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ドラムのカブり音とサイド・チェインの妙味 [ドラム]

2007年を迎え、なぜか左近治はジェフ・ベック・グループのHighwaysを聴いていたのでした。

着メロでは32/40和音として、この曲の後半に聴くことが出来るマックス・ミドルトンのローズ・ソロをリリースしているワケでございますが、あらためてこの曲におけるコージー・パウエルのドラムに舌鼓を・・・いえいえ悦に浸りながら聴いていたというワケであります。

お手々が8本あるコージー先生のソロ・アルバムのジャケットはさておき(笑)、この曲のコージー先生の繊細なドラミングはイイですね。ミックスも結構お手本になるんですね、コレが。

スネアの深めで緩いスレッショルドのコンプは、ハットの音をトリガーにしているという、ダイナミズムを出したい時の王道パターンなんですが、ハットのサイドチェインにしている周波数選びとスネアの高域が引き立たせるこの音はまさに教科書なのであります。

タムを回している時もコージー先生はハットのフットペダルでリズムキープするのですが、その途中々々でスネアを使うオカズでハットをトリガーにしたサイドチェインによる音が違いとなって現れますので機会があれば聴いてみてくださいな、と。

ドラムミックスはサンプル音源と違って物理的なドラムミックスにおいてはマイキングは非常に神経を使うワケでありますが、そこでぶつかるのがカブり(被る)音の扱い。

位相が変わって音質が変化するのは勿論ですが、決して悪影響ばかりではなく正相と逆相の設定さえ間違わなければ音質をいじる上でも重要なファクターとなるワケであります。オーバーヘッドのマイクなど最たるものですが、カブり音の醍醐味を前面に押し出しているのは我らがボンゾ先生を挙げなければならないでしょうか。

ボンゾ先生の場合はドラムキットの傍らにモニタースピーカー(自分自身の音)が置いてあって、それがカブります(笑)。DX7で言うところのセルフ・フィードバックですな(笑)。これが独特のダイナミズムとローファイ感が混ざった音となるワケですな。

話を戻してコージー先生の音。

このドラムミックスの音が、意図して各楽器(ハットとスネア)の双方のトラックを別々に音作りをしながら、サイドチェインとコンプを巧みに使って作られていようが、ミキシング・コンソールの領域でチマチマ弄くり倒すのではなく、ただ単にハットとスネアのマイキング位置を厳密にセッティングした上で出音を作ったものであろうとも、それらの音は確かに方向性としては似てくるものであります。

もっと分かり易く言えば、ハットの音がスネアにカブった音をそれぞれ緻密に音作りをした結果でも、サイドチェインを巧みに使ったそれと似たようなものにはなるという意味です。

無論、これら2つの例として挙げた音作りの例を両方試すことが重要でありますが、最終目標とする「狙い通りの音」とする方向性は結構似たフェーズにあるとはいえ、それを年頭に置いて制作する状況がチト違う場面もあります。

例えば・・・!?

現在では打ち込みによる編集で、ドラム音源も実際の物理的なドラムキットとは違って、カブりに遭遇することなくミックスをしているケースも考えられるワケですが、そういうシーンを想定して仮想的なカブりなどを演出したりして音作りすることも必要なのですな。

マイクの場合は、指向特性による周波数特性の違いでほんの少し向きを変えただけで音質が変化するのはもちろん、マイクの物理的な筐体(収音部の開口面積やら)による空気の流れによる回折効果で生まれたりするブーミーな音、いわゆる「フカれ(吹かれ)」と呼ばれる現象などありますね。

室内のドラムキットのミックスであればフカれはなかなか遭遇しないものですが、実際にフカれに遭遇してそれに伴う音質変化というものは如実にマイクというものはやはり人間の耳とは違って、マイクの姿形を想像できてしまうくらい自然に聴こえる音とはやはり違うと認識させられるものであります。

左近治の場合、着うたを語る上ではやはりDAW環境は切っても切り離せないので、そのような環境において仮想的なドラムキットを演出させたミックスを追及したくなるんですな。まあ実際にはかなり安直に作る曲もあるんですが(笑)。

Q-CloneやMatchEQ(Logic Pro)などコンボリューション技術によるイコライザーのプラグインは色々ありますが、様々なマイクの種類や少なくとも0~180°の間で10°ステップくらいでの周波数特性による違いのプリセットがありとあらゆるマイクで用意されていたら理想かもしれませんが(笑)、それらを用意したところで狙い通りの音にすぐ近付けるかというとそうでもないのがミックスの深いところでしょうか。

サッカーのアルゼンチン代表でリケルメという人がいますよね。王貞治になんとなく似ている顔立ちの(笑)。

リケルメがゴールした後のポーズは、両耳の後ろに手のひらをかざして観客の声を集めて、「もっと喜んでくれ!」と声援を要求しますよね。

たかだか耳の後ろに手をかざして収音するだけでも音の聞こえ方は如実に違います。マイクでも角度がほんの少し違っただけでも変わるのは当然ですな。

ところで、耳の軟骨部すなわち耳介の裏側に手のひらをかざせばまさにリケルメなんですが、耳介の後ろを手でこすると「クシャクシャ」と音を立てます。でも、これは自分にしか聴こえないんですよね。

一人称ドメインだけではなくこれをみんなに聴こえさせようと、この効果的な音をどうにか似せるようなものはないかと模索した挙句、自然界で最も近い表現になったのがターンテーブルによるスクラッチと言われています。

耳に聴こえるわずかな音の違いや音作りの追求。一方では耳に聴こえることを阻害してしまうようなことで生じる音も「音」の素材として取り込んでしまう発想。これらは双方必要な要素なのだとあらためて痛感するのでありますな。聞かず嫌いはいけません(笑)。