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短二度への収斂 (5) [楽理]

扨て前回の続きとなりますが、今回は新たに用意する譜例の方を確認してから本題に入ることにしましょうか。


three_p4chords01.jpg
この譜例に示しているように、これまで述べていることは「Dp4」という完全四度累積の四声体を与えた場合、その四声体に対してさらに下方で完全四度を累乗させた時に四全音で「F#p4」が出現し、上方には「Bbp4」という四声体が四全音という音程間隔で3組の四声体が表れて半音階を形成して、完全四度累積の四声体はこのような最小構成で持ち合っているという風に結論づけることができるワケです。四声体そのものをコードネームとして明記せずともこれまでの冗長な記事にて充分伝わっているかと思うんですが、まあここまで咀嚼することなくご理解はいただけているかと思うんですが折角記事にしているテーマなのでこの機会に念を押すことにしました(笑)。

んで、これまで語っていることをさらにおさらいすると、ハ調の調域というのはハ音(=C音)を根音とするようには四声体は作られておらず、スーパートニック、つまるところトニックの長二度上を根音とする所から生じさせることで、最高音はF音とする完全四度累積の四声体は、下属音を最高音にして下方に四度累積を6回進めるとハ調の調域を確定して調域外の音を得ることはないままに累積することとなる、という事を述べてきているワケです。

結果的にその四声体がD音になるのは、D音から開始されるモードはドリアン・モードであり、このモードは上行&下行形共に「山本山状態」のシンメトリックという対称形でありまして、完全四度累積という等しい音程間隔にあてがうのは偶然でもないようです。

つまり言い換えるなら、一般的な調性感覚において四度累積型の情緒に近しい雰囲気に遭遇するのは、四声体として生じている根音、最高音、それと基の調性から生じている強い主音と属音への共鳴性の所から得られやすい、という事を示唆している証左とも言えるでしょう。四声体だけでは調性は甘いため、さらにDp4から「共鳴的に」下方へ1つだけでも音を累乗させると平行短調側の「A音」を得ることで、これまた四度累積型を呼び込みやすい音の方角へ音が累乗されているという事を確認することができます。例としてマイナー11th系の音と言えば判りやすいでしょうか。

余談ですが、通常「sus4」というコードは、係留している四度音が長三度に戻ることで一定の安定感を得ることが初歩的な使い方です。sus4という四度音をマイナー・コードの短三度に戻る場合、そのsus4はホントはマイナー11th系としての姿を簡略化しているだけの事で便宜的に存在するsus4なので、混同することなく扱ってくださいね。

Asus4 -> Am7というコード進行があったとしたら、この場合1つ目のAsus4は「Am7(11)」の簡略形なのだというコトです。
Asus4 -> A△だったら、これは通常のsus4というコードを用いる時のコード進行である、という事を述べているのはお判りですね。つまりそーゆーこってす。余談ですけどね(笑)。


扨て、先の譜例ではハ調の調域を確定する前の「Dp4」に加えて下方のふたつのA音とE音の音を加えている所にわざわざ楕円で囲っている所があります。この「領域」というのは、完全四度累積が「初めて」半音に出会う時なのです。もうひとつH音(=英名:B音)に音を加えると、ハ調を確定するものの、ハ調を確定しながらもその調性内の導音(第7音)に対して牽引力が生じている、つまり調域を確定しているにも拘らず実は半音下の音に脈絡を求めているということは、この時点で第15次倍音を手掛かりにしてもよさそうな牽引力が発生していると「意識」していただきたいワケですな。それをこれまでの「短二度への収斂」シリーズで述べて来ているワケですが、お判りになっていただけたでしょうかね!?


おそらくは、今回のように話を咀嚼しないと私流の話の進め方に不慣れな方はおそらく理解に乏しくなってしまうと思っておりますが(想定内です)、敢えてこういう話の進め方ではないと前後関係をキッチリ理解しながら進めていくのは困難なので、敢えてこういう風にしているんですね(笑)。




でまあ、前回の最後の方で四声体の一部の音を「持ち合う」という風に表現した次の音程関係についてキッチリ説明していこうかと思います。先の譜例を用いてこのまま語って行く事としますので、まずは音程関係を今一度おさらいすることにしましょう。


完全四度/完全五度
長二度/短七度
長三度/短六度
短二度/長七度


これらの音程関係についてはまた後で後述するので、その前に語っておきたいことがあるので先の譜例に注目です。3組の四声体Dp4とF#p4とBbp4をそれぞれ見てくださいね。

Dp4の下方に生じている四声体「F#p4」を今一度確認してみると、根音のF#音を除けば「Dp4」から示唆したハ調の領域からはとても「近親的」な方角であることはお判りですね。それと同様に上方に存在する四声体「Bbp4」の構成音を確認すれば、ハ調の領域として見ればF#p4と比較してもそれはかなり「逸脱」した遠方の音であることは明らかです。

先の結合差音を利用して別の方角への四声体を得る方法がありましたが、譜例を見る限り、完全四度累積の2つ向こう側(上方)へ積み上げる体として出現するのですが、その最果て(上方の)の音は基の根音(Dp4の)から短九度上方の音を呼び込むこととなりまして、3度累積の型で最も遠方の属二十三の和音にも現れるように、下方で生じた「短二度音程との遭遇」が、上方でも同じ音程の累乗域で出現することになります。

