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見えないモノを見てしまおう [楽理]

扨て、今回はチョット特殊な音階について語ってみようかと思うワケですが、音階の中には認知度の低さ故に特殊な取り扱いとなってしまっているケースと、音階そのものを人工的に作り出したコトで特殊なケースとなっているモノなどが考えられるワケでありますが、今回は後者の方で語らせていただこうかな、と。




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その「人工的な」音階というのは、一般的にコンポジット・スケールと称されたりするワケでありますが、いわゆる本来のコンポジット・スケールの類というのは何かしら複合化・合成化されたモノでありまして、意図的に音並びありきで音列を生成しているのは趣きが異なるモノだと思います(ホントは)。早いハナシがとりあえず人工的に生成させてしまった音並び、というをそのように呼ぶワケですな。しかしながら知名度の低さ故に音階の名称も統一されておらず「人工的な」取り扱いにされてしまうモノも中にはあるかもしれませんし、実際には世界のどこかのシーンできちんと音階の名称が与えられている可能性も無きにしも非ず(笑)。


今回は、スパニッシュ・ジプシー・スケールをほんのチョット細工したような音階を扱うワケですが、それを早速ご確認していただきましょう。

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五度圏を使って確認してみることにしますが、Cを主音とすると、C、Db、E、F#、G、Ab、B、Cという型ですね。増二度音程を2つ持ちつつ、半音音程が連続する箇所が2つも出現してしまう(B、C、DbとF#、G、Ab)という、非常に特殊な音並びとなっているワケでありますな。

こういう風にあらためて五度圏の図で確認してみると、いわゆるジプシー系の音階(この場合スパニッシュ・ジプシーの変成ですが)というのはCという基準がありながらも対極側に比重が集中している音階だという事が判ります。何を言いたいのかというと!?それは、通常のチャーチ・モードの世界の音並びですと、五度圏のいずれの部分に基準を設けようが、7音は半円内に収まるのがチャーチ・モードの音並びなワケですよ。ソコから幾分外れるコトによってチャーチ・モード内に生じる音並びとは異質の比重(=偏り)というモノが独特の情緒をもたらすワケですな。

因みに、以前にもジプシー系音階の件で語ったコトでありますが、今回Cを基準に五度圏で確認しても対極側に比重が集中しているコトからもお判りになるように、現在使われているポピュラーなジプシー系の音階というのはその比重が対極側に重きが生じていて、本当は変格の音階なのだという事をあらためて知っておきたいトコロなんですな。コレは何を意味するのかというと、ハンガリアン・スケールという「正格」の姿という原型というのはハンガリアン・マイナー・スケールの第5音から開始したモード・スケールでありまして、つまりは、ハンガリアン・スケールの第4音を主音とする扱い、つまり変格化させていったモノが今日使われているジプシー系音階の情緒の得方、というコトを意味します。エドモン・コステールの言うハンガリアン・スケールというのも過去に私の記事にて述べておりますので今一度そちらをご確認いただければご理解していただけるかと思うんですが、変格化されてさらに変化を遂げていったジプシー系音階をさらに強度を強めていくとこのような偏りを得る、という事をご確認していただきたいな、と。


いずれにしても今回取り上げているコンポジットなスケール、これを便宜的にハーモニック・スパニッシュ・ジプシーと呼ぶことにしてみます(笑)。この音階はあらためて先ほどの五度圏の図を確認してみると、4時から8時の部分に比重が集中していて(E~Ab)、且つDbとF#の対極側の音をも一緒に使っているというような世界感になるワケですな。

例えばこのような「共有」というのはポピュラーなミュージック・シーンにおいてどのように形容できるのか!?というと、例えばドミナント7thコードでナチュラルなテンションとオルタード・テンションを一緒に使っているようなモノとも言えるかもしれません。いずれにしても奇異なモノでもあり、ジプシー系の情緒を利用しているという、それでいて半音の連続する箇所が極めて多く生じる音階だという事があらためてお判りになってもらえると思います。


これだけ多くの半音の連続が出現するとなると、パッと浮かぶのはチェレプニン・スケール。しかしながらこの音列というのはチェレプニンからの抜粋された音並びでもない音階となる事をあらためてご確認していただきたい部分なんですな。


で、率直なトコロ、このスケールはどういうシーンで使うのか!?と言いますとですね、私は例えば、「sus4」が出現する時にsus4にこのスケールの第2音のモード・スケールを当てたりします。

