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サンプリング・ピアノをふりかえる [クロスオーバー]

今でこそ全鍵サンプリングが珍しくなくなったサンプリング・ピアノでありますが、PCM音源、すなわちデジタル・ピアノ黎明期の頃はですね、それはもう倍音部分を聴くとハチャメチャなモノが実に多くてですね(笑)、「コレでピアノと呼んでイイのか!?」と感じたことしきり。

現在と違ってメモリの容量なんて非常に限られていてその制約の中でやりくりしていた、と。しかし、例えば「ド」の音をサンプリングしても、お隣の鍵盤「レ」もデジタル的に再生スピードを変えてピッチを保っている。すなわち同じサンプルを他の鍵盤でも代用することで、再生スピードはもとより、ループ部分の範囲すらもサンプルを代用しつつ再生スピードを変えているだけですから、場合によっては高次倍音成分のフェイジングとか起きたりしていたんですね。

判りやすく言えば、倍音成分に顕著に現れる音の周期的なゆらぎ。これが「モワ~ン」といううなりでゆったりとしたLFO(笑)で空間系エフェクト施したのか!?と思わんばかりの音になってしまったり、或いはトライアドを普通に弾いているだけなのに、ヴォイシングによっては長九度部分の音が付加されてadd9のコードに聴こえてしまったり(笑)、果ては増4度の音まで聴こえてきたりするサンプリング・ピアノなど非常に多く出くわしたモノでありました。(※ あくまでも和声を鳴らした時のバラつきでそうなるので、鍵盤1つ弾いた程度ではサンプルのループポイントが判る程度ですので混同しないように)

「こんなに変な音になるようじゃ、マイナー・メジャー7thなんか綺麗に響くワケがない!」

左近治は別にピアノ弾きではない(笑)。だけれどもそこまでピアノ音にこだわる必要もないから、そういうサンプリング・ピアノは敬遠していた時期がありました。

アップライト・ピアノですら反響版を開けて弾いている人なんて実際は少ない(笑)。中古ピアノの展示場なんて調律こそされているものの、音域によっては音ムラが非常にバラつきの多いモノが圧倒的(笑)。前オーナーは結構巧かった人だったんだなぁと思わせるピアノに出会うのは意外に少ないモノです。

サンプリングではないモノホンのピアノの音の素顔も知らないまま弾いている人が多いから騙せてしまうものなのでしょうかね(笑)。

マイナー・メジャー7thというコードは、長七度音程に慣れていない人ならばメジャー7thの和声よりも取っ付きにくい和声でありましょう。ビートルズのミシェルのように経過音的にクリシェで出現させるような展開ならまだしも、独立した和声で響かせた場合、多くの人はその魅力が解らない敬遠されがちな和声でもありますが、左近治は非常に好きな和声でもあります(笑)。

旋律的短音階=メロディック・マイナーとは、Cを基準にすれば「ミ」だけがフラットした音で後は白鍵であります。さらに全音音階(=ホールトーン・スケール)を除けば、音階中に最も全音音程が連続して出現する特異な音階でもありまして、マイナー・メジャー7thの和声はこういう音階を示唆してくれるんですな。


とりわけ半音(=転回すれば長七度)の響きが好きな左近治でありますが、モードとしてのダイアトニック・スケールで見ると、半音の音程が多く出現する音階というのは意外に少なく、ジプシー・スケール(=ハンガリアン・マイナー・スケール)は半音が4つも現れてくれる。すなわちダイアトニック・コードを形成すると長七度音程を持つコードが4種類も現れてくれる、と(笑)。これで楽曲を成立させてしまった代表曲は以前にも取り上げた坂本龍一作曲の「Elastic Dummy」。高橋ユキヒロのソロ・アルバム「Saravah!」に収録されている曲ですね。

半音の追究を「陽」とするならば、全音は「陰」とでも呼べるといいますか(笑)。半音の美しさと全音音程の連なりで中性的な響きの両方を兼備しているようなメロディック・マイナーは実に多様な魅力を備えているんですな。

マイナー・メジャーをうまく咀嚼できていないと、マイナー・メジャー7thコードを弾いてもトライトーンを示唆する音程関係(増5度間に内包される音列に増四度も含んでいるから)を有しているため、ボキャブラリーの少ない人だと使いこなせないワケです(笑)。和声として巧く機能させるには、少々安定感を得る為にマイナー・メジャー7thに9thや11th音を加えたりします。こうすることでマイナー・メジャーの本来持っている性格が理解しやすくなるモンなんですな。

さらにはマイナー・メジャー9thの根音の下方に3度音程を加えるとして、例えばCmM9にA♭音を加えれば、G△/A♭△というポリ・コードの出来上がり、と(笑)。マイナー・メジャー7thから音を重畳させるだけでこれだけの多様性を演出できて、VI♭音を加えればディミニッシュの応用にも繋がる、と。半音を意識しつつ全音音程の多くの連なりを有して減三和音への発想にも応用できる、と。

ひとつのモードで一挙両得どころか3倍オイシイ和声なんですな(笑)。

まあ、こういう発想で重畳させた和声の一部をomitして、もっとシンプルに響かせるコトも可能です。見慣れない分数コードになったりしますが、こういうのを追究するとウォルター・ベッカー風になります。Kクリで着うたが開始される前、私はウォルター・ベッカーの1stソロ・アルバム「11の心象」にボーナストラックとして収録の「Medical Science」という曲を当初はリリースしたくですね(笑)、出先でGaragaBand使いながら打ち込んでいた時があったんですが、あんなにシンプルな楽曲なのに、そのトンデモない和声構造をあらためて分析してみたら「コレはリリースできない(笑)」と、当時は断念した覚えがあります。見事なまでの音のomitと、その空間をモーダルに唄っているベッカーのフレーズはもはや計算されているんですね。ただ単にシンプルな音なのではないということを思い知ったワケです。他に全くアイデアを浮かばせてくれないほどだったんです(笑)。

今まで「断念」した曲というのは意外と少ない方ですが(お暗入りはまた別)、Medical Scienceは本当に鬼門です(笑)。


まあ、ハナシは長くなりましたが、そういう興味深い和声を「より汚く」聴かせてしまうコトだけは回避したいのでありまして、昔はそれがサンプリング・ピアノだったなあと痛感したワケでした。それと同時に難解な和声の響きを本当に理解するには、きちんとした発音による音ではないともはや倍音成分でジャマされる、というコトもあらためてその当時認識したワケだったんですね。