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短和音上で長三度を使う [楽理]

先日の「EFX-POP」を初音ミクに唄わせたデモ曲の楽理面についてチョット触れておこうと思いまして、今回は譜例を用意して語ることに。

efxpop2.jpg


画像の譜例をクリックしていただければ詳細画像にて譜例をご覧になれますのでそちらを確認していただこうと思うワケですが、ああいったキャッチーなフレーズを用いてもどこか毒ッ気ちりばめるアレンジにしていたのは再三述べておりますが、左近治が今回用いたのは、過去にもさんざん語ってきた非チャーチ・モードの情感を理解しやすいようにという配慮からチェレプニンやメロディック・マイナーやら、マイナー・コード上でのアウトサイド(チック・コリアの「IIb - Vb」的アプローチ)など、それらを一応全部詰め込んでいるんですな(笑)。

この曲ありきで過去に楽理面で語っていたワケではありませんからね(笑)。

クイズ:譜例の1小節目(AbmM9部分)3拍目の頭から3つ目の音は何でしょう? (答は一番下にあります)

今まで語ってきている特異な世界を詰め込んでポップ的なアプローチで判りやすく実例を示さないと文章だけでは少々辛くなってくる頃だろうと思って折角なのでこういう風に作ったという理由もあります。どうせだったら一緒にやってみるか、みたいな。

で、大サビ部分のAbmM9からの小節を抜粋したワケですが、シンセの16分シーケンスフレーズがバックに聴こえますね。やや速いパッセージのフレーズに聴こえると思うんですが、そのフレーズこそが情感を凝縮していると思っていただいて差し支えありません。

AbmM9というコードは長七度音程を内包してはいるものの、母体のトライアドは短和音(=マイナー・トライアド)であるのは明白です。

しかしながら、左近治はこのマイナー・コード上において長三度音である「C音」もシーケンス・フレーズに入れております。


「勢い余ってやっちまった!?」


と思われるかもしれませんが(笑)、コレには一応意図がありまして、左近治はこのコード上で「Ebチェレプニン」を想起しております。つまるところAbから見ればEbチェレプニンの第5音のモードとなるワケですな。Ebチェレプニン・スケールの全ての音を網羅しているワケでもありませんから、その辺りも誤解のなきようご理解願いたいと思います。譜例においては、青い線が2つ記してある所がチェレプニンを「示唆」する音のモチーフ群として示しています。

とまあ、チェレプニン・モードを「想起」しているためにそういう音使いになるのでもありますが、短和音としてのAbmにおける長三度というのは「和声的に見ればアボイド」かもしれませんが、モード・スケール的に見れば間違いではありません。旋律的なアプローチという側面で見ると、という意味ですね。

だからといって全ての現存するマイナー・コードでメジャー3rdの音使ってもイイんだよ、とは言いません(笑)。それにはやはり「それなりに」合う・合わないというのがありますので、私の場合は可能な限り「合う」ように意図して作っております。

無論使い方によっては本来のマイナー感も阻害するでしょうし、やたらと使えばイイというモンでもありません(笑)。但し、メロディック・マイナーを強く想起させつつ、チェレプニン・モードへモード・チェンジしていると。加えて、弱拍において「和声的に見れば」アボイドの音を使っているのですが、同時にチェレプニンの情感を示唆する旋律にもなっているので、その辺のチャーチ・モードに包括できてしまう音楽での

「マイナー・コード上でメジャーの音弾いちゃった♪」みたいなモノとは違います(笑)。


懸命な方なら

「メロディはDb音唄ってるからEbチェレプニン・モードからハミ出るやん!?」

と疑問を抱くかもしれません(笑)。


確かにメロディは、シーケンス・フレーズで「C音」奏でる時に「Db音」思いっきり唄わせてます(笑)。

メロディの7度上で開離していく(短七度→長七度)というアプローチだと思っていただければ幸いです。このアプローチはヒンデミットのオーボエ・ソナタを参考にしているアプローチであります。パクりではないですよ(笑)。

AbmM9というコード上において、メロディック・マイナーからEbチェレプニンへの情感をもっと「色濃く」出したいのであれば、メロディを強制的にDbからD音に変えるべきでありましょう。ただ、私は今回そうしなかったというだけのコトでありまして、譜例で敢えてメロディ・パートを乗っけていない、同様にマリンバ系の音も同じ箇所でDb音を弾いているので、敢えて譜例では割愛して掲載しているというワケです。

それらの「統率された情感」とやらを聴いてみたい方はメロディとマリンバのフレーズのDb音を強制的にD音にしてみてください。かなりクサくなると思いますけどね(笑)。民族的というか。

それを敢えて回避した上でこういうアプローチで作っているので、音採ってみたら「左近治、間違えてんじゃねーの?」と思われてしまうのは避けたいので(笑)、こういう風に解説しているというワケでございます、ハイ。

あとは、Fm9 (on G)の所でF音からみたb9th音と#11th音をさりげなく導入している所が、例のチック・コリアのIIb - Vbやら、ミクソリディアンとエオリアンのハイブリッド・モードという、これまで語ってきたアプローチを忍ばせている点が「普通の曲」とは違う点でしょうか。

一応4パート載せたので、ココまで明示すれば情感伝わるだろ、と思ってやっている事なのでご理解いただければ幸いです。

原曲のbpmは138ですが、情感を掴むのであればbpm90くらいで確認してみて下さい。決しておかしな音ではなく「こーゆー世界観」というのをお判りになっていただけることと信じてやみません(笑)。