例えば「Db sus4」というコードがあった場合、先の譜例の通りのまんまCハーモニック・スパニッシュ・ジプシーを当てるというワケです。まあ、ココで手前味噌ではありますがザックリとデモの方を聴いてもらえれば判ると思うんですが、このデモのコード進行は2小節ずつの「Gsus4 -> Csus4」という進行であります。つまるところ、Gsus4のトコロではF#ハーモニック・スパニッシュ・ジプシーを当てて、Csus4の所ではBハーモニック・スパニッシュ・ジプシーを当てているワケですな。



でまあ、デモの方を聴いてもらえれば判ると思うんですが、さほど奇異なフレージングでもありませんし、それどころか寧ろ

「わざわざこのスケール使う必要あんのか!?」


みたいに思われるかもしれませんが(笑)、sus4で遊びにくくなってしまって及び腰な人って結構多かったりするんですが、sus4ん中で自由に遊べる感覚というものを、此の手の奇異な音階使ってどうせならボキャブラリー増やしてみませんか!?みたいなそんな軽い感覚で挑んでもらって構わないと思うんですな(笑)。


ちなみにコードが7th sus4というコードが現れている所に先のハーモニック・スパニッシュ・ジプシーの第2音を7th sus4のルートに当ててしまうと、ハーモニック・スパニッシュ・ジプシーの主音が7th音とぶつかってしまうので、この辺りの見極めは注意が必要です。

勿論、他にも色んな使い方はあると思います。メジャー7th系のコードに当てはめてみたりとか。でも、こういう当てはめ方というのを先に覚えてしまうと、結果的に形骸的にしてしまう可能性の方が強いので、本当ならスケールの構造や情緒を熟知した上で各自で研究された方が一番イイ手段だとは思うのでありますが、まあ、奇異なだけに手っ取り早く理解してもらうにはこういう例を挙げるしか方法がないのであります(笑)。


とはいえ、積極的に半音階を導入しようとするコトに及び腰になってしまってもソレはどーかなー、とも思うワケでして、その積極性を呼び起こすにはやはりある程度例となるものが必要となるのも事実でありましょう。


今回取り上げている特殊な音階のみならず、例えばジプシー系の音階というのは増四度/減五度を内包します。この音程間隔というものを、他のコードで増四度/減五度にバッチリとフォーカスを当ててスーパー・インポーズしてみるというのも半音階を判りやすく導入する上で早道となると思います。ドミナント7thコードでしたら、例えば「C7」というコードのE音に対してEを主音とするジプシー系音階を当ててみたり、「C7 (b9)」だったらGに対して同様に当ててみたり、「C7 (#11)」だったらC音に対してまんま当ててみたり、「C7 (9, b13)」だったら、D音に当ててみたりと。さらにはメジャー7th系コードにおける#11thが現れる場合やリディアン・モードを示唆する場面でも同様に当ててみたり色んな方法があるという事です。


それらを当ててみて全ての音がアヴェイラブル・ノートになるワケでもないので、その辺りは殊更私が語るコトではないと思いますが、少なくとも半音階とやらをじっくり観察してみようではないかという試みは誰しもが挑んでみてもイイのではないかと思うワケですな。今回のこの手の話題も「半音ぶつけ」という所から端を発しているワケでありまして、半音の連続する音並びというモノに対してどういう可能性があるのか、みたいな側面を語れればコレ幸いでありまして(笑)、ついついこーゆー話題になってしまうワケですな。

まあ、この手の話題が不必要な人は私のブログなど全くの無縁であるでしょうけれど(笑)。

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とりあえず、先ほどのデモのソロ・フレーズの譜例を載せておきますので今一度ご参考にしていただければな、と。



このデモのフレージングからもお判りになると思いますが、いわゆる「掛留」たるsus4の音が必要とされるシーンではなく、あくまでも「中性的な」和声としてsus4を使っているシーンであれば、このように馴染ませるのは非常に容易かと思います。つまりは、モード的なアプローチを重視するシーンにおいてよく用いられる4度コードなどのシーンにおいては11th系の響きを重視するような分数またはマイナー11th系などのコードのシーンでも応用可能だと思われます。無論、通常のsus4の響きにおいてもこのようにフレージングしてみて、合う or 合わないの判断は各自の好みによりますが色々研究してみる価値はあるかと思います。

余談ではありますが、このデモに使用している音源は、Scarbee CEP、Arturia ARP 2600V2, minimoog V2とAppleLoopというモノです。結構安直なデモではありますが、その辺は今回の楽理的な話題には全く無縁ですのでご容赦願いたいな、と(笑)。


まあ、今更言うのもアレですが、背景に4度コードがあるシーンていうのは何も今回の例のようなモノだけが特別なモノでもなく、非常に自由度が高いのである意味色んな方法があるワケなので、それでこそ「モード」な手法なんですけどね(笑)。