SSブログ

マイナー・コード上における六度の取り扱い [楽理]

 扨て、ツイッターでも呟いておりました件。今回はマイナー・コードにおける♭6th音と13th音(=ナチュラル13th)の取り扱いを語って行こうと思うワケで、久々にサンプル曲も用意しているので伝わりやすいのではないかと思っております。


 その前に念のために先の2音の取り扱いの前に述べておかなくてはならないコトがあります。それはいずれの音も3度累積タイプのコードとして取り扱うのは本当は好ましくない(古典的な意味で)のでありますが、♭6th音はアヴォイドではありません。13th音がアヴォイドであります。


 その違いはおそらくトニック・マイナーを意識していただければ自ずと取り扱いの違いがお判りになるかと思います。トニック・マイナー上で13th音を使えば、それはドリアンという特性音を強く意識しているモード・スケール選びでありまして、本来の調とは違う調性の雰囲気を借用しているモノです。「旋法的に」その特性音を使うコト自体はアヴォイドではなく、「和声的に」ある程度長い音価で響かせてしまうと和声として構築してしまうため、そうした和声の体を見ると属和音を包含してしまうから避けるのが適切というコトを意味しているため、古典的な世界では取り扱わないのであります。ポピュラー音楽で進んだ方向だとマイナー・コード上でも取り扱いも可能ではありますが、包含している属和音の体に引っ張られないような使い方をする必要があります。

 マイナー・コードにおいて13th音が成立している状況をAをルートとして考えると、四声体は「Am7」で、9thがH音、11th音がD音、13th音がF#音となります。属七の包含とは、その構造の中に「D7」を見付けるコトができるからです。Aマイナー(イ短調)という世界においてトニック・マイナーをドリアンで対処した場合、調域はト調の平行短調であるEmを向きます。Emの平行長調がGであると示したように、折角その調域の性質を借用しているにも関わらず早速その借用して来た調域の属七=D7を使っているようじゃ、「アンタ一体ドコ行きたいねん!?」と、古典的な世界ではそのやり取りが逡巡しているのがオモロないワケですわ(笑)。


 一方、♭6th音は和声的にアヴォイドではないけれども扱いとしては気を付けた方がイイのであります。つまり、先のAをルートとする構造から積み上げると「F音」を生ずるワケですが、実はコレだって別の属七の体を包含してはおります、ハイ(笑)。そうですね。G7を包含しております。


 トニック・マイナー上で七声体を避けたい理由には、先ずはトニックとしての振る舞いが暈け暈けになります(サブドミもドミナントも包含)。それは「総和音」になるからですね。総和音としての振る舞いの行儀がよろしいのは須くサブドミナントである筈ですので(古典的、現代的は問わず)、七声体をトニック上で使うのはかなり難しさを秘めている(バイトーナルで生じた多声体は別)ワケであります。しかしアヴォイドではないのはトニック・マイナーという短調に平行長調側の属七を包含しているため、平行短調側の属音の方にベクトルを向いているワケではないというのがその理由にも挙げられるでしょう。


 トニック・マイナーが自身の調域の属七の体を包含するとしたら、それはAmの構造においてE7の体を包含している時でありまして、この構造の場合Amから見れば長七を包含し、マイナー・メジャー7thの世界へ誘いますが、マイナー・メジャー7thから拡張的に3度を累積した構造は(例えばマイナー・メジャー9th)、鏡像音程を生みまして、それまでの平凡な和声的な世界での行儀やマナーの扱いの前に、「完全アウェー」的な別の作法を強く感じるようになるため属和音の包含を忌避する前に別の振る舞いを許容してしまう情感が生まれます。そうしてマイナー・メジャー7thの世界においてはその和声の取り扱いの中でナチュラル11thを選択すれば確かに属七は包含しているのだけれどもそくに頓着するコトもなく、さらにはシャープ11thとしての使い方として発展させていく方向もあるワケです。


 そもそもアヴォイドという物を強く認識するのは倍音列の構造が前提にあり、その事象に加えて、倍音列にマッチしたりしなかったりする「音の歯並び」によって調性を生じているので(調性はその歯並びに対してマッチする所に重心が作用する)、調性を強く感じる曲ほど古典的な振る舞いは重要となってくるのであります。但し、長年の古典的な振る舞いから培われた作法に情緒や雰囲気を手助けされて曲の性格をなんとなく進むべき方向が判るような曲もあるかと思います。スリー・コード総てをsus4に置き換えても何となく曲が機能してしまうのはそういう古典的な構造から手助けされているからですね。


 とまあ、そんなワケでマイナー・コードにおける先の取り扱いにまつわる留意ポイントを列挙してみたワケですが、基本、現代のハイパーな和声においては、属七の体に雰囲気をスンナリ持ってかれない様に振る舞うのが「美しい」のであります。そういう美しさと、現代という時代を考慮して語ってくれている音楽理論の指南書が過去にも紹介した事のあるデイヴ・スチュワートの著書なんですな。


 で、今回は久々に左近治オリジナルのサンプル曲を用意したので、今度はその曲の譜例を確認し乍ら解説して行きたいと思います。

 今回の曲は私が21歳の誕生日翌日に作った曲でして、なんで日付そんなに正確に憶えてんねん!?と思われるでしょうが、その日に私は当時の婚約者と大ゲンカして婚約解消になったコトがありましてですね(笑)、その時に作った曲がコレなんですな。なんかベースに没頭しないと打ちひしがれそうになりそうですが必死に堪えて音楽に没頭しようとする苦難が私から見ると投影されていると思います。

