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緊急告知 ザ・セクションの1stアルバム『The Section』2014年再発決定! [アルバム紹介]

 嬉しいニュースが飛び込んで参りましたので、急遽話題を変えてアルバム紹介の話を進める事に。此処最近忙しく、ブログ更新そのものが久方ぶりとなってしまいましたが、文字数の多い私のブログ、偶にはこういうのもアリなのかもしれません(笑)。
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 扨て、セクションというバンドは一体どういう人達なのか!?と言いますと、ジェイムス・テイラーのバック・バンドである名うての面々なのであります。セクションの1stアルバム発売時は1972年という、インストゥルメンタルを全面に押し出すエレクトリックな編成つまりクロスオーバーの作品としては1972年という年はまだまだ黎明期でありますが、そんな中で燦然と輝く本アルバムの位置付けというのはクロスオーバー、その後のフュージョンという括りを以てしなくとも非常に重要なオピニオン的扱いをせざるを得ないアルバムなのであります。

 このアルバムが初CD化されたのは1991年。ライナーノーツには今やクロスオーバー/AORシーンではお馴染み、先のNHK-FMのAOR三昧でも進行役を務めておられた熊谷美広に依るアルバム評が載せられており、各メンバーに対する憧憬と称賛の声が随所に鏤められております。


 このアルバムが2014年6月25日発売予定だというのですからコレはファンとしては堪らない名盤の再発と言えるでしょう。私もあらためてCD背面ジャケットを見てみたら、キーボードのCraig Doergeは「ダーギーと呼んでね!」とクレジットされていた事に漸く気付く有り様なので、私の過去のブログ記事では「ダージ」と喚んでいた事もあり、あらためて気付かされることが多いと痛感させられました。
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 本アルバムがクロスオーバー的オピニオンの存在ではあるものの、キーボードはローズを使っているだけでシンセサイザーは用いておりません。そこが又やたらとシンセチックな音で形而上学的な世界観を押し付けようとする世界観の演出に戸惑いを隠せないタイプの人を惹き付けて止まない部分でもあるのですが、エフェクトと言ってもせいぜい「Second Degree」のエレピ・ソロの一部にリング・モジュレーションをかけているのみで、それでもシュトックハウゼンの様に直線的に音程を投影させるような物とは一線を劃した物で、仄かにリング・モジュレーターを混ぜた程度でソロの冒頭に附加されている程度のものであり、小編成でありながらも重厚な和声感は伴わせつつも、リフがしっかり構築されている所に、その後のAORのヒントがある重要なアルバムなのであります。

 和声感の附与に貢献しているのは、和音を奏するクレイグ・ダーギーとギタリストのダニー・クーチ(コーチマー)のプレイに依る所が実に大きいのですが、その和声感を疏外する事なく流麗にインタープレイを随所に鏤めて遊ぶベースのリーランド・スクラー御大あっての、各メンバーに対して温かく輻射を伝播させる下支えと安定感こそが各プレイヤーのインタープレイへのインプロヴァイズ感を刺戟して呉れるのでありましょう。そうしたプレイは聴いていて実に心地良いものです。

 扨て、このアルバムで最も重要な点は、サキソフォン奏者の故マイケル・ブレッカーがほぼ全面参加している点が重要なのであります。しかもメイン楽器のテナー・サキソフォンだけではなく、ソプラノ・サキソフォンやフルートまでも奏しているのですから畏れ入るばかりです。

 アルバム中最もキャッチーな「Doing The Meatball」は、非常に覚え易いキャッチーなメロディをマイケル・ブレッカーが奏しており、色んなテレビのBGMでは能く掛っていたモノなので、一度は耳にした事があるのではないかと思いますが、この曲のキャッチーさだけで本アルバムを買う価値はあるものの、それだけの愉しみ方は非常に勿体無い所でもあります。とはいえ、器楽的素養を備えた方ではないと、随所に鏤められた各メンバーのプレイに拘泥し得る部分を自身の耳と手中に獲得する為には鍛錬の必要性を要求させられる側面もある、非常に玄人向けの部分も備えている教科書的なアルバムであると言えるでしょう。

 テンポも符割も速いフレーズをソツなく、時にはそれをキャッチーな横の線でそれこそ恰も諧謔的に感じさせて弾いてしまう様な彼らのテクニカルな部分は、その「諧謔的」にすら聴こえてしまう程あっさりと弾き切ってしまう為、「さあ、今から難しいフレーズを弾きますよー」という感が全く伝わらずに聴こえてくるので、凄さが埋没して耳に届くそれに、ついつい笑いが生じて「諧謔的」にすら思えてしまうのは、彼らの意図せぬ所の諧謔なのでしょうが、まあ、いつ聴いても勉強になる、それでいてイナタさと聴き易さも同居するインストゥルメンタルの世界は、残響も非常に少ない所がスワンピーに感じる重要な部分ではありますね。

 喩えるならば、スティーリー・ダンの「うそつきケイティ」の世界観(音作りじゃないですよ)とか好きな方なら間違い無く好まれるでしょう。「Your Gold Teeth II」が好きな人なら特に「Second Degree」の良さは判っていただけるのではないかと信じてやみません。尚、余談ですが私は嘗て着信音で「Same Old, Same Old」をリリースさせていただいた事もありました(笑)。


 今あらためて聴けば、ジョー・ママ、ダニー・コーチマーの1stソロ・アルバム「クーチ」やらその後のアティテューズなどに鏤められた和声感を聴くと、最も影響力の強いのはダニー・クーチなのだなあと気付かされる事は多いです。ラス・カンケルのビートの参考にしたいのは、右手と左足のリズムです。これらの「打点」が交互、或いは同時に奏されるというリズムの混淆とした部分は実にマジカルめいたほどに美しいです。音も好きなんですけどね、個人的には。小径深胴ベードラでこういうキックの音を作ってみたいです。耳を傾倒すれば傾倒するほど、そこには各プレイヤーの真具なる技巧が聴こえて来るのですね。バンドのメンバーの中でそうした技巧と共に良い意味での惰性感をも具有するのはダニー・クーチなのですが、彼の惰性感というのは疲弊的なものではなく、ジェフ・ベックのそれとも似た「直観」的な発想に起因するものと同じフェーズにある部分かと思います。ダニー・クーチからすればジェフ・ベックですら愚直な部分があるのではないかと思えるほどのプレイをして呉れるのでありますね。


 クロスオーバーという、フュージョン黎明期の音は発音数の制約されたシンセサイザーの貢献に依る物が大きかったのですが、スタードライヴですらARP2500を使っているようなそんな時期に、ミニムーグやARPオデッセイすらもまだ見ぬ頃のオーセンティックなエレクトリックな音でのインストゥルメンタルのアンサンブルというのは意外にも少ないモノです。勿論色々見渡せば、ビッチェズ・ブリュー以降のエレクトリック・マイルス、RTF、ザッパ、WR、ブライアン・オーガー、ソフト・マシーン、ジョージ・デューク、マハヴィシュヌ・オーケストラという人達にヒントは多くあるものですが、これらの方々、総じてシンセが齎す機械的な演出でより一層神秘的、宇宙的な部分を強調しようとしていたりします。シンセの無いオーセンティックなクロスオーバーという事がキモなのです。

 スワンピーなクロスオーバー黎明期の音。これを満喫して欲しいのであります。本記事初稿時からあと1ヵ月一寸ですが、実に楽しみであります!

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