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嗚呼、我がエレクトリック人生 [制作裏舞台]

電力が必要不可欠になってしまっている私の音楽制作。アコースティック楽器一辺倒の方もFinaleで楽譜作成やDAWに勤しんでいる方は非常に多いと思います。左近治にとってのエレクトリックな音楽人生は、そういう電力のインフラ的側面ではなく、いわゆるエレクトリック・ミュージック的な側面で形容したい言葉だな、とご理解していただければ幸いです(笑)。少し尖がった感じで言えば「テクノ魂」みたいな。

とはいえテクノ魂と偉そうなことを言っても私の心はテクノのみならず多くのジャンルに心奪われているという真実(笑)。何はともあれ、私くらいの世代だとオーディオブームやシンセサイザーのめまぐるしい変遷、CPUやDSPなどが低価格帯にも普及することでマルチエフェクターやら現在のパソコンなど多くの恩恵を受けることになり、それらの時代を常に目の当たりに出来たということが音ひとつ語る時の小ネタに事欠かないように育っているのですな(笑)。

しかし、いざ振り返ってみるとバラコンといわれるオーディオブームやらシンセサウンドの移り変わりやマルチエフェクターで、音の変化や発音原理やらオーディオ的側面音質面での周波数特性やら位相特性やら、そういった情報は昔から目にとまったものですが、一番大きな衝撃を受けたのはそれらの機器を触れたことでもなく、無響室に入ったことが一番衝撃を受けた経験でして、それまでの机上の知識やら音に対する先入観(色眼鏡含む)などが、たったそれだけの経験で一気に咀嚼され融合されたと言えるくらい革命的なものでしたねえ、左近治にとっては。

通常、部屋の中(部屋といっても残響の度合いはいくらでもあるが)や戸外での会話は、無響室に入るまでは私は「ドライ」で「デッド」な空間だと思っていました。まあ、道幅が狭く、コンクリートのビルが隣接したような場所などありますがそういう揚げ足はご勘弁を(笑)。

ところが、かなりドライもしくはデッドな音だと思っていたところに無響室に入った時のその異質な空間の音の違いに驚きの声を上げた際の私の声がなんとも細い、まるでツイーターだけを通して聴こえてくるような。

客観的に自分の録音された声を聴くよりもはるかに異質なそれは、低域成分もあるのにそれまでの経験で言えばツイーターだけを通過したような音。しかし低域成分はあるのに、高域がやたらと輪郭がシャープに聴こえて、定位感が如実に鋭い。耳元で親指と人差し指をこすってクシャクシャと音を他人から出されるような、それほど耳元にまで鋭く届くような空間。それが無響室です。

一方で建設中の撮影スタジオの内装工事前に見学で入ったこともありました。広さは学校の体育館の2倍くらい。高さも1.5~2倍くらいでしょうか。内装はまだ何もなく打ちっぱなしのコンクリが剥き出しになっている状態です。

そこに鉄製のドアを開けて入った瞬間の靴音の凄まじさも、無響室のそれとは違って心に残るすごい経験をしたと感じたシーンでした。

計測はしていないものの、残響は普通に1分以上持続しているんじゃないかと思えるほど。足を踏み入れた瞬間の音の異質さに笑ってしまうくらい驚き、一旦ドアを閉めてもう一度確認して入ったほど。

その空間内でいざ喋っても、声が何がなんだか分からないくらい残響の連続になってしまうんですね。気が狂いそうなくらい凄まじい空間でした。それらの音が鳴り止むこともなく、その空間から出て扉を閉めてしばらくしてドアを開けて確認すると、まださっきの会話と思える音がうごめいているんですね(笑)。

これらのふたつの事例が私にとって「残響」や「初期反射」がいかに音のソースの音質といわれる部分を担っているのかという基準が構築されることになるのでした。

例えばサンプラー用のライブラリーでも、エフェクトを通過していないドライな音であっても、録音環境空間の初期反射は録音されているのがほとんどです。もちろんその方が利用者にとっては馴染み深いとっつきやすい音だからというのもあるのでしょうが。

ただ、それらのライブラリーを使うにしても初期反射が最初から付随されている音に、今度はDAWアプリケーション側においてリバーブなどのプラグインでさらに残響を付加してしまうと、音質という重要な部分をさらに他の音質が変わる初期反射で上塗りしてしまうことになるので、場合によってはこれらのサンプル音が分離することなく団子サウンドを作り出してしまうという悪循環に陥ることもあるのですね。