 当時この曲を作っている時に感じた事は、「嗚呼、マイナー・コードにおける13th音って、溜め込んだ気持ちを吐露するかのような響きなんだなー」と痛切に感じたモンでした(笑)。この時は自分の感情を和声が代弁してくれているかのようにすら思えたモノであります。

 でも、いくら私がベース弾くっていってもEマイナーから始まるなんてベッタベタのベタですやん!と思われるかもしれませんが、人生においてそうした修羅場を経験してからは、ベースにやさしいキー選びみたいな、てめえの感性ベースに手助けされてナンボ、みたいな凭れ掛かるようなキー選びは自分の感覚から消失した節目の曲でもあったのです。とはいえ全般的に見ると長七に固執し過ぎているきらいはあるんですが、首尾よくEマイナーに戻って来つつ、中盤ではなかなか開放弦すら易々と使わせないような音が小憎たらしくもあります。


LMA-879c9.png
 まあそんな私のコトなど扨て置き、取り敢えずは気に留めていただきたいコードについて解説をしていこうかと思いますので、先ず1小節目と2小節目に注目して下さい。この2小節の各小節においては、モードと和声の変化をドぎつく感じていただけるようにシンセで高速分散フレーズ鏤めているんで、耳塞いでも判りそうなくらいしつこく均しておりますが、その「変化」に敏感になってください。
 
 1小節目はトニック・マイナーであり乍らEドリアンを想起。2小節目でEのナチュラル・マイナー、つまりココでのAm69 (on E)というのはコード表記が便宜的にこうなっているだけでEm9に♭6th音が付加された音と全く一緒なんです。だからこういうややこしい表記になりますが、ある程度モード奏法を会得してしまうと、トニック・マイナー上においてドリアン代理って反吐が出るほど置換したりするじゃないですか(笑)。でも、実はドリアンを想起せずに「モノホン」のマイナーたる情緒をドぎつく演出する時に効果的なのは♭6th音と9th音から生じる増四度の妖しい雰囲気なんですな。このトニック・マイナー上での♭6thと9th強調のアルペジオは私の曲のみならず色んなシーンでの常套手段のひとつなので念のために語っておきますが、1小節目と2小節目の違いというのはコレであらためてお判りになるかと思います。


 で、4小節目3拍目には「Fm9 (13)」という見慣れないコードが出て来ますね。これも敢えてワザと使っています。


 こうした例を見ると、マイナー・コードにおける♭6thと13thの違いをあらためてお判りになっていただけるかと思います。他に目をむければ「D△/Csus4 (on F)」とか、パッと見だとあんまり違和感ないかもしれませんが、弾いてみるとかなりハイパーな和声を鏤めていたり(笑)、まあ、短二度音程が連続する構造を和声的に利用するのが大好きな左近治はこういう所からも判るかと思いますが、バイトーナルな雰囲気がかなり漂うコードだとあらためて実感してほしいと思います。このコードは殆ど「エレクトラ」に性格が近く、プログレ方面から例を挙げればUKの「Danger Money」のド頭のコードで、そうした和声も存在しますが、私の用い方は他の要因から引っ張って来ているモノであります。

HyperLMA02.png
 折角なのでハイパーな和声の話題を引っ張る上でも、今回例に挙げた「D△/Csus4 (on F)」というコードについて詳細に語ってみますが、このコードの構成音を全て列挙すると一部にF、F#、Gという半音音程の連続が出現します。これがエレクトラよりもハイパーな所以でもありますが、ただ徒にハイパー加減を用いているのではなく、下声部に用意しているCsus4という体。コレ、実は四声体から音を1つ省いた体として用いております。
 四声体「C7sus4」という、構成音が「C、F、G、Bb」という構造があった時、ここから「Bb音」が省かれているのは一目瞭然ですが、省かれる前の四声体としての姿を「二度和音」の構造として確認すると「Bb、CとF、G」という二度の集合体であるコトがあらためてお判りになると思います。

 この四声体はたまたまC7sus4というコード表記として表しやすいモノとして定着しているだけではなく、先の二度の集合体である構成音の内、C音が根音となる可きである和声の体として存在するからこそルートはC音として表記されているのであります。
 で、先の「二度の集合体」として例を挙げた時に「Bb」がCよりも下位に表すことで二度音程を表したように、Cの下位にある音を省き、そこから余った残りの3音を二度から一気に共鳴的な広い音程へ転回する構造を想起するのであります。それは下から「F - C - G」という風に各々が完全五度音程の累乗となるように。

 Cの長二度「下位」にあった筈のBbに帰依しようとする牽引力は全く有りません。またそこに音を配置すれば四声体としての二度音程の構造「C7sus4」が強烈に色を放ちますが、更なる方向へ和声を拡大させようと考えた場合、基から存在するBbという音程はC音から隷属支配されて存在した長二度「下位」を鏡像音程として拡大させ、C音から長二度音程「上位」、つまりD音に長三和音を配置させるためへの布石としてD音に活路を見出して和声を拡大している、というワケです。
 そのD音の音程的な位置とは、先の下声部からの五度累積から更に累乗させた位置にもなる所でして、こうした所に和声的な「根拠」を得てから、C音へ帰依する筈の音の重力を稀釈化させるかのように私は「on F」という風に用いているワケであります。巧いコト和声的に構築させておいてさらに解体させる、と。組み立ても分解もやらせてしまうみたいな(笑)。そこで得られる音が蛍光色のように響くと面白いと言いますか。まあそんな感じで求めている和声のひとつなワケです。