO(=黒人男性2人+白人女性1人による「大人の遊び」のスラング)を連想させる暗喩をタップリ含んだスティーリー・ダンの歌詞のシニカルな面を楽しみつつ、あの曲だってローズの単音でジャーキングやらイレクションを(笑)Nastyに表現しているのですから、ローズとは実に奥が深いモノであります。

 YMOや坂本龍一ファンにはうってつけの曲を制作しまして、坂本龍一がイナタくローズを弾いている曲ですね。山下達郎作曲の「Kiska」。

 モーダルな曲調でアレンジは坂本龍一。確かにこの曲調なら坂本龍一なら水を得た魚のように得意分野であろうことは音聴けばすぐに判ります。面子は高橋ユキヒロ時代の「Saravah!」やKYLYNに通じるものがあるでしょう。クロスオーバーな雰囲気を漂わせておりますね。

 YMO結成30周年となる2008年。当時リアルタイムにYMOを聴いていたことを振り返れば、当時、よもやココまで歳を取ることなど想像すらつかなかったものでありますが(笑)、飽くなき音楽への欲求というのは衰えるどころか増すばかり。

「音楽人生 これからだ」

とまあ、どっかのインシュランスのキャッチコピーにも似た言葉を肝に銘じて、ガタ付いて、いつ焼きが回ってもおかしくないカラダに鞭打って制作している左近治であります(笑)。

 30年前の1978年と言いますと、山口百恵の「プレイバックPart2」とかの辺りでしたでしょうか。トヨタのターセルやコルサのCMに山口百恵が起用されていた頃を思い出します(笑)。

 その頃の坂本龍一はシンセにも注力はしていたでしょうが、いわゆるスタジオ・ミュージシャン系としてのスタンスを保っていた感がありまして、りりィのバイバイ・セッションバンド→東映のピラニア軍団のアルバムを手掛けたりして、その後YMO結成という風になる過渡期でもある時代。

 ピラニア軍団なんて知らない人が多いとは思いますが、ドラマの相棒見てるだけでも警視庁刑事部長役の片桐竜次さんがまさしくそうですね(笑)。トラック野郎ファンやら東映ファンの方なら無粋とも思えるかもしれませんが、なにせ今は2008年。色んな情報鏤めないといけません(笑)。

 まあ、その頃の坂本龍一の特徴はローズやハモンド、特にハモンドの音色は実にセンスを感じます。ローズにも良さはあるんですが、それ以上にハモンドの音作りというか、非常にイイ音出しておりまして、その後ポリムーグを手にポリムーグにてローズ系やハモンド系を模した音が結構良かったりするんですな。フィルター・エンベロープによるエグくて判りやすいアナログ・シンセ・サウンド一辺倒ではない所が後のYMOの音色にもつながるといいますか。

 まあ、千のナイフではシンベ系で結構ミャンミャン言ってますけど(笑)、レゾナンス利かせてフィルターグイグイ言わせたいかにもシンセチックな音というのは坂本龍一はもとよりYMOの面々は多用してはおりませんね。そういうのもYMOの特徴だったのかもしれません。


「Kiska」については後に詳しく語るとして、今回のローズにこだわった部分はというとやはり「エグみ」に尽きます。

 強く打鍵した時の飽和感、ニュートラルなタッチではブーミー過ぎずかすかに響く艶やかな音、ソフトな時はローズの箱鳴り感と同化するトーンピンの囁きetc

とまあ、こういう感じを演出して、コーラスかけても中抜けしない音にしてみたり。

 ローズを巧みに使う人は、トレモロのスピードをリアルタイムに可変するプレイヤーも多く、坂本龍一は結構トレモロのかかったローズを嗜好するタイプと言いましょうか、ジョー・ヴァネリっぽさを感じるような所もあります。「Kiska」では結構速めのモノラルのトレモロを用いているようですが、今回はトレモロを使いませんでした。

 というのも、ケータイ端末にはモノラル再生のものも多く、トレモロのアンプリチュード幅を浅く設定することは可能ではあるものの、ケータイ端末のスピーカーの感応性の高い周波数帯域とローズの音域や周波数成分を考慮すると、やたらとうねりを出すよりスッキリと鳴ってくれるんですな。勿論曲によりけりですけどね。非常にテンポが遅いタイプの曲ならそれもアリかもしれませんが今回はトレモロの演出は割愛ということに。

 ローズの醍醐味は以前にも語りましたが、鍵盤のタッチ。弾いた途端、「下まで落ちる」というようなリニアなタッチとは大違い(笑)。ロガリズミックに落ちていくような感じでしょうか(笑)。

 ローズのみならず鍵盤楽器というのは黒鍵と白鍵では物理的に全く同じ形状や位置にマウントされているのではなく、それが微妙なニュアンスの演出を生むわけであります。もちろん全て移調しても流麗なタッチを身に付けてこそ鍵盤奏者なのでありますが、やはり構造的な面から来るニュアンスの違いというのはあるワケですね。その各指で弾かれたニュアンスはC△7を平行移動でヴォイシングをトランスポーズしてA△7のヴォイシングとのニュアンスとは全く異なる(物理的な音高を無視しても)わけでして、これがオイシイ部分ですな。

 その物理的な構造の違いからローズの場合だと非常にダイナミクス溢れるといいますか、黒鍵を弾かなくとも白鍵を弾くためのマージンとして「ふりかぶる」ような、もたれて支えるような感じから生まれるニュアンスやら実に味わい深いものであります。