とりあえずは、ひとたび弾いてみて確認してもらえればと思うワケでありますが、先述にもあるように、全ての曲のマイナー・コード上でメジャー3rdの音を使ってもイイ、というワケではありませんからね(笑)。

チェレプニン・スケールというのは2全音という音程を「半・全・半」という風に分割するという醍醐味があります。2全音という音程関係で和声を構築すると、それは「オーギュメント・トライアド」を生むワケでして、そこから分割された音程によって本来の増三和音のみならずもっと多様なダイアトニック・コードを形成させることも可能なのがチェレプニン・モードの醍醐味である、と。

ごく普通の曲中に現れるマイナー・コード上において、いきなり5度からチェレプニン弾いても「コイツ、何やってんの?」となるのが関の山だと思います(笑)。チェレプニンとメロディック・マイナーを強く示唆する音の中での「うつろい」があって映える音なのであり、故にマイナー・コード上であるにも関わらずメジャー3rd音のそれが不思議と不協和に聴こえない、という一例でもあるんですな。

こういう「うつろい」テクニックは、少なくとも想起するモード(=拡大解釈という意味での想起)というのは2つの半音と5つの全音で得られるモードだと、途端に

「何やってんの?」

という音に聴こえてしまうと思います。つまり、それをそう聴こえさせないようにするにはもっと穿った見方の拡大解釈 or 他の特殊なモードの情感を会得して用いない限り失敗する可能性が非常に高いと思われます(笑)。

大抵の、2つの半音と5つの全音で構成される音階というのは、情感としての強度はチャーチ・モード・スケールが非常に強大でありまして、そっちの情感に引っ張られやすいワケですね。そこから逃れるには非チャーチ・モードの世界に加え、他の異質なモードとやらを想起した上で使わないと失敗しかねない、というコトであります。

でもですね、今回のこういう例の「情感」に慣れると、「マイナーとメジャーの行ったり来たり」するようなフラつきを会得することも可能でしょうし、ブルーノートを織り交ぜる、という用法よりも非常に多様な使い方としての応用の幅として身に付けられると思います。

何よりも、先述の例においてチェレプニン・モード外の「Db音」よりも、マイナー・コードから見たメジャー3rd音というのが、通常の平凡な世界からだとそちらを極力回避する事が先決だと思いますが、私の展開したのはそれらを両方使っている、と(笑)。まあ、「あっちの世界」みたいなものをお判りになっていただければ幸いでございまして、「児童向け」とは言え、ココまで注力するのはやはり、如何なる場合でも「毒ッ気持ちたいな♪」という思いを常に持ち続けているからかもしれません(笑)。

児童向けとはいえ容赦しねぇ!って感じでしょうかね。赤子の手ねじりまくり!みたいな(笑)。

そういう幼い年代からでも、こういう音に触れていただきたいという思いからのコトではあるんですけどね、例えば故武満徹先生の「2つのレント」という作品は、武満徹18歳の時の作品なんですな。

まだ18歳を迎えていない人は別として、18歳の時どういう和声感覚を備えていたか!?と問われると、器楽的心得の少ない方ならそれこそ相当未熟な感覚として投影してしまうのではないでしょうか。

偉大な先人の感覚には遠く及ばない左近治ではあるものの(笑)、私のような感覚を備えた所でまだまだ見えない世界というのはありますからね。こういう魅力に気付いてもらいたいと思うばかりであります。18歳でスリー・コードで済ませられてしまうような和声感覚ではありたくはないと、少なくとも私はそう思っておりました(笑)。

んでまあ、マイナー・コード上に現れる長三度音とやらの「根拠」を示したワケでありますが、とりあえず冷静に考えていただくとですね、Kクリでリリースしていた「EFX-POP」と、今回の初音ミク用ではコード進行が少し違うのに、シンセのシークエンス・フレーズに関しては変わらないワケですよね。

「ソコんとこどないして整合性保つねん?」

と疑問に思われる方もいるかもしれません。で、結論から言いますとですね、このように↓

●Kクリリリースのコードの一部・・・B△7/C → その後「Fm9 (on G)」は含まず
●今回の初音ミク用原案・・・B△7(-13)/C → その後「Fm9 (on G)」は含む

というコード進行の違いはあっても、シークエンス・フレーズは一緒というワケですが、ハイブリッド・コードであるB△7/Cに♭13th音を用いているかどうかで、その後のFm9 (on G)を使うかどうか、という選択できちんと差別化しているのでありまして、無造作に適当こいて作っているワケではないので、その辺りの意図を汲み取っていただければコレまた幸いでございます。

いずれにしても、それらのコード進行をバックに今回のシークエンス・フレーズをじっくりご確認いただければ、左近治の持つ「情感」とやらを少しはご理解いただけるかと思いましてですね、このように詳細に語ったワケであります。

これらの情感を左近治が持つにあたって非常に参考になっているのは、ヒンデミット、チック・コリア、デイヴ・スチュワート、クレイグ・ダージ(またはクレイグ・ダーギーとも)、坂本龍一であります。

というワケで、初音ミクに唄わせた曲を「解剖」してみました、ってぇコトで今回はシメることに♪



答:「Cb」(=B音)なのでご注意を。老婆心ながら語っておきますと、冒頭からCbの臨時記号が生きている状態であるからです。小節内とオクターヴ以内が臨時記号の及ぶ範囲なので、オクターヴ上下では間違いがないように必要のない所にも敢えて括弧付きで臨時記号を振っていますけど、この音は付け忘れとかではなく、読譜力が試されるシーンでもあると思います。