つまり、オクターブという音程から見て一方通行のように単一のベクトル(共鳴性だけを頼りに)で音を累積するのではなく、オクターヴから全ての音に対して「等しく」扱うための上下へベクトルを与えることができるワケですな。沸騰するのを待つ水分子のように、いつ解き放たれてもおかしくないというそんな熱力学にも似たうごめきを与えようと、基盤から「等しく」扱うという下地をこうして作る事ができたワケです。


完全四度累積の四声体は、その基本形の最高音と最低音という「両端」の音は短三度音程を生じるのはこれまでも散々語って来たワケですが、この「短三度音程」を生じることをうまく取り扱ってほしいワケですな。つまり、基本的な理解でついつい近似的なモードを想起してたまたま音を選別してフレージングした時に想起しうる長三度音程に対して短三度をぶつけると、そこには半音のクサビを打たれるかのように「予期せぬ」所に「導音」を生じるワケです。

ありとあらゆる所に予期せぬ所へ導音というクサビを打つのは17世紀頃には既にポピュラーになっていたワケですが、ただ単に旋法的なアプローチではなく、ポピュラーミュージックの様式が確立されて、和声や旋法方面も体系化されて、覚えさえすればジャズを知らなくともジャズっぽい音を奏でたりすることなどごくフツーに行えるのが現在です。しかし、その体系化された音からも逸脱するには、こうした基本的な理論方面から掘り起こしつつ、さらにそれに磨きをかけるかのようにハイパーな方面に力を与えるための音選びを忌憚なく行えるするための下地を備える、という目的が今回声高に語っている部分なワケですな。


そうして先の譜例を今一度確認しつつ、前回のブログの最後と先述にもある音程幅について述べていこうかと思います。

先の譜例というのはオクターヴを綺麗に分割して完全四度累積の四声体を持ち合う構造でありまして、最小単位の四声体の構造としてオクターヴを分け合っていると考えられます。3組それぞれの完全四度累積の四声体は「隣接」し合いながら結果的に半音階を得ているワケですが、器楽的に半音階を用いようとする場合、多くはこのように巧いこと隣接し合う状況を想定するのではなく、四声体を「持ち合う」ように成立している状況の方一般的なのであります。

例えば、基準としている「Dp4」という四声体の一部の構成音を持ち合う四声体は幾つか想起することができますが、じゃあ例えば、「持ち合う」という事を相反するように考えを変えてみましょうか。ある音を持ち合う(=共有)する四声体を生じさせるという事は、3組の四声体ではオクターヴを補いきれずオクターヴ内に「隙間」を生じさせます。つまり四声体が隣接していない状況というワケですね。

そうした、四声体が「隣接していない状況」をひとつの例として「Ep4」という四声体を与えるとしましょうか。構成音は「E、A、D、G」です。この「Ep4」という四声体の最高音に隣接する完全四度累積の体は「C音」ですが、完全四度音程をひとつ上にスキップさせて隣接させずに「Fp4」という体を得た状況を作るとしましょうか。

完全四度累積を上にひとつスキップさせるとそれぞれの四声体は「短二度/長七度」でセパレートされており、同様に「Ep4」の最低音Eから四度累積を下方にひとつスキップさせると「F#p4」を生じまして、この場合はそれぞれの四声体は「長二度/短七度」という音程幅で成立することとなります。


器楽的な方面で四度累積を与えた場合、そこから半音階をガメようとせずに「隙間を与えるように」考えていく方が次に進行しやすい体を得やすいのがこの手の世界観の特徴です。無論、そこには隣接した音への対斜を得やすいこともあるでしょう。

「隙間」を与えすぎると持ち合う音が増えることにもなります。ここで重要なことは、脈絡の無さそうな音程差の間には実は単純な音程差の隙間に依って生じていることが往々にしてあるワケで、そこを巧い事考えて背景に想起し得る和声や旋法を近似的な世界から呼び込むことで逆に脈絡を得て既成事実にしてしまうような要素が隠されているワケですな。


その「隙間」が必要な理由として、通常は背景にあるハーモニーに対して脈絡の無い方角の音を一気に呼び込むのは実に突飛なコトであり、オクターヴを上下に等しく四全音の音程で分け合っているにするためには、背景そのものを四度累積の脈絡に持ち込める四声体またはsus4に表すことのできる三声体から導くのが最も「中立的」ではあるものの、通常の器楽的な情緒を呼び込みながら逸脱した音を得るには、四度累積の四声体という世界から見た世界からでは、どこかに音程的な偏りという隙間を与えた方が巧くいくであろうという事を述べているワケであります。

四度累積の等価な振る舞い、または規則的な3度の累積構造についてはシェーンベルクの和声法はもとより、松平頼則著の近代和声学の311頁に詳しいので目を通されてみるのも良いかと思います。ただ、答を導くことができるとは思えませんけどね(笑)。


先の東日本大震災の後に311のライフ・イン・ザ・マージンについて語った時、ホントは近代和声学の311頁についても語っておきたかったんですよ(笑)。ただ、話題がまだまだ進んでおらず当時は断念したワケですな(笑)。そういう所から考えても半年近く月日が経過しているので、私のブログの進め方というのは実にゆったりとしていることをあらためて実感しております。


扨て、左近治は属七の和音に対してハイブリッドな和声を使うことがありますが、これは以前にも語った様にメシアンに強く影響されたものであります。次回はそのようなハイブリッドな和声を今一度語ってみることにします。