そういうことを回避するために、当時左近治が覚えたのがゲートの使い方でありました。ゲートはマイクロ秒領域をいじることの出来るパラメータを持つタイプがベスト。ミリ秒単位だとどうしても初期反射成分をカットできるのが甘くなってしまうんですね。まあかけないよりかはマシなんですが。

少し話は逸れて、一昔前のドラムマシンで比較的人気のあった代表的な機種を列挙してみました。

Roland R-8(R-8M、R-5含)
KORG S3
YAMAHA RY-30
ALESIS SR-16(D4含)

RolandのR-8は、タッチパッドの感触が今でも非常に好きです。発音レスポンスが非常に速くて私のお気に入りでもあります。肝心のサウンドは、いわゆるPCM素材はこうでなくては!という見本のようなというものですが、ゲートで録りのアンビエンスまで大胆に削ぎ落としたものでもなく、いわゆるサンプル素材としての良さを出したもの、万人受けするタイプの音の代表例としてカテゴライズします。

KORG S3とYAMAHA RY30のPCM素材は、正直言うと当時のPCM全盛の時は不人気に相当する商品だったのではないかと。しかし、これらのサンプル素材はゲートでかなり削ぎ落としてあり、真のマテリアルに近く削ぎ落とした上で音色キャラクターをEQなどで加工あるいは細かいループやADSRで味付けされたタイプであり、今になってみれば、こういう削ぎ落とされた素材の方が多くのオケの中でも際立って埋もれないんですね。なぜかというとそれは、通常「音質」として感じている初期反射の部分を削ぎ落としているので、かえって功を奏するんですね。

初期反射がダブルになってしまうミックスだとこの時点で既に分離感というものは失って引っ込んでしまうのです。

ただ、こういうゲートで削ぎ落とされたタイプの音は、多くの一般利用者にとっては耳に馴染まない音であるため「リアル」感のあるPCM素材の方が手軽であり、もてはやされるわけでありますね。

左近治はS3が大好きなんですけどね。まあ、言い換えればドラム素材はゲートで削ぎ落とすような使い方をして、残響成分はリバーブや現状であればインパルス・レスポンス技術を使ったものでより多くの素材で彩りを施すことができるので、ややもするとチープに聴こえる素材も初期反射成分の量感を見極めてサンプル素材を判断する耳を養った方がより良いミックスに近づけることができるのではないかと思いますね。

ALESISのSR-16は、素材によってはゲートでかなり削ぎ落としているようなものもありますが、全般的に、コンプと大胆なEQカーブによってプリセット音色を決定付けているキャラクターで、先の例とは少々趣きが異なるタイプともいえます。ただ、志向するものはR-8タイプの方であろうかと。

回り道をしましたが、ドラム素材のみならず録音されたソースに初期反射成分によってどれだけ音質キャラクターが決定付けられているかということを逆算してある程度イメージできることが、その後のオケに混ざった時のミックスにおける音質変化を上手く操ることができると言っても過言ではありません。

つまり、私にとっては目に見える形でシンセサイザーやデジタル技術の発展によって自然界には到底存在しないような音やエフェクト類の進化でさらに音の変化の凄まじさを知ることができたものの、無響室での経験が培われたことで、生素材の重要さに気付き、その後のエフェクトやミックスにおいてどういう味付けをすればいいのかということを覚えることができたワケであります。

左近治にとっては、エレクトリックの追求は生素材を知ることだったわけだったのです。さらに言えば、キャラクターがコロコロと面白いように変わるエフェクター類はいじっているだけでも面白いものですが、そういうエフェクターよりも地味な存在であろうゲートの活用法がその後の左近治にとって重要になったというわけでした。

以前にも取り上げたパンニングだけによる操作だと、元のソースがモノラルならまだしもステレオの場合はパンニングした分、左右の位相差や遅延差を付けてあげないと音が団子になりかねないということを述べました。さらに最近のDAWアプリケーションには3dB補正という機能も付いている世の中。これらの使い方をあやまり、初期反射による「耳になじむ」音が施されているサンプルライブラリーの元の音に酔いしれてゲートの重要性を無視してしまうと、さらにミックスを団子にさせてしまうという悪循環にもつながるので注意が必要なんですな。

次回は3dB補正の妙味とやらも語りつつ長々と語ることにしますか(笑)。