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悲しきブルーカラーワーカーの歌詞の謎 [YMO関連]

 髙橋ユキヒロ(以下高橋幸宏)というカタカナ表記時代の2ndソロ・アルバム『Murdered By The Music(音楽殺人)』収録の「Blue Colour Worker(悲しきブルーカラーワーカー)」という曲は作詞がクリス・モスデルという初期YMO作品にも多く見る名前で、元々は高橋幸宏の姉の家庭教師というつながりであったと言われます。

BlueColourWorkerFront.jpg


 他方作曲者というと細野晴臣に依るもので、坂本龍一やサンディーも参加しているのが特徴です。



 それにしても本アルバムは佳曲揃いで、初回限定盤として青色カラー・レコードの特典の日本国内よりも豪州では相当売れたらしく、サンディーはその後夕焼け楽団のサンディー&サンセッツとして活動を共にするようになり、やはり豪州では「Sticky Music」がヒットし話題になった物でした。



 兎にも角にも今回取り上げる「悲しきブルーカラーワーカー」は、モータウン系の「ド」が付くほどのピーカンな曲調であり、高橋幸宏に提供せず後年の松田聖子らに提供すれば昭和歌謡界に名を残す位にヒットしたのではなかろうと思える程のクオリティであり、斯様なメロディーの牽引力を具備した楽曲はそうそう生まれて来ないのではないでしょうか。

 本曲の歌詞はというと、歌の実際を反映しておらずに漏れている箇所が2箇所あります。メロディーと歌詞の関係で寸足らずになってしまい、クリス・モスデル本人のそれとは異なり附與させた可能性が高いのでないかと思われます。その理由については後述するまでもないとは思いますが追って語る事にします。ところが!!

 本記事投稿時から遡る事ほぼ23年近い1998年初頭の事。私は保土ヶ谷バイパスを走行中に連絡があり急遽名古屋に行かねばならなくなり、仕方なく友人を同伴させてそのまま東名に乗って名古屋へと赴く事に。

 名古屋での用事は4〜5時間程で済み、折角名古屋くんだりまで友人を引き連れたのだからという事で、少々名古屋には土地勘のある私は夜の栄周辺を練り歩いて、その後カラオケに出向いた訳です。

 着メロすらまだ一般的に流行もしていない時代のPHSすら持っていない人も多数。カラオケボックスも横浜辺りとは事情が異なる感じ(通信カラオケ黎明期)でありましたが、私が最も驚いたのは、偶々髙橋ユキヒロの「悲しきブルーカラーワーカー」の文字列を現今社会のカラオケボックスでは到底想像にも及ばぬ電話帳もどきの分厚い曲目リストから発見した事でした。

 私が所有していたケータイも、偶々単音での着メロが自作可能な機種で小松未歩の「チャンス」を入力していた位ですからね(※小松未歩の「チャンス」と大塚愛の「さくらんぼ」は私の数少ないJ-POPのfav曲)



 当時は朝から晩までフジテレビという時代でしたから、朝の吉田恵さんに《これ持っていけい!》と脳幹ブチ抜かれないと出掛けられぬという位の力を漲らせんばかりの横溢するエネルギーを毎朝TVから頂戴していた訳ですが、この時のBGMが「チャンス」だったという訳ですね。

 楽曲のヴァースが判らない! と思える位に各パターンが全てコーラス(=サビ)に聴こえる程のドコを切っても金太郎飴状態の楽曲に、全パターンを単音フル尺で自作着メロ出来る機種は当時でも限られておりましたが、何を使っておりましたっけねえ!? iモードの前ですね、確か。


 扨て本題に戻りますが、それまでの私は少なくとも横浜は勿論、首都圏でのカラオケボックスで「悲しきブルーカラーワーカー」に遭遇した事はなかったので、名古屋は楽器店での流通しているそれも首都圏とは毛色が違うけれども、まさかカラオケの曲目も異なるとはねえ……と感心しつつも、

《そういや、「悲しきブルーカラーワーカー」の歌詞は未記載部分があったけれど、どーせ歌詞カードのそれと同様に載ってねーんだろ!?》

と高を括り乍ら、YMOファミリーなど縁遠い者でもこの曲なら悪い顔はしまいと思い選曲して歌ってみると……あーらビックリ玉手箱(死語)!! なんとなんと、未記載の歌詞が補完されているではあーりませんか(死語Ⅱ)。

BlueColourWorker_Lyrics.jpg


Walls of blue
I'm walking through
Blinding my eyes
Flooding in behind
Washing away
The colour
I see
The colour
In me
The colour
I feel

The Blues
Sometimes green
Carry knives
Of envy
The Blues
Sometimes see red
Keep it bottled
In their heads
The Blues
Are colour blind
To all but blue
In their eyes

Blue is silent
Blue is golden

The touch of blue
Leaves blueprints
On you

Walls of blue
Surprise you
Out of the blue
Blue in you

Naked blue
Is a red letter
Written about you.
Blue is you

(なんか嫌になっちゃう)

(会社は辛いなあ)




 上述の様に、赤色で示した部分が歌詞カードには未記載の部分で、カッコで括った2つの語句は曲中のラップ部というのが歌詞の実際である訳です。

 で、現在のカラオケシーンではどうなっているのか!? というと選曲リストに「悲しきブルーカラーワーカー」は有るので選曲は可能なのですが、画面に表示される歌詞は嘗て名古屋で見たそれとは異なり、著作登録通りのオリジナルの未記載歌詞として確認できる様に変化しているという訳です。

 私は頻繁にカラオケに入り浸っている訳ではないので、数年ぶりにカラオケに出向くという事も珍しくありません。2020年というコロナ禍ではカラオケボックスなど勿論ネットカフェも出入りはしておりません。

 したがって、私にとっての最近のカラオケ配信事情(「悲しきブルーカラーワーカー」の選曲リスト)というのも2018年の確認が現時点では最新という事ですので、その辺りはあらためてご容赦願いたいのですが、ソフトクリーム食べ放題でカラオケボックスを能く利用していたのが最近の利用の理由という訳です。

 ところがカラオケボックスよりもネットカフェでのソフトクリームのサービスが充実して来た事もあって、2019年はカラオケボックスは利用しておらずコロナ騒動に突入したという訳です。


 本来の歌詞は ‘Written about you.’ でピリオドが打たれている事から、メロディーとの関係で補完させたのであろうと思われます。98年辺りの通信カラオケ事情だと著作隣接権の兼ね合いもあって黙認状態となっていたのでありましょうが、着メロブームが訪れてから著作隣接権が再整備される様になり、歌詞の方は着うたやiTunes Storeが国内で展開される様になってから数年後の歌詞サービス機能が追加される様になる前辺りから、歌詞にまつわる(表示の)著作隣接権は強化されたかと記憶しております。

 そうした流れを受けて、著作登録とは異なる「勝手サービス」が罷り通る事が厳しくなり、元の歌詞の姿に戻ったのではなかろうかと私は推察します。

 私が業務用着メロを制作していた時でも着メロ用データ変換前のMIDIデータ編集にはメタイベントに楽曲名や著作者名を入力する必要があったもので、当時はMOTUのDPを使って高度にMIDI編集をしていた物でしたが、いざメタイベント編集となるとDPはかなりお手上げ状態であり、ロックド・マーカーにしてやらないとメタイベント入力のティックがSMF上でズレてしまうという物でした。

 デルタタイムに起因するのか、メタイベントはそもそもXG規格で重視されるカテゴリーでもあるので非常に苦労した覚えがあり、その著作関連の埋め込みは非常に重要でもあったので何にせよ一苦労でした。とはいえMIDIデータ編集部分はDPのSearch機能やらをふんだんに使ってほぼマクロ化していた事もあり、楽に作業が行えていた物でした。最終的なMIDIデータとなるとヤマハさんから戴いたXG Worksを用いてメタイベント編集を施して着メロデータ用のソフトを使っていたという訳です。

 こうして着メロ時代を語ると懐かしいものですが、最初はPCすら使っていなかった私が導入せざるを得なかったのがWindows 98SE。その後Meで動作する着メロソフトが提供されましたが、Windows2000で動作する様に要望すると半年かかるかかからないかでWindows2000に対応し、XPリリース後も暫くはWindows 2000を用いていた記憶があります。

 その後着メロ制作用音源がハードウェアではなくソフトウェア化する事に伴い、XPにシフトしていったかと思います。着うたはMacを使っていたのですけれどもね。一部のデータはXP専用のソフトでエンコードしておりましたが。

 ハナシが着メロ制作に逸れてしまいましたが、業務用着信音界こそ著作隣接権の取扱い協議については色々と重ねられていた物でもあり、2003年の冬頃でしたでしょうか。着メロが16音から32・40音へと変わる様になり着信音で可能な事が増大する事で、データ・フォーマットのレクチャーもかねて松武秀樹氏を招いて著作権関連のセミナーが関係者向けに用意された会合も設けられた物でした。元はヤマハが関与しているので、そのセミナーは制作者と技術者が集まるだけの物とは異なる厳格な会合でありましたけれども。

 そんな席でも、著作権を取扱う団体の横柄な対応に誰もが嘆息して笑い話となり、緊張感漂う儼かな雰囲気を和らげるネタにもなった物でしたが、iPhoneがリリースされるなど誰もがその後のスマホなど予見すらしなかった時代、着メロ界隈は法を遵守し乍ら制作されていたという訳です。

 90年代にはMIDIデータ上のMTCで照明コントロールの整備と活性化もあり、メタイベントというのはそうした延長線上のアイデアから拡張的に使われていった物です。システム・エクスクルーシブ・データというデータ量が極めて多いコントロールで歌詞などを表示させるよりも、メタイベント上のメッセージの方が遥かに適していたという事もありますが、このデータ領域はヤマハ主導のXG規格で強引に整備された様な所もあった物です。

 通信カラオケ側としても通信費は勿論、通信データとしては容量の少ない方が望ましいのであり、法体系の再整備もあり勝手な解釈の歌詞が彌漫してしまうのは避けつつ、カラオケと着信音は2000年代初頭は非常に注目されていた事もあり、監視の目も行き届いていた状況下を鑑みれば、歌詞データも忠実になるのは自明の流れであったのではないかと思われるのです。

 無論、作詞家のクリス・モスデル本人と歌唱者の高橋ユキヒロ本人の回答を得ない限りは、真相は闇の中ではあるのですが、それほど頭を悩ますほどもなく大方は察しがつくかと思います。

 単なるリスナーの疑問として、歌詞に書かれていない歌詞が歌われているのはどういう事なのか!? という事にまつわる違った側面からの考察程度にお読みいただければ幸いです。

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